1. トップページ
  2. 泡沫恋歌さんのページ

泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。 オバサンですが、どうかよろしくお願いしますO┓ペコリ

出没地 スーパー銭湯、回転寿司、値引き商品の棚の前とか。
趣味 スピリチュアルスポットに興味があります。 御朱印集めなど。
職業 働く主婦
性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

投稿済みの記事一覧

2

春の電車

17/04/10 コメント:1件 泡沫恋歌 閲覧数:87

 ホームの最前列に立って黒い線路を見つめていたが、結局のところ、彼女には死ぬ勇気もない。電車が入ってきたので、ふらりと乗り込んでしまった。
 正午、郊外へ向かう電車には彼女を含めて乗客はたった五人。
 彼女と同じシートに、七十代の老婦人と端っこの座席にはスキンヘッドにサングラスのヤクザ風の男。向い側のシートでは二十くらいの若い娘が化粧をしていた。……そして、赤ちゃんを連れた若い母親がう・・・

5

「美人になる」≠「愛される」

17/03/27 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:186

 自分の顔が大嫌いだった!
 腫れぼったい一重まぶた、あぐらをかいた鼻、エラが張った輪郭……どんな欲目に見ても、私の顔は十人並以下だろう。
 当然、男にモテたことはない。小学校からずっと容姿のことで男子にからかわれてきた。高校は女子高だったので気にしないで自由にやってこれたが、大学は共学なのでブスの私は出来るだけ目立たないようにしていた。
 ある日、大学で男性から声をかけられた。・・・

4

ガングリオン

17/03/13 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:229

 みなさん、ガングリオンって知ってますか?
 まるで戦隊物に出てくるロボットのような、北欧神話に登場する勇者の名前みたいでしょう?
 実は足や手の指、甲などにできる軟骨みたいなコブのことなんです。別に痛くも痒くもないし、ある日、気づいたらグリグリしたシコリができていたって感じ。
 ガングリオンが発症する原因は、まだはっきりと解明されてなくて、おそらく手などを使い過ぎたり、ぶつけた・・・

1

自転車泥棒

17/02/27 コメント:1件 泡沫恋歌 閲覧数:154

 古いイタリア映画に『自転車泥棒』いう作品がある。自転車を盗まれた男が探し歩くが見つからず、困ったあげく自分も自転車泥棒になってしまうという話だ。
 七十五年間、まっとうに生きてきた、このわしが今日初めて犯罪に手を染める。
 理由はお気に入りの自転車をパクられたせいじゃ!
 わしの自転車は黄色と黒のタイガースカラー、ハンドルにミラーを付けて後ろもよく見えるし、ペットボトルホルダー・・・

3

新宿civil war

17/02/13 コメント:3件 泡沫恋歌 閲覧数:378

ド―――ンという、耳をつんざく爆音と閃光、爆風で吹っ飛び、その後、ガランガランと建物が倒壊していく音がした。
いったい何が起きたのか分からない。
倒れてきた本の棚とテーブルの隙間に挟まって、かろうじて命拾いをした。
周りは瓦礫に埋まって、あっちこっちに人間のパーツだった肉片が散らばっている。
最初は地震かと思ったが、大きな爆音がして、瞬時に建物を破壊するのは爆弾しかない。も・・・

5

17/01/31 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:339

 先ほどから鍵穴を睨んでいる。
 手に鍵を持ったまま、私は304号室を開けるべきか迷っていた。
 この部屋の中に何があるのか分からない。それを知りたいと思う好奇心と、見るのが怖いという、二つの考えがせめぎ合っている。
 夫の秘密を知ることは、妻の権利だといえるだろうか?

 私たちは銀婚式をとうに過ぎた夫婦だった。
 子供は二人いる、長女は結婚して来年初孫が生ま・・・

5

優しさの裏側

17/01/16 コメント:5件 泡沫恋歌 閲覧数:228

半年前まで、僕らは恋人同士だった。
それが今ではボクのお姉さんか、まるで母親みたい。

「ああ〜またこぼしてる」
朝食のトーストを食べるとき、ほんの少しパン屑をこぼしたら、
キミは目ざとく見つけて、すぐにふきんで拭きとる。
「あら、ネクタイがゆがんでる」
横からボクのネクタイを直そうとする。
そうやって四六時中、なにかを正そうとしている。

4

スカポンタン☆

17/01/16 コメント:2件 泡沫恋歌 閲覧数:264

 大和工科大学の地下、薬品倉庫の奥深く、『劇薬』『火気厳禁』『混ぜるな! 危険』と書かれたプレートより、さらに危険なラボがあった。
 そこには大学の疫病神と呼ばれるDr.山田とその助手の佐藤が、日夜、極秘(胡散臭い)研究に明け暮れていた。
「あれぇ? 僕のプリンがなぁ〜い!」
 冷蔵庫に頭を突っ込んだまま、助手の佐藤が叫んだ。
「博士あんたか? また勝手に食べたのか!?」<・・・

4

五分間の境界線

17/01/02 コメント:5件 泡沫恋歌 閲覧数:295

 五分という時間は待っていると長く感じるが、何かするには短い時間である。
 だが、その五分間が人の運命を握る大事な時間だとしたら――。

「もう! 早苗遅いよ。五分の遅刻だよ」
 その日、親友の千香子とライブに行くために駅前で待ち合わせをしていた。
「ゴメン! たった五分くらいで怒んないでよ」
「だって、ライブの前にグッズ買いたいのに、早く行かないと売り切れちゃ・・・

2

非モテ系男子4人が聖夜に誓ったこと!?

16/12/19 コメント:2件 泡沫恋歌 閲覧数:338

クリスマスなんか大嫌い! 毎年、この季節になると憂鬱な気分だ。
貧困アニメーターの俺に彼女なんかできるわけない。聖夜はひとりでゲームでもしようとプレステを起動させたら、スマホに鳴った。
「サトシ家にいる?」
大学のアニメ研究会のメンバーだったツトムからだ。
「なんだよ、クリスマスなのにおまえボッチか?」
しばらく気まずい沈黙が流れた。
「……そうか、俺もひとりな・・・

4

16/12/05 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:448

 アンリ・ルソー(1844-1910)は、素朴派を代表するフランス人画家。夢想的で異国的な密林の情景などを描いたルソーの作品は、当初は稚拙だと嘲笑の的になっていたが、晩年には高く評価されて、現在では素朴派を代表する画家として人気がある。

 有名な絵画コレクターの遺品から未発表のアンリ・ルソーの絵が発見されたというニュースが世界中に報じられた。
 その絵は1908年にルソーが描い・・・

5

偏食者のカタストロフィー

16/11/21 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:441

「こんなまずい飯が食えるかっ!」
 テーブルの上に並べられた料理を見るなり、夫の口からそんな捨てセリフが吐き出される。そして家から出ていってしまった。行き先はどこかわかっている、ここから歩いて十五分先にある夫の実家に決まっている。
 そこへいけば、彼の母親が好きな料理ばかり並べて待っているのだ。

 結婚して一年、夫とはうまくいっていない。
 主な原因は私の作った料理・・・

2

【 寓話 】神さまの実験

16/11/07 コメント:3件 泡沫恋歌 閲覧数:410

今この瞬間にも世界中のどこかで人々は争い血を流している。どんなに神さまに祈っても戦いのない世界などどこにもないのだ。
戦争が命をなくす破壊行為だと分かっていながら、いつまで経っても人間は平和な世界を築けないままでいる。

敵対している二つの種族のことを、天上から神さまが見ていた。
この種族は100年以上も前からずっと紛争が絶えたことがなく、人種の違いや宗教の違いなどでお互い・・・

4

女道化師クローネ

16/10/24 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:452

 マルシア国の王女フローラは、九歳のお誕生日に父王から珍しい贈り物を貰った。それは宝石ではなく、ドレスやペットでもない、小さな女の子の道化師だった。
 その少女は顔に滑稽な化粧を施し、道化の衣装を着て、どこから見て一人前の道化師だ。名前はクローネという、この子の父親も道化師だったが、戦火に巻き込まれて命を落とし、少女は孤児になった。
 そして、フローラ姫も母親を病気で亡くしてから、毎日・・・

4

タイムレンジ

16/10/10 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:434

「ついにタイムマシンが完成したぞ!」

 H・G・ウェルズの古典的SF小説の時代から、言い続けられたそのベタな台詞を、今、口にする科学者がいる。
 彼は大和工科大学、工学部物理学研究室の室長、Dr.山田その人である。
 天才的頭脳をもつ科学者だといわれるが、いったいどんな研究をしているのか、その詳細は明らかではない――。
 Dr.山田研究室、このラボには博士と助手の佐・・・

4

命の光

16/10/10 コメント:5件 泡沫恋歌 閲覧数:489

 たまらなく居心地が悪かった。できれば走ってここから逃げ出したい。
 古くて陰気な産院の待合室、大きなお腹の妊婦が二人と癌険だろうか中年の女性がひとり、そして未婚の私だ。お腹の中には新しい命が宿っている、選択肢はひとつ、生むか、生まないか、今の私には産めない……今日は中絶の相談でここへやってきた。
 最初から分かっていた、彼が本気じゃないことを……上司の娘と付き合っているという噂だった・・・

4

今どきの本屋事情

16/09/26 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:597

このサイトにお集まりのみなさん、よく聞いてください。

『小説は売れません』

わたしは某本屋で働いている者ですが、
本屋の店頭でよく売れてるものといったら、
雑誌、漫画、コミックス、ラノベ、エロ本、そして小説の順です。
ぶっちゃけ、小説はエロ本にも敵いません。

本屋で売れる小説といえば、
ネームバリューの利いた人気作家の本です。

4

うたかた書店

16/09/23 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:619

 あれは高校二年生の夏休みだった。
 文芸部の部員と顧問の先生と八名で蒜山高原に、二泊三日ので合宿にきた時だった。合宿といっても運動部ではないので、練習とかはない。その代わり、顧問が出したお題で2000文字の小説を書かなくてはならない。
 宿泊先のペンションに着いた時点でお題が発表された。そのお題というのは『本屋』だった。
 さっそく、みんな原稿用紙に向って書き始める。親友の頼子・・・

8

灰色の訪問者

16/09/11 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:1135

 その男は残暑が厳しい昼下がり、灰色のフード付きマントを羽織っていた。顔はよく見えないが、独り言を呟きながら道をとぼとぼ歩いている。
「まったく最近は医学の進歩のせいで人が死ななくなった。交通事故で身体がバラバラになった奴がまだ死なずに生きてやがる。……ったく、こちとら商売あがったりだ」
 灰色の男はそんな不謹慎なことを堂々と喋っているのだ。でも誰にも見咎められない、なぜなら元気な者に・・・

10

深夜専門のタクシー

16/08/22 コメント:19件 泡沫恋歌 閲覧数:1992

「びっくりしました! ヘッドライトに白い影が浮かび上がった時には、もう悲鳴をあげそうでした」
 一台のタクシーが思いがけない場所で客を拾った。 
「こんな時間に、あんな場所で……人が歩いてるなんて驚いた」
 真夜中のトンネルの中を人が歩いていたのだ。
「手を上げて、お客さんに呼び止められたけど……本当は乗車拒否しようかと思ったくらいですよ」
 タクシーが止まると、若い・・・

7

愛と自由とパピプペポ!

16/08/15 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:771

■エジプトの王家の谷で、未発掘の墓の石棺の中から、ミイラの代わりに、ヒアロクリフ(エジプト古代文字)に『パピプペポ』と記された石板が出てきた。考古学者たちは謎の石板の真相解明に向けて努力しています。

■新宿三丁目、閉店後のオカマバーの店内で、チーママが何者かによって殺害されていた。斧のようなものでパックリと頭を割られており、飛び散った鮮血で書いた『パピプペポ』の血文字が壁に残されてい・・・

5

鹿鳴館etc.

16/08/01 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:501

 鹿鳴館(ろくめいかん)――日本人のダンスはここから始まった。

 明治初期、文明開化(ぶんめいかいか)の日本ではダンスは娯楽ではなく、西洋人に対して、日本が文明国であるということをアピールするためのパフォーマンスだった。
 明治政府にとって、近代化とは西欧化することであり、それは西洋人のモノマネから始まった。
 政府要人たちは、サムライの象徴である髷を切り落とし、燕尾服を・・・

7

手作り弁当の災難

16/07/18 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:719

 ある日、僕の席にお弁当が置いてあった!
 学生食堂の一番奥の窓際、二人掛けの席が僕らの指定席なのだ。
 友人の石田君は身長185p、スラリと長い脚、眉目秀麗、頭脳明晰、多趣多芸、お茶も点てれば日舞も踊れる。まるでアニメのイケメンキャラみたいで、大学の腐女子たちの間で石田君はまるで教祖様のように崇められている。
 そして僕と彼はBLカップルだと思われているのだ。
 あくまで・・・

6

深大寺

16/07/04 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:701

 私は五十の手習いでパソコン教室に通い始めた。
 少し扱い慣れた頃、インストラクターの勧めでFakebookにアカウントを作り、生まれて初めてインターネットを体験した。最初は警戒心もあったが、プロフィールに写真や出身地、卒業した学校などを記載したら、いろんな人たちと繋がることができた。
 短大時代の友人ともFakebookで再会した。
 私からメールを送信して、チャットで話をした・・・

2

雨女と呼ばないで!

16/06/20 コメント:2件 泡沫恋歌 閲覧数:687

 ああ、また雨に掴まってしまった。
 私が外出すると決まってそうだ。特に梅雨時には必ず雨と遭遇する。さっきまで晴天だった空が、いってん俄かに掻き曇り、雷鳴とともににわか雨になった。傘を持っていても何の役にも立たない。しかたなく軒先で雨宿りをする破目になった。
 ――またかと溜息を吐いて空を睨む。
 子どもの頃から大事な行事の日にはたいてい雨が降る。遠足、運動会、旅行、そして……デ・・・

9

夜行バス

16/06/06 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:898

 夜行バスなんかに乗るんじゃなかった!
 車内の消灯時間を過ぎても、後ろの座席の女性三人グループがお喋りを止めない。お菓子を食べる音や、時々聴こえてくる忍び笑いが耳について眠れない。それでもウトウトし始めたら、サービスエリアに停車する度に目が覚める。
 初めて夜行バスに乗ったけれど、運賃の安さで選んだわけじゃない。夜バスに乗って、目が覚めたら東京ディズニーランドに着いてるというのが、気・・・

7

酸っぱい嘘

16/05/23 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:846

 みんなはあたしのことをいい子だと思っている。
 うちの両親だって、正直で真面目で優しい子、それが私に対する見方だが、実はいい子のフリをしていただけ、物心ついてからずーっとね。
 高校でも優等生のフリをしている。
 クラスメイトの相談相手になったり、行事の時にはクラスをまとめたり、教師からも信頼されてるし、みんなの受けも良い、だから学級委員長やってます。
 あたしの顔は十人・・・

6

妻色嫌避

16/05/09 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:613

 僕たち夫婦は結婚して三年になる。妻は美人でスタイルも良い、きれい好きで毎日掃除を丁寧にするので家の中に塵ひとつ落ちていない、料理も得意でいつも美味しい料理を作ってくれる。
 まったく文句のつけようのない理想の妻なのだが、ただひとつ色彩の趣味だけが合わない。
 我が家は新築一戸建て住宅だが、家のインテリアはすべて妻の趣味で統一されている。
白を基調としたドアや家具などに、淡いパス・・・

8

化け猫語り

16/04/25 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:1090

のう、おまいさま。
そないに怖がらなくとも、とって食べたりはせぬぞ。
わしは長い間、この祠に封印されておったのでなあ、少々人恋しいというか……誰かと話がしたいんじゃ。
そもそもわしが何者かって?
見てのとおり。猫じゃよ。
化け猫じゃと……それはずいぶんな申しようじゃな。
身の丈は六尺(182センチ)ほど、かれこれ三百年は生きておるかのう。
不老不死? いや・・・

7

海に還る日

16/04/11 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:695

 核戦争の後、地球は巨大な水族館になってしまった――。

「教授なにを観てるんですか?」
「ああ、これかね」
 アクロポリス・ヤマトにある東大アカデミーのヤマダ教授の机の上のディスプレイには美しい映像が流れている。
「これは熱帯魚と呼ばれる観賞用の魚なんだ。21世紀くらいの南の海ではこんなきれいな魚が泳いでいたらしい」
「23世紀の海にはグロテスクな魚類しかいま・・・

4

幻の女

16/03/28 コメント:4件 泡沫恋歌 閲覧数:646

 鎌倉の住む、大伯父の佐伯眞一郎が他界した。
 古い洋館に一人暮らし、通いの家政婦がベッドの中で冷たくなっていた彼を発見した。数年前から心臓が弱っていたので、検死の結果自然死だと判明された。享年八十七歳。
 大伯父は僕の祖母の兄で、僕が子どもの頃に何度か鎌倉に連れて行って貰った記憶がある。白髪に着物姿で粋な人だった。仕事は骨董品の鑑定師とか、売買をやっていたようだが、元々裕福だったので・・・

2

映画に出演する男

16/03/28 コメント:1件 泡沫恋歌 閲覧数:556

「今度、映画に出演するかもしれない」
 大学の食堂でハーゲンダッツのグリーンティーを食べながら、石田君がぽつりと呟いた。その言葉に僕の耳が大きく反応した。えっ、えっ、何だってぇ〜!? ついに芸能界も長身和風イケメンの石田君に注目したのか。
 そういえば、先日Twitterに『いけすかない奴」と石田君の写真を載せたことがあったが、あれを見たのかな? そうだとしたら情報社会は怖ろしい。

5

同じ屋根の下

16/03/14 コメント:4件 泡沫恋歌 閲覧数:615

 最近、美菜ちゃんの様子がヘンなんだ。
 いつも帰ってきたら、一番最初にボクに挨拶をするはずなのに……さっさっと自分の部屋に引っ込んでしまう。ドアの外からボクが呼びかけても知らんぷり、部屋の中から誰かと話してる声が聴こえてくる。それはケータイとかじゃなくて、もっと近くで囁くように話しかける声なんだ。なんか怪しい、ボクに隠しごとなんて水臭いぞ!
 ずっと同じ屋根の下で暮らしてきた仲じゃな・・・

4

カジノパラダイス

16/03/07 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:680

 男は根っからのギャンブル好きだった。
 会社が終わるとパチンコ店に直行して閉店まで打っている。休日には競馬場に出かけて馬券を買う。宝くじ売り場を見れば必ずロトを買ってしまう。
 とにかくギャンブルが好きで止められない。負けても負けても……止められない、それがギャンブラーの宿命なのだ。
 その日、男はパチンコ店からブツブツ文句を言いながら出てきた。
「クッソー! ぜんぜん出・・・

6

じいちゃんと鉄瓶

16/02/15 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:775

「お茶がうめぇ〜」というのが僕の祖父、梅吉の口癖だった。
 じいちゃんのお茶の淹れ方はまったく出鱈目だ。古い鉄瓶でお湯を沸かして、百均で買った茶こしに茶葉をひと摘まみ入れると、それを湯呑みに被せて、鉄瓶のお湯を上からゆっくりと注いでお茶を淹れる。
 なぜ、そんなやり方をするのかというと、急須だとお茶っぱを捨てる手間が面倒だからだ。一人分なら茶葉も少量ですむから経済的なのだとじいちゃんは・・・

4

茶道をする男

16/02/15 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:890

「なんだよ、その格好は……ぶぁはっはっはっ」
 和服姿の僕を見るなり、石田君はたっぷり一分間は笑い続けて、その後、腹が痛いとのた打ち回っていた。なんて失礼な奴だ!
 今日は友人の石田君に誘われて、お茶の野点に参加するのだ。
 昨日、お祖父ちゃんの家へ行って、羽織り袴を借りてきたが……僕の晴れ姿を見るなり「まるで七五三だ」と石田君に爆笑された。
 その言葉にムッとして「もう帰・・・

7

或る素人作家の話

16/02/01 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:958

 素人作家の泡沫廉太(ほうまつ れんた)は、小学校五年生の時に作文コンクールで最優秀賞を貰ったことがある。その時、校長先生が全校生徒の前で廉太の作文を読み上げて褒め称え、その記事は新聞にも載った。両親は大喜びして我が子を「神童」だと近所に自慢して回った。
 嫌々書いた宿題の作文で、こんなに評判になるとは思ってもみなかった、自分には《文章を書く才能》があるかもしれないと自信を深めた。この作文コ・・・

4

私の失恋履歴

16/01/18 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:689

 私の人生で今まで失恋したのは、たぶん五回くらいだったと思う。
 二十五年の人生でその数が多いのか少ないのかはよく分からないが、未だにボッチということは恋愛に置いて勝ち組ではないということだ。

 最初の失恋は幼稚園の年長組の時だった。慎之介くんという「クレヨンしんちゃん」みたいな男の子に恋をしたのだ。しんちゃんとは大の仲良し、お弁当を食べる時も、お昼寝する時もいつも一緒だった。・・・

5

ビニールプール漂流記

16/01/18 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:659

 気が付いたら、半径1メートル程のビニールプール乗って僕は漂流していた。
 見渡す限りの大海原、遥か彼方には水平線が見える。海の蒼と空の青その稜線をかもめが飛んでいく。
 なぜ僕はこんなものに乗って海を漂っているのだろう。たしか、あの日、丸テーブルに乗って、天井の電球を替えようとしている時だった。ガクンと足元が崩れるような激しい衝撃を受けて気を失った。――目覚めたら、こうなっていた。<・・・

6

ルイーズの悲劇

16/01/04 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1356

 ルイーズはフランス一いや、世界一幸せな花嫁だった。
 彼女は貧しい靴屋の娘に生まれたが、艶やかな金髪と青い宝石の瞳と石膏のような白い肌をもつ美しい娘だった。十五歳の時に領地を治める貴族が小間使いを募集した。条件は容姿が美しいこと――。
 可愛いペットを連れて歩きたがるように、貴族の奥方はきれいな小間使いを側に置きたがる。そしてルイーズは貴族の奥方に雇われることになった。オルレアン伯爵・・・

8

ワシは石と語る

15/12/12 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:926

 はて他山の石とはなんぞや!?

 暮石他残(くれいし たざん)は、こよなく石を愛する男である。彼の家系は代々石屋を生業とする一族で父は腕のいい石工だった。だが両親を亡くしてから生来怠け者の他残は稼業を辞め独りでひっそりと暮らしていた。ちなみに、この他残という名前は自分で付けた雅号で本当の名前は正男という。しかも暮石という名字は時々墓石と間違われて本人は気分を害する。しかしながら、石の・・・

9

家庭内離婚

15/11/30 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:1386

 妻の小夜子と家庭内離婚をして、かれこれ十年は経つだろうか。
 今年で銀婚式の夫婦だが、子どもたちが成長するにしたがって会話もなくなり、寝室も別になった。最近では食事も別々、夕食だけは妻が作ってテーブルの上に置いてあるので、仕事から帰ってからチンして温め独りで食べている。
 必要な連絡事項はメモしてテーブルに置くか、妻の携帯にメールで送信する。よほど事がない限り会話はしない。お互いに飽・・・

6

王家の墓

15/11/16 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:782

 大和大学エジプト考古学の山田教授とその助手佐藤は、ルクソールにある王家の谷で迷子になっていた。
「この辺りに未発掘の王家の墓がある筈なのだ」
「教授、その地図に描かれている場所であってるんですか?」
 助手の佐藤がいささか不信な面持ちで訊ねた。
「間違いない! このパピルスにヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)で書かれているのだ」
「どれどれ……」
 教授か・・・

8

マリッジリング

15/11/02 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:981

 港の埠頭で夜釣りをしていたら、いきなり近くで大きな水音がした。
 何だろうと懐中電灯で照らしてみたら女が海に飛び込んで溺れていた。もがきながら段々と女は海中へ沈んでいく、これはヤバイと思った瞬間、俺は飛び込んで女を助けようとしていた。
 千葉の南房総生れ漁師の子の俺は泳ぎには自信あるが、海中でもがく女を助けるのはまさに命懸けだ。何とか岸に上げることができたが海水飲んだらしく女はぐった・・・

7

憂鬱な男

15/10/19 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:892

 今日の石田君はとても暗い顔していた。
 彼は偏頭痛持ちなので、いつも眉間にしわを寄せて難しい顔をしているが、今日はいつもとは少し感じが違う。超甘党の彼がプリンアラモードを前にして、それを食べず、ぼんやりと虚空を睨んでいるのだ。
「どうしたの? やけに暗いね」
「ああ……」
 なんか反応が薄い。
「僕も落ち込んでるんだ。実は失恋しちゃって……」
「そうか」

7

ドラゴンフルーツ

15/10/05 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:1119

 マンションの駐車場に車をとめて、インジェクションキーを切るとエンジン音が止まり、車内が真っ暗になった。ハンドルにうっぷして悔しさを奥歯で噛みしめる。
 広告代理店に勤める濱田映海(はまだ えみ)は敗北感でいっぱいだった。大手食品会社と宣伝契約の更新を断わられた。自分が担当になってから毎年契約更新してくれていたのに、まさか他社に横取りされるとは思ってもみなかった。
 課長にそのことを報・・・

5

工学部物理学研究棟別室(別名:アニメラボ)

15/09/14 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:821

 大和大学工学部物理学研究棟の中に研究員たちにも知られていない謎のラボがある。
 劇薬保管倉庫の奥、物理学研究棟別室と呼ばれる小部屋が存在する。最近、学生たちの間でおかしな噂が流れた。それは劇薬保管倉庫の奥から幼女の歌声が聴こえてくるというのだ。『関係者以外立ち入り禁止』の札が掛かった扉、そこにはDr.山田とその助手佐藤が隔離されている。
 この小部屋に籠って二人がどんな研究をしている・・・

5

神隠し

15/09/07 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1042

 秋祭りの季節になると十五年前に行方不明になった、従兄の小田真(おだ まこと)のことを思い出す。
「僕、芝居小屋にカバン忘れたから取りにいってくる」
 その言葉を最後に従兄の真は忽然と姿を消した。

 俺と真は従兄同士だが同じ学年で田舎の小さな学校なので仲が良かった。中学三年は進路を決める時期で俺は町の高校に通う予定だった。真の家は父親が病気で借金だらけ、母親(うちの母の姉・・・

7

邂逅記

15/08/24 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1496

 まったく先生のていたらくには愛想が尽きる。
 夏木露山(なつき ろざん)は、帝国日本を代表する立派な文学者である。代表作の「猫の始末記」「膝枕」「これから」などは素晴らしい文学で深い感銘を受けた。そんな夏木先生に憧れて書生になったのだが、同じ屋根の下で暮らすようになると先生に対する幻想が壊れてしまった。
 駒込千駄木町に居を構え、先生の奥様とお子さんが五人と女中が住んでいる。先生の収・・・

7

女性専用車両

15/08/10 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1020

 朝一番に会議があるというのに、僕は寝坊してしまった。
 駅のホームで発車間際の電車に慌てて飛び込んだら、車内は女性ばかり乗っている。
 どうやら女性専用車両に乗り込んでしまったようだ。車両を移動したいが混雑していて動けない。急行なので次の駅まで十五分は停車しないだろう。周りの女性たちの非難がましい目が気になるが、ここは耐えるしかない。
 痴漢と間違えられないように、僕は両手で吊・・・

7

双子座

15/08/08 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:961

 早朝に玄関のチャイムが鳴った。眠い目を擦りながらインターフォンのカメラを覗くと、まるで鏡に映った自分が立っていた。
「……どなたですか?」
「すっとぼけてないで! あたし那美よ」
「どうして、ここが分かったの?」
「あたしたち双子だもん。離れていてもテレパシーで分かるって」
「突然どうしたの?」
「亜美、早くドア開けてよ!」
 苛立って靴でドアを蹴ってき・・・

6

美しく、したたかに

15/07/27 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1215

 世の中に『美人薄命』という言葉がある。
 美しい女性は得てして寿命が短く、容貌が衰えない内に死んでしまうという意味だが、実は美人で長命な方もたくさんいる。

 いつか時空モノガタリのテーマが【 美女 】になったら、この女性のことを知って欲しいと思っていました。
 その女性の名は常盤御前(ときわごぜん)、あの有名な源義経(みなもとのよしつね)の生母に当る人です。
 常・・・

7

ビューティーコロン

15/07/20 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1958

「チクショウ! これで何度目の失恋だろう」
 今しがた男に別れようと言われた。理由は他に好きな子ができたから……また、それかよ! そんな言い訳で今まで何度ふられたことか、悔しいけど本当の理由は分かっている。私がブスだからでしょう。
 私の容姿といったらチビで短足、貧乳だし、顔は色黒、細い目、あぐら鼻、しゃくれ顎、おまけにド近眼。整形したくとも、どこから手をつければいいのやら……究極のブ・・・

5

断捨離できるか

15/07/10 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:988

『お掃除しましょう』と、
部屋の中をぐるりと見渡せば、

我が家には、
要らないものが多過ぎる!

たとえば、
下駄箱の中の履かなくなった靴
クローゼットしまい込んだ流行遅れの服
屋根裏部屋に放置された古い布団

いつか片付けようと思うのだが
断捨離にも体力が必要で
一日延ばしにする内に
どんどん増える 物・物・物・・・

6

家族になる日

15/06/26 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:1051

 動物園なんか大嫌い!
 屋外だから夏は暑いし、冬は寒い。草食動物は臭いし、肉食動物は寝てばかり。野生をなくした動物の空虚な目と、動物園で生まれた動物の媚びを売る目――。
 何が面白くて動物園なんかに行くんだろう。

 七歳の時に両親が離婚した。
 家族で最後に行ったのが動物園だった。今でも覚えてる、父はひと言も口を利かないし、母はトイレでこっそり泣いていた。重苦しい・・・

6

ライオンはサバンナの夢をみる

15/06/24 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1560

 動物園のライオンはサバンナで生まれたけれど、サバンナを知らない。

 まだ赤ん坊だったライオンは密猟者に捕まえられた。
 その時、母親は銃で撃たれて死んだ。ライオンの兄弟はたしか三匹だったと思う。
 幼いライオン兄弟は薄暗い倉庫の狭い檻の中に閉じ込められた。そこは風通しが悪くて蒸し暑い、糞尿の悪臭が漂う劣悪な環境だった。
 兄弟の一匹が朝起きたら死んでいた。
・・・

5

殺人メロディ

15/06/22 コメント:5件 泡沫恋歌 閲覧数:967

「よし。これならいいだろう」
 京王プラザホテルのトイレでケイジロウは身なりを整える。
 先ほどの新宿駅の地下駐車場の乱闘でスーツが埃まみれになった。手と顔を洗って、髪を撫でつけたら、なんとかパーティ会場に入れる風体になった。
 卸したてのスーツをズタボロにしたら、助手の麦丘依子から大目玉を喰らう。相談屋ケイジロウの看板を掲げているが、事実上の経営権は依子が握っている。ケイジロウ・・・

7

江戸時代婚活噺

15/06/15 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1037

皆さん、ご存知でしょうか?
江戸時代は現代よりも、ずーっと結婚難だったのです。
よく落語に出てくる、長屋暮らしの八っつぁん熊さんには嫁のきてがなく、生涯独身で過ごす者がほとんどでした。
そういう男性のために繁盛したのが吉原などの遊郭だったのです。

――では、なぜ結婚難だったのか。

早い話が男性に比べて女性の絶対数が不足していたのです。
人間の出生・・・

8

花簪(はなかんざし)

15/06/12 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1297

 お鈴は数えで十二歳のときに廓に売られた。 
 商いに失敗した親の借金の形に、器量良しのお鈴が家族の犠牲となった。
 吉原に売られたお鈴は、禿(かむろ)から始まり、振袖新造になった。姉女郎の元で三味線や舞いの稽古を積んで、芸事でも一目置かれるようになり、初見世のお開帳で破瓜の血を流し十六で女となり、今年十九で座敷持ちの鈴音太夫(すずねだゆう)と呼ばれ、吉原でも売れっこの花魁である。

6

タイムバンク

15/06/01 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:1200

 今夜はこれからデートだ! 時間はたっぷりある。
 小腹がすいたのでカップ麺でも食べるとしよう。麺にお湯を注ぎ、きっちり3分間、柔らかすぎる麺は嫌いなので、いつも砂時計で時間を計る。
 さらさらと……砂が落ちて時を刻む。
 よし。そろそろいいだろう。カップ麺のフタを開けようとした瞬間。
『タイムオーバー!』誰かの声がした。
 一人暮らしの俺の部屋にいったい誰だ? 10・・・

6

双六 (すごろく)

15/05/31 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:1045

 結婚というゴールを目指した、双六の駒はいつまで経っても進まない。

 大学時代から交際している恋人と足掛け十年にもなる。プロポーズの言葉を待っているのに彼から『結婚しよう』とは言ってくれない。
 もうすぐ私の誕生日、二十九歳と十一ヶ月と二十九日……後、二日で三十歳になる。
 時々デートして、一緒に食事して、週末には肌を温め合う関係を長く続けてきた。お互い縛り合わない自由な・・・

5

母胎回帰

15/05/18 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:1117

 ヤマダ教授は海水に浸かり考えていた。

 塩分濃度を少し薄めた海水は、まるで母の胎内のような心地よさだ。
 生命の起源、母なる海よ。我々、人類が海に還る日は近づきつつある。

 22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 かつて100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によって10分の1の10億人に激減した。人類は放射能の被爆者、大地は汚染され・・・

4

『海にいこう』

15/05/16 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:1041

 憧れの先輩から、突然。
『海にいこう』て、誘われた。
 えっ! ええー? 二人っきり、マジで!?

 私こと、岡田佳奈(おかだ かな)は高校一年、フツーの女子高生だよ。
 入学したばかり頃、理科室が分からなくて校内で迷っていたら、二年生の男子が親切に案内してくれたんだ。
 それが五十嵐淳也(いがらし じゅんや)先輩だった。
 スマートでかっこいい! ひと・・・

5

R-12 三匹の子豚 (保護者同伴で読みましょう)

15/05/04 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:1392

 三匹の子豚の作った家で、頑丈な煉瓦の家は狼の襲撃にもビクともしませんでした。
 そのことで自信をつけた末っ子の子豚は「子豚ハウス」という建設会社を立ち上げました。注文住宅専門で設計から施工まで引受けるのです。
 人手(豚足?)が必要なので、ダメな兄二匹を雇うことにしました。
 一番上の兄には営業に回って貰うことにしました。「よし! 俺が注文を取ってくるぞ」と勇ましく飛び出した兄・・・

7

目玉焼き騒動記

15/04/20 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:1673

 騒動の発端はテーブルの上の目玉焼きから始まった。

 父は顔を洗うと朝食のテーブルに着く。献立は、ご飯、みそ汁、サラダ、そして目玉焼きだった。突然、父が大声を出した。
「おいっ、俺の目玉焼きが片目しかないぞ!」
 目玉焼きが大好きな父は、二個玉子を使った両目の目玉焼きを毎朝必ず食べている。それが、今朝は片目の目玉焼きが皿に乗っていたのだ。
「会社の健康診断でコレステ・・・

5

失踪人

15/04/11 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:1202

 俺の名前はケイジロウ、新宿の街で『相談屋』稼業をやっている。
 相談といっても、表立って人に相談できないような……裏の稼業である。古い雑居ビルの五階に『萬相談承る』と書いた木の看板を掲げているが、知らない人が見たら怪し気だろう。
 運命のことなら、タロットカードで占う。法律のことなら、弁護士の資格もある。裏事情なら、新宿のシマを仕切ってるヤクザの組長とは朋友だ。
 一応、仕事は・・・

5

猫股神社

15/04/06 コメント:5件 泡沫恋歌 閲覧数:1114

 僕らの通学路の途中に小さな神社があります。
 そこの賽銭箱の上で大きなチャトラの猫がいつも寝そべっています。まるで置き物みたいに微動だもせず、その猫は毎日その上で寝ているのです。
 一度、クラスのいたずらっ子カズキ君が猫に石を投げたことがあります。驚いた猫は逃げましたが、帰り道、カズキ君の自転車が転倒して腕を骨折しました。
 それだけではありません。近所のおじいさんが賽銭箱の猫・・・

7

ランドセルを忘れた私

15/04/02 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1582

 薄ぼんやりした、存在感の希薄な子でした。
 貧乏の子だくさん、もう子どもは要らないと思っていた夫婦なのに、残念ながら誕生してしまった五番目の命が私です。
 ご飯さえ食べさせれば、勝手に育つだろう。そんな動物を飼うような感覚で育てられ、物心つく前から上の姉たちのオモチャだった。
 幼稚園は家庭の事情とやらで通園しなかった私は、いきなり小学校から団体生活が始まります。すでに日常が家・・・

6

ガリバーな男

15/03/23 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:1229

「ヨッ!」
 挨拶とおぼしき掛け声と共に、いきなり髪の毛をワシャワシャされた。
「な、何するんだ」
「おまえのつむじ可愛いなあー」
 友人の石田君は僕よりずっと背が高い。
 たぶん185p以上はあるだろう。どこに居ても頭一つ高いので目立つ。僕は心の中で『ガリバー』と呼んでいる。
「もぉ! 身長差を使った冗談はやめてくれる」
 クシャクシャにされた髪を手クシ・・・

5

黄色いガーベラ

15/03/20 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:1334

 ずっと、ずっと君だけを見ているから――。

M: 
「ねぇ、僕の話をちゃんと聞いてるの?」
 そう問いかけると、君は曖昧に頷いて、僕の肩越しに窓の外の風景を見ていた。
「そういう迂闊なをところを注意しているんだ。もうすぐ結婚するのに、もし君に何かあったらと思うだけで……僕は心配で気が狂いそうになる」
 玄関チャイムを押したら、僕だと確認しないでドアチェーンも掛・・・

7

恋愛中毒

15/03/18 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:2973

たぶん わたしは狂っていたんだろう

あなたのその冷たさが 余計に熱くさせた
『いつも わたしだけを見ていて欲しい』
独占したい気持ちでいっぱいになってきた
激しい感情が 『毒』となって身体中まわり始める


少しずつ狂い始めた まず3つの症状が表れた

『冷静さをなくす』『嫉妬深くなる』『情緒不安定』
『追えば逃げるという』恋の・・・

7

インタビュー IN ハチ公前

15/03/09 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1426

皆さん、こんばんは。
渋谷のタウン誌『ハチ公ライフ』の編集者兼レポーターの代々木です。
今日は渋谷駅周辺での待ち合わせ場所として有名なハチ公像前に来てます。
これから僕は渋谷についてインタビューしようと思いますが。
さて、どなたにお願いしようかなぁー。
おっ! きれいな女性がベンチに座ってスマホをいじっています。
二十代半ばでしょうか? ファッションも決まってい・・・

7

月下の宴

15/02/23 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1478

 明るい満月の下で、戦勝の宴は開かれる。
 生還を果たした武将たちは、晴れやかな顔で酒を煽っては、己等のあげた武功を自慢げに語る。時折、羽目を外し過ぎた者たちの喧騒がいっそう宴の席を賑やかにする。だが、文官たちの中に、それを咎めようとする者はいない。
 普段は人々の平穏の為に使われるべき、武将らの知恵や武力もいざ戦となれば、いかに多く敵軍を殺戮するか、しのぎを削っているのだ。ようやく訪・・・

7

ドリーム戦国大戦

15/02/22 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1267

 全国から選りすぐりのゲーマーたちが召喚された。
 老舗のゲームメーカー任侠堂が新しいゲームソフトを開発した。今までのゲームの概念を覆す画期的な商品で、ドリームリアリティゲームと銘打つ、そのゲームはコントローラーを使わず、頭で考えた通りにゲームキャラたちを動かすことができる。
 ヘッドオンのような機器を頭に被り、プレーヤーはレム睡眠状態になり、まるでゲームの世界に入り込んだようにキャラ・・・

8

アドニスのためのパヴァーヌ

15/02/03 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:1727

 フランスの作曲家モーリス・ラヴェルが1899年に作曲した『亡き王女のためのパヴァーヌ』は抒情的で美しいメロディだ。この曲の亡き王女とは、ハプスブルク家のマルガリータ王女をモデルに作られたといわれているが、その王女は21歳の若さで亡くなっている。
 この曲を聴く度に、こんな映像が頭の中に浮かぶ、雲の切れ間から放つ一条の光に導かれて、小さな女の子がゆらゆらと舞いながら天国へ昇っていくのだ。

10

アンナのアリア

15/01/24 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:2006

18世紀、ウィーンはハプスブルク家が栄華を誇り『音楽の都』と呼ばれていた。当時はヴィヴァルディやバッハのバロック音楽から、交響曲の父・ハイドンを中心にウィーン古典派が開花しようとしていた。ヨーロッパ中から成功を夢見る、才能溢れる音楽家たちが集まったウィーンの街外れの下宿屋に、その音楽家は住んでいた。
彼は下宿屋の娘と恋に落ちて、今度、公演するオペラの成功を強く望んでいた――。

・・・

8

飛びます☆飛びます☆飛べません↓

15/01/19 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:2635

「いい加減にしてください!」
 空港の国際線ロビーに若い男の怒号が響き渡った。
「シィー、佐藤君、声が大きい……」
 口の前に人差し指を立てて、辺りを窺うように中年の男が諫めた。
 二人は大和大学で細菌学を研究する山田博士とその助手の佐藤である。山田博士が培養したスーパー酵母菌が化学雑誌で取り上げられ一躍注目を浴びた。パリで開催される世界細菌学シンポジュウムで、その研究発表・・・

6

幸福荘奇譚

15/01/07 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:1898

『隣に居ます。一度訪ねてください』

 俺の部屋のドアポストにそんなメモが挟まれていた。
 白い便箋に黒いマジックで丁寧に書いてあった。一度訪ねて……って、ずいぶん押し付けがましいと思った。半年前に引っ越ししてきたが近所とは付き合いがない、たしか隣室は空部屋のはずだ。
 俺の住むアパートは駅から徒歩40分、築30年以上、日当たり悪く、壁はシミだらけ、擦れ切れた畳、1K四帖半・・・

8

事故物件

15/01/03 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:2255

 ビル管理の会社を始めて、三十年経つ。女一人で宅建の資格だけを頼りにやってきた商売だが、バブルの頃にはそこそこ儲かった。
 郊外にマンションを買い、外車を乗り回し、結婚はしなかった、当然子供もいない。独り身の気楽さは有るが、やはり年齢と共にひしひしと孤独を感じることもある。一昨年、十八年飼っていた愛猫に死なれた時には……心にぽっかりと穴が開いてしまった。私にとって身内と呼べる家族はその猫だけ・・・

7

My name is

14/12/29 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:2148

 朝起きたら、自分の名前が思い出せなくなっていた。
 毎朝、スマホでメールを確認するが、返信しようとして戸惑った。なんと自分の名前が出てこないのだ。名字は分かるがファーストネームが分からない。まさか若年性アルツハイマーか? だが妻や子供の名前はちゃんと覚えているし、自分の生年月日や血液型、星座、勤務先の電話番号もちゃんと言える。
 なのに……自分の名前だけが思い出せない。
「パパ・・・

5

失したもの

14/12/20 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:1567

「この中に失くなっているものはありませんか?」

 机の上に並べられた、携帯、時計、財布、手帳、眼鏡、血の付いた衣服。
 これらの品物の持ち主が今はいない。そこに並んだ遺品と同じに、私も寄る辺ない身となった。

 いつものように夫は朝食を食べながら、新聞を読み、時計を見て、出勤する身支度を整えた。「お帰りは?」私が訊くと、「たぶん、遅くなるかもしれない」と曖昧に答えた・・・

6

不条理な男

14/12/12 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1378

「――だから、不条理だと思わないか?」
「はぁ〜?」
 スマホで音ゲーやってる僕はイヤフォンを付けていたので、友人の石田君が何に同意を求めているのか、分からなかった。
「クリスマスだよ。世間はクリスマスで浮かれてるけど、いったいダレ得なんだ?」
「そりゃー、リア充な奴らや子どもが喜ぶだろう」
「違う! そんなこと訊いてない。GODと仏と神様ではクリスマス商戦で得するの・・・

6

納豆マンの独白

14/12/08 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:2613

いやね、いつから、こんな体質になったのか自覚がないんですよ。
ある日、気がついたら指先から糸をひいてました。
触ってみたら、ネバネバして、いくらでも糸をひくんです。
手を洗ったり、ウェットティッシュで拭いても、また、すぐに糸をひくんで参っちゃいます。
でも、その頃はさほど気にしてませんでした。
だいいち医者に行こうとも思わなかったし、ちょっと面白いやんかと人前で自慢し・・・

7

派遣にゃんこ

14/12/01 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:1378

 三丁目にある猫カフェ『にゃんこの館』に派遣の仕事が回ってきた。その白羽の矢はなんとロシアンブルーのイワンに刺さった。
 あるお金持ちの屋敷で飼われていたロシアンブルーが行方不明になっている。飼い主の老人は重病で余命幾ばくもない、愛猫がいなくなったことに気づいたら、おそらくショックで亡くなってしまうかもしれない。
 心配した家族がお祖父さんのために愛猫の身代りを演じて欲しい。いわゆる影・・・

5

カタストロフィ

14/11/17 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1288

「発見したぞ―――!!」

 ここはモロッコ領、サハラの砂漠のど真ん中。
 Dr.ヤマダが率いる大和大学考古学発掘隊は、ついに幻の恐竜、地上で最も早く、強く、水陸両用だといわれるスピノサウルスの化石を発見した。
 今まで完全な形で発掘されたことがなかったが今回の発掘でほぼ全貌が判るのだ。――まさに世紀の大発見である!
 スピノサウルスの体重は20トン、全長は15メート・・・

5

偏頭痛の男

14/11/08 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1850

 石田君は今日も機嫌が悪い。
 苦虫を噛み潰したように眉間に縦皺ができている。大声で話し掛けようものなら、険しい顔で睨みつけられる。
 石田君は偏頭痛持ちである。
 一週間の半分は頭痛に悩まされている。時に雨が降りそうな天気では気圧が下がるので、特に酷いという。激痛に嘔吐することもあるらしい。
「もう、俺に効く鎮痛剤はこれしかないんだ」
 薬剤師のいる薬局でしか買えな・・・

5

恋よりカツサンド!

14/11/03 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:1457

 4時間目終了のチャイムと共に教室から飛び出して、学校食堂へ続く渡り廊下を猛スピードで走っていた。
《早くいかないと売り切れる!》先生に廊下を走るなと注意されても今だけはきけない。――全力疾走するアタシです!
 月に一度の食堂のおばさん『気まぐれカツサンド』の売り出し日なのだ。
 限定10食、お一人様1パック限り、値段は280円と激安、大人気ですぐに売り切れる。販売は不特定で食堂・・・

13

ピンポン小僧

14/10/24 コメント:22件 泡沫恋歌 閲覧数:3683

 この一瞬のスリルに俺は全てを賭ける。
 各家のチャイムを押して回ると、誰にも見つからない内に、疾風の如くに逃げ去るのだ。単純なイタズラだけに面白くて止められない!

 希望退職を募っていたので、このまま働き続けても出世も昇給も望めそうもない俺は退職金20%上乗せという言葉に思い切って決めた。自分一人の判断ギリギリまで家族には黙っていた。
 まだ五十五歳、次の仕事はすぐに見・・・

7

秘密にしてね!

14/10/17 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1444

「秘密にしてね」という会話ほど、守秘義務の伴わない事案はない。
 女同士の会話で「秘密だけど……」と、これを使うと、あっという間に秘密は周知の件となる。冒頭に「秘密」を付ければ、「速やかにみんなに回せ!」と同じ意味になる。

 商事会社に勤める、早川聡美は勤続二十年のベテランOL、総務部主任の彼女はテキパキと仕事が早いという評判である。聡美は社内にアンテナを張って、職場の噂話や内・・・

9

幻の蝶々

14/10/12 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1575

 平凡な家庭のリビングに油彩画を飾る。
 マリ・タチバナという世界的に有名な画家の作品で、これが遺作となった。
 パリのアトリエで、この絵を描き上げ、絵筆を握ったまま眠るように彼女は死んでいた。外傷はなく自然死だと報道された。
 そして日本にいる私の元へ、この絵を届けて欲しいとメモが残されていた。マリ・タチバナのエージェントは方々手を尽くして、やっと私を探し出した。
 この・・・

9

【 天孫降臨 】御一行

14/10/06 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:1716

 これは昔々の神話の世界、登場するのは日本の神々です。

 高天原(たかまがはら)というところに神様たちが暮らしておりました。一番偉いのは太陽神の天照大御神(あまてらすおおみかみ)という女神です。弟は須佐之男命(すさのおのみこと)といいますが、暴れん坊で乱暴狼藉の限りを尽くします。そのせいで姉のアマテラスは天岩戸(あまのいわと)に隠れてしまいました。太陽を失い世界は真っ暗闇になり、邪悪・・・

7

UFOが降って来る日

14/10/03 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:917

 その日、人類は驚きを持って迎えた。
 天空から無数のUFOが地球に向って降ってきたのだ。銀色に輝く円盤がいきなり現れて地上に着陸していった。それは各国の軍事レーダー網にも引っ掛からず、突然出現したステルスUFOだった。
 その数、おおよそ1万機、直径50センチほどの超小型UFOである。町外れの小高い丘の上に集結していたが、今のところ動きもなく、何故、こんな大量のUFOが舞い降りてきた・・・

10

すーちゃんのおねえちゃん

14/09/21 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:2056

『すーちゃん、すーちゃん』

「ママ、今、だれかの声がしたよ」
「えっ? そんな筈ない。この家には涼香(すずか)とパパとママの三人しかいないわ」

 田舎にある古家に住むことになった。
 この家はパパのお祖母ちゃんが亡くなる日まで一人で暮らしていた。戦前に建てられた日本家屋で、地主だったという旧家の立派な建屋である。
 こんな辺鄙な山の中に住む人もなく、取・・・

9

雛とアタシと――。

14/09/13 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1532

 あの子を初めて見た時、不覚にも胸がキュンとしてしまった。営業部一の女傑と言われた、このアタシが……。
 中堅クラスの広告代理店で営業成績は常にトップを誇っている。
 可愛げがない、クールな女、君は独りでも大丈夫と男に身捨てられた。誰も守ってなんかくれない。――だから、アタシは強い女になった。

 去年の春、入社した、荻野 雛(おぎの ひな)は小柄で可愛らしい。
 最・・・

9

【 寓話 】詩人の村

14/09/07 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:1518

 ある所に詩人たちが住む村がありました。

 ここに居る者は農民も大工も鍛冶屋もみんな詩人ですが、彼らはあまり働かない。
 清貧こそ詩人のあるべき姿、貧困と闘って夭折した詩人を尊敬して、拝金主義者や俗物的な人物を軽蔑しているのだ。
 清らかな魂を持つ繊細な人間のみが詩人と呼ぶに相応しいと、ナルシストの彼らはそう思い込んでいる。
 詩人のプライドを比喩と隠喩で表現すると・・・

8

嘘と男と着信メール

14/09/01 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1402

「もう、この恋は終わらせてしまう方が良いかも知れない」

 男との電話を切った後で、黎子はそう感じた。なんとなく空々しい会話が鼻についてきた。
 しゃべっていて、話が長くなってきた時に、ふいに言葉を遮ったり、話す前に次の予定を話して段取りよく会話を終わらせようとしていたり、忙しいとか、疲れたとか……そんな愚痴や体調不調を相手に訴えだしたら――もう潮時なのだ。
 わたしの声が・・・

8

もう一人の僕の世界

14/08/24 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1349

 皆さん、僕の話を聴いてください。
 僕は香取亮介という高三の男子ですが、この世界に違和感があるのです。

 今日、学校で不良の猿渡君に五千円を貰いました。「何のお金?」と訊いたら、グループで万引きした品物が売れたので、これは分け前だと言うのです。
 僕は万引きなんかやったことありません!
 そして僕のLINEには意味不明のメールが届きます。
『また一緒に遊ぼ&・・・

7

風紋

14/08/19 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1778

 神楽坂にあるカクテルバー「すなば」坂下の路地の奥に在り気づく人も少ない。
 うなぎの寝床のような小さなお店は七人掛けのカウンターだけ、BGMにはジャズの帝王マイルス・デイビスのクールジャズが流れていて、大人の雰囲気を醸し出している。
 マンハッタンでバーテンダーの修業をしたマスターは四十代の渋いイケメンだ。若い頃に妻を亡くしてからずっと独身だという。
 都会の隠れ家のようなカク・・・

7

チェリー!

14/08/11 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1210

 チェリー! チェリー!
 君と出会えて、僕はとても幸せだった。

 最愛のチェリー、かけがいのない家族――それは君なんだ。

   *

 22世紀初頭、『オタクリスト』と呼ばれる男性たちは、二次元のアニメキャラを愛することから始まって、自分好みにカスタマイズしたアンドロイドと一緒に暮らすようになった。
 合弁会社セガニック(セガ+パナソニック+ヤ・・・

6

あなたの【 未来 】占います

14/08/02 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:1762

『あなたの【 未来 】占います』
 人通りの少ない路地の奥で、こんな看板を書いた占い師がいた。
 私に未来なんかあるのだろうか? 十年近く付き合っていた男に振られた。
 理由は来月結婚するから……気づかなかったけど、二股かけられていたみたいで相手の女性の方が若いから、そっちと婚約したのだ。――ああ、私の存在って何だったの?
 私、今年で三十二だよ。新しい彼氏を見つけるのも難・・・

7

狐火

14/07/27 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1520

 あれは小学校最後の夏休みだった。
 幼馴染の健太と達彦と僕の三人は裏山にあるお稲荷さんで『肝試し』をすることになった。僕らの育った村はかなり過疎地域で、360度グルッと山と田んぼと畑に囲まれている。家が近所でずっと一緒に育った仲良し三人組だが、達彦が夏休み中に転校することが決まった。
 実は両親が離婚することになったらしい、達彦は母親と共に都会に出て行くので、もう三人では遊べない。転・・・

8

夜に光る三白眼

14/07/18 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1757

まだ、夜が明けきれない真っ暗な街の中。

自転車のペダルを漕いで、自分は朝刊を配るアルバイトをしていた。
――後、三十分もすれば朝日が昇るだろうか? 
なんだか小雨も降ってきて、早く朝刊を配り終えて家へ帰りたい。
真っ暗な街はいいようもなく不気味で、仄暗い路街灯だけが頼りなのだ。

前方から、透明のビニール傘を差した若い男が歩いてくる。

こん・・・

10

バスツアー

14/07/12 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1764

母ちゃんと二人で旅に出る。
鞄に歯ブラシ、着替え、旅行の日程表と、最後にわくわくを詰めて、チャックを閉める。
「母ちゃん、出掛けるよ」
いつも、先に起きてるくせに、いざ出掛けるとなると、あれがない、これがないと慌てる困った母ちゃん。

バスツアーの集合場所に出発ギリギリに駆け込んだ。
先に乗り込んでいた乗客の皆さんに「ゴメンなさい」と謝りながら、私たちは座席に着・・・

7

嘘泣き女

14/07/08 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1437

今から、みなさんに嘘泣き女の話をしましょう。

名前は篠田文奈(しのだ あやな)職業は女優のたまご? いいえ、結婚詐欺師というのが本業でしょうか。
美しい容貌(美容整形)とスタイル、巧みな話術で男性の心を掴み、結婚を餌に大金を貢がせるのが彼女のビジネスでした。
文奈は男たちに貢がせたお金で高層マンションに住み、外車を乗り回し、高級ブランド品で身を飾り、ギャンブルや海外旅行で・・・

10

禍が道に落ちていた

14/06/27 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:1373

 梅雨明けの空は快晴、のどかな田舎道を愛車で走っていた。
 三日前にディラーから納品されたばかりの新車で、今日は慣らし運転を兼ねたドライブだった。
 初夏の風が心地よい、窓を全開にしてお気に入りのBGM流して、鼻歌まじりにハンドルを握り、俺の気分は上々だった。

 その時、耳元でブーンという羽音が聴こえた。
 でっかい蜂が車内に侵入して、俺の顔の周りをグルグル飛んでい・・・

7

【 雑記 】道について

14/06/20 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1758

私は道についてよく考える
別にどうってこともないような
つまらないことをいろいろと……

フェリーニの「道」という映画を
レンタルビデオで観たことがある

ジェルソミーナという 頭は弱いが心の美しい娘と
ザンパノのいう 粗野で暴力を振るう旅芸人の男 ふたりは旅をしているが
ある日 ザンパノが犯した罪のせいで
ジェルソミーナがおかしくなって・・・

7

仔猫ころころ

14/06/16 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:995

猫カフェ『にゃんこの館』にいる、アメリカンショートヘアーの三匹の仔猫たち。
床の上を石ころのように転がりまわって、元気よく遊ぶ、その可愛らしいしぐさで、みんなを魅了します。
仔猫というのは期間限定のエンジェルだから、その姿に癒されたくて、来店するお客様もたくさんいます。

仔猫の兄弟は一番大きい子と一番小さい子が女の子で、真ん中が男の子です。
――この三匹の仔猫たちに・・・

8

ブルーシートと幸福の石

14/06/09 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:1423

 こんな橋桁の下、ブルーシートの中に人が住んでいるとは思わなかった。
 その男は五十代くらい、髭モジャ、髪は伸び放題、垢で真っ黒な顔、かなり年季が入ったホームレスに見える。
「ゲリラ雷雨で川の水が増水したから避難してくれって……悪いが見ての通り、具合が悪くて動けん」
 段ボールとブルーシートで作られた小屋の中、男は汚い毛布に包まっていた。栄養状態が悪く、死期が迫った病人の顔色だっ・・・

6

私を愛した【 す 】の付くものなぁに?

14/06/02 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1279

「なんじゃあーこりゃあ!?」
 自分の目を疑い、瞼を擦って、もう一度その文字を見なおした。
『スパイ急募』
 俺は今、ハローワークの中にあるパソコン求人検索ルームに居る。
 希望する条件をパソコンで検索してくださいと、職員に言われて、入力した条件に合致した職業が、まさかの『スパイ』だった。

 今朝、ボロアパートの六畳一間の部屋で寝ていたら、突然、大家のババアに・・・

8

【 私的検証 】義経とその讒言者(ざんげんしゃ)

14/05/28 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:1909

 梶原景時(かじわらのかげとき)という男、稀代の告げ口魔にして、讒言者(ざんげんしゃ)である。
 元々は平家に属していたが、治承四年、石橋山の合戦で大敗し逃走する源頼朝(みなもとのよりとも)を見逃し、命を救った縁から、鎌倉幕府で仕えることとなった。頼朝の信頼も厚く、景時は侍所所司として御家人の統制に当たっていた。

 平氏討伐の際、源義経(みなもとのよしつね)には梶原景時が軍奉行・・・

10

風媒花

14/05/17 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:1047

 祖母の千鶴は米寿になった時、自らの意思で「グループホーム」に入居したいと言いだした。長男である私の父は大反対した。母も姑とは上手くいってると思っていただけにショックだった。二人とも祖母を最後まで自宅で看取りたいと言い張ったが、頑として聴き入れず、県外に住む長女に入居の手続きをさせると、さっさと「グループホーム」に入居してしまった。
 昔から芯の強い人で、決めたことは必ず実行する性分だった。・・・

8

おしどり夫婦

14/05/13 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:1359

 女優の蒼井凛子とタレントの藍川裕樹は芸能界きっての『おしどり夫婦』として有名です。結婚十年目の夫婦には十歳の長女と八歳の長男がいますが、結婚十年で十歳の子は可笑しいって? 実はこの二人デキ婚でした。
 妻の凛子は十代の時にアイドルグループとして売り出し解散後、女優への道を進む、美貌と演技の才能と作品にも恵まれて、女優として注目を集めました。しかも結婚して子供を生んだ今も人気は下がるどころか・・・

12

滲んだ月

14/05/03 コメント:21件 泡沫恋歌 閲覧数:1522

 ここは長門国赤間関壇ノ浦、宵闇に月が白く浮かんでいる。海は穏やかで波の音しか聴こえてこない。墨色の法衣を着た僧侶が独り海に向い経を読む、まだ若く背筋が凛としている。

 寿永二年七月、源義仲に攻められた平家は安徳天皇と三種の神器を奉じて都を落ちる。源氏の攻勢の前に西へ西へと追いやられて、一ノ谷の戦いで大敗を喫して、海に逃れ讃岐国屋島と長門国彦島に背水の陣を敷いていた。平家の総大将は清・・・

8

空から降ってきたモノは、

14/04/27 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:2537

 街路樹と石畳が黄金色に染まっていく黄昏の街、古い曲だがエルトン・ジョンの「Goodbye Yellow Brick Road」いう歌をハミングしながら僕は歩いていた。
 爽やかな風が吹いて、初夏の汗ばんだ肌に気持ちがいい。
 人って意味もなく幸せだって感じる時があるよね? あの日の僕はそんな気分だった、何か良いことが起きる予感がしていたから――。

 一陣の風が舞い、ハラ・・・

9

驟雨期 ― 新たなる進化を遂げて ―

14/04/18 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:2162

 22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 共産主義と資本主義というイデオロギーが違う二つの勢力が真っ向からぶつかり合い、同盟国や隣国を巻き込んで、果ては宗教紛争にまで飛び火して地球全体の戦いとなった。
 過去の遺物ともいうべき国連はなんら機能せず、戦争は激化して、最後は『核のドッジボール』によって幕を閉じた。
 100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によっ・・・

10

雨の音

14/04/15 コメント:19件 泡沫恋歌 閲覧数:1801

 俺は激しい雨の音で目が覚めた。
 今日の天気が雨だと布団の中で分かった瞬間、思わずチッと舌打ちをした。こんな日の通勤は憂鬱な気分になる。渋々布団から抜けだし、家族を起こさないように、冷蔵庫に買って置いた缶コーヒーを飲んでから職場へ向かう。
 自宅から自転車で三十分ほどの場所に俺の働く鍍金工場がある。小さな町工場で高校を中退してから、ずっとそこで働いている。かれこれ十年になるが給料は十・・・

9

Spring garden (春の庭)

14/04/05 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:1666

小さなお庭で春の花たちが目覚めます。
太陽の光を浴びて、青々とした葉っぱを茂らせて、
太く伸びた茎には、美しい花を咲かせました。

「こんにちは。太陽さん」
チューリップが大きな口で挨拶します。

「今日も良い天気じゃ」
ひげオヤジみたいな顔のパンジーたち。

「暖かい日差しが、いい気持ちわ」
マーガレットたちもプランターでご機嫌な・・・

10

コントラスト

14/03/31 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:2443

 日向千夏は混血かと思うほど彫りの深い顔と長い睫毛、色白でスタイルの良い彼女は目を惹く美人だった。
 それに比べて無口で不細工な私は冴えない存在で千夏しか友達がいなかった。コントラストとして千夏という太陽が歩くと、その足元にへばりつく影のような存在だった。
 なぜ千夏が私を友人に選んだのか、その理由を知ってショックを受けた。
 ある日、千夏がデートに誘われたが一人で会うのが不安な・・・

10

樹のお家

14/03/21 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:1449

『一家失踪!?』

 リサイクルの店を経営する俺は、よく空家などの片付けを頼まれる。
 住む人のいない古い家屋を壊す前に、物色しながらゴミを整理して、後は産廃業者に委託して大量のゴミを運び出すのだ。
 今回、依頼を受けた家は二十年前に家族全員が蒸発したまま空家になっていたが、管理していた祖母が亡くなり、親族が古家を取り壊し更地にして売ることになった。

 地図を・・・

8

弱虫にゃんこの家出

14/03/17 コメント:18件 泡沫恋歌 閲覧数:1442

 猫カフェ『にゃんこの館』のスタッフ、クーは見た目は凛々しい黒猫なのに、実はとっても弱虫な男の子です。
 先日、部屋のお掃除で窓を開けたら雀が飛び込んできました。スタッフの猫たちは色めきだって、雀を追いかけ回して大はしゃぎでしたが……その中で一匹だけ、ソファーの下に隠れていた子がいます。
 クーは見たこともない雀を怖がって震えていたのです。そのことで姉貴分の蘭子に散々笑われて、みんなに・・・

10

闇に眼を凝らせば

14/03/10 コメント:19件 泡沫恋歌 閲覧数:1547

 あの子の声が聴こえる。
 闇の向うからあの子の泣き声がする。
 勇気さえあれば女の子は死なずにすんだのかも知れない。後悔で胸が張裂けそうだった。
 私はベッドの中で眼を凝らして闇と対峙する。

 十五年連れ添った夫と離婚調停中だった。
 私たちは子無し夫婦だが、夫と共同でデザイン事務所を経営していた。街のタウン誌や店舗のパンフレットを作る会社で、夫が営業や外注・・・

9

時給1,050円の神様

14/03/07 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:1467

 神様と名乗る男と俺が知り合ったのはバイト先のコンビニだった。時給1,050円の深夜バイトの求人でやってきたのが神様だった。
「俺、神様。今日からここで働く。よろしく!」
「ああ、俺、中村よろ〜」
 自分のことを神様なんていう頭のオカシイ奴にバイトが続く筈がない。俺は自己紹介をするにも面倒臭いと思っていた。
 深夜のコンビニバイトなんかに来る奴に碌なのはいない。コミ障のオタ・・・

12

スモーキング・ワールド

14/02/27 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:2787

「星座を見てくる」
 そう言って俺はダウンジャケットと携帯用灰皿を持ってベランダにでる。ポケットから煙草を取り出し火を付け、一服深く煙を吸い込む。
 この寒空に誰が星なんか見たいもんか! 我が家は室内での喫煙は厳禁なのだ。妻は大の煙草嫌いで俺に禁煙しろと喧しい。「夫が煙草を吸うと妻の肺がんの確率が増加するし、私を殺す気なの?」と嫌味をいう。おまけに娘に喘息があり家族の前では絶対に煙草が・・・

9

鬼獣丸

14/02/21 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:2751

 殿上人の姫君が鬼の子を産んだと京童たちの間で噂になった。
 治部卿の娘、一の君が父親の分からぬ赤子を産んだが、それは鬼の子だったというのだ。
 産み落とした我が子をひと目見るなり、余りのおぞましき姿に発狂し姫は身まかった。治部卿は異形の孫を葬り去ろうとしたが、陰陽寮の技官に鬼の祟りがあるやも知れぬゆえ、殺さず、人目に触れぬように生かせと助言された。一の君の産んだ男児は、屋敷の奥深く密・・・

12

君のファンクラブ

14/02/18 コメント:21件 泡沫恋歌 閲覧数:1832

「君のファンクラブ作ったから!」
「はあ?」
 私、高瀬未菜(たかせ みな)高校二年生、容姿は並。放課後の教室で、いきなり幼馴染の同級生章太(しょうた)そんなことを言われた。
「ファンクラブって? 私ってば普通の女子高生だよ。――で、メンバーは誰?」
「B組の伊藤誠と俺」
「たった二人?」
 伊藤君とは吹奏楽部で一緒だけれど、特に意識したことない相手だった。

9

【 閲覧注意 】全国不幸自慢大会

14/02/10 コメント:18件 泡沫恋歌 閲覧数:3278

「みなさん、こんにちは。全国不幸自慢大会の時間でございます」
 市民会館の大ホール、観客席ほぼ満員である。
 七三に分けワックスで固めた頭に、今どき流行らない赤い蝶ネクタイ、黒いロイド眼鏡をかけたアナウンサーは胡散臭い男だ。
「では、本日の審査員をご紹介します。絶望の魔女と呼ばれる超辛口人生相談カウンセラーのクリスティーン・佐渡先生でーす!」
「ハーイ! クリスティーン・佐・・・

7

【 雑記 】ペガサスの話

14/01/31 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:6100

 皆さんはペガサスのお話をご存じですか?
 ギリシャ神話に登場する背中に翼を持つ天馬のことです。ペガサスは天空を縦横無尽に駆けまわる美しい白馬ですが、気性は激しく、乗る者を選ぶといわれており、人間は誰も近づけようとせず、乗ろうと挑戦した者をことごとく振り落としたとされています。
 女神アテナが黄金の馬勒をつけることで、ようやくペガサスをコントロールできるようになったという伝説の馬です。・・・

18

えのぐ

14/01/27 コメント:32件 泡沫恋歌 閲覧数:2466

 男は暗い顔でパリの街を彷徨っていた。
 売れない画家の彼は、いつもセーヌ川の畔で観光客相手に似顔絵などを描き細々と生計を立てていた。恋人は踊り子で彼の絵のモデルだった。
 小さなアパートメントで二人は暮らしていたが、貧乏暮らしに愛想を尽かしたのか、ある日、恋人が居なくなった。男はパリ中を探し回ったが見つからなかった。。
 その上、彼女は金貸しから借金があった。残された彼の部屋に・・・

14

すきやきの日

14/01/17 コメント:24件 泡沫恋歌 閲覧数:3871

 私が小学校の頃、昭和の日本は貧しい国だったと思う。
 いや、違う! 貧しいのは我が家なのだ。昭和三十年代、冷蔵庫や洗濯機といった便利な家電品が一般庶民にも持てるようになってきたが、貧乏の子たくさん、もう絵に描いたような貧しい一家は小さな住宅に大家族で暮らしていた。
 収入源は父の給料と、朝から晩まで母は内職の電動ミシンで割烹着を縫っていた。
 貧乏な我が家の唯一の楽しみといえば・・・

11

美人の基準

13/12/31 コメント:23件 泡沫恋歌 閲覧数:1625

 駅前のバスターミナルでボーと立っていたら、誰かに肩を叩かれた。振り返ったら見知らぬ女性が、しかも女優かと思うほどの垢ぬけた美人だった。
「麻子、お久ぶり!」
 誰? キョトンとしていると、
「あたし梓よ。高校の時一緒だった」
「えー!?」
 嘘? その女性は高校の同級生だった吉川梓だというが、私の知っている梓はこんな美人ではなかった。どちらかと言えば地味で目立たない・・・

10

雪迷宮

13/12/27 コメント:18件 泡沫恋歌 閲覧数:1591

 わたしはかつてとても怖ろしい写真を見たことがある。
 それは新雪と思われる深い雪の上を足跡が三歩だけ残っているというものだった。
 足跡は始まりもなく、終わりもなく、たった三歩で唐突に消えてしまっている。この足跡の主は何処から来て、何処へ向かおうとしていたのか? 
 それすら分からない。
 たった三歩の雪の中の足跡――そのことを、私はずっと考えていた。

13

ターコイズの空

13/12/18 コメント:21件 泡沫恋歌 閲覧数:1656

 レノは銀色の髪と碧眼の美しい少年である。
 彼の家は代々戦士の家系で父も祖父も勇敢に戦う男だった。だが、レノはまったく腰ぬけで争い事が嫌い、血生臭いことが苦手であった。武術の鍛錬よりも音楽や花を愛でることが好きな心優しい少年なのだ。
 特にオカリナの演奏は素晴らしく、レノがオカリナを吹くと空を飛んでいる鳥が舞い降りて、肩に止まり一緒に囀るといわれるほどの腕前である。
 しかし平・・・

14

夢幻回廊

13/12/13 コメント:19件 泡沫恋歌 閲覧数:2851

 ――夢の世界へ迷い込んだ。
 気がつくと、そこは見渡す限り砂の海であった。地平線の向こう、遥か彼方まで砂に覆い尽くされた世界。天上にはナイフのような新月とスワロフスキーの星々が煌めいている。
 自分は駱駝の背に揺られていた。アラビンナイトの踊り子の衣装で、東郷青児の描く女のように深い憂いの睫毛を瞬かせて……。ここは砂漠なのかしら?
 駱駝の手綱を見知らぬ男を引いている。白いター・・・

12

初雪

13/12/07 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:1636

 家業の新聞販売店を継ぎたくないと思っていた。
 冬は寒いし、夏は暑いし、朝夕刊あるからまとめて寝られない。休みが極端に少ない上、チラシや集金、新聞の拡張とか雑用もいっぱいあって忙しい。おまけに職場はおじさんやおばさんばかりで冴えない。
 それなのに、俺は実家である新聞販売店を手伝っている。

 大学卒業後、会社員として他府県で働いていた。
 自営業と違って安定した生・・・

10

幻冬雪女

13/12/03 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:1584

 冬山に吹雪が荒れ狂う。激しい雪は視界を遮り、冷たい礫となって森や山荘の窓を打ちつける。まるで怒り狂う女のように、白い雪は狂気を孕んで、人の心を弄ぶ――。

「ねぇ、今、何か音がしなかった?」
「ん? 別に……」
 女が淹れたコーヒーを飲みながら、男は携帯アプリのゲームをやっている。
 ――今日で三日目だ。
 週末から、泊り掛けでスキーにやって来ていた二人だが、・・・

10

黒猫と女

13/11/25 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:1809

 女は部屋で黒猫を飼っていた。
 小さな古い平屋に猫とふたりで暮らしている。いつも野暮ったい服を着て、化粧っ気もなく、地味で目立たない、この女はもうすぐ五十歳に手が届く。
 親兄弟もなく天涯孤独な境遇と聞くが、さりとて近所付き合いもなく、ひっそりと息を潜めるようにして暮らしている。

 女の左腕は肩より上がらない。
 酒癖の悪い夫が生きていた頃に酔っ払って暴力を振るわ・・・

10

迷惑な隣人たち

13/11/15 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:2173

 郊外に住む主婦の沙織さんは、今年三十二歳で三人の子供のお母さん。長女は六歳で小学一年生、次女は五歳で幼稚園、少し離れた長男は十ヶ月になります。旦那さんは真面目なサラリーマンです。ごく普通の主婦沙織さんの趣味はガーディニング、家の周りはいつもお花でいっぱい、道行く人々の目を楽しませてくれてます。
 沙織さんの家は一年前に購入した新築分譲住宅で、三軒家が並んで建っています。真ん中が沙織さんの家・・・

8

国際宇宙人会議(笑)

13/11/10 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:2041

 【 宇宙人は存在するか、否か?】

 
 この疑問は昔からテレビや雑誌で数多く取り上げられてきましたが、未だかつて、その結論が出ていません。
 どうでもいいようで、実はとっても気になる疑問なのです。(作者・談)

                   *                 

 アメリカ、ニューメキシコ州に住む平凡な農夫、ボブ・オズワ・・・

9

スイーツ系男子

13/11/07 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:2252

 親友の莉奈(りな)から、『相談があるので会って欲しい』とメールが届いた。
 うちは自営業なので昼間の二、三時間なら都合がつくのでスタバで会うことになった。待ち合わせの時間に着くと、莉奈はテラスの席でブラックコーヒーを渋い顔して啜っていた。
 私は注文したココアを持って、彼女の席に着いた。
「急にどうしたの? 何かあったの?」
「う〜ん。ちょっと……」
 なんだか元気・・・

11

おじさんの楽園

13/10/21 コメント:25件 泡沫恋歌 閲覧数:5068

 どうして、こんなことになったんだ!?
 気がつくと俺はジャングルの中に倒れていた。大きな草に囲まれて周囲が見渡せない。草叢からオームが現れた。ナウシカに出てくる巨大な甲虫だ。しかし……ただのダンゴ虫だった。大きな蟻も歩いていた。
 不思議なことに俺の周りの物が巨大化しているぞ! いや待て、この俺が小さくなっているのか?

 昨夜は、地方に転勤させられる俺の送別会だった。<・・・

7

忘れられない人

13/10/16 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:1702

 あんなに好きだったのに、どうして別れてしまったんだろう。
 それは小さな嫉妬と愚かな傲慢さだった。気を抜くと恋愛は逃げてしまうことを身を持って知った、今の僕がいる。
「もう忘れよう」何度決意したことか。
 どう頑張っても忘れられなくて……その笑顔みるたび、その声を聴くたびに心が揺れる……今でも君が大好きだから。
 
「おまえ、最近痩せたんじゃねーの?」
「えっ・・・

6

Halloween night

13/10/13 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1829

 Part1 憂鬱な魔女

「Trick or treat! Trick or treat!」
「お菓子くれないとイタズラするぞぉー!!」

 小さなお化けたちが家々の玄関を叩いてお菓子を貰いながら、町をのし歩く。
 今夜はハロウィン。万聖節(Hallowmas,All Saints Day)の前夜祭なのだ。
 この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女・・・

10

略奪恋愛ゲーム

13/10/09 コメント:22件 泡沫恋歌 閲覧数:2065

 私にとって恋愛はゲームと同じだった。
 たとえば素敵な彼氏を連れた女がいるとすれば、その男に近づいて、誘惑して“略奪愛”で自分の彼氏にする。だが、奪ってしまえば熱は冷める。結局、男は捨ててしまうだけだった……それでも略奪恋愛ゲームは止められない。
 なぜかって? 恋の勝者である自分に酔い。人の男を振り向かせることで自分の価値が確認できる。恋人を盗られた女の悔しがる顔が見たい……この腹・・・

8

宅配アイドルでーす!

13/10/03 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:3845

 ピザを頼んだら、玄関に変な女が立っていた。
 インターフォンが鳴ったので、てっきりピザ屋だと思って、俺は二階から駆け降りた。台所に置いてある母親の財布からピザの代金を掠めて、慌ててドアを開けたら、
「宅配アイドルでーす!」
「はぁ? なにソレ? そんなの頼んでないから!」
 そう言って、鼻先でバタンとドアを閉めた。
 なんだよ、あの女は? ヒラヒラのミニワンピ着て、・・・

6

五百年の楓 [後編]

13/09/25 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1478

 ― 2013年 京都 ―
 東京の理科系大学の研究室に勤務していた僕は、亡き祖父の住んでいた古い寺を処分するために京都へ帰ってきた。
 僕の両親は現在海外転勤中で日本にはいない。元々、母の実家にあたる寺なのだが、京都でも辺鄙な場所にあって、観光の目玉になるような国宝や文化財クラスの仏像や庭園もなく、檀家だけで細々とやってきたような寺で、跡を継ぐ者もいないので廃寺にすることになった。<・・・

6

五百年の楓 [前編]

13/09/25 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:1562

 ああ、わたくしはどれほど長く待っていただろうか?
 百年、二百年、三百年……いえいえ、そんなものじゃない。――もう五百年にもなるであろう。この楓の木にわたくしの魂が宿ったのは、世の中が戦国時代と呼ばれた室町幕府の頃であった。

 わたくしは宮中で女房と呼ばれる女官でございました。
 姫君に歌や書を教えるのが仕事だったが、京の都が戦火に見舞われたので、遠く甲斐の国まで逃れて・・・

9

eternal seed

13/09/15 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:1914

 ――永遠が始まった。
 人類の生命が詰まった宇宙船ダンデライオン号が発射台から今飛び立つ。それは宇宙に蒔かれたタネだった。この無限の宇宙の中で見つけてくれることを願いつつ永劫の旅を続けていく。

 西暦21xx年、人類は地球史を閉じた。
 地球にはもう誰も住めない。核戦争、環境汚染、地殻変動、地球温暖化、人口増加、食糧不足、資源の枯渇など多くの原因が重なりあって、ついに地・・・

6

隣の音

13/09/10 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:1501


ドンドンドン……
なんの音だろう? 


初め、咲江には分からなかった。
音は明け方になると、隣の部屋から聴こえてくる。
それは誰かが壁を蹴っている音のようだった。
音は毎日続いて、咲江を悩ませた。

咲江は郊外のマンションでひとり暮らしを始めた。
長年連れ添った夫は去年、心筋梗塞で帰らぬ人となった。
子供は男の子が2人いた・・・

7

ライバルにゃんこ

13/09/01 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:2049

 お馴染の、猫カフェ『にゃんこの館』では、12匹+ゲスト猫のスタッフが働いています。みんな仲良くやってるように見えますが、実はそうでもないのです。特にホワイトペルシャのお嬢さま猫シャネルと野良猫出身のキジ猫の蘭子は仲が悪い。
 寄ると触るとケンカになる。この二匹はいわゆる「犬猿の仲」なので、猫なのに犬猿とか……じゃあ馬が合わない。猫なのに馬が合わないって? お互いに相手が気に入らないようです・・・

5

羅刹丸

13/08/23 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:1763

 人を殺すことなんか、何とも思っちゃいない。大人も子どもも殺す。年寄りは、大っ嫌いだ殺す! 若い女は……いたぶってからゆっくり殺す。

 ――俺の中には『憎悪』しかない。

 男は羅刹丸らせつまると呼ばれる東山の麓の鹿の谷ししのたにあたりを根城に悪さを働く一匹狼の夜盗だった。金のためなら、人殺しなんか何んとも思っちゃいない。村を襲っては金と食糧を奪って、女を犯す、まるで悪鬼・・・

13

野兎

13/08/09 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:2407

「おばちゃん、おばちゃん、聴こえますか?」
「……どうやら、昏睡状態で意識がないようだ」


 ――いいえ、ちゃんと聴こえてるよ。
 お嫁さんと息子の声が……だけど、身体が動かないし、返事もできないんだよ。子、孫、曾孫まで、私の最後を見届けに病院に集まってくれたんだね。皆の声が聴けて嬉しいよ。
 人は死ぬ時、過去の出来事が走馬灯のように頭の中を巡ると聞いたが、浮・・・

8

【 怪談 】時雨番傘

13/08/03 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:2199

「おや、こな所で雨宿りでありんすか」
 いきなり漆黒の闇から女の声がした。
 男は薬の行商を生業にする者で、山を越えて街道沿いの宿場まで商いに行った帰りであった。客の家で商いの話しが終わると膳が出されて、酒を呑み交わし寛いでいたら、すっかり遅くなってしまった。
 山道を帰る途中で陽が沈み、あたりは真っ暗闇になった。折からの時雨(しぐれ)に提灯も点かず、一寸先も見えない、この暗闇に・・・

12

無口な背中

13/07/22 コメント:22件 泡沫恋歌 閲覧数:2622

「黙秘権を行使します」
 そう宣言したきり私は無言を通した。刑事にどんなに恫喝されても、自分に不利な証拠を見せられても一切口を開かなかった。私が犯した罪は殺人未遂、被害者は病院へ救急搬送されたという。

 心の耳を塞ぐ――。
 夫はとても無口な人で、無言の時間には慣れていた。結婚して十年間になるが、私が話し掛けても「ああ」とか「うん」しか返事をしてくれない。
 仕事が・・・

7

花橘(はなたちばな)

13/07/16 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:2104

   いにしへを花橘にまかすれば軒のしのぶに風かよふなり
                        ― 式子内親王 ―

 夜半に吹き荒れた野分(のわき)のせいで、花橘(はなたちばな)の君の屋敷では庭の草木も倒れ、屋根や塀なども吹き飛ばされてしまった。昨夜は塗籠(ぬりごめ)中で風の音が怖ろしく震えながら一睡もできなかった花橘であったが、一夜明ければこの惨状に成す術(すべ)も・・・

7

チャラ男とツン子

13/07/07 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:3835

「バカ野郎! もう来るなっ!」
 そう叫んで、立ち去る男の背中に向けてテッシュの箱を投げつけた。だが間一髪、玄関のドアに阻まれて当たらなかった。
「ちくしょう!」
 ドアの向こうから笑いながら立ち去る男の靴音が聴こえる。
《あんな無慈悲な男とは絶対に別れてやる!》
 病人の私を見捨てて出て行った、男への怒りが収まらない。

 ここ数日、風邪を引いてアパート・・・

6

隴を得て蜀を望む

13/07/05 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:1618

 劉操(りゅうそう)は貧しい村で生まれた。
 兄弟たちはたくさんいたが貧しさゆえに皆、幼くして死んで逝った。こんな貧しい村で、一生を終えたくないと思っていた劉操は、十三歳の時に、長安の都を目指して旅に出ることにした。
 劉操は大変利発な子どもで、青雲の志を抱いて故郷を捨てたのだ。

 途中、いろんな仕事につきながら、ようやく長安の都に辿り着いた劉操は、馬屋で働くことになった・・・

13

さらば可笑しき探偵よ

13/06/20 コメント:26件 泡沫恋歌 閲覧数:2489

 それは単なる浮気調査だと思っていた。まさか、こんな事態になろうとは予測もしなかった。
 俺は叔父が経営する探偵事務所で働いている。「マーロウ探偵局」いかにもレイモンド・チャンドラーの崇拝者だと知れてしまう名前である。実際、トレンチコートにボルサリーノのフェドラを被った叔父はいかにも「名探偵」という格好なので、尾行には目立ち過ぎて使えない。
 大学を卒業した後、俺は就職したのだがサラリ・・・

6

タイムマシン

13/06/15 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:1528

 ガンガラガッチャーン!

 真夜中に俺の住む、1Kのアパートにもの凄い騒音が鳴り響いた。
びっくりした俺はベッドから転がり落ちて目を覚ました。何が起きたのかとキョロキョロと部屋の中を見回せば「痛たたぁ……」と、腰を撫でながら、見知らぬ男がうずくまっている。
 その男は白い防護服のようなものを頭からスッポリと被り、口には毒ガス用のマスクまで付けている。いったいこいつは何者な・・・

9

迷子になった私

13/06/08 コメント:18件 泡沫恋歌 閲覧数:2077

 私は四歳の時に迷子になったことがある。
 それは引っ越しした日のことだった。荷物の整理に追われる両親や引っ越しの片付けを手伝う兄や姉たちは忙しく、誰も私と遊んでくれなかった。
 役に立たない四歳児は、みんなから忘れ去られて退屈し切っていた。

 そこは初めての町だった。
 前に住んでいたところは近くに大きな川があったけど、駅から遠くて不便な場所だった。お父さんの仕事・・・

5

遺跡ラーメン

13/06/04 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:2065

 21世紀、南海トラフ大地震による巨大な地殻変動で日本は海底に沈没した。
 わずかに残った国土である北海道はR国が支配し、沖縄はC国が領土主張をして取り上げられた。本州では富士山山頂だけが海面に沈まず、そこに「大和民族」と称し生き残った日本人たちが住みついていたが……やがて、隣国Kの手で駆逐されてしまった。
 ついに日本国は世界地図からも歴史からも消滅してしまった。

 2・・・

5

金魚

13/05/30 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:1902

 千秋(ちあき)がキッチンのテーブルでコーヒーを飲んでいると、玄関の方でガチャとドアが開く音がした。その後、ガチャガチャと鍵をキーケースにしまう音が……夫の和哉(かずや)が会社から帰って来たようだ。
 今年、三十二歳になる主婦千秋の家族は、夫の和哉と子どもは五歳と三歳のやんちゃ盛りの男の子がふたり。夫は真面目な性格だが全く面白みもない。不幸というほどでもないが、満たされない、物足りない、何と・・・

9

東山公園

13/05/24 コメント:21件 泡沫恋歌 閲覧数:3967

 東京から名古屋へ出張で来た。予定していた会議が相手の会社の都合で急遽取り止めになり、明日の早朝に変更された。日帰りのつもりだったが、また明日出直すのもロスなので栄にビジネスホテルを予約して一泊することにした。その旨を会社に報告して、自宅にも電話を入れた。出張が延びたことを妻に告げるとなぜか嬉しそうな声だった。
《亭主達者で留守が良い》ってやつか? たぶん、今からヒマな主婦を誘ってホテルのラ・・・

9

紅葉さんと若葉ちゃん

13/05/16 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:3513

 この会社に勤めて二十五年になる。夫婦なら銀婚式だが、私は結婚もしないで、この中堅商事会社でずっと働いている。若い子たちは私を『お局』といい、私より後に入社して管理職になった上司は、影で『ババア』と呼んでいるらしい。フン! 別に構わない。
 だけど二十五年も総務やってたら、いろいろ奴らの弱みを握ってるんだから甘く見ないことよ。

 不況のあおりで新規採用がなかったが、三年振りに我・・・

8

観音様と女房

13/05/09 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:1874

 駿河湾に臨む、沼津から男は乾物の商いに来ていたが、荷がなくなったので在所に帰ることになった。江戸に行ったら浅草寺にお参りしてくるように言われて、雷門まで来たが日が暮れた境内には人影もない。
 仕方なく寺を後にしようとしていたら、どこからともなく貧しい身なりの年寄りが現れた。物乞いかと思い、巾着から小銭を投げてやると拾って返した。
「あっしは乞食じゃござんせん」
「そりゃあ、悪か・・・

6

切手の貼っていない手紙

13/05/05 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1905

前島優也は今売り出し中の声優である。
知的で甘い彼の声に熱狂するファンは多く、アニメやゲームの吹き替えを中心にキャラソンを歌ったり、イベントで踊ったりと今や声優はマルチでないと務まらない。
優也の住むマンションのメールボックスに、切手の貼っていない手紙が入っていた。宛名は怜斗(れいと)という自分が吹き替えをしているゲームキャラの名前だった。差し出し人は同じく、十夢(とむ)というゲームキ・・・

9

浅草の寅

13/04/22 コメント:18件 泡沫恋歌 閲覧数:1939

てやんでぃ! おいらは三代続いた浅草生まれの野良猫だぜぃ!
『浅草の寅』と言えば、この辺りでは知らない者はいねぇー。爺さんの代から、浅草寺から花やしきにかけてはおいらの縄張りだ。今日も子分をひき連れてシマの見回りに出掛けるぜぃ! 
おや? 雷門の下に見慣れない猫がいるぞ。
「やいやい! てめぇ、どこのシマのもんだぁ?」
子分のクロがいきなり脅しをかけた。
「あっ! ゴ・・・

7

仇 ― Adauti ― (後編)

13/04/08 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:1678


 あの夜、留置所の独房に俺は居た。
 深夜に人の足音と鍵を開ける音で目が覚めた。闖入者は三人、スーツを着た三十代の男と警察関係と思われる屈強な男と白衣の中年女だった。
 突然の訪問者に驚いた俺に、スーツの男が、
「放火殺人で無期懲役が確定している者だね」
 ひどく冷静な声で訊いた。その後、俺の名前を言い返事を求めた。弁護士の緒方彬だと自己紹介をした。
「君に被・・・

6

仇 ― Adauti ― (前編)

13/04/08 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:1580

「もう少し……もう少し……逃げ切れる」
 腕に巻いたGショックの時計は残り30分を切っていた。
 逃げ切ったらゲームセット! 俺は自由になれるんだ。
 三日間、敵の追跡をかわして深い森の中を俺は必死で逃げ回っていた。
 この場所に連れて来られた時に、手渡された物は72時間からカウントダウンしていくGショックと三日分の食糧とサバイバルナイフだけ、ここは樹海の緑のコロシアムだっ・・・

7

怒る女

13/04/01 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:1986

 笑顔は美しいと一般的に世間ではそう言われる。

 だが、笑顔が似合わない者だっている。笑い顔が妙に下品に見えたり、低能そうに思えたり、歯を見せて笑うとマヌケで興醒めしてしまうような――。
 朱里(じゅり)は、まさにそんな感じがして、笑顔がちっとも似合わない女だった。
 よく『ツンデレ』などという言葉を聴くが、朱里の場合は『ツン』だけで、『デレ』はいらない。 
 朱里・・・

8

黒い長財布

13/03/26 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:2498

 アパートの部屋の前で財布を拾った。
 それは黒い長財布だった。中を開いてみたら一万円札がギッシリ詰まっている。全部ピン札で数えてみたら百万円入っていた。
 その財布には現金の他は何も入っていない、だから落とし主が分からない。いったい誰がこんな大金を落としたんだろう? 俺の住んでいるアパートは古くて狭いし底辺な奴らが住んでいる。こんな大金を持っている筈ない――。明日、交番に届けるつもり・・・

11

青いサーカス

13/03/11 コメント:22件 泡沫恋歌 閲覧数:9199

 私は八歳の時に一度だけサーカスを観たことがある。ボリショイサーカスというロシアのサーカス団だった。大きなテントの中で両親と一緒に空中ブランコ、綱渡り、猛獣ショーを手に汗を握りながら観たように思う。

 サーカスを観た夜、母が消えた。
 急に居なくなった母のことを父に訊ねたが「お母さんは入院した」というだけで、どこに入院しているのかも教えてくれない、病院にも連れて行ってくれなかっ・・・

4

ホクロくん

13/03/07 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:1738

 山下憲吾の顔には、特徴として、小鼻の横に大きなホクロがある。
 生まれた時は針の先くらいの黒いシミが、成長するに従って序々に大きくなって、今では小豆粒ほどの大きさのホクロになった。
 ――しかも、そのホクロは黒々と艶も良く、顔の中で一番自己主張している。

 そのホクロのせいで、小学生の頃から『ホクロくん』とニックネームをつけられ、クラスメイトによくからかわれた。    ・・・

6

箱の中の呟き

13/03/05 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1705

 大きな木の箱から、何やら呟きが聴こえてくる。

「あぁー、もうそろそろ春になったのかしら?」
 溜息交じりの女の声、どこか気だるく寝むそうだ。

 年に一度、このカビ臭い箱から私はやっと出して貰える。
 真っ暗な箱の中ではずっと眠っている。いいえ、寝た振りをしているだけで、時々、薄目を開けて周りを見回しているけど……ただ真っ暗闇で何も見えない。「こんなの退屈過・・・

6

山田くんの奇跡

13/02/25 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:1822

 ずっと不登校だった山田くんが三ヶ月振りに登校してきた。
 山田くんは部屋でヒッキーをしていて、家族と顔を合わせずにいた。三ヶ月間、一日一度だけ部屋の前に置かれた食事を食べるだけで、風呂にも入らないし、トイレは家族が寝静まってからしかしない。徹底的に他者を排除した生活を送っていたのだ。
 何度も家族が話し合おうとしたが頑として部屋から出て来なかった。
 そんな山田くんが最近、部屋・・・

9

命の螺旋

13/02/15 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:1890

「ああ、確か……この辺りだったわ」
 妙子は雑草に覆われた空き地に立って、敷石を探しながら玄関のあった場所を探っていた。
 こんな草ボウボウの空き地にかつて民家があったことなど誰も知らないだろう。
 そこには青々した柘植の垣根に囲われた、庭付きの二階家が建っていた。そこが紗子の生まれた家で両親や兄弟たちと暮らした場所だった。
 玄関の前の敷石がやっと見つかったので、そこに花・・・

9

猫カフェ『にゃんこの館』

13/02/11 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1847

 にゃんこたちにも試験がある。
 ここ猫カフェ『にゃんこの館』に、この春の連続ドラマに出演する猫タレントの話が回ってきた。テレビ局のプロデューサー、脚本家、カメラマンが『にゃんこの館』に来て、オーディションするというのだ。
 猫タレントとして有望なのは、美しいホワイトペルシャのシャネル、芸達者な茶トラのにゃん太、元気いっぱいの雉猫の蘭子の三匹である。
「スターになるのは、この美し・・・

7

指名手配の男

13/02/05 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:1876

「なぜ俺の写真が!?」
 交番の指名手配の掲示板に自分の顔を見つけて茫然とした。罪名は「強盗殺人」とある。
 なんてことだ! 俺そっくりの指名手配の男はまさしく俺自身だった。
 名前も髪型も着ている服も、今、俺が身につけている物と全く同じだ。だが「強盗殺人」を働いた記憶はないし、そんな大それた事をやる度胸は俺にはない。
 これは罠か? やってもいない罪を被されているのかも知・・・

7

戯曲 バレンタインデー殺人事件

13/01/22 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:2186

夕焼けに赤く照らされた放課後の教室。
中央に机と椅子が置かれている。うつ伏せて学生服の男が死んでいる。机の上には丸いアーモンドチョコレートが散乱していた。
三人の女生徒たちが死んだ男の周りを囲うように立っている。

女生徒たち:キャー! 
 悲鳴をあげる。その声に舞台の袖からインバネスコートに鹿撃ち帽を被った探偵が現れる。
探偵:みなさん、落ち着いてください!<・・・

7

星の船

13/01/14 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:3109

――20XX年
真っ暗な宇宙空間に浮かぶ銀色の宇宙船『スターホープ』号、火星移住者用の連絡船である。地球と火星の往復をしている。
火星移住計画は各国が協力し合って、すでに火星には住居用コロニ―があり、自給自足しながら、約10万人の人類がそこで暮らしている。
レイラは黒い髪と瞳を持つアジアン系の娘である。20歳になったばかりの彼女は、たったひとりで火星移住船に乗っていた。
火・・・

7

寺・カオス

13/01/07 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:1925

 創作を趣味とする四人の主婦は山寺で座禅をすることになった。
 メンバーは関西の気さくな奥様の琴美さん、おっとりしているが芯の強い翡翠さん、一見平凡な主婦だが実は武術の達人ポポさん、そして天然おばさん蓮子こと私である。
 発案者のポポさんは、日頃、PCに向かって創作をしている私たちは雑念が堪りやすいので、座禅をして気分をスッキリしようと誘ってくれた。

 麓に車を停めて、歩・・・

7

〔縁結び公社〕

12/12/29 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1885

 ブルブルブル……いきなり、ポケットの中で携帯が震え出した。マナーモード設定だったので音楽は鳴らないが、気持ちの悪い振動が身体に伝わって来る。
 携帯というやつは所構わずに鳴りだすから困ってしまう――。
 今、僕はトイレの便座に腰を下ろしているので、とても携帯に出られる状態ではない。昨夜、大学の仲間たち四、五人と『新年会』を居酒屋でやったのだが、そこで食べたものが悪かったのか? 強烈に・・・

8

そして誰もいない……

12/12/24 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:1971

「いつ帰って来たんだろう?」
 亜理紗は自分の部屋のベッドで目を覚ました。窓から差し込む光りがやけに眩しくて、携帯の時計を見ると八時をまわっていた。
「やばい! 遅刻だわ」
 お母さん、何で起こしてくれなかったのよ。慌てて服を着替え、階段を駆け下りて一階のリビングに行くと家族が誰もいない。
「あれぇ? みんなどこに行っちゃったの?」
 この時間なら、いつもキッチンに居・・・

9

にゃんこカフェ

12/12/20 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:2012

 ここは、とある街にある〔猫カフェ〕である。
 猫カフェというのは分かりやすく説明するとメイド喫茶みたいなもので、メイドさんの代わりに猫たちがスタッフとして働いています。来店したお客様相手にじゃれたり遊んだりして、その可愛らしい姿でお客様を癒してあげるのです。
 今日も猫カフェ『にゃんこの館』では、開店前にゲージから出されたスタッフの猫たちが鏡の前で毛つくろいをして身だしなみを整えてい・・・

9

お正月は嫌いです

12/12/13 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:3917

年が改まり 今日から新年なんだ
モソモソと布団から這いずり出して 袢纏を引っ掛け 
いつものように 新聞をポストに取りに行ったら
電話帳みたいな ぶっとい紙が捻じ込まれていた

こんなもん、取れるかい!
小さなポストから無理やり 引っ張り抜いた

大晦日も元旦も仕事の私にとって
お正月なんで 煩わしいだけで なんの感慨もない 
母も亡くな・・・

8

モルフェウス

12/12/10 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:1908

 僕の天使の話をしよう。

 君が僕の家にきたのは去年のクリスマス・イヴのことだった。
 いつものように大学に通い、レンタルショップのアルバイトを終えて、自宅であるワンルームマンションに帰って来たら、僕の部屋に君が居たんだ。
 君は男か女かもよく判らないが、僕の掌に乗るサイズで白い裸体を隠す薄物を羽織って、背中には小さな翅が生えている。そう昆虫みたいな透明の薄い翅だった。<・・・

9

キャラ弁は愛の味

12/12/08 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:2273

「ゲッ! 箸忘れたぁー」
 ランチボックスから弁当箱を取り出した瞬間、僕は大声で呟いてしまった。
 箸を忘れるなんて最悪だ! 困ったなぁー、どうする? すると腹の虫までグウゥゥーと鳴いた。
「俺の箸かしてやるよ」
 いきなり横からそんな声がした。最近席替えしたばかりだが、こいつが話し掛けたのは初めてだ。司馬 翔(しば しょう)まるでアイドルみたいな名前だが、名前負けしないほ・・・

9

愛のサンタ♪

12/11/28 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:2422

「メリークリスマス」
 いきなり暗がりから声が聴こえて来た。僕はバイト帰りの道を一人で歩いていたが、その声は僕以外の誰かにかけたものだろうと無視して歩いた。
「ちょっと、三輪守君だよねぇ?」
「はぁ? そうだけど……誰?」
 自分の名前を呼ばれて驚いた。振り向くと若い女が立っていた。
「あたしサンタだよん」
 見れば、真っ赤なサンタ風の超ミニスカートを穿いて、頭・・・

4

コーヒー、一杯分の幸せ。

12/11/24 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:2161

 夕凪で窓のカーテンは微動だにしない。西日のあたるキッチンのテーブルで千秋はコーヒーを飲んでいた。
「今日は忙しかったなぁー」
 フーと溜息をついてテーブルに頬づえをつく。
 今日はスーパーの売り出しだった。まだ新米の千秋はレジの前に並ぶ客の多さに目が回りそうだった。その上、商品の値引きを忘れて中年の女性客にしつこく文句を言われて辟易した。

 今年、三十二歳になる主・・・

3

うちのおにいちゃん

12/11/19 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:2382

 昭和40年代は塾もテレビゲームもパソコンもなかった。
 子どもたちは日が暮れるまで外で遊びまわっていた。ひざ小僧はいつも傷だらけ、野原が大好き昭和の子どもたち。貧しかったけど、元気いっぱいの子どもたちが路地で、空き地で、駄菓子屋さんの前で……そこらじゅうに溢れていた。
 どこにもいるような、わんぱく坊主の兄と妹のお話です。

                  *
・・・

3

平行線

12/11/09 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:1970

 世間では概ねコーヒー派と紅茶派に分かれている。
 我が家でも私はコーヒー派だが、旦那と娘はコーヒーをあまり飲まない。特に娘は紅茶派で輸入雑貨のお店で高い紅茶を買ってきては、あーだこーだと蘊蓄を垂れながらポットで紅茶を淹れて私にも飲ませてくれる。……だが、私は紅茶の味が分からない。
 それよりもお手軽なインスタントコーヒーの方が好きなのだ。一日平均三杯は飲んでいる。
 キッチンの・・・

4

さよなら、〔星の王子さま〕

12/10/31 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:2462

 あれから、ずいぶん時が過ぎていった。。
 街も人も変わっていくのに、封印された想い出は色褪せず、今も私の心の中に棲んでいる。星になってしまった、私の王子さま――。

 駅の構内にある書店。
 私たちは本が好きだったのでデートの待ち合わせ場所はここと決めていた。当時、OLだった私は先にきて婚約者の彼を待っていた。急な仕事で待ち合わせに遅れることもよくあったが、書店の中だと好・・・

4

時空エレベーター

12/10/24 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:2530

 38階建てのビルの最上階へ行かなければならない用事があった。
 ビルを見上げるとクラクラするような高さだ。あのてっぺんに上るのかと思うだけで冷汗がでた。私は高所恐怖症で飛行機も怖くて乗れない男なのだ。
 エレベーターに乗ると38階のボタンを押す。展望用の大きな窓が付いているが、私は怖くて外の風景を観れないのでドアの方を向いて立っている。
 突然、13階でエレベーターが止まって動・・・

3

エプロン

12/10/19 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:1923

 珠美は行くあてもなく真夜中の街を歩いていた。
 エプロン姿にサンダル履きのまま、家を飛び出してきた。今日は結婚記念日だというのに12時を過ぎても夫は帰って来なかった。お祝いの料理と花を飾って待っていたのに、何度、携帯にかけても留守電のまま繋がらない。おかしい、もしかしたら夫は浮気をしているのかも知れない。
 ここ2〜3ヶ月、夫の帰宅の遅い日が頻繁にある。帰って来ても疲れた顔ですぐに寝・・・

3

〔アンテナきのこ〕

12/10/10 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:2175

 俺の部屋にはテレビが三台ある。一台目はテレビ放送を観る用、二台目は録画専用、三台目は古いブラウン管テレビで地デジになったので映らないが、DVDの再生とゲームならできるので捨てないで取ってある。
 このブラウン管テレビが、ある日勝手にしゃべり出した。
『やあ! テレビの前の君、私とジャンケンをしよう』
 俺は驚いて言葉もでない。電源が入っていないテレビの画面が写っている。
・・・

2

トイプードルを連れたお嬢さん

12/10/05 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:3452

 黄昏時、公園沿いの散歩道は日中のアスファルトの熱も冷めて、ちょうどよい温度だ。この時間に行き交う顔馴染みたちに軽く挨拶すると、おいらは元気いっぱい歩く。一日の中で一番好な時間だ。
『お、あの子がきた!』
 彼女の放つ芳しい匂いが風に運ばれて、おいらの敏感な鼻が反応した。この道でいつもすれ違う茶色いクリクリ巻き毛の女の子だ。小柄でとってもセクシー! 興奮して落ち着かなくなってきた。ダッ・・・

2

北へ向かって− go north−

12/10/01 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1828

「えぇ〜ホントに!?」
 親戚や友人たちにも驚かれてしまった。それほど無謀な計画だったのか?
 うち旦那は運転が大好きな男である。それこそ車に乗せればどこまでも行く、日本が海に囲まれていなければ、地球の裏側まで行きそうな勢いなのだ。
 そんな旦那と私はマイカーに乗って、一路、北海道を目指して旅立った。かれこれ七年前になる北海道旅行記である。

 走行ルートは京都から早・・・

2

娘のアルバイト

12/09/28 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:2135

『いらっしゃいませー』
 コンビニに入ると店員が挨拶をしてくれる。
 ハキハキした明るい声で家では聴いたこともない。娘がコンビニでアルバイトしている。近所なので仕事の帰りに私もそのコンビニを利用していた。
 カウンターの中の娘は私の姿を確認したら、一瞬「ん?」って顔で、途端にムッとした表情になる。失礼ね、お母さんだってお客だよ!
 買い物カゴを持って、娘のいるレジで精算する・・・

2

愛の逃避行

12/09/18 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:2050

 先ほどから、駅構内の時計ばかり見ている。
 もう何本電車を見送ったことだろう。駅から見える海岸線をぼんやりと眺めながら男が来るのを二時間以上も持っている。携帯にかけても留守電なので同じメッセージを何本も入れた。
「蓉子です。江ノ電の鎌倉高校前で待っています。早く来て……」
 最後の言葉は涙声になった。ここで待っていろと言ったのは男なのに、なぜ来てくれない? 足元のボストンバッグ・・・

3

南京虫

12/09/10 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:7305

「女物の小さな時計のことを昔は南京虫って言ったんだよ」
 ふいに、おばあちゃんの声が耳の中に響いた。
 半年前に亡くなった祖母の遺品整理をしていた時だ。和箪笥の中からたとう紙を引っ張り出しら、コトリと何かが落ちた。見ると、布佐に包まれた小さな婦人用の時計が入っていた。
 その時、おばあちゃんの声が耳の中でした。

 私はおばあちゃんっ子だった。両親が共働きだったので小・・・

6

夢の格闘者

12/09/01 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:5476

「ずいぶんストレス指数が高いですね。98%もありますよ。放って置いたら大変なことになるところでした」
 白衣を着た怪しげな男は俺の頭にヘルメットのような器具を被せて、その機械が弾き出した数値を見てそう呟いた。
「やっぱり、そうか……放っていたら、どうなっていた?」
「希死念慮や殺人衝動という危険な行動に出るところです」
「このままだと壊れそうだと俺も思っていたよ」
<・・・

3

吉兆の猫

12/08/21 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:2802

「まことに寝子というだけあって一日中寝てばかりおるわ」
 不機嫌そうな乳母の声が瑠璃姫の居る、御簾の中にまで聴こえてきた。その後、ぎゃんと猫の鳴き声がした、廊下で寝ていた猫を乳母が蹴飛ばしたかも知れない。
 乳母の機嫌が悪そうだと思っていたら、どかどかと瑠璃姫の御簾に乳母が入ってきた。
「姫君! なぜ、弾正尹(だんじょうのかみ)に文をお返しにならなかったのですか?」
「乳母・・・

4

オリンピックランチ

12/08/15 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:7313

「オリンピック」という創作料理のお店があるというので、主婦四人でランチを食べに行くことになった。メンバーは関西の気さくな奥様の琴美さん、おっとりしているが芯の強い翡翠さん、一見平凡な主婦だが実は武術家のポポさん、そして天然おばさんの蓮子こと私である。
 そのお店は駅から歩いて五分ほどの距離にあり、ビルの一階で店舗の周りには五輪の旗や万国旗でデコレーションされていた。お世辞にも趣味が良いとは言・・・

3

プールの底

12/08/06 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:2429

「あたち、菜々美四歳、ひまわり保育園のタンポポ組だよ」
 クルッとした瞳の大きな女の子だった。プールサイドでは人目を惹く色の白さで、ひとりぼっちでいるが気になって声をかけた。
 この夏、僕は水泳部の仲間たちと遊園地内にあるプールの監視人のアルバイトをしていた。平日はさほどでもないが、土日は家族連れでプールは賑わっている。
「お母さんやお父さんと一緒じゃないのかい?」
「菜々・・・

2

バッテリー

12/08/01 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:2439

「本当に辞めてしまうんですか?」
 部下だった下村が、まだ疑わしそうに訊く。今日で俺は三十年務めた会社を退職した。断わったのだが元部下たちが集まって送別会をやってくれた。一次、二次、三次と……最後の四次会は下村と二人になってしまった。彼とは長年一緒に仕事をした仲だ。
「部長が辞めたら……俺はどうしたらいいんだろう?」
 下村は目頭を押さえて、項垂れた。
 送別会の〆は俺と下・・・

1

暑中はがき

12/07/26 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:2163

 車のエンジンを止めて、ドアを開けると外は真夏だった。
 喧しい蝉の鳴き声と焼け付くような強い日差しでいっぺんに汗が噴き出した。美咲は三日振りに自宅のある郊外のマンションに帰ってきた。ここのところ仕事が忙しく、会社近くのビジネスホテルで寝泊まりしていた。通勤時間を惜しんで仕事に打ち込んだ。
 美咲は中堅のインテリア照明会社に勤めている。都心に大型ホテルがオープンするので、その建物内の照・・・

1

ママチャリと私

12/07/17 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:3334

「あれー? 自転車がない!」
 私は思わず大声で叫んでしまった。
 さっき、スーパーで買い物を終えて出てきたが、自転車の鍵を外した所で買い忘れた品物を思い出した。慌てて、買って戻ってきたら、私の自転車が駐輪場からなくなっていた。
 あっちこっち駐輪場の中を探し回ったがやはりない。鍵を外したままで放置したのは、私の不注意だけど……その間、たった五分くらいである。まさか、そんな短時間・・・

2

最後のデート

12/07/07 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:2471

 車の中に男を待たせて、私ひとりで水族館に来ている。
 初めてのデートは水族館だった――。ふたりで手を繋いで、まるで回廊のような巨大な水槽をグルグル回りながら降りて行った。底の方になると不気味な魚たちが沈んでいた。光の届かない海底で気配を殺し、獲物が来るのを待っているのだろうか。
 深海に潜む魚の暗い眼と合った時、自分の中で何かが共鳴し合った。

 男に別れ話をされた。ふた・・・

2

おら田吾作

12/07/02 コメント:5件 泡沫恋歌 閲覧数:2702

 俺の名前は織田吾作。
 群馬のド田舎から、東京の大学に進学した。生まれて初めて故郷群馬を離れた。俺の育った所は群馬でもかなり過疎地域で、360度グルッと山と田んぼと畑に囲まれている。見渡す限りの田園風景だ。
 最寄の駅まで車で30分、バスは一日2本。携帯は全て圏外、テレビも映るのはNHKと民放が3つだけ……って、どんだけ田舎だんべ。
 修学旅行でしか県外に出たことがない俺は、こ・・・

3

母の帰郷

12/06/15 コメント:4件 泡沫恋歌 閲覧数:2684

 うちの両親は大分県の出身者である。
 父は津久見市で海に近い漁師町で生まれ育った。母は大分市鶴崎の裕福な農家に生まれた。父親は婿養子で、三人兄弟の末っ子の母は三味線や舞いなどお稽古事を習い、母親に可愛がられて育った人である。母の人生が狂い始めたのは十九歳の時に母親が亡くなったからだ。

 両親が結婚したのは戦時中だった。
 実はその前に母は二十歳で一度結婚をしている。わず・・・

3

わたしのエゴらいふ(笑)

12/06/11 コメント:3件 泡沫恋歌 閲覧数:2833

 ――ひと言でいうと、わたしは夫の性格が嫌いです。

「おーい」
 階下で夫の呼ぶ声がする。二十五年ローンの安普請の三階建住宅は、階段ばかりが多くて昇り降りが大変、毎日がうんざり。
 一階の駐車場に置かれているゴミ袋を開けて夫が何か言っている。
「なぁに?」
「家庭ゴミの中にマヨネーズのキャップが入っていたぞ!」
 赤いキャップを摘まんで目の前に突き出す。・・・

2

マリアージュ

12/06/07 コメント:6件 泡沫恋歌 閲覧数:7693

 ――どうして私がこんな席に座ってなきゃいけないの?

 今日はいとこの美帆の結婚式だ。
 彼女は純白のウエディングドレスに身を包み、誇らし気に笑みを浮かべている。そして、その隣でデレデレ笑っている新郎が、私の元カレの和貴――。
 親戚でなければ、こんな結婚式には絶対に出席したくなかった。怒りでグラスを持つ手が震えた。

 美帆は父の妹夫婦の娘で私より一歳年下・・・

  1. 1
ログイン
アドセンス