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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

出没地 図書館
趣味 読書、お絵かき、手芸、料理
職業
性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

投稿済みの記事一覧

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あだ名で呼んで

18/11/05 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:212

 いつものように「西本広樹様」というネームプレートを確認してカーテンの中をそっと覗き込みます。ベッドのそばにある折りたたみ式の椅子に腰かけると、夫は目を薄く開きました。あら、起こしちゃった、と思っているうちに完全に目を覚ましたようです。
「ああ、お母さん、来てたんだね」
 そう言って体を起こそうとするのを私は軽く補助しながら「今来たばかりですよ」と笑いかけました
「リンゴは持って・・・

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伝言、頼んだよ

18/09/24 コメント:0件 文月めぐ 閲覧数:227

 駅まで車で十五分。つまり、家を出るまであと一時間しかないという計算になる。
「それにしても東京かあ……いいなあ、都会」
 沙理が今日何度も言った台詞を口にして、ため息をついた。沙理も友美も地元の大学に受かってこちらに残ることになった。それを考えると、私だってこっちに残りたかったが、苦笑いを浮かべてその言葉をぐっとこらえる。ただ手を動かしてナポリタンをフォークに巻き付ける。
「ね・・・

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伏字ラブレター〜十三文字の秘めごと〜

18/08/22 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:325

 絵理沙は透明な書類ケースを使っているから、中身が丸わかりになってしまう。大学生協に売っているやつだ。それにレポートやらルーズリーフやらを詰め込んで移動するのだが。
 「周へ」
 そんな文字が見えた気がして、俺は思わず二度見してしまった。
 その封筒は確かに絵理沙のケースに収められていて、これはラブレターだ、彼女は周が好きなんだ、と確信した。
 俺は絵理沙が好きだ。いつも研・・・

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片想いビジネス

18/07/23 コメント:0件 文月めぐ 閲覧数:471

「時間の感じ方って、人それぞれなの」
 窪田さんの言葉に俺は力強くうなずく。
「自分の好きな話をしているときは短く感じるけど、つまらない話を聞いているときは長く感じる。ここで必要になるのが、大事なことだけシンプルに伝える技術よ」
 一分で話せ、と窪田さんはいつも言っている。一分間で相手に刺さる伝え方ができれば、ビジネスにおいてかなり優位になる、と。
 俺はその言葉を信じて、・・・

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あとがき便り

18/07/02 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:476

「デザート担当の人は、鍋に水と寒天を入れて火をつけてください。かき混ぜながら寒天を溶かして、弱火で煮てください」
 先生の指示を聞いて、早速動き出す。六人の班員がいる中で、一人がご飯を炊き、三人でハンバーグを作り、二人がデザートを担当する。この班の中で由香理ちゃんと私がデザートであるあんみつを作る担当になった。
「寒天が溶ける前に砂糖を入れちゃダメなんだって」
 お母さんが言って・・・

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祈りの先に

18/07/01 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:471

 人はなぜ祈るのだろうか。

 今日は流れ星が見れるんだって、とクラスメイトの小原が言った。その日の休憩時間はしし座流星群の話で盛り上がっていたことをよく覚えている。クラスで一番騒がしい小原は「今日は遅くまで起きて、流れ星見るんだ」と自慢げに言い放った。すると他のクラスメイトも「僕も」「私も」と次々と便乗していった。「研一くんも見るでしょ?」と問われれば、わけもわからずうなずくことしか・・・

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つまらない日常の中に

18/06/16 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:443

 マンションの一室に戻ると、飼っている猫のあらたが出迎えてくれた。社会人三年目で彼女なしの一人暮らし。俺の心を癒してくれるのはあらただけだ。その彼の瞳が「お腹空いた」と語っているのはいつものこと。
「はいはい、ちょっと待ってろよ」
 俺はコンロ下の収納スペースを開け、猫缶を取り出そうとして気がついた。ストックが、ない。
 これは大変だ。仕事帰りに寄ったスーパーで自分の夕飯の食材は・・・

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コーヒーフロートの君

18/05/03 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:524

 祐介、と名前を呼ばれてびくっとした。喫茶店でバイトを始めて三か月、知り合いがやって来ることはなかった。だけどこの店は地元では有名だから、誰かに会うことはやはり避けられない。
 声の主の純とは高校が同じだった。大学は東京だったが就職して地元に戻ったのか。
 ぴしりとスーツを着こなし、手には大きな鞄を提げている。俺は注文を取るため彼のもとに向かった。
 「お前ここで働いてんの?」<・・・

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過去の言動はゴミとして捨てることはできないのだ

18/04/14 コメント:3件 文月めぐ 閲覧数:551

 人生の中で後悔していること、誰にでも一つはあるだろう。私も、もちろんある。しかし、一番大きな後悔と言えば、やはり小学一年生のあの出来事だ。
 小学校に入り、すぐに仲良くなった友達の京子ちゃん、真央ちゃん、彩ちゃんとはいつも一緒にいた。
 私たちはおとなしい子どもたちの集団だった。真央ちゃんは絵が得意。彩ちゃんはピアノ、京子ちゃんは読書が好きだった。私は書道を習っていて、自慢できること・・・

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復讐のお味はいかが?

18/03/06 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:743

 からんころんとドアベルが鳴れば、どんな作業をしていても入口に目を向けて笑顔で「いらっしゃいませ」と挨拶する。それは五年前、この「つけ麺藤吉」を開いた時からずっと続けていることだ。そう、たとえ相手がどんなに無礼なお客様であっても。

 「いらっしゃいませ」入口に笑顔を向けても、その男性二人組は僕の言葉など全く聞こえていないかのように、会話を続けている。そんなことは日常茶飯事だ。だけど、・・・

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報酬は春告草

18/02/18 コメント:0件 文月めぐ 閲覧数:752

 二月下旬、まだまだ寒いが、もうこのあたりでは雪は降らないんじゃないか――春への期待が高まるこの時期。俺の心に降り積もっていた雪も、徐々に解けて、陽が差してきた。
 大きな生命保険の契約が決まった。新規のお客様で、ここまで額が大きいと、緊張もするし、変な高揚感がある。震える手でタッチパネルを操作して、契約を進めていくが、汗ばんだ手から何度もタッチペンが落ちそうになった。
 ずっと営業が・・・

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こがねいろ――弁当が示す一筋の光

17/11/21 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:874

 営業先の企業から一歩外に出ると、俺はたまっていた息をはああ、と盛大に吐き出した。アスファルトからの熱気と、蝉の声が身体にまとわりつく。白いカッターシャツに太陽の光が反射して、まぶしい。外の暑さを感じた瞬間、肩に提げた鞄がぐっと重くなった。  片岡、と名乗った、先ほどの青年の顔を思い出す。どことなくぱっとしない、地味な顔つきと、感情表現に乏しい表情。俺の電卓にはじき出された「11000」という数・・・

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桜の木の下で、あなたとデートを

17/10/15 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:954

 よく、ドラマや映画で耳にする「余命」という言葉。その言葉が、俺の目の前に突き出されるなんて、想像もしていなかった。医師が言った「余命一年」はどんな言葉よりも重く、俺と桜子の前に立ちはだかった。

 季節は春。桜子が入院している病室の窓からは、病院の隣にある公園の桜並木がきれいに見えた。俺たちは狭い病室で小さなお花見会を開いた。桜子でも食べられるように、お弁当箱に小さなおにぎりをいくつ・・・

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事件の表裏――それぞれの葛藤

17/09/16 コメント:3件 文月めぐ 閲覧数:1176

 「ない」と気づいたのは、職員室に戻ってしばらく経った後だった。隣の席の本郷先生が「七時か」とまだ明るい外を見ながら呟いた時だ。俺も時刻を確認して「ですね」とでも相槌を打とうとした時だ。
 腕時計が、ない。
 あの時、プールサイドに置いたじゃないか、と一瞬で思い出し、俺は慌ててプールめがけて走り出した。「松岡先生、廊下は走っちゃいけないよ」と暢気な本郷先生の声も、今の俺には届かない。<・・・

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黒板日記

17/08/05 コメント:3件 文月めぐ 閲覧数:1006

 煉瓦造りが特徴のその古めかしい喫茶店は、僕が約十年前から行きつけにしている喫茶店だ。仕事でストレスがたまっていた当時、コーヒーの香りに誘われるようにふらりと立ち寄ってみたのだが、そのコーヒーがなんとも優しい味だった。それ以来、そこのコーヒーが病みつきになってしまったのだ。
 店名はひらがなで「おたべ」と書く。その名前はマスターの田部正樹さんの名前からとっている。
 僕が「おたべ」に通・・・

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冬空の旅人

17/07/08 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:783

 寒い寒い冬の空。星々は分厚い雲に覆われて、その光は地上へは届かない。夜になると北風が一層冷たく吹き、四人の旅人たちはコートの襟を掻き合わせ、少しでも風をよけようとした。
 先頭を歩く長男の淳一郎は、みんなの風よけになっているといいな、と思っていたが、身長が低いせいで、実際あまり役に立っていなかった。
 次男の康二郎は、後ろの二人がついてきているか、振り返りつつ歩いている。
 三・・・

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海からの奇跡

17/06/05 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:942

 私の一日は、窓を開けて、さわやかな海の香りを体一杯に満たすことから始まる。
 社会人一年目にして鬱病になってしまった私の日課だ。こうして波の音を聞きながら、一日の英気を養う。そして朝食をとると、海へ出ていく。
 会社が海のある四国の町で良かった。生まれも育ちも長野である私は、海に対するなじみはない。だけど、病気になってから気づいたんだ。海の香りや波の音はとても心地よい。
 そん・・・

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ある日の正義

17/04/24 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:877

 「正義感のある行動を心掛けましょう」とふいに聞こえた。今日の占いをアナウンサーが読んでいる。すでに見慣れた朝の光景である。俺はこれから朝ご飯を食べ、着替えて、自転車で高校へ向かう。
 今日は今学期最初の美術の授業があるから、絵の具セットを持って行かないといけないし、学校に着いたら、まず数学の松井先生のところへ行って、昨日の宿題を提出しなければならない。そんなことを一瞬のうちに考えていたら、・・・

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SWEET SMILE

17/04/15 コメント:4件 文月めぐ 閲覧数:1158

 教室に入ってきた咲は、全身びしょ濡れだった。またトイレで水をかけられたのか、とうんざりした。上級生の棟にあるトイレを使えと言ったはずなのに。
 「濡れ狐」と誰かがぼそりと言うのが聞こえた。クスクスという笑い声も。「茶色い狐は山に帰れ」とはやし立てる声もある。咲の長い茶髪は、それだけで、いじめの対象になるには十分だった。小学生の時は仲良くしていたのに、中学校に入ったとたん、掌を裏返すかのよう・・・

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陸のいるか

17/02/01 コメント:4件 文月めぐ 閲覧数:740

 五月になって昼間は暑く感じられるようになってきたけど、夜になると闇が昼間の熱気を取り込んでしまったみたいで、少し肌寒い。だけど、一台の自転車に二人でまたがって、海斗くんの背中に寄りかかっていると、じわじわと体温が伝わってくるから、一人で自転車に乗っているよりあたたかい。
 周りに人影はなく、私たちの自転車のタイヤがコンクリートとこすれてしゃりしゃりと回転する音しか聞こえない。
 部活・・・

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五分の退屈と焦燥

16/12/07 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:871

 後ろの席で小川がふーっと大きく息を吐いた。開始したとたん聞こえ始めたシャーペンと紙のこすれる音はもうしない。みんな暇を持て余し、早く早くと時が過ぎるのを待っている。
 秒針が一秒一秒を刻む。
 テスト終了まで、まだ五分もある。
 長い、退屈。
 高校一年の二学期期末テスト二日目。教科は世界史。俺の得意科目だ。暖房が効きすぎている教室の中はむっとしていて、俺の頬にも熱がたま・・・

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クリスマスの海

16/11/21 コメント:0件 文月めぐ 閲覧数:733

 真冬なのにしっとりと汗を吸い込んだ胴着は、ずっしりと重い。世間はクリスマス一色というのに武道場は練習を終えた剣道部部員の疲れた表情で埋め尽くされている。しかし女子更衣室に一歩踏み込めば話は別。女子部員たちの会話には「クリスマス」があちこちにあふれている。
「クリスマスなのに午前は部活だし、午後はバイトでつぶれる」
「ケーキ屋さんでバイトなら稼ぎ時だもんね。しゃあないじゃん」
・・・

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平和の香り

16/10/15 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:824

 夕食時の帰宅はとても面白い。扉の向こうに漂う夕食のにおいは外まで漏れ出てきていて、あ、揚げ物のにおいがするな、と思ったら、こちらではマーボー豆腐か何か、中華の香りがするな、などとあれこれ推測できるから。で、肝心のうちの夕食は。
「サバの味噌煮、か」
 マンションのドアを開けた瞬間、見なくてもにおいでわかった。少し冷えてしまった身体を優しく包んでくれる、なんとも平和なその香り。料理が好・・・

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