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村咲アリミエさん

村咲アリミエと申します。 一次小説を書いています。
出没地 | 本屋 |
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趣味 | 創作(小説、絵、詩)、読書、音楽(聴く、歌う)、スポーツ観戦(特に野球) |
職業 | |
性別 | 女性 |
将来の夢 | 本を出す。 |
座右の銘 |
投稿済みの記事一覧
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親切な本屋
16/09/22 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:912
その本屋は、親切な本屋ではなかった。
僕の隣で、店長おすすめの本が並ぶ本棚を見上げている彼女は、きっとため息をついているに違いない。
この本屋の本棚は、高い。百九十センチある僕が背伸びをしてやっと届く距離に商品を置くなんて。おまけに脚立がひとつしかないものだから、余計に不親切だ。
困っている人を見かけると、僕は進んで声をかける。親切心ももちろんあるけれど、本当の理・・・
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楽しいことは海の向こうから
15/06/15 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1172
「お母さん、お腹がすいたよう」
「そうですね、もう少し待っていてね。あと少しで、お母さんがひょいとご飯をとってきますからね」
「今じゃだめなのですか」
「まだ少し時間が早いのですよ。あせってはいけない、何事もね」
「しかしお母さん、おなかがすいた、この空腹感はどうにもできません」
「我慢が大切ですよ」
「お母さん、僕はおばあさんの時代に生まれたかった」
「・・・
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時間切れの先の、時間切れ
15/05/30 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1231
そいつは、時間切れの先にいるんだね、と言った。その考え方は面白いと思った。終わりの先にいる。そして、彼はその時間を、日常的に過ごしたいのだそうで、私はそれに付き合っている。
「平和だよね、東京。同じ地球のどこかで何があろうとも、僕から見渡せる数メートルが平和だと、そんなのがまるで嘘みたいだ。そう思わないかい?」
新宿東口の人混みを眺めながら、彼はため息をついた。ぎゅうぎゅう・・・
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頬をつたう海の味
15/05/13 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1331
海とはなんだ、と問われた。たくさん、水がある場所だと答えた。
「水がたくさんあるということは、あの池よりも多いということか?」
姫はそう言って、自分の庭にある池を指差す。あんなもんじゃない、と私が笑うと、姫は不満そうに眉根を寄せた。
「何倍じゃ、あの池、いくつぶんじゃ」
あの池が、いくつあっても足りないほど。船を、何日こいでも、何日こいでも、景色が変わらないほどに、一・・・
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割合は三対一
15/05/04 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1355
豚が好きな人がいた。名を万里。その豚好きは筋金入りで、幼稚園のころにお遊戯会で三びきの子豚をすることになり狂喜乱舞し、まわりの子がその喜びように驚き、泣き出す子まで出たというのだから、どれだけ嬉しかったのだという話で。
理由は定かではないらしく、とにかく彼女は物心ついた頃から豚が好き。あの愛くるしい姿、ピンク色という奇跡的な配色、つぶらさ、鳴き声、そして、それでいて美味しいと、視・・・
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死に場所はあなたの腹の中がいい
15/04/20 コメント:7件 村咲アリミエ 閲覧数:1184
人生は一度きりだという言葉に、証拠はない。
例えば死ぬ間際に、ループする可能性だってあるのだ。輪廻かもしれない。死ぬ間際に、今までのすべての魂の情報を思い出したら?
人間だったあのころ、私はそういうことを考える人間だったことを、まず思い出した。私の考えは当たっていた。ループではなく、輪廻。死の間際に思い出す、今までの魂の情報、すべて。その輪廻の始まりは人間だった。言葉で思・・・
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相談其の一 つけられている青年
15/04/12 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1116
トモヤは、困り果てていた。解決策も見いだせず、しかたがないから新宿西口にある行きつけのバーに呑みに来ている自分の甘さ加減にも困り果てていた。
「ママ、口固い?」
頼んだカクテルを呑みながら、トモヤは甘えるような声を出す。金色短髪の女性は、マスターって言えっつってんだろと、真っ赤なルージュを光らせて笑った。マスタアとトモヤが言い直すと、よし、とマスターはうなずく。
「基本的には・・・
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僕は僕自身を最悪だと思った
15/04/05 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:2292
僕は僕自身を最悪だと思った。
こんなのが恋だというのなら、世界は最悪だ。
僕の通う学校には、通学路が二通りある。ひとつは、車がたくさん通ってて、駅から学校までまっすぐ伸びている普通の通学路。もうひとつは、車どころか人通りも少なく、学校まですこし遠回りな通学路、通称カップルロード。
僕と同じクラスの高梨真奈さんは、よくそのカップルロードを、幼馴染だという同学年の男子・・・
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嫉妬の華が美しい理由
15/03/20 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1453
「ところで、マダムの好きな華を僕は知りません」
「私の好きな華は嫉妬の華だよ、ボーイ、君にも見せてあげたいよ。嫉妬の華はね、二種類あるんだ。ひとつは、羨望の意味での嫉妬。こちらは普通の華さ、よくある華だ。もうひとつは醜い、殺意にも似た意味での嫉妬。こちらのほうが、私の好きな華さ」
「本当に、マダムの目は素敵ですね。僕の目は、死んだ人の魂が見える程度ですよ」
「私は確かに感情も幽霊・・・
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渋谷、大好き
15/03/07 コメント:6件 村咲アリミエ 閲覧数:1308
「渋谷!」
谷川慶太は走っていた。電車の音がかすかに聞こえる。夜中だというのに、まだ走っているのかと考え、すぐにいやいや、と頭を横にふる。
そんな場合じゃない。雑念が邪魔だ。渋谷、渋谷、渋谷のことだけ考えろ!
「どっち!」
前と右と左、ついでに後ろにも道は伸びている。
「渋谷はどっち、どの道、どれが正解なんだよ!」
「うるさいよ谷川ぁ」
名を呼ばれ・・・
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夏芽さんにかまってほしい
15/02/13 コメント:6件 村咲アリミエ 閲覧数:2376
「前世の記憶が戻ったんだよ、夏芽さん。俺、明智だった。明智のこと、好き? それとも織田信長の方がいい?」
黒髪の美少女は、休み時間に入った途端に目の前に現れた同級生男子を華麗にスルーし、隣の席に座る友人に声をかける。
「焼きそばパン買いに行こうか」
「つれないよ、夏芽さん!」
叫ぶのは、自称明智の生まれ変わりである、一史である。短髪黒髪は夏芽の好みだったが、絡み・・・
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モノクロームの運命
15/02/09 コメント:4件 村咲アリミエ 閲覧数:1189
運命。
交響曲第五番。重々しい始まりが、頭の中をがんがんと叩く。勘弁してくれ。運命がドアを叩く音、だっけか。
音楽家にして、耳が聞こえなくなっていった彼は、その中でさえ作品を残していく。
俺は、じゃあ、どうするんだ?
ふざけるな。絵描きなのに、こんな、運命。まるで神様の暇つぶしだ。
可哀想な俺。ある日起きたら、世界から色が消えていた。モノクローム。・・・
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オニギリにさよなら
15/01/23 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1136
数年ぶりの空港に降り立った。仕事で、海外に行くことになったのだ。スーツケースを手に、周りを見渡す。相変わらず、雑多としている。空港独特の懐かしい香りに、顔をゆがめた。
ふと、思い出す感覚は、何年前のものだったか。
*
少女は何度目かの、日本旅立ちの日を迎えた。年はいくつだったか、十歳か、もう少しいっていたか。
一年半に一度の一時帰国、楽しかっ・・・
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ラブラブトラブル
15/01/11 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1441
隣人同士のトラブルは、とても幸せな解決を迎えた。
ある寒い日の朝、五号室と六号室の住人から、大家に連絡が入った。
「隣の人がストーカーなんです!」
警察に連絡をした大家の判断は、賢明だった。警察が来るから、と言われた二人は、それまでの憤りっぷりが嘘のようにおとなしくなった。
やってきたのは若い警察官だった。大家の部屋の居間で座り込む男性と女性の目の前に、正座・・・
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もうすぐ。私の書いた本を、君に。
14/12/19 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1134
ヤー君は天才だった。
私は凡人だった。
「ミホちゃん」
低い声で名前を呼ばれた。真夜中の、暗い道で。とっさに構えながら振り向くと、背の高い青年がそこにいた。電灯に照らされた彼は、やっぱりと微笑んだ。
「会えた」
「……どなたですか?」
「ヤストだよ、十年ぐらい前、隣に住んでた」
ヤスト、隣に住んでた。私は数秒考えて、記憶の底の方から、幼い少・・・
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想像世界 勉強部 理数系 小学校算数課
14/12/14 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1367
眠りに落ち、夢を見て、元いた世界で目覚めると思っているのなら、それは条理だ。
僕はしばらく、条理に戻ることができなくなった。夢と現実の狭間、想像力の世界に、閉じ込められてしまったのだ。
「諸君! 選ばれし幸運な諸君は想像力の根源として――……」
ピンク色の球体が無数に浮かび、響く声でわめく。
僕たちは、夢を見ているところを捕まえられた「幸運な」魂たちだ。想像・・・
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よくある言い回し
14/11/26 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1426
「そもそも幸せをさあ、数値にできないところに見いだしちゃったのが敗因なわけ」
とある裏路地にあるバーの個室で、女は机をばんと叩いた。
「相変わらず難しい言葉を使いうなあ、愛してるぜ」
正面に座っていた男も、負けじと机を叩く。うるさいわよ! と、女は男の手をつねった。
「何しやがるっ」
「愛情表現の一環よ。だいたいさ、分かりきってることを、よく面と向かって言えるわよ・・・
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青い空の中 黄色の僕を信じて 君は雷と共に
14/11/16 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1187
彼女は不思議な人だった。
目を合わせて話をしてくれない。こちらを向いてはくれるが、いつもどこか遠くを見ている。代わりに人の心を見ることができる。誰よりも繊細に、人の心を理解しているのだ。
ある秋の、ある昼休み。僕は「話がある」と彼女に呼び出された。全校生徒四十人弱の小さな中学校では、個人の呼び出しは珍しくない。雑用の手伝いか何かだろうと思って、彼女について行った。
彼女は・・・
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猛スピード彼女の元へ
14/11/02 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1223
彼女が走るそのスピードを、猛スピードという言葉以外で僕は表現することができない。
僕は、放課後に図書委員の仕事がある日以外は、グラウンドで走る彼女を教室から眺めることが日課だった。軽やかに走る彼女は、僕の憧れだ。
僕は、彼女に比べたら平凡な人間だ。自慢できることといえば、おすすめの図書という図書館主催のコンテストで、僕の推薦文が佳作をとったぐらい。
彼女は僕を知ら・・・
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夜な夜なかぐや姫
14/10/10 コメント:4件 村咲アリミエ 閲覧数:2152
俺は夜な夜な、近所の竹林の中をうろつくのが好きだ。目的もなく、週に二三回はうろつく。雨上がりの竹の香りは最高だし、晴れている日に空を見上げると、竹と竹の間から瞬く星が、言葉にできないほど美しい。
そこで過ごす最高の時間のことを、俺は秘密にしている。誰だって、本当に大切なことは、胸に秘めているのだ。決して、我ながら変な趣味だと思っているわけではない。
その日も、いつものよう・・・
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春の君は忘れ物よと 夏の僕の左手に
14/10/03 コメント:4件 村咲アリミエ 閲覧数:1207
夏の終わりに、それは空から突如現れ、計っていたかのように僕の頭上に舞い降りた。本当に軽いものなのに、僕はそれに気がつき、何だろうと左手でそれをつまんだ。薄いそれを見て、僕は君を思い出した。そして、ぎょっとした。嘘だろうと言いたかった。
僕は君を思い出した。
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忘れるのは常だと、君は白い顔をして笑った。僕は、君への言葉が見つけられずに、ただ来・・・
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旅をする姫君
14/09/21 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1053
山の奥の、さらに奥。旅をする姫君は、五十人以上の盗賊に囲まれていた。盗賊の頭は、気絶している彼女の護衛を、ずいと前に出す。
「質問に正直に答えることだ。さもないと」
護衛の首を切るジェスチャーに、やめてと姫君は叫んだ。かわいらしい叫び声に、一同は下品な笑いを漏らす。
「旅をする姫君、有名だぜ。旅の目的や正体は不明、お前についている護衛のことすら、屈強だという噂以外は不明なこと・・・
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詩人は足音を聞きわけて
14/09/05 コメント:6件 村咲アリミエ 閲覧数:1259
私は今、とても後悔をしています。私は、貴方に酷いことを言いました。
貴方のことが大好きなのに、貴方が私の相手をしてくれないのを、苦しく感じてしまったのです。私は、私を中心に貴方を見てしまいました。
貴方の部屋が、とても好きでした。いつでも雑多としていて、詩や短歌、俳句を書きつづったメモの束が六畳半の畳の部屋を埋め尽くし、ふすまを開けるとすぐに、いつでも貴方の背中が見えまし・・・
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あなたしかいないから、告白
14/08/24 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1244
「私、ときどき意味も無く泣いてしまうことがあるの」
何でもないことなのかもしれないが、私は勇気を持って彼に告白した。彼の部屋、リビングに座って、震える声で言った。握った手の平は汗ばんでいる。
彼と付き合って半年。私の弱い面を、彼に、唐突に告げた。
「夜になるとね、怖くなるの。なぜだか分からないけど、泣いてしまう。情緒不安定なんだと思う」
変なことを言って、と引かれるか・・・
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No.373320より 誰か見つけたら読んでください
14/08/10 コメント:2件 村咲アリミエ 閲覧数:1302
マスターは信じなかったけど、僕は信じているから、今僕はどきどきしているよ。
まずは自己紹介をするね。僕は南光央。魔法陣の真ん中で空を眺めるのが好き。友達は美作冬夜。今日もドラゴンに乗っているよ。
マスターの話もしなきゃね。マスターはたくさんいるけど、僕は昨日三百年ぶりにマスターに会ったよ。さよならの時依頼だ。二人で魔法を身体に流してた時の事さ。扉が開いたと思ったら、マスターが現れ・・・
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死神と天使 イマージェンシー
14/07/27 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1215
死神の青年は、この町で一番高い時計塔の上にいた。つい先ほど繰り広げた、ここの管理人との会話を思い出し、眉間にしわを寄せる。
仕事かと訪ねられ、違うと言うとすぐに「じゃあ青髪の天使ちゃんか」と笑われた。なぜ知ってる、と目をむくと、図星だなと管理人は愉快そうに手を叩いていた。
ロマンチックだの、とからかわれたことも思い出す。全く、誰が言い触らしたのだ。
見渡す景色は、薄暗かっ・・・
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涙色の紫
14/07/11 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1142
旅人のリクは、とある老人の絵を見るため、定期的に彼のアトリエを訪れていた。
何度も見た絵だったが、その絵を前にしたその瞬間、身体中に鳥肌が立った。
「ああ……ほんと、俺、いろんな国に行って、いろんな紫色を見てきたけど、やっぱり親父の描いた紫色が一番綺麗だよ」
「ありがとよ」
老人はふ、と小さく笑うと「なあ、この絵のタイトル、覚えてるか」とリクに尋ねた。
「涙の少・・・
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オンザロードオンザロック
14/06/23 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1223
根無し草という言葉は、俺にぴったりだと思う。ふらふらと、当てもなく歩く。行きたい道こそ我が道だ。
こんな生き方を、嘲笑うやつもいる。馬鹿だというやつもいる。今までたくさん笑われ、たくさん馬鹿にされてきた。
しかしあるとき、
「ロックですよねえ!」
と、とある酔っ払いに褒められたことがある。俺はきょとんとして、言葉を失ってしまった。
「好きなように生きる! 進み・・・
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ミスユー
14/06/12 コメント:3件 村咲アリミエ 閲覧数:2015
苔の生えた腕を私に突き出して、彼は笑った。
「最高のギャグだろ」
「……何がでしょう」
「これが」
「………………」
意味がわからず、私は曖昧に首をかしげた。多いときは週に一度、少ないときは二年に一度という自由気ままなペースではあるが、彼はこの宿のごひいきだ。適当にあしらってヘソを曲げられては困る。
私からの無言の返事に、彼は「まじかよおー」と天を仰いだ。・・・
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どうして
14/06/01 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1083
彼は褒められるべきなのだ。
当たり前だ。
彼は当たり前のことをした。当たり前に仕事をし、その報告をしに来ただけなのだ。
私は彼を褒めるべきなのだ。
分かっている、分かってはいるが、彼からその報告を受けて数秒、私は言葉を失ってしまった。嘘だろ、という言葉を慌てて飲み込んだ、そのとっさの判断に、頭の片隅で称賛をおくりながら、しかし頭の大部分は混乱していた。
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遠くで鳴る、警告音
14/05/04 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1166
終わってしまうということを、私は知っている。
ただ、それを何とか引き延ばそうとしているのだ。
私は怖い。
私の知らないあなたに出会うのが、怖い。私の想像できない未来に潜っていくのが、とても怖い。
私とあなたは友達だって、何度もお互い、確かめ合ったじゃないか。
二・・・
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母校と、恋の香り
12/12/31 コメント:3件 村咲アリミエ 閲覧数:1971
学校は閉鎖的な空間だということを、私は社会人になってから意識するようになった。
学生のころは、学校に通う事が日常で、生活の多くを学校が占めていた。
(よくまぁ、こんな狭いところで)
私は、母校の廊下を歩いていた。冬休みだからだろう、生徒はあまりいない。暖房はきいていないため、ひんやりと空気が冷たかった。
私は、学校に来たり、学校を思い出したりするたび・・・
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浮遊感覚と、魔物
12/08/19 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1721
暑い。
雲ひとつないような青空に、いつもより何倍か大きくなっているのではないかと思わせる、真夏の太陽がひとつ。それだけで暑くて仕方が無いのに、加えて大きな声援と、観客の期待、不安、喜びなどが入り混じった中を、緊張を携えて全速力で走るのだ。体感温度はさらに何倍にも膨れ上がる。
甲子園だぞ、甲子園の初戦だぞ、と俺はレフトの守備位置に走りながら、再確認する。
そういえば、甲子園・・・
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透明結婚式
12/06/23 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:2006
花嫁に「ありがとう」と満面の笑みで言われた彼女は、「どういたしましてーお幸せにー!」と、投げやりに返した。
「素直にどういたしましてって言いなさい」
後ろにいた男性が、頭ひとつ分小さい彼女の後頭部をこつんと叩く。新郎新婦は、最後まで相変わらずなそのペアを見て、くすくすと笑った。
「いってーなー、たくよー……。じゃぁな、せいぜい離婚すんなよ」
と、まぁ不吉な言葉を残し、・・・
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幻夫婦と感動コンサート
12/06/23 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1909
「こんな酷い嘘もないわ」
僕に向けて彼女は新聞を投げ捨てた。その一面には、大きな見出しで「西藤夕 感動コンサート」と書かれていた。
僕は、今日少なくとも三度は読んだその記事を、ため息まじりにもう一度読見始めた。
何度読んでも、酷い。
『「俺の奥さんに、挨拶させてください」
先月十五日、人気歌手西藤夕(さいとうゆう)(29)のコンサートが、レオーネスタジ・・・
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格好悪いラブレター
12/06/12 コメント:0件 村咲アリミエ 閲覧数:1961
夜中の二時、俺は彼女が寝たのを確認し、こっそりとベッドを抜け出した。暗闇の中、慎重に進み、ドアを開ける。寝室を出て、ゆっくりとドアを閉め、リビングにこそこそと移動する。
暗闇の中、テレビの前にあるソファに静かに座る。ソファの下に隠しておいたレポート用紙を取り出し、挟んでおいたボールペンを握った。リビングの明かりはつけない、すぐ隣で寝ている彼女を起こしたくないからだ。
ソファの横に・・・
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ピックアップ作品
「あの人の後ろ姿が切ない。追いかけている恋が叶わないと知らないからだわ」
彼女の長い髪が好きだった。風に撫でられるようにさらさらと流れるそれは、彼女の冷たさを表しているようでもあった。風になびいてなお、染まることなど決してない漆黒。
「本当に叶わないのかな」
私からの意地悪な質問に、彼女は動じない。ツンとすまして、まるで用意していたかのように、さらりと返事をよこす。
「・・・