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八子 棗さん

様々な雰囲気の小説を書いていきたい、と思っています。

出没地 PCの前
趣味 創作全般。
職業
性別
将来の夢 いつでも言葉に関わっていたい。
座右の銘

投稿済みの記事一覧

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切り柄杓

16/01/18 コメント:1件 八子 棗 閲覧数:820

「あなたの切り柄杓には、惹かれるものがないわ」
 師の言葉の意味をのみこめたつもりになっていたと知ったのは、初めてお茶会に招待された後だった。

 三十代になり、茶道のお稽古を初めた。表千家の、小さな流派だった。システム開発で左脳一辺倒になっている頭の使い方を切り替えたくて、茶道という道を選んだ。長い時間をかけて体得し、生涯の趣味にできればよいと思ったのだ。
 お稽古もそろ・・・

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傾いて落ちる

16/01/15 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:660

「お前が嘘ついたんだから、指を切っても、殴ってもいいよね?」
 彼は、輝かんばかりの笑みを浮かべた。


 浮気をしたわけではなかった。彼を嫌いになったわけでもなかった。
 ただ、あまりにも彼のことが好きすぎて、仕事が手につかなくなっただけだ。

 彼は同じ職場の後輩だ。彼が私の職場に入ってきてくれて、恋をしたことのなかった私の人生は目まぐるしく変わった。・・・

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バナナ動説

16/01/03 コメント:1件 八子 棗 閲覧数:888

 朝起きてスマホを見たら『地動説、否定される』というニュースが号外で通知されていた。
 ニュースの詳細を見ながら、顔を洗って、トーストにバターを塗って焼いて、食べた。
 記事によると、最新の研究で『一見地動説に見えるが本当は天動説なのだ』ということが分かったらしい。原理も何やら書かれていたが、難しくてよく分からなかった。

 朝食を取ってから、駅前のコンビニに行った。バナナ・・・

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Love is brown

15/12/21 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:734

 その目の奥に、いつも憂いのある子だった。切りそろえた黒い前髪。ほっそりした顎。校則違反の茶色のセーター。胸はあんまりなくて、でも体育の着替えの時に見えるちょっと浮いた鎖骨とか、腰骨とかにドキッとさせられたあの子。
 女子校だったからかは分からないけれど、女同士で付き合ってる子は実際少しはいたと思う。でも、大学に行ってからも付き合っていたのは、私たちくらいだったと思う。

 彼女・・・

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ウサギ革命

15/12/13 コメント:1件 八子 棗 閲覧数:879

「中庭の檻から脱走したウサギが、一年生の男子トイレで死んじゃってたの」
 娘は泣きながら、今日学校であった悲しい出来事を報告してくれた。
「なんで穴を掘っちゃうの? 檻から出ちゃうの?」
「だって、狭い檻に閉じ込められてたら、外に出たくなるでしょう」
「じゃあ、私だって学校から出て、外行きたいよ」
 小学三年生になって、娘はなかなか頭が働くようになってきた。ぐずりなが・・・

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誰しもが奇人になる 初恋

15/11/18 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:782

 でんぐり返しが好きな熊沢さんの友達で、笹川さんというネクラな女子がいる。
「笹川さん、あなた学級文庫の本借りっ放しでしょ」
「あ……すみません……」
「図書室からも、返却のお願いのプリントまた来たわよ。こっちも返してないんでしょ」
「え……すみません……」
 学期末になると、こういう情景が毎年見られるのだと、担任の山崎先生がこぼしていた。「あの子、本を溜め込むのが好・・・

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その液体

15/05/17 コメント:2件 八子 棗 閲覧数:1035

 海と、雨と、涙が同じ水だなんて、どうしても思えない。
 どれも生温くて、あんまりいい気持ちのするものじゃない。

 曇り空の下、波打ち際に寄せる太平洋の水。うねる曲線から視線を上げ、隣にいる圭吾を見上げる。
 圭吾は困ったように口元を笑みの形にする。
「そりゃ、どれも成分は違うだろうから、同じものだと思わなくてもいいんじゃないかな」
 圭吾はいつだって、理屈が・・・

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幅1メートルの通学路

15/04/02 コメント:2件 八子 棗 閲覧数:1201

 通学路、というものが分からない。

 僕が住んでいたのは、国立大学の裏門を出て片道一車線の道路を渡った目の前の家だった。
 道路を渡れば構内。幼稚園も、小学校も、つい数ヶ月前に卒業した中学校も、全て大学の敷地内にあった。
 本当は十メートルくらい右にある横断歩道を渡るべきだったんだろうけど、僕はいつも家の敷地を出て真っ直ぐ道路を渡っていたから、実質通学路はなかった。

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曲がる世界

14/10/22 コメント:1件 八子 棗 閲覧数:960

雲竜柳を手向けて、交差点を離れた。彼女が生け花をする際、好んで用いた花材だった。
花は他の人が手向けているだろうと思ったので、買っていかなかった。
彼女は今頃、ここに手向けられた花で美しい世界を描いているのだろうか。


私が彼女に出会ったのは、仕事付き合いのある知人に誘われて訪れた高島屋の花展だった。
無数のアーティスティックな生け花が展示される中で、まだ花・・・

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まるくてしかくでさんかくで

14/10/05 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:842

「学生の頃、耳鼻科の前の道路に布団が吹っ飛んで来てたのを目撃したことがあるんだけど、この間布団が吹っ飛んで新幹線が止まったニュースを見てもうひとつ思い出したことがあるんだよね」
 そう前置きをして、ほろ酔い加減の久柳さんはミミガーをつまんだ箸を私に向けた。
「うちの娘が低学年の頃さ、通学路の桜の木の下を通ってたら毛虫が目の前に落ちてよ、泣きながら帰ってきたことがあってさ。したら髪の毛に・・・

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例えば、星じゃなくて。

14/07/06 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:861

「夜にだけ光るものがあるんだよ」
 ユウちゃんが胸を張ってそう言ってきたのは、じいちゃんの三回忌後の、食事会も終わりに近い頃だ。
 僕とユウちゃんは、食事会のセッティングがされたホテルのレストランの宴会個室の隅で、お絵描きノートを広げて話をしていた。
「お兄さん、なんだと思う?」
 集まった親戚の中で、一番ユウちゃんに年に近いのは僕だった。年が近いといっても、一回り違う。<・・・

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棘とオムレツ

14/04/30 コメント:4件 八子 棗 閲覧数:1109

 薄く目蓋を開くと、カーテン越しに青く朝の光が差し込んだ。ベッドの向かいにあるテレビ脇のスピーカーから”Greensleeves”が流れていた。このプレイリストは大抵眠っている間に五回リピート再生されて、いつも六週目頃に私は目覚める。
 彼を起こさないように寝返りを打ったつもりだった。視線を天井から彼の顔に向けると、彼は二重の目蓋を緩く開いて私を見ていた。ぼやけた彼の「おはよう」を聞いてから・・・

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ぺたり、するりと

12/07/09 コメント:2件 八子 棗 閲覧数:1774

「おおー! このカニ食べ応えありそうだね!」
「料亭の水槽じゃないんだぞ……」
「えー? でもほら、脚とか太いし、長いし――」
 綾華は水槽の強化ガラスに張り付くようにして、動かないカニに見入っている。その姿はガラスを挟んだ向こう側にくっついているタコにそっくりで、思わず失笑する。
「――あの小さいヤツらは、目刺し要員になるね!」
「そうだな。綾華が楽しそうで、俺も嬉・・・

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泡沫の重み

12/05/28 コメント:2件 八子 棗 閲覧数:1954

 六月に入るのを待っていたかのように、蒸し暑さは日を追い増していった。毎日のように通っている駅前の喫茶店は、冷えた飲み物を求めて立ち寄る客が以前より増えた気がした。少なくとも、私がいる時間帯の空席は、ほとんど見られなくなった。
 すっかり私の中で定位置と化したカウンター席の隅で、今日も私は九月の院試に向けて勉強をしていた。大学受験の勉強をしていた頃の癖で、ついこの喫茶店に来てしまう。一杯の飲・・・

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85センチメートルの先で

12/04/17 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:2139

 頭上で跳ねる雨音。雨粒は黒い布を伝って、視界の隅を途絶えることなく垂れていく。
 ここの所、良く雨が降る。梅雨にはまだ早いが、あの生ぬるくじめっとした空気に似た風を毎日吸っているような気がした。そのせいだろうか。大学の裏門と駅まで13分の距離が、最近はやけに遠く感じられる。
 いや、実際に時間がかかっているのかもしれない。今もまだ、駅までの帰り道は半分以上あるはずなのに、ジャケットの・・・

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巻く管もなく。

12/04/12 コメント:1件 八子 棗 閲覧数:2173

 母に言わせれば、「最近『管を巻く』タイプの酔っ払いが少なくなった。絶滅危惧種かもしれない」のだそうだ。来月酒を飲めるようになる私には、まだ同意をするための権利も経験もない。はずなのだが、四月一日という早生まれの私をまるまる二年間も待ってくれるサークルや友人があるはずもなかった。
 いわば、社会的必然として酒に初めて触れたのは、大学入学直後。一昨年の四月のことだった。ありきたりだが、友達にく・・・

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