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4

ドリアン   (1998文字)

13/03/09 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3029


「高見沢君、ちょっと頼みがあるんだけどなあ」
 正月も明けたある日、高見沢一郎は上司の花木部長に話しかけられた。
「なんですか?」と問うと、「君なあ、一週間ほどマレ−シアに出張するだろ」と部長がニヤリと笑う。
 確かに支援要請を受け、出向くことになっている。高見沢が「はい」と答えると、コテコテの関西弁で花木部長がほざいた。
「ホンマのことや、俺まだ……ドリアン食べた・・・

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ふるさと

12/11/18 コメント:9件 そらの珊瑚 閲覧数:3028

 遠いようで近い。いや、本当は近いようで遠いのかもしれない。ふるさと、というものは。
 東京発新幹線。早朝六時に出発するのぞみに乗る。広島には十時少し前に着く予定だ。祖父の七回忌に出席するために。東京の大学を卒業してそのままそこで就職して早二十一年が経つ。いつのまにかふるさとで過ごした時間を東京でのそれが追い越していた。新幹線の乗っているとものすごい速度で走ってるのに乗客はそれを感じるこ・・・

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前を向くライオン

13/04/22 コメント:10件 青海野 灰 閲覧数:3027

黄金の鬣を靡かせて、太く逞しい前脚を岩にかけ、その獅子は唸る様な声で言う。

――これから初めて獲物を追うお前に、狩りの心得を教える。

はい。お願いします。

――まず我々は強くなどない。他の生命を奪わなくては生きることさえ適わない、血と肉の定めに縛られた、悲しい生き物だ。それを忘れるな。

はい。

――我々が奪い喰らおうとしている命・・・

8

命のラーメン

13/06/13 コメント:16件 草愛やし美 閲覧数:3027

「加古川さん、来週木曜は究極の晩餐日、何か食べたいもんある?」
 酸素を吸入している加古川は、薄っすらと目を開け答えた。
「おおきに、わしな、どうしても食うてみたいんや。初めて勤めた町工場のおやっさんが、食べさせてくれた京都の鱧寿司が忘れられんのや」
 そう言っていた加古川は、その日、もったいのぅて食べられんなと眺めた後、両手を合わせ拝んでから鱧寿司を美味しそうに食べた。
・・・

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志集タイガー見世物小屋

12/03/31 コメント:2件 mokugyo 閲覧数:3026

 愚かな高校生の太郎君に、新宿通の先生、伸縮魚園(しんしゅくぎょえん)先生が新宿の思い出を語ってくれるよ。

「おはようございまーっす!先生、今日は新宿について教えてくれるって話じゃないッスかー」
「うるせーバカ野郎ー!お前みてえな青二才が興味もっていい場所じゃねえんだ新宿は!ホームレスのブルーシートを横目で見つつ足早に歩いて『明日は我が身か』とおびえながら満員電車に体を押し込む・・・

10

【ルメール・フュテュール】朝顔は永遠に咲かない

14/08/01 コメント:15件 そらの珊瑚 閲覧数:3026

 私は幸せだった。そしてそれが明日も明後日も、ずっと先の未来まで続くのだと思っていた。あの日までは。
 
 優しい夫と八歳の息子。去年購入したばかりの東京郊外の4LDKの一戸建て。庭には息子のひなたが植えた朝顔の苗。初めての蕾がついている。クーラーボックスの中には肉と野菜、焼きそば麺。ノンアルコールビールとジュース。小学校が夏休みに入ったばかりの日曜日。川遊びをしたあとバーベキューの予・・・

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ラベンダーの風

12/07/01 コメント:0件  閲覧数:3024

 夏休みになったら都会を離れる旅にでたいと思った。群馬の「ラベンダーパークアルバイト募集」の広告を見てから、ただの旅行ではなく、働いてみようと思った。勤務日数は約1カ月の住み込み。私は玉原山荘にお世話になることになった。仕事はインフォメーション係で、ラベンダーの大きな畑の前に建てられた小屋で情報提供や案内をすることになった。夏はラベンダーを楽しんでもらって、冬にはスキー場になるこのパークの魅力をた・・・

4

13/02/21 コメント:4件 草愛やし美 閲覧数:3023

 昭和40年代、私は先生になりたくて大学進学を目指していた。厳しかった父に反発してぐれてしまった姉二人は、中学を出ると就職したため、進学の道に進んだのは、姉妹の中で、唯一私だけだった。ずっと、我が家の商売(食堂)は、儲けが少なく、生活するのが精一杯で貧しかった。だが、父は受検させてくれることを許してくれた。受験回数は、かなり絞ったが、それでも、無理して数校受けさせてくれた。

 大正・・・

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三匹目の子豚

15/05/04 コメント:12件 光石七 閲覧数:3020

 昨夜は眠れなかった。授業が始まっても菜緒の心は落ち着かない。
「内木、聞いてるのか?」
国語教師に注意された。すみません、と菜緒は小声で応える。
「まあ、大上の件でみんなもショックを受けてるだろうが……」
先週このクラスの生徒 大上彩がP駅の階段で転落死した。現場に居合わせた通行人が「足を踏み外すのを見た」と証言し、事故として処理された。だが、菜緒は知っている。彩は殺され・・・

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迷子になった私

13/06/08 コメント:18件 泡沫恋歌 閲覧数:3019

 私は四歳の時に迷子になったことがある。
 それは引っ越しした日のことだった。荷物の整理に追われる両親や引っ越しの片付けを手伝う兄や姉たちは忙しく、誰も私と遊んでくれなかった。
 役に立たない四歳児は、みんなから忘れ去られて退屈し切っていた。

 そこは初めての町だった。
 前に住んでいたところは近くに大きな川があったけど、駅から遠くて不便な場所だった。お父さんの仕事・・・

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クラシック音楽流れるうどん屋

15/02/05 コメント:14件 草愛やし美 閲覧数:3017

 昭和30年代、私の実家は京都で大衆食堂を営んでいた。亡き父は大正生まれだったが、死ぬまでクラシック音楽を愛した人だった。毎日ラジオで音楽を聞いていたが、それがレコードプレーヤーやテープレコーダーを使うようになり、やがてアンプを配し左右のラッパに繋ぎステレオで曲を楽しむという本格的なオーディオへと手を伸ばすようになった。臨場感あるクラシック音楽を楽しむためには本物の音を再現するしかないという夢を叶・・・

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下仁田ネギとパスタの素敵な関係

12/06/25 コメント:3件 ゆうか♪ 閲覧数:3015

「殿、お味はいかがでございましょうか」
「うむ、これはなかなかの味じゃのう。で、どこで摂れたネギじゃ?」
「はい、こちらは地元の下仁田で摂れたものにござりまする」家老が自慢げに答えた。
「ほほう、これは下仁田のネギであったか」
「御意」
「この何とも言えぬ甘さは癖になるのう。今後も城内の料理にはこれを使うが良いぞ」
「ははぁ〜」
 これを機に、下仁田のネギ・・・

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メロンソーダが好きなタヌキ

15/09/10 コメント:2件 安城和城 閲覧数:3015

 仕事から帰りテレビを点けてみると、暗い顔をしたタヌキのアニメがやっていた。画面右上に『メロンソーダが好きなタヌキ』なるテロップが表示されている。……メロンソーダが好きなタヌキ?
 帰りがけに買ったビールを冷蔵庫に入れるのも忘れ、俺はぼんやりとテレビを眺めた。セリフがないし、おそらくショートアニメだろう。タヌキは無言のまま、排気ガスのキツそうな現代社会をとてとてと歩いていく。……歩いている。・・・

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巻頭歌に踊らされ

16/07/10 コメント:9件 デヴォン黒桃 閲覧数:3014

 

 〜巻頭歌

 胎児よ

 胎児よ

 何故躍る

 母親の心がわかって

 おそろしいのか



「はあ、成る程、三大奇書と云われる中の一つ、夢野久作先生のドグラマグラで御座いますな。巻頭歌」

 男は、カフェで見かけた女に、下心タップリで声を掛けた所、コレを知ってるか? と問われた・・・

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五月の空と燕とエール

13/05/16 コメント:11件 そらの珊瑚 閲覧数:3012

 ゴールデンウィークが終わると、急に気温が上がり、ここ数日はまるで夏のような陽気だった。

 電車の中には、ゆるやかな冷房が入っているようだが、もあっとした空気が漂っている。嫌な冷や汗がじっとりと吹き出してくる。
 男は目をぎゅっとつぶり、耐えていた。ガタンガタンと揺れる振動が、おのれの腹と連動し、次第に大きくなる痛みに。入社して二ヶ月弱、他の新入社員が一人、また一人と契約をあげ・・・

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とんかつ日和

12/05/28 コメント:0件 そらの珊瑚 閲覧数:3009

 直子に割り当てられた場所は運良く窓際であった。新宿の病院とはいえ、窓から咲き始めた桜が見える。ひと通り下着やら湯のみやら身の回りのものを備え付けの小さなロッカーに納めていると、弟が、お世話になります、と同室の人にあいさつをしながらやってきた。
「わりかしいい眺めだね」
「桜はあんまり好きじゃないけど」
「まあ、そう言うなよ。寝ながら花見なんて贅沢な話だよ」
 五年前に末期・・・

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たずねてきた北海道

12/09/17 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:3008

 ドアのそとで、大きな声がきこえた。
「こんにちは、おひまですか」
 私がその失礼な挨拶に怒りもせずにドアをあけたのは、実際死ぬほどひまをもてあましていたからにほかならない。
 玄関に、みたこともない男が立っていた。
「どちらさん?」
「北海道です」
「珍しいお名前ですね。で、ご用件は?」
「ちょっと、お話でもと思いまして」
 定年退職後、妻に先立た・・・

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雪の降る日の物語

13/12/05 コメント:17件 そらの珊瑚 閲覧数:3008

 ルチアは約束通り、仕事が終わってアントニーの下宿を訪ねた。ドアを開けると、油絵の具の匂いが揮発されて漂ってくる。脱いだダッフルコートを壁のフックにかけた。
 
 壁という壁には作品の数々が所狭しと立てかけてある。彼の描く風景はなぜかみな雪景色で、ルチアにとって馴染みのある絵ばかり。それが今夜はどこかよそよそしくそっぽを向いているように感じるのはなぜだろう。
「夕食まだだろう。座・・・

8

国際宇宙人会議(笑)

13/11/10 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:3007

 【 宇宙人は存在するか、否か?】

 
 この疑問は昔からテレビや雑誌で数多く取り上げられてきましたが、未だかつて、その結論が出ていません。
 どうでもいいようで、実はとっても気になる疑問なのです。(作者・談)

                   *                 

 アメリカ、ニューメキシコ州に住む平凡な農夫、ボブ・オズワ・・・

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人は死んだら星になる

14/07/27 コメント:4件 スレイ 閲覧数:3007

交通事故で亡くなった母のお通夜の帰り道、当時4歳だった妹のユウが私の服の袖を握りながらこんなことを言った。
「ねえ、お母さんはどこに行ったの?」
ユウは「死」というものをまだよく理解出来ていないのだ。私は考えた。どう答えようか。どう答えたら妹が「死」を理解できるのか。どう答えたら幼い妹はショックを受けずに済むだろうか。
それはその頃の小学四年生の私には難し過ぎる質問だった。私は何・・・

8

魂腐劣腐 チルドレン

14/11/04 コメント:16件 クナリ 閲覧数:3006

十七歳の誕生日が、僕にもやって来た。
僕は、オタクである。
しかもメジャー作品にしか手を出さないあまちゃんなので、オタクヒエラルキの中でも底辺にいる。
趣味ですら色んな意味で取り柄になり得ない、というコンプレックスを抱きながらも、自分でも絵を描くようになったのは、中学三年生の時だった。
もちろん、受験勉強からの逃避がきっかけである。
『テスト前の部屋の掃除理論』により・・・

2

心の味

12/11/26 コメント:6件 汐月夜空 閲覧数:3006

「……実に不思議だ」
「どういたしましたか、山田さん」
 小春日和のことだった。
 ぱちぱちと静かな音を立てる暖炉横のカウンター席に腰を下ろし、いつものようにカフェ『雫』特製のサイフォン式コーヒーを口にしてから、私は唸るように積年の思いを口にした。
 気品を感じる見事な動作でシルバースプーンを磨いていた若いマスターはそれを聞いて、穏やかに私に微笑みながら尋ねた。
「い・・・

8

妻の弁当は屋上で

16/07/11 コメント:4件 霜月秋旻 閲覧数:3006

 場所はとても重要だ。誰の目も気にすることなく昼間、弁当箱のふたを開けられる安全な場所。人目を避けるなら御手洗いが無難なのだろうが、さすがにそんなところで弁当を食べる気にはならない。
 私は毎日、会社の屋上でひとり、弁当を食べている。理由は些細なことだ。妻が毎日つくってくれるデコ弁を、会社の同僚に見られたくないからだ。ただそれだけの理由だ。
 ごはんの上に鮭フレークをハート型に盛り付け・・・

1

肉じゃが格闘技

12/09/12 コメント:7件 鮎風 遊 閲覧数:3004

 格闘技とは「相手と組み合い、自分の体での攻撃・防御を行うスポーツ競技」だ。しかし、時の流れとともに、その言葉の解釈はより広がりを持って行った。相手とがっぷり四つに組んで闘う、それはなにもフィジカルなことだけではない。身体を使わずとも、真剣勝負ならば格闘技となった。
 今は2050年、そんな社会通念が定着している。その証拠に、ありとあらゆる格闘技をテーマにしたイベントが流行り、事実人気を博し・・・

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鳶に油揚げ

14/02/07 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3003

「お父さん、紹介するよ」
 慶太がリビングでくつろいでいると、背後から息子の拓夢が声を掛けてきた。えっと振り返ると、若い女性が息子に寄り添い立っている。
「花瀬玲奈と申します」
 ペコリと頭を下げ、長い髪をかき上げながら面(おもて)を上げた。端正な顔立ちに緊張が窺える。慶太はこの様子から察し、息子がやっと生涯の伴侶を見付けたのかと。
「拓夢ったら、お嬢さまを突然お連れするも・・・

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女は呪われ豚になる。

15/05/03 コメント:4件 草愛やし美 閲覧数:3001

 わけわかんない、今朝目覚めると部屋中に異様な臭いが漂っていたの。食べ物の腐敗臭、あたしは飛び起き辺りを見回した。何てことベッドの周りに残飯が散らばっている。誰がこんないたずらをしたの──いえ、これはいたずらなどというものじゃないわ。明らかに誰かの嫌がらせに違いない。あたしは吐き気を覚え慌てて洗面所に走った。鏡の中のあたしの顔を見て再びびっくりした。顔中何かこびりついている、特に口の周りや鼻にべっ・・・

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『3』の欠落     (1998文字)

13/04/26 コメント:2件 鮎風 遊 閲覧数:3001


「ちょっと何か変だなあ」
 高見沢一郎はこんな独り言を吐きながら、単身赴任のアパートへと帰って来た。
 初夏の熱が籠もった部屋。まずはヨタヨタと冷蔵庫へと歩み寄り、冷え切った缶ビールを取り出す。そして命蘇生のために、グビグビと。
 とりあえずこれで一息入れて、後はパソコンの前にドサリと座り込んだ。そして「おかしなことが」と一人小首を傾げる。

 それはオフィス・・・

3

森に住むペンギン

12/11/28 コメント:11件 そらの珊瑚 閲覧数:3000

 生き物は進化の途中で選択をする。その結果、何かを得る。それは同時に別の何かを手放すということでもある。
 生きていくとはそういうことであろう。
    ◇
 深い眠りから覚めた気分だった。覚醒してみれば世界の狭さに辟易する。出してくれよ、ここから。どうしたって、どんなことをしたってここから出なくちゃならない。うかうかしていると取り返しのつかないことになっちまう。
 ボクは・・・

4

僕は探偵、塩眞三朗 (しおまさぶろう)

13/06/23 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:2996


 街路樹の柔らかな木漏れ日、その中をしばらく歩くと探偵社があります。そう、僕は塩眞三朗と申します。
 この自然豊かな町で生まれ育ち、一応一端の探偵になることができました。その恩返しにと、町の人たちの難題を解決するため探偵として日夜奮闘してます。
 それを評価して頂いているのか、依頼が多く、ホント身がすり切れるほど毎日が忙しいです。
 そんな僕を見て、町の人たちは冗談ぽく、・・・

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馬「昨日、助けていただいた馬です。」 俺「う、馬が喋った!?」

14/02/03 コメント:15件 平塚ライジングバード 閲覧数:2996

馬「ヒヒーン。ヒヒーン。」
俺「遅ぇよ!!喋れるのは分かってんだよ。」
馬「すまんウマ。お騒がせしたウマ。」
俺「急に変な語尾をつけなくていいから!!で、何の用?」
馬「昨日助けていただいたお礼をしにまいりました。」
俺「え…!?俺、馬なんか助けた覚えないんだけど。」
馬「ええと…。昨日、誰かを助けたりしませんでしたか?」
俺「敢えていうなら、電車の中でお・・・

6

死ニゾコナイ

14/01/30 コメント:19件 そらの珊瑚 閲覧数:2995

 寝室の窓の外で
 また今夜も
 切れかかった街灯が
 青白い点滅を繰り返す

 この世に未練があるのか
 ただ惚けてしまったのか
 それとも
 死ニユク前のあがきなのだろうか
 今夜も
 静寂であるべきはずの
 オレの
 夜を
 不規則という規則にのっとって
 あいつが邪魔をする

 寒空の下で

1

キズ持つワタシ

12/04/04 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:2994

私の部屋には、一本の木の棒がある。

長さ160cm、幅15cm、厚さ3cm。

この棒は、もとは弟の部屋にあった。




弟は、私が7歳のときに、突如、あらわれた。

7年間、一人っ子としてあまあまと甘やかされた私にとって、弟は私をおびやかす、
敵だった。

それでも、生まれてからしばらくの間は、私も弟をかわい・・・

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千円カット

12/06/16 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2990

入口の看板の、『カット千円』にひかれて平太は、その散髪屋に入っていった。
この値段だというのに、店に客の姿がない。
広くもない店内が、妙にがらんとしてうつった。
千円という安価さからおそらく、愛想もサービスもなにもない、ただ芝生を刈るように髪を切るだけのところにちがいない。
もどろうかと平太が足をかえしかけたとき、奥のカーテンから一人の女性があらわれた。
「いらっしゃ・・・

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未来巡りは山手線外回りで

14/08/04 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:2988

 耕介は家業を継いで欲しいという父の願いを振り切り、10年前都会で働き始めた。しかし、現実はそう甘いものではなかった。それでも朝から晩までこま鼠のように頑張ってきた。その原動力は父に対する男の意地だったのかも知れない。
 そして最近のことだ、母が電話で、父が病に伏せたという。さらに、そろそろ初孫の顔を見せてくれないかと漏らした。
 今の暮らしでは、結婚なんてほど遠い。しかし、母の言葉は・・・

1

黄金色の町

12/07/09 コメント:2件 汐月夜空 閲覧数:2974

 ――お前みたいに良い自転車に乗るとやっぱり気持ちいいのか、って?
 そりゃ違えよ。別にオレは自転車本体にこだわりがあるわけじゃねえんだ。
 オレはただ、遠くに行きたいから自転車に乗るんだ。
 遠くに行きたいなら自動車があるだろって?
 はっ、あんた、分かっちゃいねえな。自転車だから良いんだよ。
 ペダルの一漕ぎ一漕ぎが、前への推進力となる充実感。
 後ろを振り・・・

2

座る男と隣の女

13/10/21 コメント:4件 タック 閲覧数:2969

 女は苛立っていた。男がまるで話す素振りを見せないのである。

 光源がテレビのみの、真っ暗な部屋の中、男は女に構う事なく、胸糞の悪いニュースを眺め続けている。女が二の腕に触れるも、男の反応は無く、空しい冷たさが、返答として翻るだけである。
 
 もう、飽きたのかしら。女は考える。

 男との同棲を決意してから、まだ幾ばくも経ってはいない。半ば狂乱のうちに実行し・・・

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新宿ジュース

12/03/18 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2965

陽子が頭上を見上げたのはなにも、ビルとビルの間にのぞく茜色の空をながめたかったからではない。
どの建物がもっとも、飛び降りるのにふさわしいだろう。非常階段はすんなり屋上までつづいているのだろうか。
ここにくるまで、死ぬことはもっと、簡単なはずだった。屋上のふちから身を躍らせば、すべて完了すると思っていた。
しかし、それが思いのほか進捗しなかった。
どの建物の周囲にも、警備員・・・

1

不徳な回帰

12/10/05 コメント:2件 鮎風 遊 閲覧数:2965

「課長、ちょっと困ったことがありまして……」
 部下の山路が朝っぱらから泣きついてきた。花木忠蔵はまたクレームの話しかと思い、「まずは落ち着けよ。で、どうしたんだよ?」と上司らしく聞き返した。すると山路は、今度は首をひねりながら伝える。
「実はアルバイトの変若水(おちみず)が……突然消えてしまったんですよ。どうも失踪のようでして」
 朝一番からこんな報告を受けた花木、「うーん」と・・・

8

吊るし雛

13/02/12 コメント:5件 クナリ 閲覧数:2963

ある日の夕方、中学二年生の私が母と二人暮らししているアパートに帰ってくると、ドアの下に小包が置いてあった。
母はパートからまだ戻っていなかったので、ドアの鍵を開けてから茶色の紙で包まれたそれを抱えて部屋に入る。
小包の不自然さに気づいたのは、ミニキッチンのテーブルにそれを置いた時だった。
送り状がなく、差出人の名前もない、のっぺらぼうだ。
危険物だったらどうしようと思いつつ・・・

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葵祭と教授たち

12/04/30 コメント:0件 松定 鴨汀 閲覧数:2961

 ある年の葵祭の日、京都工芸繊維大学の教授は講義がはじまるなりこう言った。

「皆さんの多くは、京都にきてようやく2ヶ月目ですね。今日は本当に京都らしい伝統行事がありますから、京都の大学に来た醍醐味を味わいに行ってください。講義は以上!」
 そして学生が歓声をあげながら去っていくのを見届けると、自身の研究をしにラボへ戻っていった。



 同じ頃、立命館大・・・

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新しい人

13/05/20 コメント:17件 そらの珊瑚 閲覧数:2959

 都会から電車を二つ乗り継いで、僕は君のいる郊外の施設へ向かっている。電車はとても正直だ。大体において時間通りに来るし、目的地を見失うことなく、連れていってくれる。嘘の欠片もない、正直者なのだ。

 そして僕はといえば、また今日も嘘をつくだろう。新しい人、として。

 結婚してから三十年。とうとう僕らは子供を授かることが出来なかった。
 不妊治療も何度かしたが、君の肉・・・

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カナリア

13/03/14 コメント:12件 そらの珊瑚 閲覧数:2958

黒々とした瞳は深い慈しみをたたえている。それをふちどる長いまつげ。白いたてがみは豊かになびき、隆々とした筋肉のついた躰。エトワルは額に白い星の模様を持つサーカスの馬だった。
 私はサーカスに置き去りにされていたという。まだほんの五歳ほどで、うっすらとその時の記憶がある。興行が終わって客達がみな帰った後、テントの隅で一人で泣いていた、みすぼらしいなりをした女の子だった。傍らに使い古された鞄。・・・

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路地裏のコーヒーとメロンソーダ

15/05/09 コメント:6件 クナリ 閲覧数:2955

 五月の夜は、あのやかましい葉桜が見えなくなって、気分が良い。
 僕はスカート姿で、路地裏の自動販売機の紙コップに、安いコーヒーが注がれるのを見ていた。
 良い匂いがする。でも、苦いだけで美味しいわけじゃない。
 触れるまでは良い気持ち。似たもの同士だから、つい飲んでしまうのかもしれない。八十円のコーヒーとお友達。楽しいね。
 僕が紙コップを自販機から取り出すと、横にいたナ・・・

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竜宮名古屋城

13/05/09 コメント:4件 yoshiki 閲覧数:2954

 名古屋、名古屋と考えながらベッドに入るとその晩、すごい夢を見た。なぜ名古屋を考えたのかと言えば、今回のテーマは【名古屋】だからに他ならない。
 ――見た夢とはこうだ。
 まず私は日本晴れのいい天気の下、天守閣にいる。城はむろん名古屋城だ。そして眼下には、なんと素晴らしい眺望であろう。土手に桜が咲き乱れ、お堀に花びらを散らせている。水面は空の青をより鮮明に映している。
 そして…・・・

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赤い財布

13/03/16 コメント:6件 光石七 閲覧数:2953

 午後の一コマ目の講義が休講になったので、彼は学食のテーブルでレポートを書くことにした。学食のメニューは安くて美味しいので昼時はかなり混雑するが、それ以外の時間は割と空いている。遅めの昼食をとっている者もいるが、友人と雑談をしたり、学習室代わりに利用している学生が多かった。
 レポート自体はまだ期限があるしそこまで難しくはなかったが、彼は困っていた。空腹だったのだ。どこをどう間違えたのか、気・・・

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笑顔になる魔法の言葉

13/06/17 コメント:15件 草愛やし美 閲覧数:2953

 私は、中華そばを見ると、必ず思い出すことがある。その思い出は、「美味しかった」という言葉と共に、いつも、私の心の中で生き続けている。
  ☆    ☆
「植田さんとこに、この中華そば出前しといで」
 忙しく立ち回りながら、母は手早く岡持ちに木蓋を被せて、中華そばの丼鉢を入れた。今まで数回、出前には行かされていたが、中華そばを運ぶのは初めてだ。うどんや、丼の茶碗と違い、中華そばの・・・

6

水底から一閃

17/02/13 コメント:6件 入江弥彦 閲覧数:2953

 無機質な声が注意事項をアナウンスし、数秒後に座席が大きく上下に揺れた。
 息子が驚いたように息をつめて、孫は小さく悲鳴を上げた。ごうごうと水の音が響いて、窓の外は一気に暗くなる。揺れが収まると、窓の外が照明に映し出される。立ち上がった添乗員が、右手をご覧くださぁい、と甲高い声で私たちにアナウンスした。
 息子からの提案だった。八十歳のお祝いに故郷を見に行くのはどうか、と。私のためとい・・・

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歸(とつぐ)―ある印判師の初恋―

15/02/22 コメント:10件 滝沢朱音 閲覧数:2951

 左平が座敷に上がると、既に座っていた僧衣の男は居住まいを正し礼をした。
「恐れ多い……お顔をお上げ下さいませ、沢彦(たくげん)様」
 沢彦宗恩。昇竜の勢いの武将・織田信長の師である彼は、かつて京の妙心寺にいた僧だ。印章を作る篆刻(てんこく)職人の左平とは、若き日に友誼を結んだ仲であった。
 その沢彦が都を去って早や幾年月。ここ尾張へ招かれた左平は、歴史に名高い『天下布武』印の作・・・

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あれこれそれ茶漬け   (1997文字)

13/03/31 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:2950


 今は桜花爛漫の時節、高見沢一郎は久々に単身赴任先から自宅へと向かってる。そんな途中で、駅構内の漬け物店へと立ち寄った。
 ケイタイを掛けてきた妻の夏子から頼まれている、「あれ、買ってきて」と。
「ああ、わかった、あれな」と、その時は忙しく一応返事したが、夏子の「あれ」が何の「あれ」なのか確かではない。だが、長年連れ添った女房、およそのことはわかる。

「すいません・・・

2

バカタレ、ボンクラ、アホンダラ

13/01/24 コメント:1件 おでん 閲覧数:2949

 バカタレはボンクラのことが好きでした。
 でもボンクラはボンクラなので、バカタレに好意を持たれていることなど一切気がつきませんでした。
 幸運だったのは、バカタレがバカタレだったことです。ありとあらゆるアプローチをボンクラに流されようとも、自分の想いは彼女に少しずつ、確実に届いていると信じて疑いませんでした。
 そんなバカタレを、どうしても放っておけないアホンダラがいました。<・・・

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