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10

深夜専門のタクシー

16/08/22 コメント:19件 泡沫恋歌 閲覧数:3607

「びっくりしました! ヘッドライトに白い影が浮かび上がった時には、もう悲鳴をあげそうでした」
 一台のタクシーが思いがけない場所で客を拾った。 
「こんな時間に、あんな場所で……人が歩いてるなんて驚いた」
 真夜中のトンネルの中を人が歩いていたのだ。
「手を上げて、お客さんに呼び止められたけど……本当は乗車拒否しようかと思ったくらいですよ」
 タクシーが止まると、若い・・・

9

Solitary desertion

13/04/11 コメント:13件 クナリ 閲覧数:3605

あの日から、何年経っただろう。
あの古い水族館が取り壊されると、私は地元の情報誌で知った。
遂にあの手紙が窮屈な暗闇から開放されると思うと、つい、羨ましい、と思った。

私が高校生の時だった。
私と級友のチナツは、それぞれの彼氏だったアキラとトワ君と共に、四人で日曜日にあの水族館へ遊びに行った。
なぜあんな寂れた所を選んだのかは覚えていない。ただ、楽しくて仕方が・・・

9

驟雨期 ― 新たなる進化を遂げて ―

14/04/18 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:3599

 22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 共産主義と資本主義というイデオロギーが違う二つの勢力が真っ向からぶつかり合い、同盟国や隣国を巻き込んで、果ては宗教紛争にまで飛び火して地球全体の戦いとなった。
 過去の遺物ともいうべき国連はなんら機能せず、戦争は激化して、最後は『核のドッジボール』によって幕を閉じた。
 100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によっ・・・

6

守りのデッドロック

14/09/14 コメント:11件 夏日 純希 閲覧数:3594

男たるもの、頑なに貫きたいことがあるだろう。
それを守ること、それ即ち矜持である。
だが、守ると何かを失うとしたらどうすべきか?

真っ白なゲレンデ、中級者コースから外れてしまった僕らは、
誰も踏みつけていない深い雪に囲まれて二人きりだった。

目の前には、愛しの佐伯さん。

僕らの関係と言えば、他人以上・恋人未満。
端的に言い直せば、告・・・

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卑弥呼が愛したスイーツ

13/11/03 コメント:9件 鮎風 遊 閲覧数:3588

 魏志倭人伝に〈南至邪馬壹國女王之所都水行十日陸行一月〉とある。
 つまり不弥(ふみ)国、現在の福岡市箱崎を起点に南へ、いやこれは間違い。東へ海路十日、もしくは陸路一月で、女王が統治する倭国の首都・邪馬台国に着くという。
 そして、〈卑彌呼事鬼道能惑衆年已長大無夫婿有男弟佐治國自爲王以來少有見者以婢千人自侍唯有男子一人給飲食傳辭出入〉、すなわち女王・卑弥呼は鬼道の宗主。夫を持たず、高齢・・・

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上州異伝【妻恋記】

12/06/28 コメント:6件 そらの珊瑚 閲覧数:3578

 赤城姫は寝台に身を横たえながら、赤子に乳を与えている。
「あの人ったら今夜もまた午前様だわ。絶対どこかで浮気しているに違いない。そうであったら私にも考えがあるんだから」
 いつの時代にも、亭主にとって妻の眼を盗んでする浮気ほど楽しいものはないのだ。そしてそのことが夫婦の火種になることも世の常。それは神々の間においても変わらないことなのだ。
 赤城姫の夫は浅間ノ尊(アサマノミコト・・・

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壁の向こうの男と女 ── 刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)

14/02/14 コメント:9件 鮎風 遊 閲覧数:3573

 OL斬殺事件、その重要参考人として山端郁夫の取り調べが始まった。
「あなたは一流企業の重役候補。それでも部下の、いや愛人の里村綾乃を刺し殺してしまった。邪魔になったのですか?」
 慇懃無礼に問い質していた刑事、今度は「会社は首なんだよ。だから、全部吐露せ!」と頭に血を上らせ、椅子を蹴り上げた。「綾乃との縁を切るつもりはありませんでした。だから私は殺害してません」と山端は声を震わせた。・・・

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わたしのエゴらいふ(笑)

12/06/11 コメント:3件 泡沫恋歌 閲覧数:3569

 ――ひと言でいうと、わたしは夫の性格が嫌いです。

「おーい」
 階下で夫の呼ぶ声がする。二十五年ローンの安普請の三階建住宅は、階段ばかりが多くて昇り降りが大変、毎日がうんざり。
 一階の駐車場に置かれているゴミ袋を開けて夫が何か言っている。
「なぁに?」
「家庭ゴミの中にマヨネーズのキャップが入っていたぞ!」
 赤いキャップを摘まんで目の前に突き出す。・・・

2

真夏夜の水族館

12/07/15 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3567

 梅雨は明け、本格的な夏が始まった。熱帯夜が続く。
「暑くって眠れないなあ。節電しないとダメだけど・・・・・・、えーい、クーラーの設定温度下げてみるか」
 単身赴任中の高見沢一郎、こんな独り言を吐き、ベッドからすり下りた。そしてリモコンで2℃落とし、後は冷蔵庫へと直進する。

 水分を補給しなければ、そんな強迫観念で、コップ一杯の冷茶をゴクリゴクリと飲み干した。そして片付け・・・

4

時は短し選べや決めろ

13/06/04 コメント:6件 alone 閲覧数:3567

この度の戦場は、○×中学食堂脇にありし券売機の前。
許されうる時間は、わずか十数秒。
決着は一瞬。誤れば、味わうは後悔という敗北の味。
選ばねばならぬ。どちらを。
今日の昼食。A定食か、それともC定食か……。

私は券売機前に連なる長蛇の列に身を置きながら悩みに悩んでいた。
今日の昼食、どちらにすべきか。
量りに掛けられたるはA定食とC定食。どちらも・・・

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零れる2人の涙

12/11/13 コメント:3件 ポテトチップス 閲覧数:3563

シトシトと降る雨が傘にぶつかり音を立て、遠くの方からは酔っ払いと思わしき複数の男性の甲高い叫び声が聞こえていた。
達也は足を止めて後ろを振り返ると、美鈴が俯き気味で後ろをついて来ていた。
美鈴の後方では、雨の中でも2012年のクリスマスを楽しもうとするカップルが、手を固く繋いで繁華街の方に歩く後ろ姿が見えた。
「美鈴、ちゃんと傘させよ」
髪と肩が雨で濡れた美鈴が顔を上げて頷・・・

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妹の郁子

13/02/20 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3558

 洋一は久し振りに実家に帰った。父は八年前、そして母は五年前に他界し、今は誰もいない。家には火の気はなく、春だというのに冷え込む。還暦をとっくに過ぎた洋一、その冷たさが身に沁みる。
「さっ、飾り始めるか」
 洋一は気合いを入れ直した。今からお雛さんを飾ろうというのだ。
 まず納屋から古い木箱を運び込んだ。そしてそろりと蓋を開けてみる。少しかび臭い。覗けば、新聞紙に包まれた大小それ・・・

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昭和日記 1964年東京オリンピック その2

13/09/09 コメント:5件 草愛やし美 閲覧数:3550

  祝、2020年東京オリンピック再びあの感動を!!

 昭和日記東京オリンピックのその2です。


  ☆      ★      ☆



 1964年10月10日(土曜)開会式は壮大な始まりの時を迎えていた。前日には台風が接近していたというがこの日は抜けたような青空の秋晴れだった。国立陸上競技場に出場選手が入ってきた。行進する選手の前に掲・・・

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愚か者

14/01/22 コメント:25件 草愛やし美 閲覧数:3550

 あれほど心焦がした純粋な想い、あのエナジーを表す言葉なんて見つからない。目を瞑ればあの刹那が網膜を焦がし蘇る。だが、愚か者に答えは見出せない。蒼ざめた唇が砂を噛んだ日々は二度と戻らず。

 記憶の糸を辿る、何も、ここに来て哀愁に浸るつもりなどなかったはずなのに……。洋子と離婚調停が纏まったからだろうか? なぜここに来てしまったのか、自問自答しても答えは出ない。自分が、生きてきた証を失・・・

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野兎

13/08/09 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:3549

「おばちゃん、おばちゃん、聴こえますか?」
「……どうやら、昏睡状態で意識がないようだ」


 ――いいえ、ちゃんと聴こえてるよ。
 お嫁さんと息子の声が……だけど、身体が動かないし、返事もできないんだよ。子、孫、曾孫まで、私の最後を見届けに病院に集まってくれたんだね。皆の声が聴けて嬉しいよ。
 人は死ぬ時、過去の出来事が走馬灯のように頭の中を巡ると聞いたが、浮・・・

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ラルール・オローラ 〜生命の傘〜

12/05/12 コメント:0件 黒沢 文章 閲覧数:3546

「もうすぐ月は三万六千個の隕石へと変貌します」
 耳を疑った。いきなり何の話だ?
「銀河テロリストの仕業です。今から四ヶ月程前に声明があったんです。『我々はこの天の川銀河内にある有人惑星、その内の一つの文明と生命体を壊滅させる』、ふざけやがってです」
 そう言い、妹は脚を抱えて座り込んだ。まるでふて腐れたように、膝の上に顎を乗せて。
「お前、何か変なもんでも食ったのか?」<・・・

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男と女の交差点

13/05/19 コメント:12件 鮎風 遊 閲覧数:3538

 日曜日の午後六時、名古屋駅の新幹線プラットホームは人たちで溢れている。そんな中に、目に涙を浮かべた一人の女性が……。
 年の頃は三〇歳前だろうか、若くて張りのある肌に、初夏をイメージさせるマーメイドブルーのワンピースを着こなしている。その洗練されたたたずまいに柔らかくカールされた髪が纏わり、いかにも都会的なセンスが窺(うかが)われる。
 そんな女がおもむろに向かいのホームに目をやり、・・・

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ぼくと彼女と、たこわさび

12/03/21 コメント:1件 ゆひ 閲覧数:3536

「やさしくなるには、どうしたらいいんだろう……」

彼女は、そう言って、ぼくが頼んだ中ジョッキを飲み干した。
まずは人のお酒を横取りしないことから始めたらいいんじゃないですか。
そう言ってみると、彼女は「いいこと言うね」と満面の笑みを浮かべた。

「ところで、いいんですか? あっちは」

ぼくは”あっち”を指さす。
彼女はどこかの職場の飲・・・

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ハートカクテル-疲れたあなたに寄り添うBar-

18/01/27 コメント:0件 黒猫千鶴 閲覧数:3535

「いらっしゃいませ」
 仕事帰り。何も考えずに足を運んだバーの扉を開けると、カウンターの中に一人の女性バーテンダーが立っていた。彼女は業務的な挨拶を済ませると、すぐに手元のシェーカーに視線を落とす。布巾で磨かれた銀の器は、照明の光を反射させた。
 店内を見回すと、僕以外の客は誰もいない。いわゆる貸し切り状態だ。
 カウンター席は五つ、テーブル席が三つとこじんまりしてる。でも、そこ・・・

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斎藤にまつわる、いくつかの存在証明

16/05/27 コメント:2件 秋吉キユ 閲覧数:3531

「雨水って汚いんだぜ?」と、斎藤に言った。
 
俺の差すビニール傘が届く範囲では、とても斎藤を雨から守り抜くなんてできなかった。

びしょ濡れになった色素の薄い髪と肌を気にも留めず、斎藤は大きく手を広げて、唇を開いて。舌の上で跳ねる雨の粒を、慈しむように舐めた。
 
「それって美味いの?」
 
質問を重ねると、ようやく斎・・・

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無口な子

13/08/02 コメント:24件 草愛やし美 閲覧数:3528

 我が子は、一言も声を発することなく、私達とは違う世界へと旅立った。何のために辛い不妊治療を受けてきたのだろうか。二十週目から、私はずっと大事を取って産院に入院し続けてきた。ようやく授かった我が子に、一言の言葉もなく逝かせてしまったのは、私の身体がいけないのだ。あの時、あんな選択をしなければ……。後悔しても遅いことも、どうしようもできないこともわかっている。それでも、私は、罪人だ。経済的な理由で、・・・

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ガロの死

14/12/01 コメント:14件 草愛やし美 閲覧数:3527

 昭和三十年代、人々は貧しく食べるために必死になって働いていた、そんな時代の話です。

 我が家ではずっと番犬として犬を飼っていた。一番印象に残っている犬は、雑種だが洋犬のようにふわふわした薄茶色の毛並をした『ガロ』という犬だった。大衆食堂に加え近所の工場へ給食を提供していた我が家では、残飯が出るので犬の餌には困らない。ガロは小柄なのに、毎日、残飯が入ったバケツに頭を突っ込んで食べると・・・

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年下のサンタたち

12/12/02 コメント:2件 クナリ 閲覧数:3514

私の19歳のクリスマスの予定は、アルバイトで埋まっていた。
ケーキ店の店先で後輩のユミちゃんと、ケーキを売りまくっていた。

25日の昼過ぎ、やっと人が少し途切れた。
「ユミちゃんて今晩の予定とかあるの?」
「家族とですよ。もう高二なのに」
高校の三年間、私にはいつも隣にある人がいた。向うから告白されたのだけど、別れを切り出されたのもつい先月、向うからだった。<・・・

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僕の目の前で、親にドブネズミと言われた少女

15/02/14 コメント:13件 クナリ 閲覧数:3512

渋谷駅を出て、会社への近道になる裏通りへ入る。
すると脇の建物から、いきなり高校生くらいの女の子が転がり出して来た。
その建物の入り口には、似たような年格好の女子が三人程立っている。
「大げさに転ばないでよ。あんた、池袋かアキバに行けば」
転がって来た子は、成程、ヘッドドレスからロリータワンピース、リボンパンプスまで、ゴシックロリータで決めていた。
その子は三人を睨み・・・

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コントラスト

14/03/31 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:3511

 日向千夏は混血かと思うほど彫りの深い顔と長い睫毛、色白でスタイルの良い彼女は目を惹く美人だった。
 それに比べて無口で不細工な私は冴えない存在で千夏しか友達がいなかった。コントラストとして千夏という太陽が歩くと、その足元にへばりつく影のような存在だった。
 なぜ千夏が私を友人に選んだのか、その理由を知ってショックを受けた。
 ある日、千夏がデートに誘われたが一人で会うのが不安な・・・

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私のルーツ

12/06/16 コメント:3件  閲覧数:3510

私の両親は離婚している。父は酒を飲むと家族に暴力をふるい、酔いが覚めると何もなかったかのように不可思議な雰囲気で朝食を食べて、何も言わずに警察署へ勤務していた。
社宅に住んでいたので、隣近所は夜中の罵声や怒声や格闘しながら殴ったり蹴ったりしている物音を聞いていたにちがいない。夜中に父は母を公園へ連れ出して、何度も殴った。
その時から母は私に「あんたが生まれてから暴力をふるわれるようにな・・・

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「呪いの手紙」

13/04/12 コメント:7件 鹿児川 晴太朗 閲覧数:3507

俺はこれまでに手紙を書いたことなど一度もない。
だから書き方など知らない。けれど、書かずにはいられない気分だった。
生まれて初めて書く手紙が、俺を捨てた恋人への「呪いの手紙」だなんて。
ちくしょう、最後まで忌々しい女め。

手紙の出だしは、どう書けばいいんだっけ。
あ、まずは宛名を書かないといけないのか。
よし。「アバズレ女のユキ子へ」と。
いやいや・・・

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四十ニシテ惑ハズ

13/06/05 コメント:13件 光石七 閲覧数:3503

 いつの世にも優柔不断な人間はいるものだ。木野弥生も幼い頃から何かを決めるということが苦手だった。外食したら、他の者はとっくに注文しているのに、最後までメニューとにらめっこするのが弥生だ。好きな人ができても告白すべきかどうかでまず迷い、友人に励まされてやっと告白すると決めても、手紙がいいか、直接告げるのがいいか、いつどこでどんな形で告白しようかと散々悩み、結局その間に他の子が相手に告白してカップル・・・

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群馬の地上絵

12/07/11 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:3503

「今年もやっと見つけることができたか、良かったよ」
 単身赴任の圭吾(けいご)は、誰もいない部屋で感慨深く独り呟いた。そして、マグカップを手にし、冷え切ってしまったコーヒーをおもむろに口にした。その後、パソコンをパチンと閉じた。

 思い起こせば、佳奈瑠(かなる)と結婚してから二十五年の歳月が流れてしまっている。そして今年は銀婚式の年だ。
「まあ、よくぞここまで、やれてこれ・・・

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アドニスのためのパヴァーヌ

15/02/03 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:3499

 フランスの作曲家モーリス・ラヴェルが1899年に作曲した『亡き王女のためのパヴァーヌ』は抒情的で美しいメロディだ。この曲の亡き王女とは、ハプスブルク家のマルガリータ王女をモデルに作られたといわれているが、その王女は21歳の若さで亡くなっている。
 この曲を聴く度に、こんな映像が頭の中に浮かぶ、雲の切れ間から放つ一条の光に導かれて、小さな女の子がゆらゆらと舞いながら天国へ昇っていくのだ。

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宇宙船アカン号

13/01/27 コメント:5件 草愛やし美 閲覧数:3491

「おはようございます。宇宙光年▼○△☆年&月$日の朝のニュースをお伝えします」
 うるさいアナウンサーの声が宇宙ステに響いている。宇宙ステとは宇宙ステーションの略ではない。宇宙棄て、要するにゴミ棄てのための宇宙船だ。地球上がゴミの星に化してから、いったい何年経ったことか。ゴミは棄てても棄てても増え続ける。焼却にも限りがある。昔から存在するダイオキシンなどの有害物質より恐ろしいdai大キシン・・・

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罠尾軒の人々。

16/01/17 コメント:16件 滝沢朱音 閲覧数:3488

 灰次郎は、今日も天秤棒をかつぐ。
 桶には「猫、買い〼(ます)」の札。にゃうにゃうと騒がしい蓋の隙間からは、かわいい手が交互にのぞく。年の瀬は仕入れ時だ。
 人目を避けて近づく着流し姿の男は、憔悴した顔をしていた。まだ若そうな三毛猫が、男の懐からちょこんと顔を出している。
「文猫(ふみねこ)ですか?」
 灰次郎が聞くと、男は首を横に振った。
「では、あ・・・

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効能は神経痛・きりきず・愛情増進!?

12/07/06 コメント:4件 草愛やし美 閲覧数:3485

「お風呂きっと空いていると思うよ……、ここの露天風呂は赤城山が凄く綺麗に見えるそうなんだ……」
 遠慮気味にいう夫の言葉に頷いてみせた。でも入る気など毛頭ない私だ。私の体には大きな傷跡がある。2年前、夫の引き起こした車の事故のため私の体はぼろぼろになった。命は取りとめたものの大きな傷跡が残った。助手席に乗っていた私は事故の衝撃をまともに受けてしまったのだ。夫を怨むつもりはなかったが、体に傷が・・・

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お雛様を飾る日

13/03/01 コメント:9件 そらの珊瑚 閲覧数:3483

 江ノ電は民家の壁すれすれに走っていく。洗濯物に手が届きそうな近さだ。まるでオモチャのようなこの愛らしい電車に乗ると、かつて女子高生だった頃の自分が戻ってくる気がする。しばらくすると海と並走する。春まだ浅い銀色の鱗を鎌倉の海は浮かべていた。
内向的な少女だった私は、学生鞄に一冊の詩集を常に忍ばせ、集団で群れることにいつまでも慣れず、孤独であることはさみしい事ではないと思い込もうとしていた。<・・・

2

頭は雲の上に

13/10/05 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:3480

 その朝小雪は、七時五分に目をさました。
 いつもより五分、遅い目覚めだった。
 ベッドから起き上がろうとしたとき、パジャマの肩の部分がビリッと音をたてた。床に足をついたとき、こんどは腰のあたりがまた、ビリッと破れた。
 パジャマはそれからも、小雪が動こうとする度に破れつづけて、洗面所にいきついたときにはもはやボロボロで、ほとんどパジャマの形態をなしていなかった。
 トイレ・・・

7

初春の…ああ!

12/12/15 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3476


「うーん、もうちょっと」
 男は温もりが心地よく、布団から抜けられない。さらにうつらうつらと微睡(まどろ)み、目を覚ますと昼前。やっとのことでゴソゴソと起き出した。あとはコーヒーを沸かし、こんがりと焦がしたトーストでハムを挟み囓る。元旦だというのに普段の朝と変わらない。
「初日の出を撮ってくるわ」
 妻は一眼レフカメラを抱えて、年末から行方不明。どこへ出掛けていったものや・・・

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下調べ

12/05/14 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:3475

店に入るなり,はん子は、窓の外をひと目みて、

「まあ、高い!」

ぼくはあわてて、口の前に指を立てた。

「しっ。店の人に聞こえるじゃないか」

「あら、わたしのいってるのは値段じゃなくて、29階の高さのことよ」

店の人が注文を聞きにきた。

「ローストンカツ、お願いします」

「あたしは、カツカレー」
・・・

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さらば可笑しき探偵よ

13/06/20 コメント:26件 泡沫恋歌 閲覧数:3474

 それは単なる浮気調査だと思っていた。まさか、こんな事態になろうとは予測もしなかった。
 俺は叔父が経営する探偵事務所で働いている。「マーロウ探偵局」いかにもレイモンド・チャンドラーの崇拝者だと知れてしまう名前である。実際、トレンチコートにボルサリーノのフェドラを被った叔父はいかにも「名探偵」という格好なので、尾行には目立ち過ぎて使えない。
 大学を卒業した後、俺は就職したのだがサラリ・・・

2

愛の逃避行

12/09/18 コメント:12件 泡沫恋歌 閲覧数:3470

 先ほどから、駅構内の時計ばかり見ている。
 もう何本電車を見送ったことだろう。駅から見える海岸線をぼんやりと眺めながら男が来るのを二時間以上も持っている。携帯にかけても留守電なので同じメッセージを何本も入れた。
「蓉子です。江ノ電の鎌倉高校前で待っています。早く来て……」
 最後の言葉は涙声になった。ここで待っていろと言ったのは男なのに、なぜ来てくれない? 足元のボストンバッグ・・・

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銀輪

12/07/09 コメント:1件 山田えみる(*´∀`*) 閲覧数:3467

 郊外の公園のベンチの上。
 そこがぼくの定位置だった。ぼくはここから見る景色が好きだった。春の緑や夏の青、秋の紅に冬の白。その変化を味わうのは最高の贅沢だった。住宅街に近いので、よくお母さんが子供を連れて遊んでいる。いつもここにいるぼくは、いつ不審な眼で見られるのではとびくびくしているが、やはり公園はみんなのもの、ただここでぼけーっとしているだけのぼくも許容されていた。
 そんなぼく・・・

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まだ駄目だ

12/04/16 コメント:2件 松定 鴨汀 閲覧数:3464

雨の夜の帰り道。
きみは一人ではない。
きみの傍にはたくましい男性が並んで歩いている。
きみはその男性の手をにぎり、そのぬくもりを感じでいる。

だが、駄目だ。まだ安心してはいけない。

きみのカーディガンの袖は2人分の傘からしたたる雨水をぴとりぴとりと吸い込んで、変色している。
しかし、彼はまだ気づかない。
会社であったこと、将来の夢、昨日見・・・

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豊後国を駆け抜けた命

12/06/28 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3455

「龍馬、あしたの朝は早いぞ、もう寝ようぞ」
「はい、先生、そうしましょう」
 二十八歳の竜馬は、師と仰ぐ勝海舟に殊勝に答えた。そして、本殿の仏間から漏れくる薄明かりの中でそろりと瞼を閉じた。

 時は文久四年(1864年)、疾風怒濤の幕末だった。英、米、仏、蘭の四カ国による下関砲撃が続いていた。幕府はそれを中止させるため、勝海舟に長崎に出向き、その交渉にあたれと命を下した。・・・

2

揺れ動く、

13/08/06 コメント:6件 ありす 閲覧数:3453

 



 二年生で都会から田舎に越してきたため、友人も少なく、何も解らなかった。その時仲良くしてくれた男子が遠藤春樹だ。彼は新しい友達を紹介してあげると、得意気に俺に笑いかけた。

「変な奴だ」

 ぼんやりそう思いつつ、その「新しい友達」とやらの存在を待つ。そしてその場に連れて来られた女子が、小野寺香織だった。
 香織は可愛らしい雰・・・

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昭和日記 1964年初めての東京オリンピック その1

13/09/09 コメント:3件 草愛やし美 閲覧数:3452

 祝、2020年東京オリンピック再びあの感動を!!

 私は、ライフワークとして5年前くらいに「昭和日記」を書いていました。その中より、今回、1964年に開催されました、東京オリンピックの思い出話を自由投稿してみたいと思います。過去作ですので、文章も整っていませんが、7年後のオリンピック開催が嬉しく、2回に分けて投稿させていただきます。私が、どんな風に初めてのオリンピックを感じたかを書・・・

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あなたの【 未来 】占います

14/08/02 コメント:8件 泡沫恋歌 閲覧数:3451

『あなたの【 未来 】占います』
 人通りの少ない路地の奥で、こんな看板を書いた占い師がいた。
 私に未来なんかあるのだろうか? 十年近く付き合っていた男に振られた。
 理由は来月結婚するから……気づかなかったけど、二股かけられていたみたいで相手の女性の方が若いから、そっちと婚約したのだ。――ああ、私の存在って何だったの?
 私、今年で三十二だよ。新しい彼氏を見つけるのも難・・・

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生滅の時に

13/01/21 コメント:11件 草愛やし美 閲覧数:3447

「何って言ったの、あんたって子は」
「白紙や、白紙で出してきたんや」
「あんた、高校受検何と思うてるの、どないするつもりなん」
「僕は、お寺は継がへんって言うたのに、無理やり仏教系の私立専願行けって、誰も頼んでないわ。僕は、サッカーやりたいだけや」
「お前は、寺の息子、それも長男やのに……」
「継がないって言っただろう」
 母は、悲しそうな顔をして僕を見つめただ・・・

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プリンの力

13/11/16 コメント:20件 草愛やし美 閲覧数:3446

 そのプリンは、オーラを放っている。冷たくプルルンと揺れる卵黄色したプリンは夢の世界を醸し出す。誰よりも、待っていたのは私達親子だった。

 昭和五十九年、少し肌寒い春の日。
「さあ、行こう、じいちゃんばあちゃん、待っているで」
 息子二人は、嬉しそうに自分達の荷物をリュックに詰める。終業式を終えたその日、私達親子三人は隣県にある実家へ遊びに行った。小学四年の長男は、少し風・・・

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ミニングレス ノスタルジ

13/05/20 コメント:10件 クナリ 閲覧数:3443

家出して二日目の夜。
子供の頃から慣れ親しんだ裏山でも、やはり夜は不気味。廃屋となった炭焼き小屋が残っていたのは有難かった。
高校二年生にもなって臆病だなどと、隣にいるマナカに思われたくなくて、僕は平静を装う。同い年のマナカは、小学校で出会った時に僕が予感した通り、美しく成長していた。

僕らの目の前には、固形燃料で沸かしたお湯を注がれたカップラーメンが二個ある。頃合を見て・・・

10

すーちゃんのおねえちゃん

14/09/21 コメント:13件 泡沫恋歌 閲覧数:3442

『すーちゃん、すーちゃん』

「ママ、今、だれかの声がしたよ」
「えっ? そんな筈ない。この家には涼香(すずか)とパパとママの三人しかいないわ」

 田舎にある古家に住むことになった。
 この家はパパのお祖母ちゃんが亡くなる日まで一人で暮らしていた。戦前に建てられた日本家屋で、地主だったという旧家の立派な建屋である。
 こんな辺鄙な山の中に住む人もなく、取・・・

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渋谷スイングバイ

15/03/08 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:3435

ビルの最上階、『コスモプラネタリウム渋谷』の入り口前。
なんで、ツイてないんだろう?落とした百円は、自販機の下に隠れて見えない。
あたしが膝をついて下を覗き込んでいると、何かがその上を通過して、自販機のカチャッと動く音がした。
ああ、まだお金入ったままだって!思ったその目の前に、買うはずのチケットが舞い降りる。これがにやけ面の茶髪男ならナンパが目的だろう、しかし予想は違った。

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