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6

コーヒー染めの恋

12/11/26 コメント:10件 草愛やし美 閲覧数:3884

「染めてみたの……」
 僕の前にぬっと突き出されたそのスカーフは見覚えがあった。
「確か、それって……」
「うん、そう、あなたが贈ってくれたものよ」
「真っ白だったよね」
「そう、白かった、でも、それは、過去形。こんな色になったの、コーヒーで染めたのよ」
「コーヒーって!」
「さあね、琥珀色といえば聞こえはいいけど、もう、白でなくなったわ。あの時、あなたは・・・

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時空エレベーター

12/10/24 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:3883

 38階建てのビルの最上階へ行かなければならない用事があった。
 ビルを見上げるとクラクラするような高さだ。あのてっぺんに上るのかと思うだけで冷汗がでた。私は高所恐怖症で飛行機も怖くて乗れない男なのだ。
 エレベーターに乗ると38階のボタンを押す。展望用の大きな窓が付いているが、私は怖くて外の風景を観れないのでドアの方を向いて立っている。
 突然、13階でエレベーターが止まって動・・・

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黒い長財布

13/03/26 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:3882

 アパートの部屋の前で財布を拾った。
 それは黒い長財布だった。中を開いてみたら一万円札がギッシリ詰まっている。全部ピン札で数えてみたら百万円入っていた。
 その財布には現金の他は何も入っていない、だから落とし主が分からない。いったい誰がこんな大金を落としたんだろう? 俺の住んでいるアパートは古くて狭いし底辺な奴らが住んでいる。こんな大金を持っている筈ない――。明日、交番に届けるつもり・・・

4

さよなら、〔星の王子さま〕

12/10/31 コメント:16件 泡沫恋歌 閲覧数:3878

 あれから、ずいぶん時が過ぎていった。。
 街も人も変わっていくのに、封印された想い出は色褪せず、今も私の心の中に棲んでいる。星になってしまった、私の王子さま――。

 駅の構内にある書店。
 私たちは本が好きだったのでデートの待ち合わせ場所はここと決めていた。当時、OLだった私は先にきて婚約者の彼を待っていた。急な仕事で待ち合わせに遅れることもよくあったが、書店の中だと好・・・

6

無慈悲な人

13/07/06 コメント:10件 鮎風 遊 閲覧数:3875

 高瀬川亮平へ
  随分とご無沙汰ですが、元気にしてますか?
  ところで、先月、義男が他界しました。
  その生命保険の受取人は、故人の遺言で亮平です。
  受け取ってください。
                 母より

 何年ぶりかに届いた母からの手紙、実に簡潔に書かれてあった。
「そうか、ついに義男は亡くなったか」
 亮平は忸怩たる思い・・・

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レジェンド オブ ザ スクール

12/12/19 コメント:16件 そらの珊瑚 閲覧数:3870

 月の光、それは偽りの光。太陽から盗んできたものだ。
    ◇
「月(つき)ちゃん、具合はどう?」
「月ちゃん、こんにちは。顔色、けっこうよさげだね」
「陽(はる)ちゃんと等くん、来てくれたんだぁ」
 私は不治の肺の病気で、入退院を繰り返している。
 陽と一緒に入学した高校も休みがちで、このままでいったらおそらく一緒に卒業はできないだろう。
 陽と私は一・・・

8

空から降ってきたモノは、

14/04/27 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:3870

 街路樹と石畳が黄金色に染まっていく黄昏の街、古い曲だがエルトン・ジョンの「Goodbye Yellow Brick Road」いう歌をハミングしながら僕は歩いていた。
 爽やかな風が吹いて、初夏の汗ばんだ肌に気持ちがいい。
 人って意味もなく幸せだって感じる時があるよね? あの日の僕はそんな気分だった、何か良いことが起きる予感がしていたから――。

 一陣の風が舞い、ハラ・・・

9

鬼獣丸

14/02/21 コメント:20件 泡沫恋歌 閲覧数:3862

 殿上人の姫君が鬼の子を産んだと京童たちの間で噂になった。
 治部卿の娘、一の君が父親の分からぬ赤子を産んだが、それは鬼の子だったというのだ。
 産み落とした我が子をひと目見るなり、余りのおぞましき姿に発狂し姫は身まかった。治部卿は異形の孫を葬り去ろうとしたが、陰陽寮の技官に鬼の祟りがあるやも知れぬゆえ、殺さず、人目に触れぬように生かせと助言された。一の君の産んだ男児は、屋敷の奥深く密・・・

8

事故物件

15/01/03 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:3845

 ビル管理の会社を始めて、三十年経つ。女一人で宅建の資格だけを頼りにやってきた商売だが、バブルの頃にはそこそこ儲かった。
 郊外にマンションを買い、外車を乗り回し、結婚はしなかった、当然子供もいない。独り身の気楽さは有るが、やはり年齢と共にひしひしと孤独を感じることもある。一昨年、十八年飼っていた愛猫に死なれた時には……心にぽっかりと穴が開いてしまった。私にとって身内と呼べる家族はその猫だけ・・・

3

未確認生物 『パンダ猫』

12/09/06 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:3831

「浩二、卒業してからどうしてたんだ。それで……、発見できたのかよ?」
 駅構内にある喫茶店で、私は学生時代の友人、稲瀬浩二に向かい合いズバリ尋ねました。なぜならあの頃の浩二は未確認生物探検同好会のリーダーをやっていて、よくリュックを担(かつ)ぎ山や無人島へと出掛けていたのを憶えていたからです。

 そう言えば、当時はツチノコブームでした。探検から帰ってきた浩二はその存在の可能性を・・・

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友達になるということ

17/12/31 コメント:4件 ひーろ 閲覧数:3830

 その少年は、孤独でした。孤児院には一人も友達がいません。淋しさのあまり涙を流すこともしばしば。頼れる人など、誰もいないのです。淋しい。涙。淋しい。涙。毎日がその繰り返しでした。  あるとき、少年は自分の置かれている現状に耐え切れなくなって、神様にこんな願い事をしました。 「日本中の人たち全員と友達になりたい」  彼の思いは極めて強いものでした。それゆえ、悩みに悩んだ挙句、神様は彼の願い事を叶えて・・・

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無人駅の子

13/09/20 コメント:27件 草愛やし美 閲覧数:3819

「しいちゃんここで待っていて、母さん、すぐに戻って来るからね」
 そう言って母は、改札を出て行った。田舎の駅、初めて来た知らない駅。誰もいないホームにポツンと一人残された私は、母を待った。手には母が置いていったジュースの小瓶と、少しばかりの菓子の入った袋を持ち待っていた、何時間も無人駅で。最終列車らしきものが、通り過ぎても母は戻って来なかった。山奥のその駅の近くの人からの通報で、私は、その駅・・・

6

妻チョコ

13/02/04 コメント:10件 鮎風 遊 閲覧数:3816

 高見沢一郎は昼食を終え、デスクで寛(くつろ)いでいる。そんな時に部下の榊原がうつむき加減で通り過ぎようとした。高見沢はとりあえず上司、「おい、どうしたんだよ?」と声を掛けると、榊原は今にも泣きそうな顔をして擦り寄ってきた。
「先輩、聞いてくださいよ。実はもらっちゃったんですよ」
 いつものパッパラパーの榊原とはちと違う。「何をもらったんだよ?」と訊いてやる。
「歳を重ねた先輩に・・・

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彼女が無口な理由

13/07/15 コメント:14件 光石七 閲覧数:3807

 高校生活がスタートして二ヶ月が過ぎた。初めのうちは同じ中学出身者同士で固まっていたけれど、今はもう新しい仲良しグループができている。休み時間にダベったり、お弁当を一緒に食べたり、買い物に付き合ったり、私もそれなりに楽しんでいる。
 クラスの中にどのグループにも属さない女子がいた。琴田さんだ。かわいい顔をしているのに、大人しくてあまりしゃべらない。話しかけても簡単な返事を返すだけ。授業で同じ・・・

8

夜店のお面売り

13/08/21 コメント:3件 石蕗亮 閲覧数:3805

 祭りや縁日で軒を並べる夜店の一団に馴染みの団体があった。
地元の八坂神社の祭り、その2週間後の湊祭り、盆明けに母の実家の縁日。
2ヶ月の間に3回も同じ団体と顔を合わせているのが5年も経つと、お互いを覚え馴染みになった。
 それまで私は夜店というのは個人でやっているのだとばかり思っていた。
しかし馴染みになり、そのうち店番を頼まれるようになると横の繋がりがわかるようになり、・・・

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浅草の夢

13/03/28 コメント:6件 yoshiki 閲覧数:3792

 浅草ときくと自分はどうしても江戸川乱歩を連想してしまう。乱歩という人は浅草と言う街を本当に愛していたらしい。浅草ゆえの東京住まいと随筆に書いていたと聞く。
 自分が初めて乱歩の小説を読んだのは十年ぐらい前の事で、『青銅の魔人』というのを読んで、全然面白いと感じなかった。それというのもこれは少年探偵団の出てくる比較的後期の作品で子供向けの要素が多かったからだろう。それから無知な自分は当分乱歩・・・

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ビューティーコロン

15/07/20 コメント:10件 泡沫恋歌 閲覧数:3790

「チクショウ! これで何度目の失恋だろう」
 今しがた男に別れようと言われた。理由は他に好きな子ができたから……また、それかよ! そんな言い訳で今まで何度ふられたことか、悔しいけど本当の理由は分かっている。私がブスだからでしょう。
 私の容姿といったらチビで短足、貧乳だし、顔は色黒、細い目、あぐら鼻、しゃくれ顎、おまけにド近眼。整形したくとも、どこから手をつければいいのやら……究極のブ・・・

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どこかで、こんな…『蟻 & 角砂糖』的な…クリスマス・プレゼント

12/11/29 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3788

「ありがとう」
 今宵はフランス料理のクリスマス・ディナー。涼太はシェリー酒を一口飲み、あらためて世話になってるお局さまの真奈に礼を述べた。
 だが真奈はアベリティフで口を潤しながら「うん」とだけ頷いた。そしてオードブルのフォアグラにナイフを入れながら、自虐的なことを言う。
「だけどね、私は結局……蟻みたいなものだったわ」
 涼太は真奈が唐突に吐いた言葉、蟻の意味がわからな・・・

7

もうひとつの天の川

14/07/07 コメント:9件 草愛やし美 閲覧数:3787

「かあ……たん……」
 虚ろな母の目に、四歳の娘は映らず、再び名を呼ぼうとした小さな声は夜の闇に消えた。梅雨明け前の七夕は雨が多い。だけど、その日は珍しく月の綺麗な夜だった。月の光が、青白い母の横顔を優しく照らす。
 その日、夏奈が、保育園で貰った小さな笹飾りが、ザワッと揺れた。母の手は颯音のか細い首に回され力が込められていた。苦しさにもがき空を切る幼い手が、壁際に持たせかけてあった笹・・・

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青く光る森の妖精

14/07/24 コメント:16件 草愛やし美 閲覧数:3782

 その森では、今も夜になると仄かな青い光が灯るという……。あれから、何年経ったのだろう。少年はその森で何を見たのだろう?
 自国のみが唯一の民と主張する独裁者バドは、テロやゲリラ戦を仕掛け隣国ナモハに攻め入り支配下に置いた。バドの狙いは、その地に眠るエネルギー資源。その採掘場はナモハの北の果ての森にあった。だが、莫大なエネルギー物質は、人の命を危険にさらすものだった。採掘に従事させられたナモ・・・

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櫛 くし

13/11/04 コメント:27件 草愛やし美 閲覧数:3770

「母ちゃん、こんな綺麗な櫛落ちてた」
 母は、あからさまに曇った表情になった。
「櫛……母ちゃん」
「あのね、未奈、櫛は駄目なの」
「何で? 綺麗な櫛だよ」
「櫛は、九四の数字に当てはめて、苦や死を指すの。だから、病人や不幸な人が、自分の苦しみや不幸を誰かに代わってもらいたい時に、道端にわざと置く物なの。そして、拾った人は、その苦死を受け継ぐことになる。早く元の場所に・・・

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獄門磔(ごくもんはりつけ)の刑 ── 刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)

14/03/12 コメント:10件 鮎風 遊 閲覧数:3769

 町の外れに老舗料亭の廃屋がある。
 風光明媚な景観を売りにしていたが、リーマンショック後廃業となった。今では木々が館を覆い、また庭園にあるベンガラ色の獄門は朽ち、一面雑草が生い茂ってる。まさに由緒ある料亭は過去の遺物と化したと言える。それ故に危険、鉄条網が張り巡らされてる。
 こんな廃墟で、凄惨な斬首事件が起こった。所轄署は直ちに捜査に乗り出し、その第一報告書がここにある。
<・・・

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生滅流転 (しょうめつるてん)

12/11/22 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3764

「どうしたんだ?」
 悦蔵は、何かに怯えて、うずくまる紗菜に訊いた。妹は「うーうん、兄さん」とだけ答え、あとは泣きじゃくる。
 悦蔵はそんな紗菜が震わす肩越しに目撃したのだ、天にも昇る火柱を。
 炎は村の庄屋でごうごうと燃え盛っている。悦蔵は総毛立ち、めまいを覚えるほどだった。しかし妹が無性に哀れに思われ、力を込めて抱き締めた。

 悦蔵は紗菜を問い詰めなかった。なぜ・・・

2

濃いコーヒーを飲む女

12/11/14 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3764

 高瀬川洋介は『送信』ボタンをクリックし、達成感でふうと息を吐いた。そして「次のお題は何かな?」とぼそぼそと呟き、後はおもむろに新着コンテストの画面に入って行った。
 そこには『コーヒー』と表記がある。
 これを目にした洋介、「コーヒーね、ちょっとなあ」と心もとない。天井を見上げ、自分自身を題材に書いてみようか、それともパスしてしまおうかと迷い始めた。

 洋介は長年のサラ・・・

2

京都祇園から東山へ 八坂さんの都市伝説

12/05/28 コメント:2件 草愛やし美 閲覧数:3758

「なんて人が多いんだろう」
 私は京都の四条大橋に佇んでいた。みんな楽しそうに歩いている。そんな喧騒の中、私は一人ぽっちだった。心細さにくずおれそうな心を抱え、それでも自らの足で京の地を踏めほっとしていた。
 私は死ぬつもりで京都へやってきた。なぜって、一言で言えば失恋。相手は二股も三股もかけていたのに私は有頂天だった。友人には知ったかぶりしていたが、本当のところ恋なんかさっぱりわかっ・・・

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裏切りの乱世〜信貴山城の戦い

16/08/25 コメント:2件 あずみの白馬 閲覧数:3758

【この物語はフィクションであり、史実、実在の人物とは一切関係ありません】

 天正五年(一五七七年)夏が近づき、茶が美味しい季節のある日、織田信長の家臣、松永久秀と明智光秀が茶の湯をたしなんでいた。
「このときが一番、気が休まるのぉ、光秀よ」
「全くですな。久秀殿」
 二人は一緒に束の間の休息を楽しんでいる。よく茶をともにする、いわゆる親友であった。話は主君である織田・・・

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慈悲深き満月の下で

16/08/07 コメント:2件 黒谷丹鵺 閲覧数:3755

メリッサは塔で暮らしている。
明るいうちは一番てっぺんの部屋にしかない窓から外を見て過ごし、夜は壊れかけた古いベッドで眠るだけの日々が、もうどれだけ続いていることだろう。
食事を運んでくるのは老いて耳が遠くなった下女で、固くなったパンと味の薄いスープばかりである。聖なる書物の適当なページを読んで祈ってから食べるのが習慣だった。
あまりにも長い間そうしてきたせいか、メリッサに不満は・・・

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不沈戦艦・大和を、今

13/01/21 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3748


「みな様、ただ今より記者会見を開催致します」
 混雑の中、ニュース・コンファレンスが始まった。これから世間をあっと驚かす発表があるという。記者の花木拓馬は熱気ある会場の前列に陣取り、発信される情報は少したりとも取りこぼさないぞと気合いを入れ直した。壇上のプレゼンターは自己紹介をし、あとは記者団が固唾を飲む中、粛々と会見は次へと進む。

「世紀の一大プロジェクトをスタートさ・・・

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冬来たりなば春遠からじ

12/06/12 コメント:3件 そらの珊瑚 閲覧数:3741

 ぶるぶるっ。冬は寒い。あたりまえか。ぼくは毛皮を着ているからいいけど、銀次は冬でもぺらっぺらっの木綿の単衣。どんだけ寒いかって思うよ。でも寒いって江戸っ子が言うのは野暮だと思ってて「はーくしょい。今日はばかにあったけいな。もう春か」なんて強がり言ってんだよ。風邪引く前に綿入れすればいいのにね。
 申し遅れましたが僕は犬の『くろ』。人間の言葉をしゃべる不思議な犬だよ。豆腐屋銀次はぼくの飼い主・・・

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おら田吾作

12/07/02 コメント:5件 泡沫恋歌 閲覧数:3725

 俺の名前は織田吾作。
 群馬のド田舎から、東京の大学に進学した。生まれて初めて故郷群馬を離れた。俺の育った所は群馬でもかなり過疎地域で、360度グルッと山と田んぼと畑に囲まれている。見渡す限りの田園風景だ。
 最寄の駅まで車で30分、バスは一日2本。携帯は全て圏外、テレビも映るのはNHKと民放が3つだけ……って、どんだけ田舎だんべ。
 修学旅行でしか県外に出たことがない俺は、こ・・・

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過去への手紙

12/03/26 コメント:1件 ぽんず 閲覧数:3720

「明日から期末テストだ。今日は早く帰ってしっかり復習するように」
担任の藤沢は、そう言い残して放課後のチャイムとともに足早に教室を後にした。
高校生活最後の期末テストだ。最後くらい頑張んなきゃな。と、森下加奈子は教室の前に貼り出されたテストの時間割を確認した。
げろ。一限目から苦手な数学かよ。げろげろ。
「かーなーこー」
最前列の席からここがオペラの劇場かと勘違いして・・・

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忌み子

17/03/13 コメント:0件 玉梓 閲覧数:3697

 その昔、双子が不吉の象徴とされる風習があったらしい。
畜生腹と言って、人間が犬や猫のように二人以上産むことを卑下したものという説が濃厚らしいが、医学の発達した現代においては、実にバカバカしい考えだと思う。

 少し調べてみたが、なんと殺してしまう風習の土地もあったというのだから驚きだ。
一口に『殺す』と言っても、双子のうち片方だけ殺してしまうものと二人とも殺してしまうもの・・・

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コ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル

13/05/06 コメント:7件 鮎風 遊 閲覧数:3688

 白いビルと黒いビルの間に、巾六〇センチほどの犬走りがある。それは反対側の大通りへと通じている。そしてそこには少し違った世界がある。
 こんなことを知っているのは魔美(まみ)だけだった。

「遅いぞ、さっさとコーヒー入れろよ!」
 時間通り出勤してきた魔美に、高木係長から居丈高な指図が飛んできた。
 魔美はこの雑誌社に入社してまだ二ヶ月、新人だ。従って、朝から不機嫌な・・・

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ある冬の夜

12/03/06 コメント:0件 密家 圭 閲覧数:3687

こちらに来るとき、親戚の誰かが「東京の冬は寒い」と言っていた。たしか、田舎の冬は雪のようにふわりとしたところがあるが、都会の冬はアスファルトのような無機質な寒さだ。そんな内容だった。使い捨てカイロを両手でこすりながら、確かにそうかもしれないと思った。そんな夜だからこそ、人々は誰かを求めるのかもしれない。この鋭い寒さを耐えられない人たちが、様々な形で惹かれあう。ここはきっとそういうところだ。

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手紙復活の会

13/04/21 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3682

 滝川拓馬は郵便受けから一通の手紙を取り出した。差出人は浜崎優奈とある。
 なぜこの年になって、突然に優奈からかと思ったが、不思議なものだ、胸が高鳴るから。

 浜崎優奈、拓馬の高校時代のガールフレンドだった。というより、拓馬にとっての初恋の人。
 優奈は町の高校へと電車で通っていた。多分田舎の中学校では成績一番で通してきたのだろう。どことなくツンとすましたところがあり、と・・・

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お星様のご寄付をお願いします

12/12/03 コメント:16件 草愛やし美 閲覧数:3681

 のろまな天使のポジは、いつも失敗ばかり、女神様はそんなポジが心配でたまりません。でも、めげずに頑張るポジを密かに応援しています。ポジが、女神様に呼ばれました。
「よくお聞きなさいポジ、あと3日でクリスマスです、でも、今年のクリスマスは迎えられないかもしれません」
「ええ!? 女神様、クリスマスのために私たち天使は、一所懸命、準備をしているというのに、迎えられないなんて、そんなことって・・・

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アンハッピーバースデー

12/04/14 コメント:2件 ジョゼ 閲覧数:3670

誕生日なんて大嫌いだ。
8月15日、誕生日前日。居酒屋のカウンターに酔いつぶれ寸前の私は、梅酒を握りしめつつぼんやりと人が帰っていく店内を眺めていた。幸せそうで、何よりですね皆さんと、皮肉なことを頭で考えた。そう明日は誕生日。なんで来るのか、そこまでいったら身もふたもないが、とにかくいまはその誕生日から逃げるように一人居酒屋まできた。誰かと一緒だと不安だった。いいことなんて、今までたったの一・・・

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ゆりかご

12/03/30 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:3668

女一人で、どこの店にも入れるようになって、10年はたつ。
ラーメン屋、バー、居酒屋。
昔は独り呑みなんて考えられなかった。
ところが、独身、彼氏なし、キャリアだけが積みあがるアラフォー女になると、友達は皆、子持ちの主婦。
プライベートの時間まで会社の人間の顔を見たくはない。

必然的に、独りに慣れてしまった。

今日も、始めての居酒屋に、ぶらりと入る・・・

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めんなしさん

13/05/25 コメント:6件 AIR田 閲覧数:3664

 僕がめんなしさんと初めて出会ったのは、2年前の12月24日。僕がめんなしさんと最後に会ったのは、1年前の12月24日。

 29歳の誕生日を迎えた4月、僕は社会人になった。それまで定職に就かず、バンド活動に勤しんできたものの、やっているという感覚に全力で甘えた僕は、気がつけば一番なりたくなかったミュージシャン気取りになっていた。辛い所は逃げ、甘い所に行く。偉そうな屁理屈でいつも本気で・・・

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sub Rosa

14/09/27 コメント:10件 橘瞬華 閲覧数:3664

 先日、祖母が亡くなった。二度の大戦を経験しての大往生。棺の中の祖母は微笑みを浮かべているように見えた。その祖母が亡くなるほんの数日前に話してくれた秘密を、忘れない内に書き記そうと思う。

 おじいさんとは家が近所でねぇ、私の家とあの人の家では身分は違ったけど他に子供も居なかったからよく遊んだものさ。あの人は私より十ばかり年上で、今思えば子供の我が儘で振り回してばっかりだった。
・・・

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部屋番号195号室

13/11/03 コメント:14件 草愛やし美 閲覧数:3654

 格安優良物件、空き部屋有り〼 日払いOK。部屋番号は、賃貸希望の方のみにお教えいたします。

  ★

あたちねぇ さっちゃん
さっちゃんって名前良いでしょ!
これね自分でつけたんだよ

だって幸せになりたいんだもん だからさっちゃん

いくつって?
う〜んと……産まれてすぐだから 2分くらいかなあ?
おうちは・・・

6

タブラージュ

13/02/05 コメント:10件 そらの珊瑚 閲覧数:3654

 今夜カイトは帰らない。勤めている病院の夜勤なのだ。ちょうどよいので、バレンタインに渡すチョコレートを手作りしてみようと思い立つ。
 
『手作りチョコレート』
 パソコンで検索すると、いくつかのレシピが現れた。
 そのなかに聞きなれない言葉があった。

『タブラージュ。温度調節のこと。なめらかな口当たりのチョコレートをつくるために欠かせない作業』
 ふむふ・・・

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ひとり二人羽織

15/04/10 コメント:4件 鬼風神GO 閲覧数:3653

 妻のさなえが死んで三ヶ月たった頃、俺は取り憑かれるようになった。しかも夜、台所に立つときだけ。最初は驚いたが、まだ側にいて心配してくれているのだと思うと、嬉しかった。もしかするとみじめな姿を見かねて尻を叩きにきたのかもしれない。おっとりしてはいるが、一度決めると譲らない芯の強さがあった。
 ――前を向こう――
 彼女の口癖だ。
 台所に行き、まな板を用意する。数秒の間に身体が人・・・

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障子窓の怪

13/01/05 コメント:10件 クナリ 閲覧数:3652

あれは僕が宮大工の仕事での出張の帰り、飛騨の山中でのことだった。
日も暮れかけた山道で途方に暮れていた所、傍らにぼろけた廃寺があり、僕はそこで一夜の宿をとることにした。
寺の中は廃屋ならではの寂れ方をしていたが、床や壁はしっかりしており、寝泊りくらいは出来そうだった。
ただ鼠でもいるのか、時折どこからか、トタタタタ……と何かの足音が聞こえる。
荒れた屋内の雰囲気とあいまって・・・

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44.6メートルの空

12/03/07 コメント:0件 ゆひ 閲覧数:3652

新宿の高層ビルの25階。
昼休みのチャイムがなる2分前に、窓の外を眺めた。
徹夜明けで、瞼は今にも閉じそうなくらいに重い。
狭くなる視界に映るのは、地上100メートルの空だ。

ふと、10年前の出来事が脳裏に浮かんだ。

そのときぼくは、仕事で大失敗をして、ひどく落ち込んでいた。
どこかに逃げたい、本気でそう思い詰めた。
そして辿り着いたのは「・・・

1

裸婦像

13/08/19 コメント:0件 yoshiki 閲覧数:3639

 ――やわらかな木漏れ日がそのアトリエに差し込んでいた。
 画家のアトリエは洋館の二階にあり、壁には蔦が絡まっていた。
 窓際には大きなカンパスがイーゼルに乗って置かれてあり、カンパスには見目麗しい裸婦像が油絵の具で見事に描かれていた。絵はほとんど完成していて最後の仕上げに入るところであった。
 画家は豊かな顎鬚をたくわえた、まるでダビンチを連想させるような風貌をしていた。・・・

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深夜専門のタクシー

16/08/22 コメント:19件 泡沫恋歌 閲覧数:3637

「びっくりしました! ヘッドライトに白い影が浮かび上がった時には、もう悲鳴をあげそうでした」
 一台のタクシーが思いがけない場所で客を拾った。 
「こんな時間に、あんな場所で……人が歩いてるなんて驚いた」
 真夜中のトンネルの中を人が歩いていたのだ。
「手を上げて、お客さんに呼び止められたけど……本当は乗車拒否しようかと思ったくらいですよ」
 タクシーが止まると、若い・・・

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母の帰郷

12/06/15 コメント:4件 泡沫恋歌 閲覧数:3631

 うちの両親は大分県の出身者である。
 父は津久見市で海に近い漁師町で生まれ育った。母は大分市鶴崎の裕福な農家に生まれた。父親は婿養子で、三人兄弟の末っ子の母は三味線や舞いなどお稽古事を習い、母親に可愛がられて育った人である。母の人生が狂い始めたのは十九歳の時に母親が亡くなったからだ。

 両親が結婚したのは戦時中だった。
 実はその前に母は二十歳で一度結婚をしている。わず・・・

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誰よりも笑われた男

16/10/14 コメント:10件 あずみの白馬 閲覧数:3629

「人口80万人の街に地下鉄!? そんなの作って赤字になったらどうするんです? 熊でも乗せる気ですか?」

 1965年のある日、運輸省と札幌市交通局との間で、札幌市に地下鉄を通す計画を話し合う会議がもたれていた。
 その席で、運輸省の役人が意地悪な質問を札幌市交通局にぶつけてきたのだ。
 室内には嫌味な笑い声が響いてくる。だが交通局長、大刀豊は臆する事なくこう切り返した。<・・・

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トンネルの女

13/02/20 コメント:3件 石蕗亮 閲覧数:3628

私が占師のせいもあり、友人同士の会話にも心霊ものは多く「見ていいもの、悪いもの」などという言い回しは頻繁にある。
その日もそんな会話をしながら私の実家の秋田へと車を走らせていた。
 国道を北上し山形市から新庄を通過し更に進むとしばらくコンビニも民家も無い山の中を小1時間ほど走ることになる。仕事の都合で出るのが遅くなり山道に差し掛かる頃には日付を跨ごうとしていた。
街中と違い山間は・・・

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