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もう一度、呼んで

18/10/22 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:192

 磯子は壁に貼られた売却済の判がおされた売り家の間取り図をみて、満足そうにうなずくと、
「栄ちゃん、やったわね」
 担当者の栄坂のほうをねぎらうようにみた。ふだんめったにほめられることがないだけに彼は、周囲の社員の顔を、照れたようにみまわした。入社以来、彼があつかってはじめて売れた物件だった。
 不動産会社のオーナーをつとめる磯子は、男子社員にひけをとらない大柄の体格の持ち主で・・・

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親愛なるあなたへ、魔法と愛を込めて。

18/10/22 コメント:0件 日向夏のまち 閲覧数:338

「激安宿の若旦那、久々の依頼だよ。」
 馴染みの旅人が、入口で羊皮紙を揺らした。
「久しぶり。パン屋の娘が、『また旅の話を聞かせて欲しいわ、熱々のパイと紅茶を用意して待っているから。』と、お前に。」
 相変わらず悪い夢みてぇと言い残し、旅人は店を後にした。羊皮紙には、アリーサ・セリツィロイとだけ書いてあった。

 枯れた灰色の石畳。青い屋根の家々。見上げる新緑の頂と、・・・

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注文が多い料理店

18/10/22 コメント:0件 紅茶愛好家 閲覧数:170

「オーダー、地中海の風コース。前菜のマグロとアボカドのマリネはアボカドを抜いてマヨネーズソースをかけてください。サラダにはクルトンの代わりにアーモンドを。パンはバターではなくオリーブオイルと塩で。スープはぬるめの30度くらいでパセリの代わりにイタリアンパセリを浮かべて欲しいとのことです。メインは肉ではなく白身魚をご希望です。あればスズキを。デザートはバニラアイスではなくゆずシャーベット、食後のコー・・・

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18.44メートルの距離

18/10/22 コメント:0件 野々小花 閲覧数:310

 長年、日本の野球界を牽引してきた投手、縞津和明が引退を表明した。
 私は彼のことを、新聞社のスポーツ部の記者という立場でずっと追い続けてきた。
 引退会見を終えたばかりの縞津を、私はこの部屋で待っている。インタビューをするためだ。部屋には私と、カメラマンと、後輩の記者が一人。縞津は、約束通りの時間に現れた。
「よろしくお願いします」
 野球人生を全うした男は、とても穏やか・・・

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伝えたい言葉が空に舞い上がる

18/10/22 コメント:0件 みや 閲覧数:158

その桜の木を目指してたくさんの人達が小高い山を黙々と登っていた。その人達の中には若い人もいれば高齢者もいて、皆んなそれぞれに誰かに伝えたい言葉を抱えながら山の頂上にあるその桜の木を目指していた。

私の少し後ろを七十歳くらいのお婆さんが杖をついて登っていた。標高144メートルのなだらかな山なので一時間弱で頂上に着くと言っても、高齢者にとっては辛そうで私は大丈夫ですかと声を掛けて手を引い・・・

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あいつに伝えて

18/10/22 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:173

 父さんは、ぼくの誕生日には必ず仕事を休む。
 いつも忙しい父さんが、ぼくが学校から帰る夕方には家にいて笑顔で「おかえり」と迎えてくれる。それから父さんと母さんと一緒にプレゼントを買いに出かけ、帰りはレストランで夕ご飯を食べる。これがいつものぼくの誕生日だ。
 今年、ぼくはカレンダーを見て飛び上がった。ぼくの誕生日が土曜日だったからだ。父さんの仕事もぼくの学校も休みの誕生日なんて初めて・・・

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言いたいことはひとつだけ

18/10/22 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:200

 雲坂家の遺影がガタガタとなる。
 痛打した肢足の欠片を脱いだ靴下に探し続けるかのような虚空でこそあれ虚構ではない微細だがビサイドユーな揺れである。
「お爺ちゃんが呼んでる」
 雲坂春香、雲坂家の長女が一番に反応する。雲坂十吉が大往生したあの日からいつか呼ばれる日のために遺影と視神経を固結びしておいたからだ。
「うっふっふー、目がくすぐったいぜ、お爺ちゃんわかったわかった」・・・

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モラトリアム

18/10/22 コメント:1件 泡沫恋歌 閲覧数:205

 突然の死というのは、今そこに座っていた人が退座したまま帰ってこない状態に似ていると思う。丁度、美咲の死がそんな感じだった。
 同じ会社のOL同士、大柄でボーイッシュ元気いっぱいの美咲と、チビでのんびり屋メガネっ子の私は、なぜかウマが合って仲良しになった。仕事中はもとより休憩時間やトイレにだっていつも二人でツレあっていた。休日には私のアパートでゲームをしたり、一緒にご飯を作ったり、まるで恋人・・・

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首相補佐官の憂鬱

18/10/22 コメント:0件 みーすけ 閲覧数:180

「博士、首相より伝言です」

 首相補佐官は遠慮がちに言った。博士への伝言をことづかってきたはいいが、その博士は傍から見ても忙しそうに動き回っていた。

「博士、首相より伝言です」

 意を決して大声を張り上げると、博士はようやく気づいたようだった。

「何だね、一体」

 手を止め、博士が尋ねる。

「例の物の開発を急げ、と・・・

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帰還

18/10/22 コメント:2件 そらの珊瑚 閲覧数:226

 小学校からの帰り道、僕は鳩を拾った。

 道端で横たわっているそいつを最初に見た時、死んでいるのかと思った。
 しゃがんでおそるおそる、その白い羽に触れてみる。鳩は小さく「クルックルー」と鳴いた。
 鳩は生きていた。
 どういう理由で、こんなところにいるのか分からなかったが、鳩がひどく弱っていることだけは確かだった。このままにしておけば、野犬にやられるか、そうでな・・・

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留守番電話は起爆剤

18/10/22 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:184

 目覚めたとき、最初にすることは枕元のケータイに手を伸ばすことだ。時間を確認するために。
「あれ……」
 ところが、ケータイに電源が入っていなかった。充電して寝るの忘れたんだっけな。そう思いながら、ケーブルを引き寄せて、ケータイに繋ぐ。
 段々意識がはっきりしてくる。そうだ、昨日は仕事が思ってたいよりも長引いて、っていうかここ数日ずっと午前様になってて。帰ってきて、かろうじて風呂・・・

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ミィコ

18/10/22 コメント:2件 荒井文法 閲覧数:238

 僕の名前はイルヴェライザス。
 お母さんが付けてくれた名前。
 僕の一生の宝物。

 お母さんとは、おっぱいを飲まなくなった頃に会わなくなっちゃった。お母さんはおっちょこちょいだから、きっと迷子になってしまったんだと思う。いつか迎えに行ってあげるんだ。お母さん喜ぶだろうなあ。

 お母さんに会わなくなった頃から、親切な人が僕に食べ物をくれるようになった。とても・・・

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フゥコ

18/10/22 コメント:2件 荒井文法 閲覧数:195

 私の名前はリルクレィト。
 父が付けて下さった誇り高き名前です。

 父も母も由緒ある血筋です。私はその末裔ですから、父や母の血筋を貶めるような行いを慎まなければなりません。
 両親は厳粛さと優しさを併せ持ち、日頃の私を見守って下さいました。二人から学ぶべきものは多く、二人は私の師であり、目標でもあります。

 私がまだ年端も行かない子供だった頃、とあるお客様・・・

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猫に恨みはないけれど、涙滴る川になる

18/10/22 コメント:2件 荒井文法 閲覧数:251

 名前? んなもんねえよ。

 物心ついたときにゃもう独りよ。誰も頼れねえ。周りは恐ろしいものだらけ。一瞬気を抜けばやられちまう。食事を獲るつもりが逆に獲られたり、地面に置かれてるごちそうを喰って口から泡吹いたり、ぶら下がってるごちそうに噛み付いて檻の中に閉じ込められたり、そういう奴を何人も見てきた。
 分かるか? 名前なんてもんは平和ボケした奴らの遊び道具さ。今この瞬間に死んじ・・・

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消し炭になった畑中君はゴミじゃない

18/10/22 コメント:4件 クナリ 閲覧数:461

 私の高校一年の冬は、中学までとあまり変わらなかった。
 つまり、迫害はされても友達はいない状態だ。

 十二月一日の放課後、関東ならでは穏やかな寒さの中、私は校舎の裏にある焼却炉を目指した。
 ゴミの残り火がくすぶっている間は、その真後ろにいると、人目にもつかず暖かく過ごせる。
 しかし、寒風の中焼却炉に着くと、いつもと様子が違った。
 焼却炉は私の胸くらいの・・・

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キミはだれ?

18/10/22 コメント:0件 紅茶愛好家 閲覧数:158

 もう、5年も前のことになるが当時僕にはペンフレンドがいた。
 本当の名前も顔も知らない、住所さえも。でも唯一無二の親友だった。
 ペンフレンドなのに住所を知らないというのは奇妙な話だろう。どうやって手紙を送るのか? そう、僕は彼と伝書鳩を用いて文通していた。
 きっかけはある日のこと。学校から帰宅した僕は二階の自室のベランダに鳩がいるのを見つけた。「へえ、珍しい」くらいには思っ・・・

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ひみつ

18/10/22 コメント:1件 風宮 雅俊 閲覧数:190

 休日で賑わう、ショッピングモール。行き交う親子連れもみんなウィンドウショッピングを楽しんでいる。

 !

 ベビーカーを押しながら来る夫婦・・・・。そう、あの時はまだ子供だった。他に説明出来る言葉はなかった。


     〜 ・ 〜


 中学校の生活に慣れてくると、小学校の時と女子との距離感が違う事に誰もが気付くようになっていた。・・・

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アイちゃん

18/10/22 コメント:2件 R・ヒラサワ 閲覧数:201

「アイちゃん」
 小学生ぐらいの女の子が声をかけてきたので、私はニッコリと微笑んだけど、その後は何もしなかった。そもそも『アイちゃん』は、私の本当の名前ではない。
 会社の人に同行して、コンパニオンの様な格好で笑顔を振りまきながら、パンフレットを配るのが私の主な仕事だ。
 これまで小さなイベント会場にしか行った事がなかったが、今日は国内でも有数の大きな展示会場に来ている。異業種の・・・

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君の鏡になんてなりたくなかった

18/10/21 コメント:1件 入江弥彦 閲覧数:316

はみ出し者には、はみ出し者の流儀というものがある。
「動かないで」
ゆらゆらと頭を動かしていたシオンさんがピタッと止まった。
「だって恥ずかしいんだもん」
シオンさんの言葉に手を止めることなく最後の仕上げにかかる。
誰もいない朝の教室で僕の絵を受け取った彼女は教室を出る。入れ違いに入ってきた担任が嫌な笑顔を浮かべて、お前らもうでデキたか? なんて言った。

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メッセンジャー

18/10/21 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:255

 神は大いなる力で天地を作り、命を地上に置いて天上には楽園を創られた。
 地上にて稀な魂を見出すとその威光によって刺し貫いた。神の印を受けたものは天で神に仕える僥倖に恵まれる。

 ――であるというのに。
 私は逃亡者である少年と少女を空から見下ろした。
「あなた方に神から言葉を授かりました」
 二人は強く睨んでくる。
「即刻天上に来るように、との仰せです・・・

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赤トンボ

18/10/21 コメント:2件 みゆみゆ 閲覧数:350

 「トマトを食べたんだよわたし」朝ごはんのあとの縁側でしほちゃんは興奮しています。「パパとおばあちゃんはさ、病院へ行けなくなっちゃったからガッカリして朝ごはん残してたのに、わたしはぜんぶ食べたの!」赤トンボは半球体の大きな目をグリグリとしほちゃんに向けて、じっと聞いていました。人間に話しかけられたのなんて初めてです。「本当はキライなんだよ、トマト」しほちゃんは得意気にニッと笑うと両手をついて顔を寄・・・

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つくね

18/10/21 コメント:0件 みゆみゆ 閲覧数:198

 私は父の声も話し方も好きだ。「あやちゃん、今アパートかい?今朝は寒いな」電話が鳴る前に淹れたコーヒーの香りをゆっくりと頭の隅々に溶け込ませて、自由な四十八時間の始まりをかみしめる。父からの電話はたぶんデートのお誘いだろう。「さっき新聞見てたらな、日光の紅葉の写真が載ってたんだよ。明日は何か予定あったかい?」ほうら、やっぱり。いつもなら今夜のうちに実家へ帰り、明日の早朝から父の車に乗って出掛けただ・・・

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伝言ごっこ

18/10/21 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:147

「お父さん、開けるわよ」
 ドアを開けると真っ暗な部屋から湿った葉巻の煙が直美の顔面にぶつかってきた。
 直美が顔をしかめて電気をつけると太郎の丸まった背中が何回か点滅した後置き物のように現れた。灰皿にある葉巻は、葉巻の形をとどめたまま三分の二ほど灰と化していた。
 直美はせかせかと灰皿に行き葉巻を灰皿に押し付けた。直美は窓から顔を出し秋の冷たい空気で大きく呼吸した。
「お・・・

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夢言荘

18/10/21 コメント:0件 せーる 閲覧数:152

「おまえをここに置いておけない」
 父親の言葉に雄介は、とうとう来たかと思った。人間関係で中学校を不登校に、その後ひきこもり続け、普通に進学していれば今は高校二年生といったところか。最近、両親はコソコソと、ひきこもりを集団生活させる施設へあの子を入れようなどと話していた。僕に何の相談もなく──
「……わかった」
 
 町外れの、その施設までは母親が車で送ってくれた。
・・・

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石を投げたら波紋になった

18/10/21 コメント:2件 むねすけ 閲覧数:241

 みえないまま、聴こえないままで良かったなら、石を探すこともなかったし、石を放ることもなかっただろうから、それをしている僕が思うことは、僕という人間は景色を望み、声を求めたか弱くも逞しい人間であったということ。
・映画館の悲鳴とアイスモナカ ぼちゃん。投げた石はお腹の中。広がった波紋を飽かず眺めた。
・砂時計屋が砂時計をひっくり返す時に言う言葉 ぼっちゃん。二投目の理由は点った灯りを逃・・・

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思惑

18/10/21 コメント:0件 ハナトウ 閲覧数:161

「傷つけたかった訳じゃないんだ。」
目を伏せ眉を寄せ、ギュッと握っている力こぶしと同じくらい固い声で彼は言った。
「そうですか。……まあ、いくら貴方が後悔しようが私には関係ないので。」
伏せられていた目が上げられ私に向き、キッと睨まれる。
我ながら取り付く島もない返事をしたと思うから、仕方のないことだろう。
自分の不甲斐なさのせいで愛する者を傷つけたこの男にかけてやる・・・

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さようなら

18/10/21 コメント:0件 ハナトウ 閲覧数:134

皆が騒ぐ中央のドーナツ型のカウンターからこっそり離れて、遠巻きにその様子を見ている人の所へ行く。
近づいてきた私に気がついたその人は、隣の席に座るように示すけれど私はそれを断った。
私の意志が変わらないうちに、でもやっぱり勇気が出なくて、持っていたグラスからピニャコラーダを一口分飲んだ。
「どうしたの?」
暗にあっちで騒がなくて良いの?と伝えてくるその人に曖昧に微笑んで、私・・・

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伝言板

18/10/21 コメント:0件 田辺 ふみ 閲覧数:181

「一体、何段あるの、これ?」
 目の前には延々と続く石段。
 みゆきに誘われて、神社に来たけれど、登ってまで行く価値があるのだろうか。
「八百段。と書いてある」
 みゆきが案内板を指差した。
「えー」
「でも、すごいんだって。本当のパワースポット。結花だって、興味あるでしょ」
「あるけど」
 はっきり言って、体力、運動能力には自信がない。
「試・・・

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脳内

18/10/21 コメント:0件 hayakawa 閲覧数:168




「私、文字が読めないの」
 彼女は僕にそう言った。
「そう」
 僕はそのことを重要な問題だとは思ってなかった。それより、街にある光にばかり気を捕らわれていた。
「文字が読めない。だから文字が書けない。君に伝えたいことも言葉にできない」
 僕はベランダで煙草を吸っていた。隣には彼女がいた。それで、僕は何かを口にしようとした。
「僕は文字が読・・・

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Have a nice trouble.

18/10/21 コメント:0件 64GB 閲覧数:264

「良い旅を」
と言って航空会社のグランドスタッフがチケットを差し出した。受け取ろうと思って手を出したのだが、掴む前にチケットを離された。チケットはカウンターの上にひらひらと落ちた。別れた妻と同じタイミングだ。肌に触る懐かしい思い出ばかりではない。なにしろ世界で女が彼女だけになっても二度と結婚しないと誓って別れたぐらいだ。何が悪かったのか、どうしたら良かったのかなど考えたこともない。ただ、言い・・・

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太陽が伝えてくれる

18/10/20 コメント:0件 青苔 閲覧数:178

 暗い夜道を歩いている。
 否、すでに夜ではない。もうすぐ夜明けがやって来る。しかし辺りはまだ闇の中だ。
 夜明け前の闇の中、坂道を歩いている。
 まだそれほどの傾斜は無い。ゆっくり登れば息が切れるほどでもない。しかしこの先に、もう少しきつい傾斜があることも知っている。
 坂道の両側には木々が生い茂っている。
 コナラやクヌギの類だろう。木の根元には雑草もたくさん生え・・・

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恋人の家はどこ?

18/10/20 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:229

 大学に行こうと駅に向かって歩いていると鳩が飛んできて僕の肩に止まった。
「ボンジュール、○×□■?!」
 どうやらフランス語を話しているらしい。鳩をよく見ると身なりもきちんとしているし気品も漂っていて紳士的で由緒正しそうだったので、とりあえずフランス語がわかりそうな坂本君の家に行くことにした。
 坂本君は僕の知っている中で一番賢くて東大に現役で受かったのに春になっても東大どころ・・・

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さがしてください

18/10/20 コメント:0件 水沢洸 閲覧数:148

『さがしてください』
 起きたらポツンと置かれていたが、なんとも自己主張の強い書き置きだ。
 心当たりもないし、ひとまず放置して目を閉じた。
『さがしてください』
 起きたら紙が増えていた。
 ビスケットだろうか。
 叩いた覚えはないけれど。
 なんとなく怖くなったので、逃げるように目を閉じた。
『さがせっていってんでしょうが』
 言葉が変わっ・・・

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不適切な落ち葉

18/10/20 コメント:3件 入江弥彦 閲覧数:527

 タイムカプセルを見に行きます。
 そんな通知が届いた。風に乗って窓から入ってきた大きな葉をノートの間にすぐさま隠して振り返る。幸いなことにドアは閉まっていて、部屋の中にいるのは俺だけだ。階下では息子の騒ぐ声が聞こえて、リリコがヒステリックな叫び声をあげている。
 しばらく二階に来ることはなさそうだと判断して、そっとノートの間から取り出した葉に目を通す。見間違えるはずがない、十年前のシ・・・

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うるせぇ、と書き足して帰る。

18/10/19 コメント:0件 繭虫 閲覧数:234

『アホ』 『うざい』 『ひろくん だいすきだょ』 『トーテムポール・マッカートニー』 大きなタコの遊具の中で、夜空の星のように天井いっぱいに広がるラクガキを少女は真顔で見つめていた。 スマホのライトで照らした落書きたちは字体も大きさもバラバラで、アラビア文字のようなものが混じってたり、かと思いきやよく見るとミミズが這ったような汚い平仮名だったり。 まるでちょっとした宇宙、ちょっとした混沌。・・・

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明日世界が終わる

18/10/18 コメント:0件 そらの珊瑚 閲覧数:267

 白夜はいつも寝不足になる。夜になっても沈まない太陽のせいだ。こんなあたしでも人類の、はしくれ。太陽の光に含まれる活動エネルギーが、自律神経を乱れさせてしまうのだろう。
「おはよう、リンダ。また眠れなかったの?」
「おはよう。母さんはよく眠れたみたいね」
「それは私が年老いた証拠よ。睡眠と死は似ているの。肉体が死に近づいた分、夜はぐっすり。そして遠くない将来、永遠に目覚めない朝が・・・

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伝言タクシー

18/10/17 コメント:0件 吉岡幸一 閲覧数:324

 駅の西口からタクシーに乗り込んできた中年の男はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまでですか」
 運転手が尋ねると、男はポンと膝をたたいた。
「駅の東口までお願いします」
「東口ですと、歩かれた方が早いと思いますが・・・・・・」
「ええ、わかっています。かまいません。どうか東口までお願いします」
 運転手は怪訝な顔をしながらもす・・・

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青い鳥

18/10/16 コメント:0件 篠騎シオン 閲覧数:268

おはよー!今日も一日頑張るよ

彼氏がラインしてもぜんぜん捕まらないから、古風に留守電入れてやったぜ

そいえば、今日友達から怖い都市伝説のうわさ聞いたんだー

まじ、彼氏反応ないのいらいらするんですけど。付き合ってるのに何でちゃんと返信してくれないわけ?

最近の若者はってひとくくりにされること多いけど、昔と今とかそんなに変わってないじゃん。SNS・・・

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伝えなければならない想い

18/10/16 コメント:0件 本田栞 閲覧数:230

 一月一日の朝、寂れた神社に天使が現れた。純白の衣に真っ白な翼を生やした男は、賽銭箱の真上で浮いている。あっけに取られて立ち尽くす青年――青葉を、真紅の瞳が見澄ました。

「伝言はないか?」

 高圧な口調で語りかけられて、余計に青年の混乱を煽る。

「恋人と別れたお前は、よりを戻したいと考えた。そのために祈りを捧げ、我を呼び出したのではないか?」

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このメッセージ不要につき

18/10/14 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:237

 植民星〈エスペランザ〉はよそに先んじて、ついにやらかした。超臨界知性を(意図せずとはいえ)作り上げたのである。
 これは地表に水爆の雨を降らされても忍従しなければならないほどの重罪だった。だがもはや事態は懲罰艦隊の迎撃作戦を立案する段階をとっくにすぎている。〈エスペランザ〉は間もなく機械どもに食い尽くされるのだ。
「諸君らは」脱出用恒星間飛行船の船長が厳かに宣言した。「〈エスペランザ・・・

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下校中

18/10/14 コメント:0件 悠真 閲覧数:213

 ランドセルを背負った女児が、一人で歩幅小さく歩いていた。
 その後ろから徐行運転で黒い車が近づく。
「本庄ミミカちゃんだね」開けた窓に肘をかけるようにして、車から半身を出す形で男は女児に声をかけた。「お母さんから伝言があるんだ」
「え?」女児はまだ小学校低学年。目線は車内の男よりも下になるので、顔を上げなければならなかった。「お母さんから……?」
「そう」男は気の良さそう・・・

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再開のための伝言

18/10/14 コメント:0件 うたかた 閲覧数:232

 幼馴染の君が亡くなって今日で丁度一年が経過した。僕は赤みがかった空のもと、閑散とした住宅街を歩いて抜けて君の眠る墓地に向かう。
 カラスが一羽また一羽と群れをなさずに飛んでいく。砂利の音に騒がしさを覚えながら君のもとに到着した。美しく鮮やかな花が既に何本も手向けられている。
 詰まる喉に耐えながら段に足をかけようとすると、そこに正方形をした一枚の黄色い付箋が落ちているのがわかった。落・・・

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神の伝言

18/10/13 コメント:0件 吉岡幸一 閲覧数:228

 国連事務総長は全世界の人々が見守る中、神妙な面持ちで言葉を発した。
「昨夜、神の使いの大天使が私の枕元にやってきて、神の意思を伝言されていきました。地球は明日の午後十二時、つまり今より二十四時間後に消滅します。人類は滅びることになりました」
 国連の会場は沈黙に包まれた後、風船が割れたように声が飛び交った。怒号と哄笑、立て続けにあらゆる言語で投げつけられる質問、無数のフラッシュがたか・・・

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先輩への伝言

18/10/12 コメント:0件 ササオカタクヤ 閲覧数:629

「先輩、なんかさっき伝言を預かったんですけど」
喫茶店でアルバイトをしている私は先輩に密かに恋心を抱いている。私は十分アピールをしているけど、先輩は私にあまり興味がないみたいで、正直ほとんど勝算はない。
「伝言?誰から?」
ある日、先輩と久しぶりに話すキッカケを手にした。それはある人から伝言を預かったという内容だ。先輩もこの話にはしっかり耳を傾けてくれたので、しっかりと会話が繋が・・・

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ムニミィ

18/10/09 コメント:0件  閲覧数:313

真似をするのが得意だった。記憶のなかのその人をそのままに、同じ言葉を繰り返すだけ。
夜営のキャンプでも僕はよく仲間たちの真似をするように求められた。
娯楽の少ないソコでは重宝されて、うまくすると偉い人たちから食料のお零れがあったりしたからよかった。
「似ている」「そっくりだ」
隊長の真似をして命令すればみんな銃を構えるぞ、なんて軽口を叩くヤツもいた。
それは流・・・

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気付き

18/10/08 コメント:0件 土佐 千里 閲覧数:233

 なんとなく種まきが終わって今日も仕事に取り掛かる。種まきとはラジオ局にメッセージをおくることだ。メッセージが採用されると、なにかプレゼントが当たるかもしれない。その楽しみがあり、今日も仕事前に、番組表をながめ、複数のラジオ局に種まきをするのである。
 帰ってきてからの楽しみは、ポストを開けることだ。
もしかしたら、種まきの種がどこかの局で採用されて花開いたかもしれないからだ。
・・・

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知覚する

18/10/07 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:576

 あなたは自身が大病を患い、もう長くないと、微かにロッキングチェアを揺らしながら、ぽつりと零した。日に日に痩せ細っていくあなたを見て、私はとうに病のことには感づいていた。
 だけど私の心配は、あなたを救うことに直結することは到底ありえないし、私が悲しみに暮れていることを、あなたは知らない。

「ぼくには娘がいるんだ」
 一人娘で名前はエマ。幾度となく彼女との思い出話を聞いた・・・

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付箋 〜いつかあなたが気付く頃〜

18/10/07 コメント:0件 新世界 閲覧数:268

 特別な才能も、容姿もない。自分に期待など微塵もしていないし、蔑まれる視線にも慣れた。家庭や趣味も無い、枯れ果てた植木鉢の残骸の様な中年男。それが僕だ。

 24年勤務する会社にも特段愛着がある訳では無く、飲み会はいつも断るので今ではもう声も掛からない。それでも今日までリストラされなかったのは、与えられた仕事をミスなくこなし、サービス残業も厭わぬ献身ぶりが評価されているのかもしれない。・・・

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信頼の証

18/10/07 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:334

「ねぇカヨちゃん。あんまり塾の本とか学校で開かない方がいいってミツキちゃんが言ってたよ。カヨちゃんがカンジ悪くみられちゃうから」
 私がそう言うと、カヨちゃんはじっと私を見上げ、それから私の肩越しに廊下側のドアのところでかたまっているミツキちゃんたちを見やり、「ふうん」と応えた。
「あとね、西田さん。その靴下、ミツキちゃんと色ちがいでしょ。ごかいされるなあってミツキちゃんが言ってたよ。・・・

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祝福された遺伝子

18/10/07 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:242

 自然科学の道を志したからといって、敬虔な信仰心を捨てなければならない道理はない。なかには器用にそれらを両立するたぐいまれなバランス感覚を持つ人間も少数ながら、存在する。
 パーシヴァル・ライアン研究医もそんなバランス感覚の持ち主であった。彼は傑出した遺伝病研究者であり、敬虔なキリスト教原理主義者であり――預言者であった。

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