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  2. 第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】

第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】

今回のテーマは【伝言】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2018/11/26

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は3作品とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2018/09/24〜2018/10/22
投稿数 67 件
賞金 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数 3
総評 選考外になった作品にすごく惜しいものが多かったですね。まとまりも良くアイデアも面白いのに、よく読むとなぜその伝言をするのかといった説得力がやや弱いものが散見されました(というより、全体的に面白いものが多かったので、そうした欠点を見つけて選別せざるを得ないという事情があります)。説得力といっても、読み手の好みにもよるので絶対的な基準ではないかもしれませんが、なるべく第三者に目を通してもらい、客観的な視点で推敲することが大切なのではないかと思います。 『18・44メートルの距離』 一つの出会いが人生の中で忘れられない思いを残すこともあるのですね。真剣勝負の美しさと対照的な悲劇が印象的でした。もう少し長い文章で二人の事故後の人生について読んでみたくなりました。 『伝言板』 こんな伝言板があればいいですね。幸せになりたくて未来の運命に思いを馳せるのは、皆同じなのだろうなあと思いますが、現実を変えるためには、本心を打ち明けるといった勇気がやはり大切なのかもしれませんね。 『Have a nice trouble.』 離婚した主人公の人生と離陸直後の飛行機事故とがうまくリンクしていると思います。さらに元妻への気持ちに気づくきっかけとして、「伝言」が生かされている点も良いですね。エンジンの出火からの流れに臨場感があり、楽しく読めました。死を目の前にすると、家族や親しい人の大切さがわかるのかもしれません。 『不適切な落ち葉』 リアルな心理描写とファンタジックな表現が混在した個性的な作品だと感じました。再会した二人の微妙な距離感と、主人公の、ある意味では身勝手な、女性への好悪の変化がリアルだと思います。自然の一部である木は、人間の倫理観や価値観とは無関係なニュートラルな存在であるわけで、今後シュウカと主人公の間にどんな木でも育って行く可能性も残されているのでしょう。 『伝言タクシー』 ひたすらな循環の無意味さが突き抜けていて面白く、中毒性すら感じました。私たちの日常もよく考えれば同じことの繰り返しで、大した意味などないのかもしれません。人生のメタファーとして読んでみたくなりました。 『信頼の証』 教室内のヒエラルキーと、伝言をする者と伝えられる者との微妙な力関係。それを観察する眼に冷たいリアリティがあり、心が凍るような気がしました。おそらく普通の女子小学生はこれほど自分の感情に自覚的ではないでしょうが、その感情を大人の言葉で表現すれば、きっとこのような心理なのでしょう。集団のなかでうまく立ち回る反射神経を持たねば生きていけないのは、子供も同じなのですね。 『沖田総司の三段突き』 緊張感のみなぎる立ち合いのシーンの格好良さに引き込まれました。機械的に人を斬る沖田の姿には人間的な迷いはほとんど見られないものの、闇の中羽織にへばりついた鮮血が見えざる心の揺れを示しているようでした。間接的な繊細な表現がクールなラストだと思います。

入賞した作品

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赤トンボ

18/10/21 コメント:2件 みゆみゆ

 「トマトを食べたんだよわたし」朝ごはんのあとの縁側でしほちゃんは興奮しています。「パパとおばあちゃんはさ、病院へ行けなくなっちゃったからガッカリして朝ごはん残してたのに、わたしはぜんぶ食べたの!」赤トンボは半球体の大きな目をグリグリとしほちゃんに向けて、じっと聞いていました。人間に話しかけられたのなんて初めてです。「本当はキライなんだよ、トマト」しほちゃんは得意気にニッと笑うと両手をついて顔を寄・・・

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先輩への伝言

18/10/12 コメント:0件 笹岡 拓也

「先輩、なんかさっき伝言を預かったんですけど」
喫茶店でアルバイトをしている私は先輩に密かに恋心を抱いている。私は十分アピールをしているけど、先輩は私にあまり興味がないみたいで、正直ほとんど勝算はない。
「伝言?誰から?」
ある日、先輩と久しぶりに話すキッカケを手にした。それはある人から伝言を預かったという内容だ。先輩もこの話にはしっかり耳を傾けてくれたので、しっかりと会話が繋が・・・

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知覚する

18/10/07 コメント:2件 浅月庵

 あなたは自身が大病を患い、もう長くないと、微かにロッキングチェアを揺らしながら、ぽつりと零した。日に日に痩せ細っていくあなたを見て、私はとうに病のことには感づいていた。
 だけど私の心配は、あなたを救うことに直結することは到底ありえないし、私が悲しみに暮れていることを、あなたは知らない。

「ぼくには娘がいるんだ」
 一人娘で名前はエマ。幾度となく彼女との思い出話を聞いた・・・

最終選考作品

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18.44メートルの距離

18/10/22 コメント:0件 野々小花

 長年、日本の野球界を牽引してきた投手、縞津和明が引退を表明した。
 私は彼のことを、新聞社のスポーツ部の記者という立場でずっと追い続けてきた。
 引退会見を終えたばかりの縞津を、私はこの部屋で待っている。インタビューをするためだ。部屋には私と、カメラマンと、後輩の記者が一人。縞津は、約束通りの時間に現れた。
「よろしくお願いします」
 野球人生を全うした男は、とても穏やか・・・

1

伝言板

18/10/21 コメント:0件 田辺 ふみ

「一体、何段あるの、これ?」
 目の前には延々と続く石段。
 みゆきに誘われて、神社に来たけれど、登ってまで行く価値があるのだろうか。
「八百段。と書いてある」
 みゆきが案内板を指差した。
「えー」
「でも、すごいんだって。本当のパワースポット。結花だって、興味あるでしょ」
「あるけど」
 はっきり言って、体力、運動能力には自信がない。
「試・・・

2

Have a nice trouble.

18/10/21 コメント:0件 64GB

「良い旅を」
と言って航空会社のグランドスタッフがチケットを差し出した。受け取ろうと思って手を出したのだが、掴む前にチケットを離された。チケットはカウンターの上にひらひらと落ちた。別れた妻と同じタイミングだ。肌に触る懐かしい思い出ばかりではない。なにしろ世界で女が彼女だけになっても二度と結婚しないと誓って別れたぐらいだ。何が悪かったのか、どうしたら良かったのかなど考えたこともない。ただ、言い・・・

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不適切な落ち葉

18/10/20 コメント:3件 入江弥彦

 タイムカプセルを見に行きます。
 そんな通知が届いた。風に乗って窓から入ってきた大きな葉をノートの間にすぐさま隠して振り返る。幸いなことにドアは閉まっていて、部屋の中にいるのは俺だけだ。階下では息子の騒ぐ声が聞こえて、リリコがヒステリックな叫び声をあげている。
 しばらく二階に来ることはなさそうだと判断して、そっとノートの間から取り出した葉に目を通す。見間違えるはずがない、十年前のシ・・・

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伝言タクシー

18/10/17 コメント:0件 吉岡 幸一

 駅の西口からタクシーに乗り込んできた中年の男はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまでですか」
 運転手が尋ねると、男はポンと膝をたたいた。
「駅の東口までお願いします」
「東口ですと、歩かれた方が早いと思いますが・・・・・・」
「ええ、わかっています。かまいません。どうか東口までお願いします」
 運転手は怪訝な顔をしながらもす・・・

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信頼の証

18/10/07 コメント:0件 秋 ひのこ

「ねぇカヨちゃん。あんまり塾の本とか学校で開かない方がいいってミツキちゃんが言ってたよ。カヨちゃんがカンジ悪くみられちゃうから」
 私がそう言うと、カヨちゃんはじっと私を見上げ、それから私の肩越しに廊下側のドアのところでかたまっているミツキちゃんたちを見やり、「ふうん」と応えた。
「あとね、西田さん。その靴下、ミツキちゃんと色ちがいでしょ。ごかいされるなあってミツキちゃんが言ってたよ。・・・

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沖田総司の三段突き

18/09/24 コメント:3件 クナリ

 幕末の剣人、新撰組の沖田総司の代名詞となっている技がある。
 三段突きと呼ばれ、その名の通り、一呼吸で三度突く。
 沖田の学んだ天然理心流では、二段突きはできても、三段を突ける者は現代に至るまで沖田総司ただ一人であるという。

 新撰組は創立期を過ぎると、京の不逞浪士の取り締まりだけではなく、内部粛清にも明け暮れた。
 特に組の脱退は厳しく禁じられ、死罪である。

投稿済みの記事一覧

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伝言屋

18/10/22 コメント:0件 森音藍斗

『伝言屋
 時間と場所が離れた人へも、直接言いにくいことも 代わりに伝言致します、早く確実に伝えます
 匿名希望も受け付け可 誹謗中傷はお断りする場合が御座います
 tel/fax XXX-XXX-XXXX
 mail xxxxx@xxx.xx.xx
 address xx都xx区xx x-x
 報酬は、貴方のできることを、見合う分だけ』

 依頼人・・・

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僕の先生

18/10/22 コメント:0件 アシタバ

 僕が母さんのお腹で死んでしまったから母さんは酷く悲しんだ。
 病院のベッドで寝ている母さんの頭の上をくるくる飛んでいると「かわいそうになぁ」と近づいてくる人魂があった。
 それが僕の先生になった。
 先生は僕と同じ幽霊で僕のことをチビと呼んだ。そして何もわからない僕に色々なことを教えてくれたのだ。
 僕が先生にくっつくと先生の考えていることが流れ込んでくる。おかげで僕は言・・・

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素顔のメッセージ

18/10/22 コメント:0件 冬垣ひなた

 カフェから出ると、雨上がりの街からはオレンジ色が消えかかっていた。ちょっと長居しすぎたみたい。会社帰りの紗希は自分の頭を小突いた、今日は晩御飯の当番だ。しっかりしなきゃ、社会人一年生。折り畳み傘を鞄にしまおうとすると、丁度スマートフォンのメロディが鳴った。
「もしもし、お母さん?」
「ああ、紗希。今どこにいるの」
「駅前。もうすぐ帰るから」
「そう。そういえば、松木戸先生・・・

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親愛なるあなたへ、魔法と愛を込めて。

18/10/22 コメント:0件 日向夏のまち

「激安宿の若旦那、久々の依頼だよ。」
 馴染みの旅人が、入口で羊皮紙を揺らした。
「久しぶり。パン屋の娘が、『また旅の話を聞かせて欲しいわ、熱々のパイと紅茶を用意して待っているから。』と、お前に。」
 相変わらず悪い夢みてぇと言い残し、旅人は店を後にした。羊皮紙には、アリーサ・セリツィロイとだけ書いてあった。

 枯れた灰色の石畳。青い屋根の家々。見上げる新緑の頂と、・・・

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注文が多い料理店

18/10/22 コメント:0件 紅茶愛好家

「オーダー、地中海の風コース。前菜のマグロとアボカドのマリネはアボカドを抜いてマヨネーズソースをかけてください。サラダにはクルトンの代わりにアーモンドを。パンはバターではなくオリーブオイルと塩で。スープはぬるめの30度くらいでパセリの代わりにイタリアンパセリを浮かべて欲しいとのことです。メインは肉ではなく白身魚をご希望です。あればスズキを。デザートはバニラアイスではなくゆずシャーベット、食後のコー・・・

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伝えたい言葉が空に舞い上がる

18/10/22 コメント:0件 みや

その桜の木を目指してたくさんの人達が小高い山を黙々と登っていた。その人達の中には若い人もいれば高齢者もいて、皆んなそれぞれに誰かに伝えたい言葉を抱えながら山の頂上にあるその桜の木を目指していた。

私の少し後ろを七十歳くらいのお婆さんが杖をついて登っていた。標高144メートルのなだらかな山なので一時間弱で頂上に着くと言っても、高齢者にとっては辛そうで私は大丈夫ですかと声を掛けて手を引い・・・

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あいつに伝えて

18/10/22 コメント:0件 宮下 倖

 父さんは、ぼくの誕生日には必ず仕事を休む。
 いつも忙しい父さんが、ぼくが学校から帰る夕方には家にいて笑顔で「おかえり」と迎えてくれる。それから父さんと母さんと一緒にプレゼントを買いに出かけ、帰りはレストランで夕ご飯を食べる。これがいつものぼくの誕生日だ。
 今年、ぼくはカレンダーを見て飛び上がった。ぼくの誕生日が土曜日だったからだ。父さんの仕事もぼくの学校も休みの誕生日なんて初めて・・・

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言いたいことはひとつだけ

18/10/22 コメント:0件 むねすけ

 雲坂家の遺影がガタガタとなる。
 痛打した肢足の欠片を脱いだ靴下に探し続けるかのような虚空でこそあれ虚構ではない微細だがビサイドユーな揺れである。
「お爺ちゃんが呼んでる」
 雲坂春香、雲坂家の長女が一番に反応する。雲坂十吉が大往生したあの日からいつか呼ばれる日のために遺影と視神経を固結びしておいたからだ。
「うっふっふー、目がくすぐったいぜ、お爺ちゃんわかったわかった」・・・

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モラトリアム

18/10/22 コメント:1件 泡沫恋歌

 突然の死というのは、今そこに座っていた人が退座したまま帰ってこない状態に似ていると思う。丁度、美咲の死がそんな感じだった。
 同じ会社のOL同士、大柄でボーイッシュ元気いっぱいの美咲と、チビでのんびり屋メガネっ子の私は、なぜかウマが合って仲良しになった。仕事中はもとより休憩時間やトイレにだっていつも二人でツレあっていた。休日には私のアパートでゲームをしたり、一緒にご飯を作ったり、まるで恋人・・・

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首相補佐官の憂鬱

18/10/22 コメント:0件 みーすけ

「博士、首相より伝言です」

 首相補佐官は遠慮がちに言った。博士への伝言をことづかってきたはいいが、その博士は傍から見ても忙しそうに動き回っていた。

「博士、首相より伝言です」

 意を決して大声を張り上げると、博士はようやく気づいたようだった。

「何だね、一体」

 手を止め、博士が尋ねる。

「例の物の開発を急げ、と・・・

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帰還

18/10/22 コメント:2件 そらの珊瑚

 小学校からの帰り道、僕は鳩を拾った。

 道端で横たわっているそいつを最初に見た時、死んでいるのかと思った。
 しゃがんでおそるおそる、その白い羽に触れてみる。鳩は小さく「クルックルー」と鳴いた。
 鳩は生きていた。
 どういう理由で、こんなところにいるのか分からなかったが、鳩がひどく弱っていることだけは確かだった。このままにしておけば、野犬にやられるか、そうでな・・・

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留守番電話は起爆剤

18/10/22 コメント:0件 小高まあな

 目覚めたとき、最初にすることは枕元のケータイに手を伸ばすことだ。時間を確認するために。
「あれ……」
 ところが、ケータイに電源が入っていなかった。充電して寝るの忘れたんだっけな。そう思いながら、ケーブルを引き寄せて、ケータイに繋ぐ。
 段々意識がはっきりしてくる。そうだ、昨日は仕事が思ってたいよりも長引いて、っていうかここ数日ずっと午前様になってて。帰ってきて、かろうじて風呂・・・

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キミはだれ?

18/10/22 コメント:0件 紅茶愛好家

 もう、5年も前のことになるが当時僕にはペンフレンドがいた。
 本当の名前も顔も知らない、住所さえも。でも唯一無二の親友だった。
 ペンフレンドなのに住所を知らないというのは奇妙な話だろう。どうやって手紙を送るのか? そう、僕は彼と伝書鳩を用いて文通していた。
 きっかけはある日のこと。学校から帰宅した僕は二階の自室のベランダに鳩がいるのを見つけた。「へえ、珍しい」くらいには思っ・・・

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君の鏡になんてなりたくなかった

18/10/21 コメント:1件 入江弥彦

はみ出し者には、はみ出し者の流儀というものがある。
「動かないで」
ゆらゆらと頭を動かしていたシオンさんがピタッと止まった。
「だって恥ずかしいんだもん」
シオンさんの言葉に手を止めることなく最後の仕上げにかかる。
誰もいない朝の教室で僕の絵を受け取った彼女は教室を出る。入れ違いに入ってきた担任が嫌な笑顔を浮かべて、お前らもうでデキたか? なんて言った。

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メッセンジャー

18/10/21 コメント:0件 待井小雨

 神は大いなる力で天地を作り、命を地上に置いて天上には楽園を創られた。
 地上にて稀な魂を見出すとその威光によって刺し貫いた。神の印を受けたものは天で神に仕える僥倖に恵まれる。

 ――であるというのに。
 私は逃亡者である少年と少女を空から見下ろした。
「あなた方に神から言葉を授かりました」
 二人は強く睨んでくる。
「即刻天上に来るように、との仰せです・・・

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つくね

18/10/21 コメント:0件 みゆみゆ

 私は父の声も話し方も好きだ。「あやちゃん、今アパートかい?今朝は寒いな」電話が鳴る前に淹れたコーヒーの香りをゆっくりと頭の隅々に溶け込ませて、自由な四十八時間の始まりをかみしめる。父からの電話はたぶんデートのお誘いだろう。「さっき新聞見てたらな、日光の紅葉の写真が載ってたんだよ。明日は何か予定あったかい?」ほうら、やっぱり。いつもなら今夜のうちに実家へ帰り、明日の早朝から父の車に乗って出掛けただ・・・

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伝言ごっこ

18/10/21 コメント:0件 ケイジロウ

「お父さん、開けるわよ」
 ドアを開けると真っ暗な部屋から湿った葉巻の煙が直美の顔面にぶつかってきた。
 直美が顔をしかめて電気をつけると太郎の丸まった背中が何回か点滅した後置き物のように現れた。灰皿にある葉巻は、葉巻の形をとどめたまま三分の二ほど灰と化していた。
 直美はせかせかと灰皿に行き葉巻を灰皿に押し付けた。直美は窓から顔を出し秋の冷たい空気で大きく呼吸した。
「お・・・

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夢言荘

18/10/21 コメント:0件 せーる

「おまえをここに置いておけない」
 父親の言葉に雄介は、とうとう来たかと思った。人間関係で中学校を不登校に、その後ひきこもり続け、普通に進学していれば今は高校二年生といったところか。最近、両親はコソコソと、ひきこもりを集団生活させる施設へあの子を入れようなどと話していた。僕に何の相談もなく──
「……わかった」
 
 町外れの、その施設までは母親が車で送ってくれた。
・・・

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石を投げたら波紋になった

18/10/21 コメント:2件 むねすけ

 みえないまま、聴こえないままで良かったなら、石を探すこともなかったし、石を放ることもなかっただろうから、それをしている僕が思うことは、僕という人間は景色を望み、声を求めたか弱くも逞しい人間であったということ。
・映画館の悲鳴とアイスモナカ ぼちゃん。投げた石はお腹の中。広がった波紋を飽かず眺めた。
・砂時計屋が砂時計をひっくり返す時に言う言葉 ぼっちゃん。二投目の理由は点った灯りを逃・・・

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思惑

18/10/21 コメント:0件 ハナトウ

「傷つけたかった訳じゃないんだ。」
目を伏せ眉を寄せ、ギュッと握っている力こぶしと同じくらい固い声で彼は言った。
「そうですか。……まあ、いくら貴方が後悔しようが私には関係ないので。」
伏せられていた目が上げられ私に向き、キッと睨まれる。
我ながら取り付く島もない返事をしたと思うから、仕方のないことだろう。
自分の不甲斐なさのせいで愛する者を傷つけたこの男にかけてやる・・・

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さようなら

18/10/21 コメント:0件 ハナトウ

皆が騒ぐ中央のドーナツ型のカウンターからこっそり離れて、遠巻きにその様子を見ている人の所へ行く。
近づいてきた私に気がついたその人は、隣の席に座るように示すけれど私はそれを断った。
私の意志が変わらないうちに、でもやっぱり勇気が出なくて、持っていたグラスからピニャコラーダを一口分飲んだ。
「どうしたの?」
暗にあっちで騒がなくて良いの?と伝えてくるその人に曖昧に微笑んで、私・・・

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脳内

18/10/21 コメント:0件 hayakawa




「私、文字が読めないの」
 彼女は僕にそう言った。
「そう」
 僕はそのことを重要な問題だとは思ってなかった。それより、街にある光にばかり気を捕らわれていた。
「文字が読めない。だから文字が書けない。君に伝えたいことも言葉にできない」
 僕はベランダで煙草を吸っていた。隣には彼女がいた。それで、僕は何かを口にしようとした。
「僕は文字が読・・・

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太陽が伝えてくれる

18/10/20 コメント:0件 青苔

 暗い夜道を歩いている。
 否、すでに夜ではない。もうすぐ夜明けがやって来る。しかし辺りはまだ闇の中だ。
 夜明け前の闇の中、坂道を歩いている。
 まだそれほどの傾斜は無い。ゆっくり登れば息が切れるほどでもない。しかしこの先に、もう少しきつい傾斜があることも知っている。
 坂道の両側には木々が生い茂っている。
 コナラやクヌギの類だろう。木の根元には雑草もたくさん生え・・・

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恋人の家はどこ?

18/10/20 コメント:0件 つつい つつ

 大学に行こうと駅に向かって歩いていると鳩が飛んできて僕の肩に止まった。
「ボンジュール、○×□■?!」
 どうやらフランス語を話しているらしい。鳩をよく見ると身なりもきちんとしているし気品も漂っていて紳士的で由緒正しそうだったので、とりあえずフランス語がわかりそうな坂本君の家に行くことにした。
 坂本君は僕の知っている中で一番賢くて東大に現役で受かったのに春になっても東大どころ・・・

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さがしてください

18/10/20 コメント:0件 水沢洸

『さがしてください』
 起きたらポツンと置かれていたが、なんとも自己主張の強い書き置きだ。
 心当たりもないし、ひとまず放置して目を閉じた。
『さがしてください』
 起きたら紙が増えていた。
 ビスケットだろうか。
 叩いた覚えはないけれど。
 なんとなく怖くなったので、逃げるように目を閉じた。
『さがせっていってんでしょうが』
 言葉が変わっ・・・

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うるせぇ、と書き足して帰る。

18/10/19 コメント:0件 繭虫

『アホ』 『うざい』 『ひろくん だいすきだょ』 『トーテムポール・マッカートニー』 大きなタコの遊具の中で、夜空の星のように天井いっぱいに広がるラクガキを少女は真顔で見つめていた。 スマホのライトで照らした落書きたちは字体も大きさもバラバラで、アラビア文字のようなものが混じってたり、かと思いきやよく見るとミミズが這ったような汚い平仮名だったり。 まるでちょっとした宇宙、ちょっとした混沌。・・・

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明日世界が終わる

18/10/18 コメント:0件 そらの珊瑚

 白夜はいつも寝不足になる。夜になっても沈まない太陽のせいだ。こんなあたしでも人類の、はしくれ。太陽の光に含まれる活動エネルギーが、自律神経を乱れさせてしまうのだろう。
「おはよう、リンダ。また眠れなかったの?」
「おはよう。母さんはよく眠れたみたいね」
「それは私が年老いた証拠よ。睡眠と死は似ているの。肉体が死に近づいた分、夜はぐっすり。そして遠くない将来、永遠に目覚めない朝が・・・

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青い鳥

18/10/16 コメント:0件 篠騎シオン

おはよー!今日も一日頑張るよ

彼氏がラインしてもぜんぜん捕まらないから、古風に留守電入れてやったぜ

そいえば、今日友達から怖い都市伝説のうわさ聞いたんだー

まじ、彼氏反応ないのいらいらするんですけど。付き合ってるのに何でちゃんと返信してくれないわけ?

最近の若者はってひとくくりにされること多いけど、昔と今とかそんなに変わってないじゃん。SNS・・・

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伝えなければならない想い

18/10/16 コメント:0件 本田栞

 一月一日の朝、寂れた神社に天使が現れた。純白の衣に真っ白な翼を生やした男は、賽銭箱の真上で浮いている。あっけに取られて立ち尽くす青年――青葉を、真紅の瞳が見澄ました。

「伝言はないか?」

 高圧な口調で語りかけられて、余計に青年の混乱を煽る。

「恋人と別れたお前は、よりを戻したいと考えた。そのために祈りを捧げ、我を呼び出したのではないか?」

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このメッセージ不要につき

18/10/14 コメント:0件 本宮晃樹

 植民星〈エスペランザ〉はよそに先んじて、ついにやらかした。超臨界知性を(意図せずとはいえ)作り上げたのである。
 これは地表に水爆の雨を降らされても忍従しなければならないほどの重罪だった。だがもはや事態は懲罰艦隊の迎撃作戦を立案する段階をとっくにすぎている。〈エスペランザ〉は間もなく機械どもに食い尽くされるのだ。
「諸君らは」脱出用恒星間飛行船の船長が厳かに宣言した。「〈エスペランザ・・・

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下校中

18/10/14 コメント:0件 悠真

 ランドセルを背負った女児が、一人で歩幅小さく歩いていた。
 その後ろから徐行運転で黒い車が近づく。
「本庄ミミカちゃんだね」開けた窓に肘をかけるようにして、車から半身を出す形で男は女児に声をかけた。「お母さんから伝言があるんだ」
「え?」女児はまだ小学校低学年。目線は車内の男よりも下になるので、顔を上げなければならなかった。「お母さんから……?」
「そう」男は気の良さそう・・・

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再開のための伝言

18/10/14 コメント:0件 うたかた

 幼馴染の君が亡くなって今日で丁度一年が経過した。僕は赤みがかった空のもと、閑散とした住宅街を歩いて抜けて君の眠る墓地に向かう。
 カラスが一羽また一羽と群れをなさずに飛んでいく。砂利の音に騒がしさを覚えながら君のもとに到着した。美しく鮮やかな花が既に何本も手向けられている。
 詰まる喉に耐えながら段に足をかけようとすると、そこに正方形をした一枚の黄色い付箋が落ちているのがわかった。落・・・

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神の伝言

18/10/13 コメント:0件 吉岡 幸一

 国連事務総長は全世界の人々が見守る中、神妙な面持ちで言葉を発した。
「昨夜、神の使いの大天使が私の枕元にやってきて、神の意思を伝言されていきました。地球は明日の午後十二時、つまり今より二十四時間後に消滅します。人類は滅びることになりました」
 国連の会場は沈黙に包まれた後、風船が割れたように声が飛び交った。怒号と哄笑、立て続けにあらゆる言語で投げつけられる質問、無数のフラッシュがたか・・・

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ムニミィ

18/10/09 コメント:0件 

真似をするのが得意だった。記憶のなかのその人をそのままに、同じ言葉を繰り返すだけ。
夜営のキャンプでも僕はよく仲間たちの真似をするように求められた。
娯楽の少ないソコでは重宝されて、うまくすると偉い人たちから食料のお零れがあったりしたからよかった。
「似ている」「そっくりだ」
隊長の真似をして命令すればみんな銃を構えるぞ、なんて軽口を叩くヤツもいた。
それは流・・・

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気付き

18/10/08 コメント:0件 土佐 千里

 なんとなく種まきが終わって今日も仕事に取り掛かる。種まきとはラジオ局にメッセージをおくることだ。メッセージが採用されると、なにかプレゼントが当たるかもしれない。その楽しみがあり、今日も仕事前に、番組表をながめ、複数のラジオ局に種まきをするのである。
 帰ってきてからの楽しみは、ポストを開けることだ。
もしかしたら、種まきの種がどこかの局で採用されて花開いたかもしれないからだ。
・・・

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付箋 〜いつかあなたが気付く頃〜

18/10/07 コメント:0件 新世界

 特別な才能も、容姿もない。自分に期待など微塵もしていないし、蔑まれる視線にも慣れた。家庭や趣味も無い、枯れ果てた植木鉢の残骸の様な中年男。それが僕だ。

 24年勤務する会社にも特段愛着がある訳では無く、飲み会はいつも断るので今ではもう声も掛からない。それでも今日までリストラされなかったのは、与えられた仕事をミスなくこなし、サービス残業も厭わぬ献身ぶりが評価されているのかもしれない。・・・

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祝福された遺伝子

18/10/07 コメント:0件 本宮晃樹

 自然科学の道を志したからといって、敬虔な信仰心を捨てなければならない道理はない。なかには器用にそれらを両立するたぐいまれなバランス感覚を持つ人間も少数ながら、存在する。
 パーシヴァル・ライアン研究医もそんなバランス感覚の持ち主であった。彼は傑出した遺伝病研究者であり、敬虔なキリスト教原理主義者であり――預言者であった。

     *     *     *

 ・・・

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明衣(あかは)の星

18/10/05 コメント:2件 荒井文法

 「人間と機械の違いは、何だと思う?」

 大きな瞳を窓の外に向けながら、同僚のシルフが言った。シルフの大きな瞳か一瞬だけ輝く。

 「ずいぶん古典的な質問だね。一考に値する論理でも思い付いた?」

 僕の言葉を聞いたシルフは、大きな瞳を僕に向けた。シルフの瞳の表面に、僕が映っている。僕の目は、どこにあるか分からないくらい小さい。

 「人間は、ここ・・・

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世界を救った吝嗇家

18/10/04 コメント:0件 本宮晃樹

 スタージョン元帥は重々しく宣言した。「やむをえん、〈スロウランサー〉に通信を打て。例のブツをぶっ放せ、とな」
 マホガニーのデスクに向かって不動の姿勢をとっているベイリ中将の顔が、熟れる前の梅みたいに青ざめた。「すると、連中は節度をわきまえなかったのでありますか」
 冷戦終結後、核廃絶は順調に進んでいたはずだった。核兵器は保有するだけでやたらに金がかかるし、いざ鎌倉と相成った際にもほ・・・

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カミカクシ

18/10/04 コメント:0件 悠真

 先生の呆気に取られた顔を見て、私は内心ほくそ笑んだ。
 今朝、始業のチャイムに重なる形で、遅刻になるかならないかくらいのタイミングで私は登校して来た。しかし教室には誰もいなかった。ほどなくして授業をするために先生が登場。だが教室には私しかいない。
 まるで神隠しのような様相。
 原因は、席に着いて正面を向いていれば自ずと目に映るその文字。
 とりあえず、先生が教室にいるこ・・・

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裏紙

18/10/02 コメント:0件  浅縹ろゐか

 タクマの家では、メモ帳と呼ばれるものを買ったことがなかった。チラシを破きクリップで留めたものを、メモ帳として使っていた。簡単に言えば、裏紙である。新聞に挟まっているチラシを破いてメモを補充するのは、タクマの役目だった。文庫本の半分くらいのサイズにチラシを破き、順々に重ねてクリップで留める。その作業はひどく単純であるけれど、タクマは嫌いではなかった。単純作業は、心を落ち着けることができる。それに気・・・

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領主さんからの伝言です。

18/10/02 コメント:0件 chiho

切り立った山々に囲まれたリンブルグ地方を、若干二十歳の領主が治めていた。村々を襲った伝染病の早期撲滅を宣言したのは、ほんの数日前。領主は不眠不休の対応に疲れ果てていた。が、片腕であるカレルは思案していた。うまく取り組めば、もっと広い地域にも特効薬を届けられたはずだと。様々な提案をしてみるが、布団の中からの領主の答えは、いつも「必要ない」だった。だが執拗に訴えるカレルに、とうとう領主も折れた。・・・

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メモfrom私inケース

18/09/30 コメント:1件 悠真

 明日からの修学旅行に備えて私は準備していた。
 とはいえ着替えなどの生活用品は母親が勝手に用意してくれたので、後は私が個人的に持って行きたい小物類を残すのみ。
 イヤホンはいる。バスでの移動とか暇だし。机の上に置いてあるいつも使っているワイヤレスイヤホン。それに手をかけて、思い直して引っ込める。バス移動は長いし、修学旅行は一週間もある。ここは有線イヤホンのほうが安心かもしれない。ノー・・・

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あたしのやさしいおばあちゃん

18/09/30 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 背後から男が襲いかかってきたとき、美智代は悲鳴をあげたが、路地にはただ真っ暗な闇があるばかりだった。
 人ふたりすれちがってやっとの狭い路だった。会社のいきかえりに、いつも利用していた。二十メートル前方には、彼女の住むマンションがあった。いつもはしかし、まだあたりはいまのように暗くはなかった。同僚のし残した仕事を手伝って遅くなった。駅から速足で商店街をぬけ、道路沿いに十分ばかりあるいてこの・・・

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花のか、ひとひら。

18/09/29 コメント:0件 新世界

 始め、自分は意識のみがぽつりと浮かんでは消える泡沫の様な物であった。
 長い時をそうして過ごした気がする。そこには光も色も無かった。
 遠くで何か聞こえる。それは細い糸でも辿る様な微かなものだったが、ひたすらそれだけに意識を注ぐと、
ある時ハッキリと聞き取ることが出来た。
「母様、これは何の匂いなのです?」幼い声が尋ねると、
「これは金木犀の香りですよ、理彦さん」と・・・

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新・文メイド

18/09/27 コメント:0件 荒井文法

 「あなたの予想死亡時刻まで、あと一年、三ヶ月、十四日、二時間、三十五分、四十二秒です、博士」

 自ら開発したAIに、自分の寿命を宣告される気分は格別だった。

 私の遺伝子パターン、生活習慣、身体状況、病歴、環境などのデータから判断された死亡予想時刻。誤差は、前後一週間といったところだろう。
 現在の医療技術であれば、私の癌が完治する可能性もある。しかし、AIであ・・・

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是正の伝言

18/09/27 コメント:0件 蒼樹里緒

 俺の楽しみは、投稿系SNSでユーザーによる創作企画に参加することだ。プロ作家を目指すほどじゃないが、学生時代から小説を書くのが好きだった。過去の作品もSNSにいくつか上げたら、感想コメントやブックマークもちょっともらえた。社会人になった今でも、合間にちまちま書きためては、気ままに投稿を続けている。
 参加中の企画はコンテスト方式で、主催者から指定されたテーマや字数に沿って小説を投稿し、締切・・・

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そのイロはハルヲ夢見る

18/09/27 コメント:0件 海見みみみ

 アパートの一室。彩瀬イロは真っ赤な液体にまみれて倒れていた。紅色に染まる白いワイシャツ。散乱した描きかけの絵。イロは身動き一つしない。凄惨な殺人事件の現場か。
 そこにイロの友人である尾屋ハルヲがやってきた。イロが倒れている一室を見るなり、ハルヲを眉間にシワを寄せる。イロの胸ぐらをつかみ立たせると「起きろ起きろ起きろ」と目覚まし時計のように繰り返した。すると先ほどまで動かなかったイロが大き・・・

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試合前の控室

18/09/27 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 浩二は控室でひとり、重々しい沈黙のなかに浸っていた。。
 リングにむかうのは、あと三十分後と迫った。
 さっきまで彼のまわりをとりまいていたジム関係者たちはみな、闘いを目前にした彼のために、部屋の隅にひきさがった。
 こみあげる緊張感はすでに極限にまで達していた。椅子にすわって、固くバンテージを巻き付けた自分の手にじっとみいっている彼はいま、最大限の恐怖と底知れない孤独感とを相・・・

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悪魔の伝言

18/09/25 コメント:0件 とむなお

 秋風が、すがすがしい水曜日……

 東京都A区に本社のある雑貨品メーカーの『D商会』で営業課長をしている宮本は、平社員の田村を伴って、W村というド田舎に来ていた。
 この村の村長宅から、自社の製品に対するクレームがあったからだ。

 いつもなら、社の営業車を使うのだが、あいにく調子が悪かった。
 すぐにJAFに連絡したが、早くても半時間はかかると返答されたため・・・

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禁断の果実に手を伸ばす

18/09/25 コメント:0件 小峰綾子

リリカは、震える手で生物室をノックした。中から「どうぞ」という、男性の声が聞こえる。

高校の図書室で借りた本の中に1枚の紙きれを見つけたのは2日前のことだ。

「アダムとイブからの伝言。あなた方は騙されている。この世界は大事なことが隠されている。恋や愛は美しい感情であり行為である。決して禁止などできるものではない。もちろん扱いには気を付けなければならないものではあるが。こ・・・

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リムーバブル・スネイク

18/09/24 コメント:0件 荒井文法

 父が亡くなってから三年後、実家の処分を決意した私は、飛行機とレンタカーを利用しながら片道六時間かけて、家財処分のため実家を訪れた。
 父の葬儀から何も変わらず、埃だけが積もった家の中は、生まれてから十八年間を過ごした宝物のような記憶と、その記憶が確実に風化していく事実を改めて私に思い出させる。何百年も昔に盛者必衰という言葉を生み出した先人たちへの畏敬の念と、その先人たちもまた私と同じような・・・

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D氏の伝言

18/09/24 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 アーヤは窓をいっぱいにあけると、静寂につつまれた夜の中に、耳をすました。
 どこかから、蝙蝠のはばたきがきこえてこないかしら……。
 その蝙蝠は、D氏からの伝言を運んでくるはずだった。
 ――夜が更けるのを待って、我が館をたずねられよ。
 それが伝言に書かれている文言だということは、村にすむ娘ならだれもがしっている。
 娘のいる家に、D氏の伝言が届けられるのは、いま・・・

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「そう、しよう」

18/09/24 コメント:0件 風宮 雅俊



『さようなら』


 船首が切り開く海に広がる白い軌跡、無音の洋上を波の音が進んで行く。朝日はなんて美しいんだろう。
 デッキのあちらこちらには老夫婦。私と同じように朝日を見つめている。なかには、わき腹を小突かれている人もいる。

 やっと一つの区切りを迎える事ができた。十年分の自分にご褒美。こんな清々しい朝を迎えられたのは、心地の良い夫婦生活を・・・

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ままごとあそび

18/09/24 コメント:0件 こぐまじゅんこ

 ここは、ことりほいくえん。
 すみれぐみさんは、三才、四才、五才の子どもたちがいっしょにあそんでいます。
 三才のゆうくんと、四才のはるくん、五才のめいちゃんは、なかよしです。
 今日は、三人でままごとをしていました。
 めいちゃんが、おかあさんです。
「ゆうくん、にんじんかってきて。」
 めいおかあさんが言いました。
 ゆうくんは、はるくんに言います。・・・

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伝言、頼んだよ

18/09/24 コメント:0件 文月めぐ

 駅まで車で十五分。つまり、家を出るまであと一時間しかないという計算になる。
「それにしても東京かあ……いいなあ、都会」
 沙理が今日何度も言った台詞を口にして、ため息をついた。沙理も友美も地元の大学に受かってこちらに残ることになった。それを考えると、私だってこっちに残りたかったが、苦笑いを浮かべてその言葉をぐっとこらえる。ただ手を動かしてナポリタンをフォークに巻き付ける。
「ね・・・

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あなろぐ

18/09/24 コメント:0件 R・ヒラサワ

「ヤマキ商店です。いつものパック、昨日の二倍で」
 エースフード最大の取引先である『ヤマキ商店』は、こだわりの商品作りで抜群の集客力を持ち、自社製や仕入れ商品全てを完売させる事で有名だった。その為、いつも製造開始の直前に注文が入る。今日はシンプルな注文だったが、駅近の店舗は販売数が倍になる事も珍しくはなかった。
 カナコが勤めるエースフードは、食用の素材をすり潰した『調理用ペースト』を・・・

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