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  2. 第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】

第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】

今回のテーマは【片想い】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2018/09/24

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は3作品とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2018/07/23〜2018/08/20
投稿数 105 件
賞金 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数 3
総評 気持ちのすれ違いが生じた「片思い」の人間関係において、濃密な感情を描写するのは難しかったのか、結果的に両想いになってしまっている作品が多かったですね。 『弁当』―――これは見方によってはいい話ですね。毎日弁当を作るとなればやはりそれなりの大変さが伴うわけで、からかい半分のところもあったにせよ、失恋した純也を応援する気持ちも本当だったのでしょう。ラストの展開によって読後感が良くなっていたと思います。 『やお姫に祈れば』―――「恋する娘たちの願いだけが、この神社で何よりも「本物」に見える」という一文が印象的でした。マーケティングという「嘘」を、どう生かすかはそこに関わる人次第なのかもしれませんね。 『ハートネイルピースサイン』―――自分の感情に素直な祖母と孫の関係がほのぼのしていますね。客観的には少々無理のある片思いでも冷たく突き放すことなく、応援してあげる優しい関係が印象的でした。 『ボクとカイジュウのいない夏』―――子供の繊細な感性と大人の暴力への無力感、そして愛への願望など様々な感情の織りなす文章が心象風景のようで、同時にダイナミックさも感じました。カイジュウは、父の暴力から庇護してくれるような、ある意味では母の代わりとしての存在だったのでしょうか。 『めぐろのいえ』―――不幸な過去を背負う犬を保護するやりとりがリアルだと思いました。 無限にペットを増やすことはできないという現実的な立場と、犬のめぐろのことを慮る若菜の気持ち、どちらも叶えることは大変ですが、皆が幸せになってほしいですね。 『落ちる前に強く輝く』―――破滅に向かう世界の中で、恐怖を感じさせまいと同級生たちを眠らせる優しさが特に胸に残りました。そしてそこからラストに向かって、ドラマティックに緊張感が高まっていく構成がうまいなあと思います。 『ハートのギザギザ』―――主人公の「俺」の子供っぽさや無邪気さが、結果的に彼女を戸惑わせてしまったのでしょうか。10代らしい周囲とのコミュニケーションにおける不器用さが、学生生活の日常のやり取りの中で書かれていて肩の力を抜いて読めました。 『俺の家には、俺の合格を喜んでくれる人がいません。』―――親子の気持ちの齟齬というのはよくあることとはいえ、難しい問題ですね。年をとるにつれ、幼い頃の気持ちは忘れ、人間関係は肩書など記号的になり、目の前の人間に真に向き合うことも少なくなるような気がします。子供は、そんな大人の嘘を敏感に感じてしまうものなのかもしれないですね。

入賞した作品

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いつか、届け

18/08/20 コメント:2件 宮下 倖

 閉じただろうか。開いたままだったろうか。
 記憶を巻き戻すように何度も思い返しているけれど開いたままだった気がする。
 先生が急に呼ぶからいけないんだ。大至急手伝えなんていうから何事かと慌てて行ってみれば花壇の水遣りだった。
 鳳仙花に水をかけながら私は気が気ではなかった。
 ひとり教室に残って書いていたノート。呼ばれてそのままあたふたと出てきたからちゃんと閉じていなかっ・・・

3

花の名前

18/08/20 コメント:2件 野々小花

 結婚してしばらくはアパート住まいだった。夫の仕事場の近くに手頃な賃貸物件を見つけて、息子の蓮が六歳になるまでは家族三人で2LDKの部屋で暮らした。アパートの玄関を出て大通りを抜けると、新しい戸建てが並ぶエリアがあった。ぴかぴかの家と、丁寧に手入れを施された庭。
 庭には、季節ごとにきれいな花が咲いていた。アパートのベランダは狭くて、洗濯物を干すだけで精一杯だったから、余計に羨ましいと思った・・・

1

ハッチ

18/08/16 コメント:0件 みゆみゆ

 僕の名前はハッチ。コンパクトハッチバック車だからハッチだと、ユリちゃんが名付けてくれた。彼女は免許を取りたてだったからあちこちに傷も付いたけれど、そんなことは最初のうちだけだったし、ユリちゃんのお父さんはいつでもちゃんとディーラーさんに傷の修理を頼んでくれていたから、何の問題もなかった。
 ユリちゃんの通う大学やアルバイト先への往復のほか、いろんな場所へ僕らは出掛けていった。知らない田舎道・・・

最終選考作品

0

弁当

18/08/20 コメント:0件 紅茶愛好家

朝登校したオレは下駄箱を見てぎょっとした。弁当箱がどんと置かれていたのだ。周囲を確認しても誰もいない。大丈夫。そっと弁当箱に手を伸ばす。バンドに紙が挟まっていて可愛い字で『良かったら食べてください』とある。ほくそ笑みそっと鞄に仕舞うとそそくさと教室を目指した。
オレの通っている高校は男女共学ですなわちこれはオレに淡い恋心を抱く女子からの贈り物という可能性は十二分にある。自分で言うのも情けない・・・

2

やお姫に祈れば

18/08/18 コメント:2件 秋 ひのこ

 やお姫って知ってる?
 その昔、漁師の男に恋をしたけど、男は池の大ナマズに襲われて、姫がその身と引き換えに大ナマズを退治したの。それ以来、池の水で身を清めると、好きな人と両想いになれるんだって。 


 マフラーをぐるぐる巻きにした女子中学生ふたりが寒気に頬を赤く染め、ピンクの御守を手にはしゃぎながら帰っていく。
 その様子を眺めつつ、エマは「若いねえ」とつぶやいた・・・

1

ハートネイルピースサイン

18/08/17 コメント:0件 若早称平

「そんなの駄目に決まってるでしょ!」
 病室内にママの怒号にも似た叱責の声が響く。私が幼かった頃以来の事態に懐かしさから頬が緩んできてしまう。叱られている当の本人であるおばあちゃんを盗み見ると、私と同様反省の色もなくへらへらしていた。ママはいつまでも世間体がどうだとか、無謀な夢を見るなとか、のれんに腕押しを続けている。
 おばあちゃんが五十以上も年下の病院の職員さんに恋をしているという・・・

4

ボクとカイジュウのいない夏

18/08/15 コメント:4件 入江弥彦

今年は僕の町だった。
毎年、夏になると日本のどこかに巨大な生命体が現れる。東京にあるビルなんかよりもずうっと大きい、ワニと鳥とを混ぜたような奴だ。ワニのように鋭い爪のついた足を、二つの田んぼに片方ずついれた体勢で眠っている。今まで、そいつは動いたことがない。いつの間にか現れて、いつの間にか消えているのだ。
ゴツゴツしていそうな背中の鱗の隙間から生えた翼が開いたところは見たことがないけれ・・・

2

めぐろのいえ

18/08/12 コメント:0件 秋 ひのこ

 めぐろが食べることを止めて、1週間になる。
「ほら、お願いだから少し食べて」
 困り果てた若菜がめぐろの鼻先にジャーキーを押しつけるも、全力で顔を背ける。耳が根元からなく、失明して濁ったガラス玉のようになった目の横顔が若菜に向いた。
「フジコさんじゃないと嫌なの? そうなの」
 嘆息し、若菜は助けを求めるようにスマホを手に取る。新着メッセージが届いていた。

・・・

3

落ちる前に強く輝く

18/08/06 コメント:2件 待井小雨

 校内は誰もがみんな眠りについて、廊下を歩く私の足音だけが響く。時間は正午。衣替えしたばかりの夏服のスカートを翻して屋上に向かう。
 屋上から見下ろす町もしんとして人の動く気配はない。人も、動物の声もしない。私が彼らを眠らせたから。
 日差しに目を細めて空を見上げると、地球に落下してくる隕石が水蒸気の尾を引いている。今は流れ星ほどに見えるが、実際のサイズはそんなものとは比べ物にならない・・・

1

ハートのギザギザ

18/07/28 コメント:0件 浅月庵

 “ハートのギザギザ”というケータイアプリが中高生に人気で、個人情報や友達にも話したことのない赤裸々な回答まで登録すると、その人の“ハート”が、完全な形ではなく、片割れの状態で画面上に産まれる。
 まぁ簡単に言えばこのアプリは、相性診断を面白おかしく視覚化したもので、異性でも同性同士でも、特定の二人の半分ハート同士をマッチングさせ、ハートが噛み合えば相性度の%が表示されるというわけだ。

4

俺の家には、俺の合格を喜んでくれる人がいません。

18/07/27 コメント:5件 クナリ

 霜の降りた二月五日。
 飯田コウキは、二年間通っていた塾に、中学入試の結果を伝えに来ていた。
「こんちは」
 カウンターの前で、無愛想にコウキが言った。
 ちょうど、数学を担当していた土谷講師と、坂井という事務担当者がそこに居合わせた。
「どうだった?」
 土谷が聞いた。この二人は特にコウキとは打ち解けており、あまり社交的ではないコウキも比較的笑顔を見せやすい・・・

投稿済みの記事一覧

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やじろべえ

18/08/21 コメント:0件 nekoneko

「ユリ、早くしなさい。時間に遅れるぞ」何と無くソワソワした様なお父さんの声が聞こえてくる。「はあい」と大きな声で返事を返すとユリちゃんは机の上のやじろべえを軽く触れて見た。やじろべえは軽く体を左右に揺らす。「どんなお母さんかな、今日会う人は」と呟きながら色々と思いを巡らす。優しそうな人。綺麗な人。想像してみたら笑みが思わず溢れてくる。でも、ユリのお母さんになってくれるならどんな人でもいいや。ユリち・・・

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アナタの思い、届けましょう

18/08/20 コメント:0件 飛鳥かおり

「辻先輩、この前の試合も格好良かったなあ。今日も練習見られるかな」
 ひとりごとの多いいつもの通学路。野球部の朝練に合わせて早く出るのにはもう慣れてしまった。
 本日も清々しいほどの快晴。特に今年は例年になく猛暑の日々が続いている。普段ならとっくに制服のシャツがぐっしょりと湿っているはずだが、不思議と今日は汗をかいていない。
 辻先輩は洋子の高校の野球部の二年生で、洋子は入学直後・・・

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片想いのバトン

18/08/20 コメント:0件 紫聖羅

 真っ白なチャペルの階段を、新郎新婦が笑顔で降りてくる。ひらひらと舞うフラワーシャワーが、二人を輝かせる光そのものに見えた。
 花嫁の、小さな子供の無垢な笑顔とそっくりな表情を見て、心の奥にすとんと落ち着くものがあった。
 ーー彼女が幸せそうで、本当に良かった。
 じっと見つめていたせいだろう。たっぷりのフラワーシャワーを受けた後、彼女と視線が交差した。こちらへ小走りで駆けてくる・・・

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とある哲学者の言葉

18/08/20 コメント:0件 君鳥いろ

「こんなに好きなのになあ」
彼女は秋空を仰いではにかんだ。
「…うん」
彼は俯き気味に彼女の隣を歩いていた。
放課後の帰路は、辺り一面が夕陽に染め上げられている。
「やっぱり私じゃだめかな」
彼女の言葉に彼は押し黙る。すると彼女はまた、唇を小さく開ける。
「…後悔するよ、私を選んでおけば良かったのにって」
強気な台詞とは裏腹に、震わせた空気は僅かだっ・・・

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片想い

18/08/20 コメント:0件 国光

「好きな人ができた」
 君の一言で俺の平和の日々は壊される。
「それで、今回は誰だ?」
 このやりとりも何度目になるかもう覚えていない。いつものことなので俺は必要最低限の情報だけ得ようとする。
 それでも君はいつものように好きになった人の名前を口にするのを躊躇い、数分の時を要して口を開いた。
「……あのね」
 そして俺はようやく情報を得る。
 ここから俺の・・・

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なっちゃん

18/08/20 コメント:0件 木野 道々草

 なっちゃんとわたしは、高校時代からの友人で、二人とも今年で二十四歳になる。そういう長い付き合いだし、彼女に頼られることは嬉しい。けれどそろそろ、彼女の恋愛相談に乗ることが辛くなり、少し距離を置こうと思った。

 そう決心した直後、なっちゃんから「会いたい」と連絡があった。
 もう会わないつもりだったのに、その週の金曜日、駅で待ち合わせをして一緒に夕食を食べてしまった。その後は、・・・

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純愛フェードイン

18/08/20 コメント:1件 冬垣ひなた

 満里奈っていう私の名前は、ママが付けたの。
 瞬くんの知らない秘密。
 昔から背が高かった彼は、隣に住む同い年の幼馴染だ。優等生だったし、ちょっとカッコよかったから、小さい頃は女の子たちが騒がしかった気がする。
「シュンくんは、だれがすきなの?」
 私の問いに、瞬くんは照れながら答えてくれた。
「まりなママかな」
 もうショックよ、人生初めての失恋だった。

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花火を閉じ込めた

18/08/20 コメント:0件 橘瞬華

 とある八月の土曜日、午後。夕方五時半。浴衣を着た私たちは連れ立って家を出た。向かう先は花火の打ち上がる公園。本当は多分家からも見ることができるのだけれど、屋台巡りを目的に。そして何より引っ越してきて初めての花火大会を、平成最後の夏に過ごすため。まだ暑さの残る坂道を下って、人波に紛れていく。
 初めて一人で着付けた浴衣は少し時間が掛かって、歩きながらも着崩れてないか心配で、何度も後ろを振り返・・・

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レンタル彼女と碧い海

18/08/20 コメント:0件 みや

彼女との三回目のデートはレンタルラバーの社長の勧めもあって海に行く事にした。可愛い二十四歳の彼女はセクシーな水着を着ていて僕はドキドキして、海はとても綺麗で僕のロマンチックな気分は否が応でも盛り上がった。彼女の事が好きだ…けれど彼女はレンタル彼女。ビジネスで僕とデートしてくれているだけであって、彼女は僕の事を好きでもなんでもない。完全に僕の片思いだ。

「今回のデートは如何でしたか?」・・・

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幽霊色の秋

18/08/20 コメント:0件 時雨薫

 台本を忘れちゃったから持ってきてくれないか?福永の携帯に宛てて金田がそう連絡をよこした。福永がいつも放課後しばらくは教室に残っていることを知っていたのだろう。
 自主映画の台本だなんてどんなに真面目に書いてもいくらか恥ずかしそうなものを託せるほど信頼されているのだと思うと、福永は嬉しかった。
 その台本は金田のロッカーの中にあった。くたびれた紙製のファイルに20枚かそこらのルーズリー・・・

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反面

18/08/20 コメント:0件 むねすけ

 男が私を見つめています。
 右の手で人差し指の先は銃口のつもりなのでしょう。
 男は頭を撃ち抜いてしまいたいのでしょうか、そのままの姿勢で、延々と私を見つめ続けています。
 時折自重を任せる膝を左右に振り分けながら、柱時計が半時ごとにボンボンと日常を急かしても、男は私を見続けています。
 私は男のことが大層好きでありましたから、男に見つめられ続ける時間は至福の陶然でもあり・・・

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風が僕だけよけていく

18/08/20 コメント:0件 むねすけ

 そこには砂塵敷きの地面と岩肌に、様々な楽器があるだけだった。
 幾百幾千の山の頂、僕らは行き着いたのだ。証拠に空は犬と呼んでもかまわないほどに何処にもなかった。空は犬のように鳴いている。僕らに置いていかれて、きっと。
 いつか、月の砂漠、とラクダに乗った歌うたいが上手い組み合わせを披露してくれた。自慢の喉に、絶妙な景色のタッグがメロディーの補助になって美しかった。あれよりも、上手いこ・・・

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小泉くん専用・幸福のシシャ

18/08/20 コメント:0件 小高まあな

 小泉くんは少し落ち込んでいる。
 小さい不幸が重なっているのだ。
 この前のテストの点数があんまりよくなかったこと、サッカー部のレギュラーを外されそうなこと、おととい深爪しちゃった右手の人差し指とか。
 それでもやっぱり一番は、片想い中の萩尾さんにカレシがいるっていう噂があること。
 小泉くんは、小さくため息をつくと、いじっていた右手の人差し指から、斜め前に座る萩尾さんに・・・

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叶うはずがない初恋

18/08/20 コメント:0件 せーる

ぼくが好きになった人は、男の子に興味がない娘だった。

最初はその娘の笑顔に見惚れるところから始まった。
どこか不思議な雰囲気を纏うその娘の笑顔は、どういう娘なんだろうという興味を刺激された。
学校で授業をうけるたびに、その娘がとても頭の良い娘なんだとわかった。
問題をスラスラとけるわけではないけど、自分で考えて試行錯誤しながらに答えにたどり着くその姿は、ただテストで・・・

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辻斬り

18/08/20 コメント:2件 泡沫恋歌

 今宵は新月、星もなく、漆黒の闇が辺りを包む。
 街道から宿場に抜けるこの道は暮れ六つを過ぎると人通りもなく、時おり行商人や廓で遊んできた者だけが通る。一本松の陰に隠れて、俺は獲物を物色する。
 遠くで揺れる提灯、それは次第に此方へ近づいてくる。町人か、商家の主と風呂敷を背負った丁稚のようだ。商談の帰りなら、たんまり金を持っているかもしれぬ。
 いきなり木の陰から飛び出し、二人連・・・

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拝啓、喜次郎様へ

18/08/20 コメント:0件 黒江 うさぎ

 拝啓、喜次郎様へ。
 私から突然の手紙が来た事、さぞ驚いておられる事でしょう。
 …だって貴方は茶屋の店主で、私はその客というだけなんですから。
 その貴方に、どうして私がこうしてお手紙をお出ししたのか。
 …私は明日、婚礼致します。
 相手は、名立たる華族の、長男様。
 私の家と比べる事すら烏滸がましい、とてもとても…とても高い、雲の上にいる御方です。

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きっと、いつかは

18/08/19 コメント:0件 要諦の山

 初恋はいつだったかと訊かれると、はっきりと答えられない。理屈っぽいと言われてしまうかも知れないが、「好き」とか「嫌い」とかなんて言う感情は極めて曖昧なものだと思う。
 そもそも、僕はこれまで本当に「恋」なんてしたことがあるのだろうか。それすらも、分からない。
 ただ、特定の女の子のことが頭から離れなくなってしまうということならある。それを「恋」と定義するのであれば、僕は何度もしている・・・

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          【幽霊のアルペジオ】          

18/08/19 コメント:0件 長玉


 「あのピアノ、幽霊が弾きにくるのよ」
マダムたちがうわさ話をはじめた。駅前の公共ピアノが、夜になると鳴り出すのだと言う。
「曲は毎日変わるの。どれも子供のころ、ご近所さんが弾いてた曲よ」
このマダムの子供のころなら、きっと50年から200年ほど昔のことだろう。妙な話だ。
「ご近所さんね、ピアノの先生だったの」
「50年前の話ですな?」
「そう、50年前・・・

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円周率ラプソディ

18/08/19 コメント:0件 硝子

 孝は、幼稚園の頃、家族で行った海水浴のことを思い出していた。イルカの形の浮き輪でどうしても遊びたくて、泣いて頼んでレンタルしてもらった結果、案の定、うまく乗れなくてひっくり返り、大泣きしたらしい。
 66653935……。孝は、朝の教室で一人、円周率を頭の中で唱えていた。
 中学校では、孝は科学部に入っていた。結晶の模型を作るのが楽しくて、先生に難しい問題を出してもらっては、辺りを発・・・

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Reminiscence

18/08/19 コメント:0件 広田杜

彼女が眼を覚ますのを正座をしてじっと待つ。
彼女はベッドの中、夏掛けの軽い布団の下で静かに寝息を立てている。僕は小さな指輪を机に置くと、その時を待った。
彼女が眠たそうに眼をこすり、ゆっくり上体を起こした。ぼんやりとした目で室内を見回す。視線は僕を通り越し、テーブルの上の小さな光る輪で止まった。
彼女は布団を抜け出し、机の前に座る。Tシャツとショーツだけを身につけた彼女。・・・

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片恋フェードアウト

18/08/19 コメント:1件 冬垣ひなた

 お隣りのまりなママが亡くなったのは、僕が小学4年生の頃だった。誰もがすすり泣く中、満里奈はお通夜の席でひときわ大声を上げて涙を流していた。綺麗で優しくて、お料理やお菓子作りが上手なママは、幼馴染の満里奈の自慢だった。
「シュンちゃんはいつも頼りになるわ。満里奈と仲良くしてあげてね」
 にこやかに笑うまりなママからはいつもいい香りがして、僕は嬉しいとともに胸が弾むように高鳴った。それが・・・

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郵便配達人Kのメモリアル

18/08/19 コメント:0件 硝子

 Kは、今まで素通りしていた町一番の大豪邸の家に郵便物を届けることになった。その豪邸自体は、Kが生まれる前からあったが、ずっと空き家になっていた。そこに最近、誰かが引っ越して来たらしい。噂によると、新たな入居者は東京から来た医師で、体の弱い奥さんのために、静かな田舎町に越して来たという。
 バイクを止めて手紙を探していると、大きな外車が近づいて来た。車から降りて来たのは、若い女性だった。年齢・・・

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あのひとが住む街

18/08/19 コメント:0件 霜月ミツカ

 窓の外の景色は、高層ビルが連なっていたり、工事現場の柵がてられていたと思えば田園が広がっている。まるで創造と破壊を繰り返し、過去と現在が交錯しているようだった。こんな遠くまできて、きちんと帰れるのかという不安よりも、よく分からない高揚感で心臓が暴れていた。いままで勇気がなくて買えなかった、自分にはあまりにも可愛すぎるワンピースと、インターネットでメイクの教則動画を見てコスメを買い集めて、必死で勉・・・

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「時は流れて、マチは変わって、それでも僕は、あの日のままで」

18/08/19 コメント:0件 篠五野 ユウ

 そりゃあ、この町だって変わるよ。
 田舎だから変わらないままだと思ってた?
田舎だからこそ色々と変わるのよ。懐かしさを求めて帰ってきたであろう君とは違って、私はずっとこの町で生活してきたから、失うことに対するノスタルジーはもう慣れたけどね。まぁ、この二人で見る夕日の美しさだけは永遠に変わらないのかも。
 君は十年ぶりだっけ?この町に帰ってくるのは。何だか久しぶりの気がしないね、・・・

0

未来が見えたくない。

18/08/19 コメント:0件 笹岡 拓也

私は生まれつき変わった能力を持っている。それは《手を触れるだけで相手の未来が見える》能力。
子供の頃はなんとなくしか分からなかった能力だけど、高校生になった私は能力が高まり凄まじい情報を得ることができる。それが故に、簡単には人と触れ合うことができなくなっていた。
「美咲自身が背負いこむことないからね?普段はこの手袋をつけておきな?」
私は大事な友達の未来を見て傷つけてしまい、落ち・・・

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アネモネは散らない

18/08/19 コメント:0件 礼愛

“幸せになってね”
なんてずるいよ
これからわたしが背負うのは
そう
残されたあなたへの想い
重たい 痛い 心が痛い

指が触れ 掌が触れ
腕が触れ 心が触れた
あの夢のような時間は今
何処に旅立ったのかなあ
きっと
君に振られて
雨に降られて
今頃、雨宿りでもしてるんだろう
でも止みそうにないね
今夜・・・

0

僕の好きな青い花

18/08/18 コメント:0件 つつい つつ

 ティティオは今日も空を見上げました。でも、亜銀星を見つけることは出来ませんでした。
「ティティオなんて嫌い!」
 風藍妹(フウアイメイ)から言われた言葉がもう何百回も頭の中でこだましていました。ずっと仲良く遊んでいたのに、いつ嫌われたのかティティオには全く理由がわかりませんでした。それも、お別れの時にそんなこと言われるだなんてティティオは悲しくてしかたありませんでした。
 ティ・・・

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軽やかに舞う想い

18/08/18 コメント:0件 文香

 軽やかに軽やかに花が舞う。
 風に吹かれて美しい花が舞う。
 淡く麗しい色の花が舞う。
 風に吹かれてどこまでも、その身をゆだねてどこまでも。
 残る香りに恋しさが増す。
 一体どこに行くというのか。
 一体どこに行けるというのか。
 風の向くまま、花自身も行く末を知らされずに。

 白く美しい幹は、淡い花を全て散らし寒々しさに静まり返る。<・・・

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帰郷

18/08/18 コメント:0件 そらの珊瑚

 久しぶりに銀座を歩いていたら、後ろから肩をたたかれ、振り向いた。
「こんにちは。私を覚えていますか?」
 何かの詐欺だろうか、と反射的に思ったが、その女の顔をじっと見ていたら、心なしか見覚えがあるような気がしてきた。
「うまく思い出せませんが、誰でしたっけ」
「私は湊高校三年一組三十番猫島今日子です。あなたは同じクラスの十八番加古川君ですよね」
 高校を卒業して二十・・・

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夫婦の片想い

18/08/18 コメント:0件 田辺 ふみ

「汝、スザクは、シエラを妻とし、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、死が二人を分かつまで、愛し合うと誓いますか?」
 牧師の言葉にスザクは短く答えた。
「誓います」
 いつもの戦士の服装に白い花を胸につけている。
「汝、シエラは、スザクを夫とし、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、死が二人を分かつまで、愛し合うと誓いますか?」
・・・

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温室のあなた

18/08/18 コメント:0件 結木公子

 あ、今日もシマさん来てる。

 私はさっき手渡された入場切符を握りしめ、なるべく音を立てないようにいつもの席へと腰掛ける。シマさんの座るテラス席の斜め向かいのこの席は、目の前が植物で仕切られているためばれずに観察できるのだ。

 シマさんというのは私が心の中で呼んでいる、勝手につけた彼の名前だ。私の会社近くにあるこの植物園の温室には、ひっそりと佇む異国風の穴場的なカフェが・・・

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残り香

18/08/18 コメント:0件 二十日鼠

 「俺はずっと海に片思いしているんだ」
 それが彼の口癖だった。
 彼は三つ年上の、日に焼けた浅黒い肌が印象的な体格のいい男で、母親と二人で暮らしていた。もともと人口の少ない地域であったから、子供も少なく、家が近いこともあって、僕は彼とよく遊んだ。
 遊ぶ場所は決まっていつも海だった。石が多い岸辺はしんとしていて、波が押し寄せる音と、鳥の鳴く声がよく響いた。僕も彼も、その静・・・

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「君はまだ、僕に話しかけてはくれない」

18/08/18 コメント:0件 篠五野 ユウ

 君はまだ、僕に話しかけてはくれない。だから、君の名前も、本当の気持ちも分からないまま。僕の部屋にお迎えしてから、もう一週間も経つのに。なのに白の下着姿の君は、ぼんやりと、ベッド上でお人形座りをしたまま、壁を虚ろに見つめているだけ。
 君の名前が分からないのは、心苦しいよ。そうだね。君を初めて見つけたのが、学生が着る新品の制服が眩しい春の季節。だから、君の名前はハル。何もない、この部屋に咲き・・・

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ライク・ア・ドルフィン

18/08/17 コメント:0件 路地裏

今日は妻との結婚記念日である。車を2時間程走らせ、一度も訪れた事がない水族館へやって来た。妻は水族館が大好きで、若い頃は散々水族館巡りに付き合わされたものだ。

エントランスを抜けると、館内はほんのり薄暗いライトに照らされ神秘的な海の世界を表現している。通路に沿って小型の水槽が一定の距離で並べられており、美しい色の魚や面白い形をした生き物がゆらゆらと泳いでいる。

隣を歩く・・・

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蝉の動向

18/08/17 コメント:0件 ケイジロウ

「強引にでもキスしとけばよかったな……」
 仰向けの太郎が天井を見ながら茶色いため息を不精髭のすき間から吹き出した。次郎はちゃぶ台の上に置いた鍋からラーメンをすすりながらテレビを見ている。
 ジリジリジリジリと蝉が騒いでいるが、設定温度20度のエアコンに冷やされた部屋にいるとそれは遠い異国の出来事に思えるのだ。次郎は太郎を見る代わりにちゃぶ台に置かれた半分になったウィスキーのボトルを見・・・

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素直になれなくて

18/08/17 コメント:0件 南野モリコ

イケメンでスポーツマンで成績優秀。おまけに性格がよくて学校の人気者。そんな彼に私が愛されるわけがない。そう、あれはただの気まぐれ。素直じゃなくて可愛くもない私が裕翔君の彼女になんて、なれるわけがないんだ。

9月、大学に学生が戻り、賑わい始めた頃。帰り際、裕翔君は私を追いかけてきて言った。
「のりこちゃん、来月、誕生日だって言ってたよね。何か欲しいものある?」
裕翔君のきれ・・・

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セキガエ

18/08/16 コメント:0件 比些志

冬の体育館。仲間とバスケをしていると、もやの中から学級委員の洋子が目の前に現れた。
「先生がよんどるよ」
洋子は一方的に私の右の二の腕を引っ張る。
「おい、なん、なんだよ?」
「今日はセキガエの日でしょうが」
と洋子はぶっきらぼうにそういいはなって、一人でスタスタと歩きはじめた。私はなんだか、席替えという言葉を聞いて、急にうれしくなった。
 
教室に入ると・・・

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リンドリン王国の薔薇園にて

18/08/16 コメント:0件 chiho

 リンドリン王国の東塔の窓から薔薇園が見える。朝霧の中に浮かび上がるように姿を現す至宝の楽園。
「完璧な薔薇園には、完璧な庭師が必要だわ!」
窓際の椅子に深く腰掛けて、そう言い放ったわたしに「歩いてごらん?」とアークは意地悪を言った。
「完璧だなんて、きみには似合わないよ」
「この頃、よく顔を見せるわね」
「きみのお姉様に会いに来ているだけだよ」
「王子様・・・

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音楽妄想掌編 THE GODDESS

18/08/16 コメント:0件 逢原冴月(あいはらさえつき)

         ・・・カッチーニの作曲「アヴェ・マリア」によせて
 ぼくはおまえより何でも持っている。ただ一つのものを除いては。
すべての約束された王道はぼくのために開かれる。ぼくにはその資格があるし、あらゆる力がぼくをサポートしてくれる。
おまえと二人、留学の話が来たとき、嬉しかったけど、実はほんの少し悔しかった。
やはりおまえなんだな。皆がその存在に気づいてしまうのは・・・

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Mからの逃走

18/08/16 コメント:0件 白汐鈴

 片想い病。友人たちは純菜のことをそう言った。
 竹を割ったような性格の彼女は、気になる相手ができると躊躇わず距離を縮めた。友情なのか愛情なのか曖昧ではあったが、下ネタ話にも平気で加わるざっくばらんな気安さに好感を抱く男もいた。そして、純菜みずから「好き」と相手に宣言するのは、決まってその相手に別の女が現れたときだった。
「失恋しちゃった」
 泣き腫らした目を化粧でごまかし、純菜・・・

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体外離脱するほど片想い

18/08/15 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 体外離脱とは、体から離れた自分が、体をおきざりにしてあちこち浮遊するということらしいが、そんな話、僕はあたまから信じていなかった。
 ところがあるとき、その僕が、体外離脱を体験したのだ。
 忘れもしないある春の夜、僕は布団に横になりながら、ひとりの女性の顔を思い描いていた。
 泉美春。同じ会社に勤める子で、それはキュートですてきな女性だった。
 僕は彼女が大好きだった。毎・・・

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一握の砂

18/08/15 コメント:0件 六井 象

 ふたりしっかりと手をつないで歩いていたはずなのに、私の部屋の前に辿りついた時には、既に彼は私の手の中で一握りの砂になってしまっていた。
 初めて本当に好きになった人だったんだけれど、神様は許してくれなかったみたいだ。
 砂粒が少し湿っている。
 私の手汗かな。
 いや、彼の涙だと思うことにしよう。・・・

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抜け殻

18/08/15 コメント:0件 六井 象

 部屋の隅に抜け殻を残して、恋人が去ってしまった。



 カサカサの恋人の抜け殻を、そっと壁に立てかけた。



 夜までぼんやりと空を眺め、爪を切り、そうしたらもうすることがなくなったので、一人布団に潜り、抜け殻を眺めながら眠ることにした。



 抜け殻の足の方にかすかに溜まった恋人の声が、寝入りばなの耳にさびしく・・・

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大切な話があるんだ。

18/08/15 コメント:0件 鞍馬 楽

 葉書の裏に印刷された地図を見直して、目の前にあるペンション風の建物を眺める。
 思っていたよりも、会場はずっと落ち着いた雰囲気だった。大衆酒場のような場所を想像していたが、どうやら予想は外れていたようだ。
 思わず口角がつり上がる。騒がしいよりは、こういう雰囲気のほうがずっと好みだったからだ。はやる気持ちを抑えきれず、丸太を模した階段を駆け足で上って入り口の扉を開く。
 広いフ・・・

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額の扇風機

18/08/15 コメント:1件 吉岡 幸一

 男は人に言えない悩みを抱えていた。反社会的でもなく危険性もなく、見方によってはユーモラスで便利なものであったのだが、男は気味悪がられることを恐れてこの悩みを誰にも話すことができなかった。
 悩みとは額に扇風機が取りついてしまったことだ。これは何かの比喩ではなく、額の中心に白くて丸い縁があり、その中に本物の扇風機の羽が四枚皮膚に埋まっているということだ。二ヶ月前に原因不明の高熱を出し、三日三・・・

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確率の世界を超えていけ

18/08/14 コメント:0件 syaiku

大人になるということは、色々な経験値が増えるということだ。
同時に、その経験値が、本当の自分の気持ちを邪魔してしまうこともある。
興味があることでも、先に始めている人と比較されたら恥ずかしいとか、
今から始めるのは遅すぎるだとか、余計なことばかりを考えてしまい、足踏みをする。
物事の期待値と、成功する確率が見合うかどうか、計算してしまうのだ。

そしてある時、ふ・・・

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生き物係の高橋くん

18/08/13 コメント:0件 結木公子


 私には好きな人がいる。6年2組の高橋くんだ。
 部活はサッカー。生き物係。高橋くんはクラスのムードメーカーで、いつも誰かに囲まれている。足もクラスで一番速い。頭もいい、ってわけではないけど悪いというわけでもない。算数が得意で国語がちょっと苦手。でも頭の回転は速くって、みんなを笑わせるのがとてもうまい。おまけに顔もいいもんだから、月に一度は女の子たちからお呼び出しもされている。

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片想いのすすめ

18/08/12 コメント:0件 カジキM

 私は片想いのプロフェッショナルだ。女性と深い仲になった事など一度もない。
 ある方法を思いつき、それを極めることによって、俗に言う“お付き合い”をしなくとも幸せを感じることができる。私はこの片想いの方法を君たちに広めたいと思う。それによって救われる人が必ずいるはずだ。
 では、なぜ私が片想いを推奨するのか。そして、どのように片想いで自己を満たすことができるのか、簡単に説明していこう。・・・

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堂々巡り

18/08/12 コメント:0件 笹原 琥太郎

 肩を叩く、影の中から。人は振り返る、そして首を傾げ再び歩き出す。その瞬間、影で覆い尽くし体内に取り込むだけ、それだけ。

 真っ暗闇の体内で、問いかける。「叶えたい願い、あるんだろう」醜い欲を、曝け出してしまえよ。囁きに怯えるように、暗闇を手探りで歩く。道なんてない、扉なんてない、歩いてなんかない。全てはただの、思い込みにすぎない。
 泣き出した人間が蹲り、神の名を呼ぶ。「願い・・・

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片思いは突然に

18/08/12 コメント:0件 いありきうらか

毎週金曜日、深夜の2時から僕は眠たい目を擦りながらテレビを見ている。
この番組との出会いは偶然のものだった。
RPGのゲームに飽き、チャンネルを変えたときに、彼女は真っ直ぐ立っており、カメラは彼女の後ろ姿を捉えていた。
彼女が着ているセーラー服は、僕が通っている高校のものに似ていた。
肩に届くか届かないかの髪をぶら下げた彼女を、僕は吸い込まれるように見ていた。

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彼女のいる部屋の中

18/08/12 コメント:0件 hayakawa

「おはよう」
 耳元で彼女が問いかける。
「もう仕事に行く時間だよ」
 優しい声が耳元に響きわたる。僕は目をぱっちりと開ける。窓の外から日差しが射しこんでくる。2LDKのマンションの一室で僕は目を覚ました。目の前にいる彼女はすっかり、仕事に行く身支度を整えている。
「おはよう。今起きる」
 僕はベッドから身を起こす。どことなく体がだるい。毎朝、起きるたびそうだった。<・・・

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顔の見えない片思い

18/08/11 コメント:2件 腹時計

 拝啓 七瀬絵里子様
 初めまして。僕は田中蓮司と申します。七瀬さんがここに住んでいたと父に聞いたので、手紙を送ってみることにしました。
 僕は今、二十一になりました。K大学の三年です。野球部に入っています。小学生の時から野球をやっています。僕は野球が好きです。
 あなたが帰ってこなくなってから、僕はずっと父に育てられました。祖父母も助けてくれました。大学まで出してくれて、今はと・・・

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片思い そして――

18/08/10 コメント:0件 七霧孝平

昼休みの屋上。そこは俺にとって聖地である。
その理由は――

「あの、先輩。横、いいですか……?」

「ん……」

伊藤先輩。俺の憧れの人。
人によっては不愛想と取られる先輩だが俺にはわかる。この人はとても優しい人だと。

先輩の横に座り、購買で買ってきたパンをかじる。
隣では先輩が、色鮮やかな弁当を食べている。

お互・・・

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永遠に片思い

18/08/09 コメント:2件 向本果乃子

 初めからこの想いは一方通行。願うのは、いつか誰かを愛するあなたの幸せ。

 今日も私の部屋のHDDはフル稼働。ドラマにバラエティに歌番組。録画してもいつ観れるだろう。溜まった雑誌の切り抜きもしたいし、まだ一回しか観ていない去年のコンサートDVDだってリピしたい。

 中学二年になった瞬の部屋から電話で話す声がする。
「母親がアイドルにはまってるとか恥ずかしいよ」

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恋に恋せよ、乙女。

18/08/09 コメント:0件 北沢あたる

片想いは楽しい。

私は隣のクラスのトキワ君に恋をしている。
きっかけはある春の日。真新しい少し大きめの高校の制服を着、桜の花びらがひらひらと舞う通学路を歩いていた時だった。桜並木の中を春風が吹き抜けた。突風に驚いた私は、手にしていたプリントを手放してしまった。一時間目の英語で小テストがあり、出題はこの中からと、昨日の授業中に配られたプリントを、通学途中に確認していたのだ。・・・

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2018年の夏休み。

18/08/09 コメント:0件 三明治

 「九回裏ツーアウト、ランナーなし、もう後がない。とにかく塁に出たい場面。さあ、フルカウントです。投げた、バッター打った、が、これは弱いゴロです。ショート真っ正面、がっちり捕ってファーストへ。バッター、ヘッドスライディングするも、アウト。ゲームセット。試合終了、○○学院二回戦進出です。△△高校惜しくも敗退っ」
 
 家族持ちの皆さんに、お盆休みのど真ん中を譲り、あたしは少し早めに帰省し・・・

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涼風至

18/08/09 コメント:2件 しのき美緒

 健吾さん……健吾さん
 懐かしい声がした。見ればすぐ目の前に藍地に白く露芝を染め抜いた和服の膝があった。女が正座をしている。健吾はパチパチと瞬きをして目だけを上へ上へと動かしていった。白地に紅葉を織りだした絽の帯、きちんと合わせた胸元から覗く真っ白な半襟。すんなりとしたうなじが緩みのひとつもない顎(おとがい)へと続く。紅など注さずともほんのりと赤く艷やかな唇。一重の薄いまぶたの下には健吾を・・・

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花には水を、妻には愛を

18/08/07 コメント:2件 しのき美緒

 ぼくね、みどり先生が大すきだったんだ。
 それでパパにそうだんしたの。そうしたらパパは

「お花を持っていこうか。女の人はお花が好きなんだよ」

と教えてくれたの。だから毎朝、家のかだんにさいているお花をつんで、ようちえんに持っていってたの。最初はコスモスだったかなぁ。

「敦君おはよう」

朝、ようちえんの校門で先生たちはみんなにごあいさつ・・・

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恋のからくり

18/08/06 コメント:0件 藤光

 恋っていつの間にかはじまっていて、あるとき唐突に終わるものだ――そういったのは、彼。

「尾瀬です。桐山さんを担当します」
 美容師の彼はまだ男の子と言ってもいい年格好だった。そして、私はすぐにこの美容院にやってきたことを後悔し始めた。とにかく美容師としての所作が板についていないのだ。準備にはもたつくし、むっつりと無愛想で、カットの技術も下手、櫛の当て方は乱暴で、ブローのドライ・・・

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同室

18/08/05 コメント:0件 藍田佳季

彼が好きだ。
それに気付いたきっかけは彼の片思い。
就職して三年目、相手は2年上の先輩。

彼女に弟のようにしか見られていない、どうすれば振り返ってくれるのか。

私にそんなことを独り言半分に訊いてくる。
「まあ、君に分かるわけないよね」
「分かりますよ」
反論する。
「本当に?」
「ストレートに言えば良いんです」
「そう出来・・・

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永代供養

18/08/05 コメント:0件 荒井文法

 風呂敷の包みを広げると、中に札束が三つ入っていた。
 「これで、永代供養をお願いします」
 札束を持ってきた老年の男性が口だけを動かしながら言った。男性の声は周りの蝉の声に掻き消されて、男性の周囲一メートルくらいに近付かなければ、何を言っているのか聞き取れない。もっとも、男性の周囲にいるのは私だけであるが。

 「そうですか……。えぇと、あの、私が言うのもあれなんですが、・・・

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片想いを楽しんでる

18/08/05 コメント:0件 浅月庵

 バイト先で一緒の優木美智にアプローチしまくって、手応え掴めてさぁ告白するぞってタイミングに、俺の彼女に対する想いがジェットコースターの安全バーを外して抑揚のない地上へと降り立ったみたく平坦になる。それで彼女ができそうなのに俺は他の女の子と二人きりで居酒屋に来ていて、(と言っても小学校からの幼馴染)小野鞠萌に恋愛相談すると、彼女はわかりやすく溜息をつく。
「片想い楽しんでない?」
「な・・・

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いつの日か

18/08/05 コメント:0件 うたかた

 その日、俺は草原の上をただ一人彷徨っていた。周りに広がる生え始めの草木は、心地よい風に微かにすらされている。辺りは紅の日差しに塗りつぶさせれ、途方もないこの旅路に終焉を告げようとしていた。日の入りはもうまもなくである。
 君は確かに言った。この山を越えた向こうにいると。しかし、実際はどうだ。町どころか人すらいない。さらに言えば動物の姿さえ全く見えないのである。
 俺の衣服は、冷たさを・・・

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いつの日か

18/08/05 コメント:0件 うたかた

 その日、俺は草原の上をただ一人彷徨っていた。周りに広がる生え始めの草木は、心地よい風に微かにすらされている。辺りは紅の日差しに塗りつぶさせれ、途方もないこの旅路に終焉を告げようとしていた。日の入りはもうまもなくである。
 君は確かに言った。この山を越えた向こうにいると。しかし、実際はどうだ。町どころか人すらいない。さらに言えば動物の姿さえ全く見えないのである。
 俺の衣服は、冷たさを・・・

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人型恋愛ロボット

18/08/05 コメント:0件 柳瀬

もう少しだ、もう少しで人型恋愛ロボットが完成する。
このロボットは、人の感情を読み取る事ができ、女性との恋愛を疑似体験できる。
僕みたいに人付き合いが苦手で、彼女が出来ない不器用な男子の為にこの研究を成功させてやる。
あとはロボットに声を吹き込むだけだ。
どうせだったら本物の女性の声を吹き込みたい。
そうだ、高校の同級生で、先日の同窓会で連絡先を交換したカンナに電話を・・・

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彼岸花

18/08/04 コメント:0件 雲鈍


死んだという話を聞いた。即死ではないようだった。全身を浅く切り刻まれ、死んだ。出血多量だった。悶えた後が残されていたらしい。よく知る人間の犯行だと噂されていた。
 兄だった。2つ年上の兄弟だ。血は繋がっていない。俺は母の子として、兄は養父の子として、再婚したのだった。初対面の印象は悪くない。白い歯を見せて笑う、明るい男だと思った。しかし、ふとした瞬間に暗い顔を見せる。そしてそのことが・・・

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永遠の幻

18/08/04 コメント:0件 笹原 琥太郎

 か行の棚、視線を右へ左動かして、探す。か行。あ行でもさ行でもなく。指を背表紙に沿わせ、なぞる。指の腹で物語が交錯する。行き交う。
 物語が生きて、死んで、生きて、死んで、生きて、生きて、死ぬ。指の腹で。
 意識した。途端、重い。私は息を呑んだ。空気が重い塊になって、喉を通過する。つっかかりそう、痛い。空気のくせに。
 一冊、そう、一冊。選んだなら交差は終わり、絞り、幾分か楽にな・・・

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伝えられなかった気持ち

18/08/03 コメント:0件 hayakawa

「ねえ、死ぬのって怖い?」
 帰り道、午後の日差しがアスファルトを照らす。彼女は遠くを見ながら僕に問いかける。
「そりゃあ、怖いよ」
 彼女は僕の答えに満足したように微笑した。僕にはその意味がわからなかった。
「私達はもう高校三年生。後半年でお別れの時期ね」
「確かに」
 僕はそう言って、自分の心の中に残る恋心を彼女に伝えられずにいた。好きで仕方がないのに、その・・・

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「弁当」

18/08/03 コメント:0件 篠五野 ユウ

 私は、あの卵焼きが本当に好きだった。
 咲が毎日作ってくれた弁当の中に、いつも入っている、お世辞にも形が良いとは言えない卵焼き。私のために一生懸命作ってくれた事が分かって凄く嬉しかった。それに塩と砂糖、カニかまや小ねぎなどバリエーションが豊富で毎日ワクワクしていた。私のお気に入りはチーズが細かく刻まれたものが入っている卵焼き。初めて食べた思い出の味。
 そのワクワクも、もう、お終い。・・・

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ドリームランドでまた逢おう‼

18/08/02 コメント:0件 比些志

16歳、高校二年の夏。

 夏休みに友だちと市内にあるドリームランドというレトロな遊園地に出かけた。遊園地などに興味はなかったが、園内にあるプールで暑さしのぎと暇つぶしをしたかった。
 しかし友だちはいつまでたっても現れない。同じようにプールの準備をしながら知り合いを待ちわびているふうの少女が入場門の反対側に立っていた。

「そっちもふられたみたいだね」
 少女・・・

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あのこのなまえ

18/08/02 コメント:2件 夢野そら


気ままにレンガ通りを散歩をしていたある日、新しくできたお店の窓辺から外を眺めるあのこをみつけたんだ。
長い睫毛に囲まれた澄んだ瞳、綺麗な横顔は美しいのにどこか儚げで、そんな君に引き込まれない理由なんてなかった。それくらい魅惑的だった。

それからぼくは毎日わざとその窓の前を通ったんだ。あのこはいつでもそこにいて、ずっと憂いた表情のままだった。

ぼくはかっこい・・・

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カタオモイ

18/08/01 コメント:0件 荒井文法

 青い空で輝く銀色の雲が、高く、大きく、空に広がっている。
 暑い空気と喧しい蝉音に包まれながら、網戸越しにその光景を眺めていた。
 とっくに見飽きてしまったテレビが笑い声をコソコソ上げている。

 じっとり汗が滲み続け、身体が溶けてしまいそうな気がする。
 体に触れるものすべてが疎ましくて、エアコンの風が不快で、エアコンは消してしまった。
 自分の心も消してし・・・

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ジュンズ・ブライド

18/08/01 コメント:0件 荒井文法

 六月に結婚式する奴の気が知れない、そう思う人が多いことくらいはもちろん分かっている。
 昔はジューンブライドという言葉があって、憧れの結婚式の代名詞みたいになっていたみたいだけど、ただでさえ雨で外出したくないのに、窮屈で動きづらい高価なドレスを着て、ジメジメした暑い中を、汗と雨の化粧崩れに怯えながら歩くというのが信じられない。

 そんな時期に、私は結婚式を開催する。
<・・・

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雪が降る夏

18/08/01 コメント:0件 腹時計

 お盆も過ぎ、蝉とつくつくぼうしの鳴き声が混じりだしたある日、祖母は死んだ。もともと肝臓がかなり悪かったから、その知らせを聞いても、美佳子はあまり驚かず、むしろ「ようやくか」と思いさえした。

 高校に上がるまで祖母と同居していた美佳子は、乱暴で酒飲みの祖母が嫌いだった。若い頃は心優しい美女だったらしいが、姑からの苛烈な嫁いびりによって徐々に精神が壊れ、姑の死後は酒浸りになり、その美貌・・・

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打倒! ブラックチョコレート

18/08/01 コメント:0件 55

 チョコレートはブラックから食べるようにしている。待って、僕の話を聞いてほしい。

 真夏のあの日、僕の家の冷蔵庫にはバラエティパックが冷やされていたんだ。ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、ブラックチョコレート。大学の試験も終わり、やっと夏休みに入った時だ。蝉の鳴き声が室内まで届いて暑さを煽る、あの光景を思い浮かべてほしい。

 僕は甘いものが好きだ。子供の頃からず・・・

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プリズム

18/07/31 コメント:0件 55

 洗っていない野菜を差し出して、「ありのままを受け入れてください」と懇願するなんて馬鹿だ。
 そんな内容を話した芸能人がいたのを覚えている。綺麗に洗い、切り刻んで、爪楊枝の刺さる柔らかさまで煮てから「食べてください」と床に頭をつく。それほどして初めて「美味しそう」あるいは「食べる気がしない」と評価を下して貰える。美味な見た目をしていないから、きっと体に悪いのだろう。奇跡的に口に入れられたそれ・・・

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土曜日のネコ

18/07/30 コメント:0件 三明治

 テラスに並んだ二人掛けのテーブル。クロスは白とワインレッドのストライプ。七里ガ浜の海岸通りに面したレストランに僕とネコはいた。土曜日のランチ。太陽が眩しい。
 皆に<ネコ>と呼ばれている二歳年上の女性。僕は今、何を話せばいいのだろう。
 視界の隅に一匹の蝿が飛び込んでいる。それは消えたり、現れたりしながら、テーブルの中央に固定される。
 ネコは気づいているのだろうか。視線の動き・・・

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数年ぶりの一方通行

18/07/30 コメント:0件 たい焼き好き

片想い、なんて何年ぶりだろう。
小学校の頃、クラスの男子に憧れを抱いていた記憶は、朧げにある。しかし、今やその相手が誰だったのかすら思い出せないので、恐らくその程度のものであり、恋とは縁遠いものだったのだろう。
中学に入ってからは、恋をする暇なんてなくなった。吹奏楽部に入って以来、放課後も休日も毎日部活で、女子から恋愛相談をされることこそあれど、相談する側にはついぞ回らなかった。自分で・・・

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いなくなった彼女は

18/07/30 コメント:1件 hayakawa

 いつからだろう。目が覚めても何も感じなくなったのは。
 隣で眠る彼女が夢から目覚める。
 僕は彼女の温もりを感じる。どうしてかはわからないけれど、彼女が側にいないと不安を感じる。
 無機質な世界の中に僕らはひっそりと生きていた。彼女も僕も会社員だ。
「おはよう」
 彼女は眠そうに目をこする。
「おはよう」
 僕は返事をする。
 彼女はキッチンへ向か・・・

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探偵宇田川の調査記録 −胸の痛み−

18/07/29 コメント:0件 月のワーグマー

 探偵というものに憧れてきた。嘘を暴き、難解な事件を解決するヒーロー。だが現実は世知辛い。子供の頃から何度も読んできた推理小説とは違い、現代の探偵業法に推理は含まれていないのだ。結果何年も浮気調査に法人調査と、小説で言う脇役に甘んじてきた。
 とはいえ継続は力とはよく言ったもので、今では俺もいっぱしの探偵として事務所を構えていた。
「ようこそ、宇田川探偵事務所へ。所長の宇田川です」

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覚悟していてね

18/07/28 コメント:0件 雨のかえる

「わぁ、なんだこれ!」

ウサギ小屋の前のポプラの木の下で、リコーダーの練習をしていた私の耳に、男の子の叫び声が聞こえた。
顔を上げると、ウサギ小屋の前で何人かが箒を持って騒いでいる。私が近づくと「あれあれ」とウサギがいるスノコの下を指差した。その物体は、スノコから落ちてしまったのだろう。糞や野菜クズに紛れて動かないただの肉片になったウサギの赤ちゃんだった。生まれて間もない、まだ・・・

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埼玉のあの子に

18/07/27 コメント:0件 ジェームズボンバークライシス

埼玉のあの子に

SNSで知った1人の少女、僕は、無料通話アプリで1回だけ通話しただけだ。
だけど、その日からずっと彼女に恋をしている。

そういえば僕は彼女といつか埼玉で会う約束をしたな、覚えているだろうか。

彼女が僕にツイッターのダイレクトメッセージで送ってくれたそのSNOWで盛った顔、それが現実とはかけ離れてたとしても、少なくとも彼女の声は本物だ、・・・

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図書室の彼女

18/07/27 コメント:0件 夢野そら

放課後になったらすぐ、ぼくは図書室へ向かう。並ぶ本棚に沿う窓際には、机と椅子がカウンター席のように並んでいて、そのひと席がぼくのお気に入りの場所だ。

ある日、いつも通り目についた本を手にとって椅子に座ったとき、普段と違う感じがしたんだ。不思議に思って周りを見ると、机のずっと奥が、空いていなかった。その子はとっても落ち着いた印象で、こんなこと言っちゃあダメなのかもしれないけれど、古風な・・・

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高原の扇風機と音楽家

18/07/26 コメント:0件 吉岡 幸一

 高原の別荘地には真夏にもかかわらず涼しい風が吹いていた。風は山の奥から樹々の間を通って濾過された水のように汚れのない空気だけを運んでいた。
 別荘地のなかでも賑わいのある通りから離れた場所に一軒のログハウス調の家があった。ずいぶん前に建てられたにもかかわらず、よく手入れされていて掃除も行き届いている。
 毎年、夏になると持ち主のピアニストがやってきた。クラシック音楽に詳しい者なら誰も・・・

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一輪の教え

18/07/25 コメント:0件 とむなお

 ある夏の終り――

 巨大な台風が上陸し、僕が住んでる街も洪水に襲われた。
 普通のサラリーマンで、独身の僕が住んでいる街の近くの川も決壊し、大量の水が押し寄せた。

 この地域の、ほとんどの家屋は浸水被害や倒壊被害にあった。
 中でも僕の自宅と隣の廃屋は、最も低い地域に在ったため、倒壊はしなかったが完全に床上浸水した。

 特に僕の寝室は、最も低・・・

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時空を超えた採集家

18/07/25 コメント:2件 55

 枯れ色の床を軋ませた三歩先、立てられた焼き物の皿に女性が描かれていた。アンティークショップの入り口付近に押し出されたそれだけが、独特の香りを放っていた。
 店内に敷き詰めるように並べられた洋風の陶磁器たちは、当時の豪奢な生活を思わせる黄金の縁取りが施され、優雅な笑みで互いの美しさを褒め合っている。色ガラスのモザイクに橙色が灯るステンドグラスのランプが、彼らの舞踏会をセピアに染めている真横を・・・

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forget-me-not

18/07/24 コメント:0件 奏鳴曲

「ほしいもの?時計かな」
 聞かれて、私はできるだけふわりと答えた。
「時計って、腕時計?」
「ううん、掛け時計」
 へえ、と彼女が目を軽く見開いた。確かに、こういう時に掛け時計を欲しがる人はあまりいないだろうな、と思う。
「なんかね、うちの古い時計が壊れちゃったの。部品が一個取れちゃったみたいで、振るとカラカラ鳴るんだ」
 午後の鮮烈な光が、彼女の顔を白く縁取・・・

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桃の気持ち

18/07/24 コメント:0件 くまなか

 明海は海辺の産まれだけに、山で実るものが余計に贅沢品だと思える。つい三年前に山村に嫁いだ親友からの中元は、桃だった。
開いて直ぐに「おお」甘くてうぶな、バラ科の実の香り。贈答と呼ぶには質素な、運送会社のダンボール箱へ入れられ、新聞でぐるぐるに縛ってある。
「本当になったんだ」彼女が嫁いだ翌年に、この果物が好きすぎて庭に苗を植えたと年賀状に書いて寄越したものだろう。「ええっと、桃栗三年・・・

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ストーカー彼女

18/07/23 コメント:0件 風宮 雅俊

 彼女の朝は早い。だから、僕の朝はもっと早い。

 午前六時三十九分
 高層マンション上層階の廊下に到着。望遠レンズの付いた一眼レフを構えると、マンションから北西方向距離百五十メーター先にあるアパートのカーテンの閉まった窓を狙う。

 午前六時四十分
 イヤホーンに鳴り響く目覚まし時計の音。ベッドの軋む音。一歩、二歩、三歩、四歩、五歩。カーテンが勢いよく開く音と・・・

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コエテル

18/07/23 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 コエテルはこの地上で、最大のいきものだった。姿かたちは人間のようだが、その大きさたるや、まさに山のようだった。
 じじつ、あたりにすむおおくのいきものたちは、かれを山か丘ぐらいにおもって、なにもしらずにそのうえを、歩いてゆききするぐらいだった。
 コエテルが子供のころは、それはよくたべた。草も木の葉も樹木も、クマも馬も猪も、ときには象を、海にはいってはクジラを、まるごとわしづかみにし・・・

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片想いビジネス

18/07/23 コメント:0件 文月めぐ

「時間の感じ方って、人それぞれなの」
 窪田さんの言葉に俺は力強くうなずく。
「自分の好きな話をしているときは短く感じるけど、つまらない話を聞いているときは長く感じる。ここで必要になるのが、大事なことだけシンプルに伝える技術よ」
 一分で話せ、と窪田さんはいつも言っている。一分間で相手に刺さる伝え方ができれば、ビジネスにおいてかなり優位になる、と。
 俺はその言葉を信じて、・・・

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片想い

18/07/23 コメント:0件 R・ヒラサワ

 僕が通う高校で、同じクラスにいるミヅキは、教室の中でほぼ真ん中あたりに座っている。でも、その存在感で言うと、ずいぶん端っこの方にいるって感じの、ミヅキはそんなおとなしい女子だった。
 ちょっと地味で目立たない、何となく控えめな、そんなところがとてもいい。だから僕の中でミヅキは間違いなく、ど真ん中に居る存在だった。
 一方の僕はと言うと、存在感はミヅキとほぼ同じで、やっぱり端っこの方だ・・・

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アンブレラくんとおひさま

18/07/23 コメント:2件 こぐまじゅんこ

 アンブレラくんは、おひさまに恋しています。
 でも、アンブレラくんには、雨つぶちゃんばかりがくっついてきてこまっています。
 今日も、朝から雨つぶちゃんにひっつかれていました。
 アンブレラくんは、雨つぶちゃんにいいます。
「ごめんなさい。ぼくにはほかにすきな子がいるんです。」
 雨つぶちゃんは、
「あら、どんな子? わたしよりもかわいいの?」
ときいて・・・

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想葬記念日

18/07/23 コメント:0件 蒼樹里緒

 学生の頃、校舎裏でいじめられていた生徒を助けた彼に、私は一目惚れした。いじめっ子たちに暴力を仕掛けられても、彼は難なくいなし、あっという間に退散させた。
 彼に泣きながら感謝するいじめられっ子に、私も共感した。何もできなかった自分を恥じながら。
 彼が同学年の別学級にいる生徒なのだと、翌日に知った。昼休み、勇気を出して声をかけようとしたけれど。廊下を歩く彼の隣には、一人の可愛い女子が・・・

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