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第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】

今回のテーマは【浮遊】です。
恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。
時空モノガタリ賞発表日:2018/07/02
※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は3作品とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。
ステータス | 終了 |
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コンテストカテゴリ | |
投稿期日 | 2018/04/30〜2018/05/28 |
投稿数 | 100 件 |
賞金 | 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり |
投稿上限文字数 | 2000 |
最大投稿数 | 3 |
総評 | 今回は物理的に浮遊するものの中に、精神的な葛藤や所在のなさを重ねた作品が多かったですね。例え作り物の話であったとしても、そこには何かしらの作者の体験や思いが込められているわけで、誰もが同じ辛さや戸惑い、生き難さを内面では抱えているのだなあと感じ、読んでいてしみじみ癒される思いがしました。選考外の作品の中にも、完成度は高くないながらも素直に体験や感情を綴った文章で共感できるものが多々ありましたが、もう一、二段階、練り直す時間や手間をかけて頂きたいなあという気がしたのも事実です。最初からわかっている結論を書くのではなく、文章や構成を練っていくと自分自身でも思ってもいなかったような広がりや、展開が生まれてくる可能性もあるのではないでしょうか。 『フク子さんと惑星ブランコ』老いを受け入れることと、生きようとする意志。若者の自死への想い。一方では宇宙の無重力の世界に憧れつつも葛藤に満ちた現実という重力の中で生きるフク子さんの姿には、ブランコを漕ぐ力と浮遊感に重なって引き付けられるものがありました。答えのない両極の間で我々の人生はブランコのように行きつ戻りつしているのかもしれません。 『シニボタル』生と死の間を漂うものたちの哀しみを理解する主人公が、亡くなった両親に死を悟られまいと気遣うラストがなんとも切ないです。死を直視する強さと死者への優しいまなざしが入り混じった複雑な味わいの作品でした。 『この浮遊する世界で』「浮遊して消えていくだけの存在だとわかっていながら答えのないことを考え続ける」という一文が印象的です。答えのない問いを投げかけずにいられないのは人間の性でもあり、同時に苦しみの原因なのかもしれません。しかしそれは同時に音楽や小説を生む原動力ともなっているのではないかとも思います。 『音を見る』小早川君はきっと、音の空気振動を視覚的なイメージとして受けとることができるのでしょうね。欠如に見えていることは別の視点で見れば欠如ではなく、それは「僕」にとっても同様なのかもしれません。上下の関係性に苛立つ「僕」の閉塞感に、風穴を開けるかのようにダイナミックな音の振動が伝わってくる気がしました。 『晴れのちくらげ』くらげが夜の闇に浮かぶ映像的感覚的な美が印象的でした。幻想的な浮遊感と表裏一体のように存在する毒は、世界に内在する影の側面を象徴しているようで、無邪気にくらげに接しながら痛みを体験する璃子の姿は、子供が社会に同化していく成長過程を見るかのようにも感じられました。 『そらよりとおくで君はふりむく』クローン本人にとっては、あくまで自分は本人に他ならないのでしょう。どちらが本当にせよ、少なくとも何か確かな存在が、この世から完全に消えてしまったことを意味しているようにも思えます。クローンの死に際し、「本物の姫宮はここにいる。なのに涙が止まらなかった」のは、それを二人は肌で受け止めているからなのではないかと個人的に想像しました。奇想天外でユニークな世界観の中にも、胸を刺すような喪失感がサブテーマとして底流にあるように思えて、引き付けられました。 |
入賞した作品
6
浮かぶ魚と、セーラー服
18/05/18 コメント:6件 秋 ひのこ
入り江の先に、オレンジ色のひとの頭ほどの玉が浮いている。一列になって、ぷかぷかと。そこに向かい、泳ぐというか流されるというか、一度も止まらず、まっすぐ進んでいく小さな頭。
こんなにも私が吼えているのに、振り向きもしない。
*
弟のセイジが好きなもの、最大の関心事は、「浮いているもの」だ。
物心つく頃からずっと。それこそ大人たちが「おや、この子はもしや・・・
最終選考作品
3
フク子さんと惑星ブランコ
18/05/28 コメント:4件 冬垣ひなた
SNSのタイムラインはまた、校舎から飛び降り自殺した男子中学生の話題で持ち切りだ。
いじめが原因だって? 何にも悪いことしてないのにさ、「いじめられた方にも原因が」とか「死んだら掃除する人が迷惑」とか言われて可哀想に、あたしも他人事じゃないよ。
スマートフォンの画面から目を離すと、公園のベンチに腰かけていたフク子は、夕空を眩しそうに仰いだ。
有り難いお天道・・・
2
そらよりとおくで君はふりむく
18/05/02 コメント:2件 クナリ
ある日の放課後、俺は同級生の姫宮に、高校の空き教室へ呼び出された。本当は俺は、この時間は期末試験の追試だったのだが。
「柴田君。私、君に告白したいことがあるの」
「えっ」
俺は心底驚いた。
俺も姫宮のことが好きだった。高校に入ってからの一年間、ずっと。
「実はね。私、手で触れた物体を浮遊させることができるの」
そう言った姫宮の手のひらの上方で、シャープペ・・・
投稿済みの記事一覧
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ボトルレター フロム スカイ
18/05/29 コメント:0件 石蕗亮
昔昔の御伽話 天気の良い日に雲も無いのに陰る時 空から何が降ってきても触ってはいけません。 どんな言葉が聞こえて来ても一切答えてはいけません。 もしもそれらに関わればその日は家に帰られない。 その後も一生帰られない。 帰ってきても誰の目にも見えない触れない聞こえない さみしいお化けのできあがり。 姉が行方不明になってからもうすぐ7年になる。 7年経つと失踪宣告で死んだことになる。 当時13歳だ・・・
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プリーズプリーズイラストレーター
18/05/28 コメント:0件 むねすけ
月に一度、出版社をおどかしに行く。
「よーう、不二家で百個買ったのになんにもオマケしてもらえなかった爺さんです、こんにちは」
「佐野さん。差し入れはありがたいんですけど、不二家さんに迷惑かけないでくださいよ。編集全部でも二十人ちょっとなんですよ? うわ、ペコちゃんのほっぺ全部カスタードだ、恐ろしい」
「けっけっけ、愉快痛快、セイ?」
「言いませんよ」
「言わなくて・・・
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俺の血をどんどん吸え
18/05/28 コメント:0件 霜月 秋旻
耐えている。その男は、ただひたすら痒みに耐えている。夏の夕暮れ、空中に浮遊する蚊は、草刈を終えて汗ばんだ彼の体に容赦なく襲い掛かる。彼はいったいどれだけの蚊に無抵抗で刺されたのだろうか。無数の蚊が彼の血を吸うのを見ていると、見ている私までが蚊に刺されているようで体が痒く感じる。私なら目の前に蚊が飛んでいるのを見つけた瞬間、即座に駆除するだろう。しかし目の前の彼はそれをしない。なぜ黙って蚊に血を吸・・・
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多田くんは浮いている。
18/05/28 コメント:0件 小高まあな
多田くんはクラスで浮いている。
クラスの子と話してるところを数える程しか見たことがない。話しかけてもそっけない。休み時間はずっとなにか分厚い本を読んでいる。どんな授業も引くぐらい真剣。お昼ご飯はいつもカロリーメイト。
決して悪い人ではないけれど、多田くんは他のみんなとの間に一線を引いているし、他のみんなからも一線を引かれている。
高校生にもなったら、少し違うからといって、・・・
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浮いてるセンチにセンチメンタル
18/05/28 コメント:0件 むねすけ
電車の中吊り広告、ワイドショーのキャッチに一発目、今日も「有名タレントの娘夢落ち消失」の文字と声が無節操な口パクを操って世間を席巻していく。
世知辛い世を儚む警鐘の具現、供物、なんて使い慣れない殺傷回数の微量な言葉を拾って悦に入るコメンテーターは、夢落ちに無縁なまま人生を終える気でいる。
目を醒ますことなく眠りっぱなしの息子娘に遭遇するなんてピーナッツのチョッポリほども懸念しない・・・
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六畳間のクリエイター
18/05/27 コメント:1件 冬垣ひなた
昭和の時代。私がまだ、とても幼かった頃の物語。2軒隣に住んでいたみっちゃんは、私の初めての友達だった。幼稚園に行くのも、遊ぶのも一緒。いつも私は彼女の家まで呼びに行く。 「みっちゃん、遊ぼう」 玄関の内側で待っている間、幼児の私は不思議な気持ちで、振り返って引き戸を見上げていた。 戸と天井までの空間に、それほど大きくない幾つかの絵が額に入れられ、大切そうに飾られている。絵画教室に通っていた子・・・
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歌う旅人!現在、熱唱中!
18/05/27 コメント:0件 アラウンド君
今のなんて歌ですか。
思わず立ち止まって、彼に話しかけていた。
ここは、世に言う無人駅だった。
各駅停車しか停まらないこの駅は、一日に停車する電車も数える程で、停車したとしても、乗り降りは、数人がほとんどだった。
私は、毎日のように、通勤に使っているが、同年代の女性が使っているのは、見たことがない。多分、こんな田舎から、都会の方まで通勤していくという女性は珍しいのだ。<・・・
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わたしはジャージが被れない
18/05/27 コメント:0件 浅月庵
すべては、あの日深夜に起きた両親の口論が始まりでした。
わたしは二階の自身の部屋で就寝していたのですが、一階のリビングから聞こえる二人の話し声が五月蝿く、ついに覚醒してしまいました。時間が経つにつれ罵り声は激しくなっていき、わたしは猛烈に怖くなると、布団のなかで芋虫のように丸くなったのです。
しばらくすると夫婦喧嘩は収まり、わたしは恐る恐る階段を降りて一階へと向・・・
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メール便おばちゃん浮遊する
18/05/27 コメント:0件 紅茶愛好家
奥村登代子はその時メール便配達に勤しんでいた。
一冊二十円の契約、サカキ運輸のメール便をバイクいっぱいに積み込み住宅街を駆け回る。今日は朝から日照りが強く日焼け防止のため長袖なのだがそれが余計に暑さを助長する。三丁目の南さんのポストに配達物を入れてバイクに戻り、持ってきていたペットボトルのスポーツ飲料をぐっと喉に流し込む。
「はあっ、生き返る」
額の汗を拭い空を見上げると飛行機が・・・
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浮遊体験ゴーグル(試作品)
18/05/26 コメント:0件 与井杏汰
「このゴーグルを頭からかぶって。私の顔が見えるか?」 タケルが頷くと、神田博士は言った。 「右上にスイッチがあるだろ? それを手前に引くと浮遊モードだ」 タケルはスイッチをスライドした。 「後は君の意思次第だ。脳波の変化で動作する。慣れるまで少し時間がかかるが、とりあえず動きたい方向をイメージして」 浮け!そう念じると、目の前の景色がふわっと変化した。 「あ、浮かびました!」 「そうか。うま・・・
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超伝導棺桶、時代を切り拓く
18/05/26 コメント:0件 本宮晃樹
「きみみたいな狂人が得意げに面会を求めてくる」多国籍企業〈オデッセイ〉の渉外担当は固く目をつむった。こめかみを揉みながら、「いつかそんな日がくるんじゃないかってずっとビビってた」
「すると、なんですか」と対面する年若い男。彼はあくまで陽気だった。「ぼくがあなたの悪夢を実現した第一号ってわけですね?」
「その通りだ。わかったらとっとと地獄へ失せろ」
「あなたに会うまで苦労したんです・・・
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なにかが空に浮いている
18/05/26 コメント:1件 カンブリア
最初に気がついたのは誰だったろうか。
もしかしたら、すべすべの真っ赤な風船をはなしてしまった子供が、ゆっくりと真っ青な空のなかの赤いぽつんに変わっていく友達を見送っていて気がついたのかもしれないし、
満員電車の中で身動きが取れず、空を見上げることしかできないサラリーマンが、初めは目の疲れか、飛蚊症かと思って、目を凝らしてみると驚いたのかもしれない。
いやいや、考えてみれば・・・
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ツイスミ不動産 物件4:筏(いかだ)ホーム
18/05/26 コメント:0件 鮎風 遊
目に青葉 山ほととぎす 初鰹
桜花は散り、はや木々の緑が目を刺す初夏。そんな折に、くたびれた薄手コートを脇に挟み、初老カップルがツイスミ不動産に入って来た。
営業責任者の笠鳥凛子(かさとりりんこ)課長は一見で、山あり谷ありの人生を共に歩み来て、その終幕にやすらぎの庵を探し求めて訪ねて来たと感じた。なぜなら婦人の手にはツイスミ不動産のチラシが。そしてそこに書かれてある文句が…。
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浮かんでいくのは簡単で
18/05/23 コメント:0件 瑠璃
数ヶ月前に、メールでの文通にはまった。本名も、顔も、何も知らない相手との文通に。毎日1通か2通ずつくらいのやりとりを続けた。やりとりの相手は優さんという名前を使っていた。優さんは優しく楽しい人で、親や友達に相談できないようなことまで相談した。人によっては可笑しな話だと思うかもしれない。しかし、私は優さんに恋をしていた。毎日、優さんからのメールだけを楽しみに生きていた。特技や趣味などがない私にとって・・・
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浮けない私、恋恋恋したーーーい
18/05/21 コメント:0件 虹子
体育の時間、校庭のトラックまわりを走っていると、急につんのめってこけた。 密かな笑い声と突っ伏した私をひらりと超えていくたくさんの浮いた足たち。 「おーい、藤原。いつまでそこに寝てるんだ。早く立て」 鬼教師の声にびくっとして何とか立ちあがろうとすると妙な重力を感じた。両手をついて足をふんばると自分の足先が地面に少しめりこんでいるのがみえた。 「てかさぁ、あんたもう重症だね」 そう言って笑う・・・
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ハイパーエスケープガール
18/05/17 コメント:0件 清野勝寛
ぷっかぁーってしてる、あたし。
今日も現実逃避だよ。
ふわふわついでにひとりごと。
いや、今はキミもいるからふたり、だね。
例えば、あたし一人この星で生きていたとしたら、とか時々思う。
だって誰かと関わるのって面倒くさい。
誰もいなかったら、めっちゃ楽じゃん。
いちいちおしゃれしなくても、おでかけ出来るし。
……え? おしゃれ・・・
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浮かんだ煙は消えていく
18/05/17 コメント:0件 アベアキラ
煙草を吸うと彼を思い出す。たった一時間だが肩を並べて歩いた、僕の友達だ。
出会いは唐突であった。喫茶店でゆっくりと煙草を燻らせていたときである。隣の席に座っていた彼が話しかけてきたのである。
「コンニチハ……煙草クダサイ」
多分カナダ人であろう彼、片言の日本語だが煙草の発音が妙に流暢なのが気になった。今までも僕以外の人物に話しかけていたのだろうか。
何故カナダ・・・
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まるで必要ないような
18/05/16 コメント:0件 瑠璃
カーテンの隙間から光が差す。ありきたりの毎日。そして私は、まるでこの世界に必要とされていないような悲しい錯覚に陥って、目を覚ます。目覚まし時計をちらりと見ると、時刻は午前6時30分。また、今日が始まってしまった。着替えを済ませ、朝ごはんを食べ、黙々とロボットのように身支度を整えていく。決められた毎日。この世界が私を必要としていないのと同じで、私もこの世界を必要としていない。私は、いつもそうなのだ・・・
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蛙の皇帝あるいは生身の帝国空軍
18/05/12 コメント:1件 時雨薫
降る雨が途切れなくアスファルトを打ち、周波数の合わぬラジオが拾った電波のように無意味な音がただザーザーと憂鬱に街を覆っている。折傘は跳ねる水で裾が濡れるのにも構わず、右手に苔生す石垣の続く道を足早に歩いていた。折傘は余りに軽装だった。傘に守られぬ肩の上が濡れた。
折傘は俯き加減に歩いていたから、ほんの目の前に迫るまでそれに気づかなかった。道の両端に蛙が二つの列をなしていた。中央をのっそり・・・
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浮かばれない!
18/05/07 コメント:0件 斎藤緋七(さいとうひな)
深雪ちゃんが死んだ。心臓発作。 深雪ちゃんは「発見」が遅くて死後1週間で大家さんに発見された。 私は息をしていない深雪ちゃんとこのハイツの狭い部屋で過ごしていたことになる。 ちなみに、今の季節は、2月、冬。 寒さの影響か深雪ちゃんは死後1週間もたつのに、綺麗なままだった。 私はロシアから空輸された、 マトリョーシカ人形なんだもん。 深雪ちゃんは、家庭のある従兄弟のおっさんとつきあっていたの。 し・・・
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もし、山田君が飛べるようになったなら
18/05/07 コメント:0件 井川林檎
飛行が上手いひとほど、ヒエラルキー上位者。
すうっと大きく円を描いたり、気の合うひと同士でダイナミックなダンスを踊ったり。
電線に触れるか触れないかの際どさで、おどけたように飛ぶ彼ら。
かっこいい。素敵。先生たちや親たちは、危ないから飛ぶときは、電線に触れない位置でまっすぐ飛びなさいと口うるさい。でも、そんな注意なんか守るわけがない。
カッコイ・・・
2
風船はつながれている
18/05/06 コメント:1件 アシタバ
弟(現在)
引越しをするにあたって、荷物を整理していたところ、押し入れの奥から古い写真を見つけ出す。俺と姉が二人並んでいる写真だった。こんなところにまだ残っていたのか、と少なからず驚いた。すべて捨てた筈だった。両親を事故で亡くし、叔父夫婦に引き取られた直後に撮影したもので、この時は姉がいなくなるなんて思いもしなかった。
叔父夫婦は両親を失った俺達姉弟の親戚縁者として、最低限の責務を・・・
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影響
18/05/05 コメント:0件 W・アーム・スープレックス
そのニュースの内容を真に理解したものはおそらくほとんどいなかったとしても、毎日のようにテレビの画面に黒ずんだ渦巻き状のCG画像がうつしだされて、識者、科学者、政治家、はたまたお笑いタレントたちが真剣な顔をよせあってさかんに意見交換する場面が連日放映されるのを、だれもがみたにちがいない。
日菜子はしかし、それどころではなかった。半年前、じぶんの落ち度で手をひいていた老母が石段につま・・・
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ある恋の物語
18/05/03 コメント:0件 斎藤緋七(さいとうひな)
「この人だあ!」 あまりにもタイプの男の子を見つけて、俺は天から大声で叫んでしまった。 現在、俺は生まれ変わる事を許された「たましい」。 ふんわりふんわりと浮きながら空から下界を見つめ、 次にどこに生まれようかと毎日思案している。 前世、「大阪」って土地に住む日本人だったから、 「今度も日本人、大阪人に生まれたい。」 と言うといけ好かない元「江戸人」や、すかした元「京都人」がとめやがる。 ・・・
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コーヒーフロートの君
18/05/03 コメント:2件 文月めぐ
祐介、と名前を呼ばれてびくっとした。喫茶店でバイトを始めて三か月、知り合いがやって来ることはなかった。だけどこの店は地元では有名だから、誰かに会うことはやはり避けられない。
声の主の純とは高校が同じだった。大学は東京だったが就職して地元に戻ったのか。
ぴしりとスーツを着こなし、手には大きな鞄を提げている。俺は注文を取るため彼のもとに向かった。
「お前ここで働いてんの?」<・・・
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in the earth
18/05/02 コメント:0件 斎藤緋七(さいとうひな)
アユミは裏庭の片隅に穴を掘る。 産んだ赤子を横に寝かせている。 赤子の父親のユウタも穴を掘るのを一緒に手伝ってくれている。 「ふう。」 ユウタは一息つく。 「これくらいの深さでいいわよね。」 アユミは言った、 10時間程前に自宅のトイレで女の子を産み落としたばかりだ。 「さあ、埋めようぜ。」 「そうね。 ……どっちが首を絞める?」 「…生き埋めでいいんじゃないか?そのうち、窒息死するだろ。」 「そ・・・
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浮いてる彼が羨ましい
18/05/01 コメント:0件 鎌太郎
「あいつ、ちょっと浮いているよな」
初夏が始まろうとしている、少々蒸し暑い昼休みの教室でそう言ったのは、このクラスで1番人気の男子だった。
いつも明るく誰とでも仲良く接しようとする彼は、女子人気が高いという訳ではなく、単純に平均値が高いというだけの話。
それでも、彼の言葉に返事をしようという人間は多かった。
「ああ、確かにそうだよね」<・・・
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ピンポン玉
18/05/01 コメント:2件 W・アーム・スープレックス
これはぼくの高校時代の話だから、もうずいぶん昔のことになる。
記憶はあいまいにいろあせ、当然ながら細かい部分は欠落していたが、ただひとつ、鮮明におぼえている光景があった。鴨下という生徒のひろげた手のひらから、ピンポン玉が、うかびあがったのだった。
鴨下はあまり――というよりほとんど勉強のできない生徒で、五十名ちかくいた生徒たちのなかでワースト3にはいっただろうか。勉強はできなくて・・・
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凧
18/05/01 コメント:0件 W・アーム・スープレックス
五々郎はふだんから、どこか浮いたところがあった。なにをやっても長続きせず、転職をくりかえし、親からも、いいかげん定職につけと、顔をあわせれば小言がとんだ。
五々郎じしん、いつまでもこんなふらふらした生き方はしたくなかった。しかし、地に足をつけようとするときまって奇妙にふわふわした感覚が彼をとらえるのだった。
もしかしたら俺には、地球の引力がうまれつき希薄なのかもしれない。そのため・・・
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海月の気持ち、大王具足虫の気持ち
18/05/01 コメント:0件 風宮 雅俊
太陽の光がキラキラと光る。
穏やかな風が波頭を撫でていく。
波間を漂う海月は、波に合わせて傘を開き・・・、傘を閉じる。
明確に存在する、波と言う天井。そして、果てしない深淵。どこまでも続く、限りの無い底。
海月は思った。
光のない深淵の彼方に底はあるのだろうか。誰も見た事がない底が存在するのだろうか。
そして、海月は波間に漂っていた。
・・・
ピックアップ作品
学校の帰りに100円ショップによってうろうろしている時だった。いつものようにスマホでラジオを聴きながら。耳にはイヤホンが入っている。
隣に立っていた同い年ぐらいの男子が私の方を見てハッとしたようで、何か言っている。イヤホンをしていたので聞こえなかったので、片耳だけ外して
「なんですか」
と聞いた。
「そのステッカー、金曜のラジオの・・・」
私のスマホに張ってい・・・