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第七十二回 時空モノガタリ文学賞【 喪失 】

今回のテーマは【喪失】です。

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「時空モノガタリ×パピルス」タイアップ企画として本コンテスト入賞作品が幻冬舎の文芸誌『パピルス』平成27年2月28日発売号に全文掲載されます。掲載作品は選考時にもっとも評価の高かった一編のみとなります。
パピルス掲載後の3月に東京都内において授賞式を行う予定ですのでよろしくお願いいたします。
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恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2015/01/26

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は2〜3作品程度とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2014/12/01〜2014/12/29
投稿数 51 件
賞金 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数
総評

入賞した作品

8

このP−スペックを、唯、きみに。

14/12/29 コメント:14件 滝沢朱音

 はずむ息を整えた。目の前には、まさにホームに飛び込もうとする僕。お気に入りのネオンカラーのダウンジャケットが軌跡を描き、ひらりと線路に舞い降りる。そこで泣いている幼い女の子を拾い上げ、ホームに押し上げた瞬間、背後から迫るライト。けたたましい警告音。ブレーキの摩擦音。そして、「びゃっ」という耳障りの悪い効果音。
(今、死んだ)
 自覚するより一瞬早く、透明だった自分の両手にほわんと色が・・・

7

洗濯師

14/12/29 コメント:7件 草愛やし美

 ついにこの日がやってきた、どれほどこの日を夢見たことか……。俺は生まれ変わるのだ。今までどれだけ惨めな人生だったことか、取り柄といえば体が丈夫なくらい、女に縁もなく、世間の奴らから守銭奴と罵られ、今じゃ命まで狙われる始末だ。貸した金を返して貰って何が悪い。だが、惨めな日々も今日までだ、全く新しい人生がこれから始まるのだ。今までの悲惨な日々はこの日の喜びのためにあったに違いない。
 卓越した・・・

3

さよなら、ソプラノ。

14/12/14 コメント:4件 橘瞬華

「 」
 日に日に掠れていく音。出なくなる高音。低くなる音域。全部、自覚してる。僕がソプラノにさよならを言わなきゃいけなくなる日は、近い。

「The first nowellのディスカント、お前なんだってな!」
 宮野が僕の肩をぽんっと叩く。それと同時に弾んだソプラノが僕の鼓膜を叩いた。……僕と違って、掠れていない綺麗な音。
「僕は、君が歌えばいいと思う」
 ・・・

7

うそつき

14/12/10 コメント:7件 シンオカコウ

『月がきれいですね』、なんて、くっさい台詞だよね。ちょっとした悪戯心でわざと意地の悪い話題を振った僕に、君は細い眉をハの字にして、困った笑顔になった。
「確かにきざだとは思うけど、でも、文学的じゃない?」
 無闇に怒ったりしない温和な君は、やんわりとそう返してくる。放課後、僕らはふたり、こうして下校しながら話す。今日はたまたま授業で夏目漱石をやったから、いつか耳にした漱石の『I Lov・・・

最終選考作品

7

My name is

14/12/29 コメント:9件 泡沫恋歌

 朝起きたら、自分の名前が思い出せなくなっていた。
 毎朝、スマホでメールを確認するが、返信しようとして戸惑った。なんと自分の名前が出てこないのだ。名字は分かるがファーストネームが分からない。まさか若年性アルツハイマーか? だが妻や子供の名前はちゃんと覚えているし、自分の生年月日や血液型、星座、勤務先の電話番号もちゃんと言える。
 なのに……自分の名前だけが思い出せない。
「パパ・・・

1

むかし、むかし。でも今は....

14/12/27 コメント:1件 高橋螢参郎

「よくも騙しやがったな、あのクソアマ!」
 一人の老人が、誰もいない冬の浜辺で水平線に向かって悪態の限りをついていた。彼があの浦島太郎であるなどとは信じ難かったが、それでも彼は浦島太郎なのだ。助けた亀に連れられて竜宮城に行った、まさにその帰りである。
 帰還した太郎を待ち受けていたのは様変わりした地上の風景と、それ以上に変わり果てた自分自身だった。服装こそ絵本でよく見るままだったが、そ・・・

2

赤と緑

14/12/26 コメント:2件 浅月庵

 荒々しく持ち帰った弁当のように思想が偏っているのが僕の両親で、自分たちの信じるもの以外は拒絶する。彼らが江戸時代の人間ならば“絵”なんか喜んで踏みつけて唾を吐きかけていただろう。そんな二人に僕は教育を受けた。
 そうなると自然に、僕の中からあるイベントが欠落する。その二日間はテレビを見ることも新聞を読むことも(元々読まないけど)家から出ることも許されない。普通の日と変わらず、焼き魚や肉・・・

4

1/4の罪悪と、あの人の密室

14/12/23 コメント:7件 夏日 純希

運命とはサイコロで決まるスゴロクのようなものだと思っていた。だから私はたいていの人たちと同じように、出たサイの目に従って素直に運命を受け入れていた。受け入れる潔さこそが、人の強さだと思っていた。

でも、もしかすると、私たちはサイの目自体を選ぼうと、もっと努力すべきなのかもしれない。ちょうどあの最悪の状況下で「ジャンケンでの生存確率を上げよう」
と言ってくれた、あの人のように。<・・・

3

海を失った男と、空を持たざる女

14/12/07 コメント:1件 鹿児川 晴太朗

 目先の利益に釣られて、大荒れの海に船を出したのが運の尽き。
 俺の人生は、風に打たれ波に砕かれた船ともども、転覆した。

 ――。

「これが呑まずにいられるか」

 意識は朦朧とし、胸には吐き気のみが溜まってゆく。
 しかし、それでも酒を呑まずにはいられない。
 吐瀉物の代わりに口を衝いて出るのは、悪態、雑言。

「それぐらいに・・・

投稿済みの記事一覧

3

母親への光

14/12/29 コメント:4件 タック

 ねえ。あなた。
 
 下腹部に差し入れられた手を、男は弱く払った。子作りを目的とした女の手は、無言のうちに元へ戻された。 
 薄闇に包まれた夫婦の寝室にはその日も、男による拒絶が澱のように立ち込めていた。



 女が子供を産んだのは、三十歳を迎えてまだ新しかった晩秋のことだった。男が仕事に忙しくしていた、その淡白な性生活のなかに、僥倖のように授かった・・・

5

タイムカプセル

14/12/29 コメント:6件 四島トイ

『タイムカプセルを掘り出したいんだ』
 かつての同級生である木戸悟が電話を寄越したのは、大学四年の冬だった。家族を背に気にしながら、リビングの固定電話の前で声を潜める。
「なにそれ」
『小学校の卒業文集に書いてあったんだよ。夢を書いて、十年後の三月に掘り出しますって。俺覚えてないんだけどさ』
 不意に記憶がバラバラと零れる。楕円形でステンレス製のカプセル。教壇に立つ担任。板・・・

1

モノクロームに浮かぶ五感

14/12/29 コメント:2件 日向夏のまち

 なんとなく忘れ物をした気がした。
 それはほら、明確に何かを忘れたわけではないのだけれど、意識のそとがわにいってしまって置いてきてしまった時のような。無自覚な、勘にもにた感覚である。
 何かを忘れたときは、元の場所に戻ってみるといい。そんな事を思い浮かんだ。
 そこは、だいぶ色を失くしたところだった。白と黒に限りなく近い世界。申しわけ程度の色に視界がチカチカした。
 元の・・・

1

私の飛んでった人さし指

14/12/29 コメント:0件 タック

 朝起きると、私は目をこする。人さし指で、目一杯にこするのだ。しっかりと、目覚めるためである。小学三年生からの、癖なのだった。
 その日も私は、そうやって起きようとしていた。その日は夏休みの中ほどの日。一応の女子大生である私には午後から友だちとの約束があり、それがなんと、私の恋路に関わるかもしれないという「大切な」約束でもあったので、私はゴシゴシと目をこすって起きようとしていたのだ。いつもと・・・

5

さよなら、愛おしい私の髪

14/12/29 コメント:7件 そらの珊瑚

 桜美容室は、母のいきつけの店だった。
 母に連れられ、初めてこの店にやってきたのは、小学校に上がる直前。当時流行っていたショートカットのアニメの主人公の女の子に憧れて「同じ髪型にしてください」と頼んだ。けれど現実はその女の子に似るどころか、まるで男の子。もしくは猿。私は失望のあまり「これじゃ学校に行けない」と言って泣いた。
 「またおまえのわがままが始まった」と母は呆れていたっけ。<・・・

0

ホワイトアウト

14/12/29 コメント:0件 霜月秋介

  視界は白く覆われた。白い世界に一人だけ取り残された気分だ。左右に激しく動くワイパーは、今の私の心境をそのまま表しているようだ。 

私は今、どこを走っているのだろう?何を目指して車を走らせているのか、わからなくなった。
後ろの車が私を急かしているようだ。しかしいくら急かされようと、急ぐも何も私は目標を失った。白く恐ろしい魔物に消されてしま・・・

1

桜と海月

14/12/27 コメント:0件 宮里和実

 桜が失踪したのは1ヶ月前のことだ。
 そのことを初めて海月から聞いたとき、私は自分でも驚くほどに冷静だった。
 それどころかいつもと同じように「家、来る?」と聞いたのだ。全く人間というものはとんとわからない。いつか読んだ小説の中に書いてあった言葉だ。私はそれを心の中で何回か呟いてみた。そしてそれは私の中でとても空々しく響いた。
 海月は私の目をじっと見てゆっくりと頷いた。

7

Trauer(トラオアー)

14/12/27 コメント:10件 光石七

 少年が最初に失ったのは故郷だった。平和な村に突然現れた異国の軍隊は、少年の遊び場だった水車小屋も、少年の家も、村人たちの家も、何もかも打ち壊して火をつけた。男は殺し、女子供は捕まえて連れ去る。二十人ほどの村人は兵にみつからぬよう村を抜け出した。少年も両親と共に逃げた。
 次に少年は家族を失った。他の村々も襲われており、父は他の村の男たちと義勇軍を結成して侵略者に反旗を翻した。しかし、敵の軍・・・

9

最後の一人芝居

14/12/27 コメント:9件 黒糖ロール

 積もる話をひとしきり終え、訪れた沈黙が心地よくて、ベンチに座ったまま僕は沙織に顔を近づけた。
 唇の柔らかさと味をかすかに感じて、驚いて唇を離した。
 沙織が泣き笑いのような顔をしている。思わず手をのばして、僕は沙織の髪を何度もさすった。
「おかえり」
 目の前で列車が動きはじめた。
 ただいま、優也。周囲の騒音のなか、沙織の声がまっすぐに届く。
 平日の朝、・・・

0

ただいま

14/12/26 コメント:0件 

たあくんはいつもひとりぼっち。
今日も教室の隅っこでひとり本を読んでいます。話しかけてくれる友達はいません。
「ねえ、遊ぼうよ」
背筋の凍るような冷たい声が耳元で囁きますが、たあくんはその呼びかけには答えずページを捲ります。たあくんに話しかけるそれは、人ではないからです。
昔から、たあくんはおばけと触れ合うことができました。その力が常人にはないものだと知った時には、たあくん・・・

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再起

14/12/26 コメント:0件 藍田佳季

 香奈の葬式から帰った夜、俺はただぼんやりとしていた。
 酸素が薄まったような感覚。精神的な酸欠状態。
 こんな俺を見たとして、香奈は多分「しっかりして」と言うだろう。けどそれは俺の想像でしかない。
 香奈のことを思うのはやめて前に進むべきだ。
 そう頭では思っても気持ちがついて行かない。それは違う、ともう一人の自分が言っている。
 頭と心がここまで分離するとは酷い。・・・

8

回禄の向こうにあったもの

14/12/25 コメント:7件 草愛やし美

「火事だ!」
 眠りについて間無しの俺は、携帯の喚き声に叩き起こされた。只ならぬ様子だが、何を言っているのか要領を得ない。午前四時、慌てて上着を羽織り自転車に飛び乗り、駅前商店街の入り組んだ路地奥にある花都小路へと急ぐ。遥か彼方だというのにサイレン音が一面に鳴り響き、きな臭さが鼻をつく。大火を肌に感じ体が震え出す。店は無事だろうか、打ち消す端から次々に大きな不安が頭をもたげてくる。遥か向こう・・・

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きっとさよなら

14/12/24 コメント:0件 小李ちさと

美しいものには魔が潜む。
比喩ではない。実際に悪魔がいる。いるだけならいいのだけど、作者や作品を見た者に害を及ぼす。美しいものを破壊しない限り、悪魔は消えない。
私は美しいものを破壊するのが仕事。特に能力は必要なくて、強いて言えばライトノベルみたいな世界観を受け入れる諦念力と、繰り返しの訓練を消化できる忍耐力くらいだ。
専門は日本国内の絵画作品対応。知らせを受けたら現地に赴き、作・・・

4

成和堂主人

14/12/24 コメント:7件 たま

 朝から雪が降った。
 夕刻になっても雪は降りやまず、駅前のいつものバス停に長い行列ができた。バスはやって来ない。それでわたしは歩くことにしたのだ。今日はいつもの革靴ではなく、ブーツを履いていたし、小一時間も歩けば、我が家にたどり着けるはずだった。
 駅前にはアーケードのある商店街があった。雪道を避けてその一角を抜ける。何年ぶりだろうか。ここに来るのは。まだ、五時過ぎだというのに商店街・・・

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折り鶴

14/12/22 コメント:11件 そらの珊瑚

 池で泳ぐ鴨の親子。アスレチック広場で遊ぶ子ども達。母親の膝の上で滑り台をすべる幼児。キャッチボールをする父子。カメラのシャッターを押す母親。芝生でフリスビーに興じる犬と飼い主。誰かと誰かが優しくつながっている。晴れた日曜日の公園は平和に満ちているようだった。
「こんにちは」
 ベンチに座る男に突然に話しかけられ、ひとりぼっちの小さなリクは身を固くした。
「驚かせちゃった? ごめ・・・

4

散りゆくチリコ

14/12/22 コメント:4件 霜月秋介

  一枚、三枚、六枚…。一番上から順番に、私達は抜かれていく。上にいた私の仲間達が次々と、人間の手によって失われてゆく。いとも容易く…。

  箱の一番上へと辿り着いてしまった者は、人間が引っ張り易いように、箱から半分身体をさらけ出し、静かにその時を待つ。

  その心境は、ベンチで自分の打席を待つバッター?いや、・・・

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葛の裏風(くずのうらかぜ)

14/12/22 コメント:6件 鮎風 遊

 客先訪問を終えた一樹、コンビを組む同期のカズラから、ちょっと道草していかない、と誘われた。
 カズラは若いながらも凄腕の営業部員。今まで就業時間中にサボるなんて見たことがない。しかし珍しいことがあるものだ。
 一樹は生真面目だが、口べた、セールスに向かないスタッフ。もちろん自分でもわかってる。そのため、顧客との良好な関係作りが求められる部署から早く抜け出したい。しかし、入社後三年は営・・・

1

アイスマイ、ライキュー

14/12/22 コメント:2件 alone

「笑って、優(ゆう)。見送りはそうするの」
空港の出発ロビーで、咲(さき)は荷物を片手にそう言った。
「でも彼らは泣いているよ」
僕は泣き喚く男女を指差した。
「あの人たちは良いの。でも私たちは、別」
そう言うと、咲はとても柔和な笑みを浮かべた。
「じゃあもう行くね。ばいばい」
「うん。じゃあね」
軽く手を振り合って、咲の出発を見送った。
咲は・・・

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土くれは語らない

14/12/21 コメント:0件 高橋螢参郎

 果てのない闇の中、無数の土くれたちがぷかりと宙に浮かんでいた。
 大きさは巨大なものから取るに足らないようなものまであり、あるものは絶えず燃え盛り、またあるものは決して溶けない氷に覆われていた。それらはまるでよく整備された機械のように、決まった軌道をただ粛々と、延々と周り続けていた。
 ごくまれに道を逸れた土くれ同士がぶつかって割れたり、古くなったものが爆発したりとその数は絶えず増減・・・

8

銀鱗ものがたり──喪失から復興へ願い届け

14/12/20 コメント:8件 草愛やし美

 川原に横たわり鮭は放卵し絶命していた。瓦礫を縫うようにしてやって来た小田は、嬉々とした表情で駆け寄った。
「おお、戻ってきたんだ!」
 だが、すぐに小田は顔を曇らせ、跪くと静かに手を合わせた。
「すまない、産卵に気づけなかった私を許してくれ。きっと故郷を蘇らせてみせると君に誓おう」 
 あの日からこの川に鮭は戻って来ないと誰もが考えた。だが、必ず戻ると信じてきた小田は、半・・・

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失したもの

14/12/20 コメント:7件 泡沫恋歌

「この中に失くなっているものはありませんか?」

 机の上に並べられた、携帯、時計、財布、手帳、眼鏡、血の付いた衣服。
 これらの品物の持ち主が今はいない。そこに並んだ遺品と同じに、私も寄る辺ない身となった。

 いつものように夫は朝食を食べながら、新聞を読み、時計を見て、出勤する身支度を整えた。「お帰りは?」私が訊くと、「たぶん、遅くなるかもしれない」と曖昧に答えた・・・

6

みづうみ

14/12/20 コメント:8件 そらの珊瑚

 白樺の林の中に、ひっそりと別荘は建っていた。
 外国製の柔らかな絨毯、グランドピアノ、時を刻む大きな振り子時計、宝石のごとく輝くシャンデリア。リビングの大きな窓からは湖が見えた。
 晴れた日は太陽の光がきらきらと湖面に反射して、とてもまぶしい。まだほんの少女だった私と若かった父は、その風景をまばたきせずにどれだけ見ていられるかを競い合ったものだった。十秒、二十秒……。次第に眼が痛くな・・・

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もうすぐ。私の書いた本を、君に。

14/12/19 コメント:0件 村咲アリミエ

 ヤー君は天才だった。
 私は凡人だった。

「ミホちゃん」
 低い声で名前を呼ばれた。真夜中の、暗い道で。とっさに構えながら振り向くと、背の高い青年がそこにいた。電灯に照らされた彼は、やっぱりと微笑んだ。
「会えた」
「……どなたですか?」
「ヤストだよ、十年ぐらい前、隣に住んでた」
 ヤスト、隣に住んでた。私は数秒考えて、記憶の底の方から、幼い少・・・

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南方の渡り鳥

14/12/19 コメント:0件 ゆい城 美雲

私の恋人だった優汰は世界を愛している人だった。人間が好きだ、もっとみんなまとめて幸せになれればいいのになあとよく言っていた。それから、自然の花や木や鳥なんかも、好きな人だった。いつか叶うなら神様がいたずらに引っこ抜いて上下逆さまに刺して帰ってしまった木を見に行きたいと言っていたのを覚えている。私は、とある本よりその木は星を破壊する悪者のイメージしかなかったのだけれど、改めて眼前にその木が来ると、全・・・

4

告白ロールバック

14/12/19 コメント:7件 夏日 純希

 時哉は、魔法使いの祖父の話を聞くのが大好きだった。
「科学ではどうしようもないこともあるぞ」
「じいちゃん、それって何?」
 小学生の時哉はワクワクして答えを待つ。
「時の流れとか、愛とか」
「あい?」
「愛はまだ時哉に早いか。それより……時哉は時の魔法を受け継いでいるぞ。だから名前に時が入っている」
「まんまだね」
「直接過ぎて嫌だと言う身内もい・・・

0

おもちゃのような世界

14/12/18 コメント:0件 亜子

しっちゃかめっちゃか

くだらない色 音 がらくたの山

醜い子供の世界が今も広がっていく

苦しみ喘ぐ  

大人達

過去のうつくしい

澄んだ目は

澄み切った水面のような気配は

面影さえ

消え去って

無くなってしまったのか

無秩序なゴミの山

2

喪失させられるか、妻の殺意を

14/12/16 コメント:4件 鮎風 遊

「好きなことをするよりも、嫌いなことをしない方が、私は幸せよ」
 これは妻の志乃が最近呟いた言葉です。
 二十歳そこそこで結婚し、すぐに始まった子育て。やがて私は単身赴任となり、妻は一人で家庭を守ってきてくれました。
 その間、嫌なことが一杯あったことでしょう。やっとそれらを乗り越えて還暦に。残された年を数えれば、こんな主張も納得できます。
 しかしながら妻が言い放った「嫌・・・

0

甘美なひととき

14/12/11 コメント:0件 ちゅん

 私が美沙を知ったのは、今日のように何気ない日のことだった。いつものように仕事を終え、そのまま家に帰るのは億劫だったので、バーに行った。最近1人で飲むことが多くなった気がする。
 妻との関係は冷え切っていた。2人の間には、もう愛はなかった。別にふざけて困らせたわけではない。私には、愛などといったものは似合わなかったのかもしれない。私は、冷めた男だ。いつも拠りどころを探している。糸が切れた凧の・・・

1

ふたりの母親

14/12/11 コメント:1件 三条杏樹

「なんで、佳恵子にはお母さんが二人いるの?」

子ども心に不思議だった。我が家には母が二人いる。「ママ」と呼ぶ存在と、「陽子ちゃん」と呼ぶ二人の女性がいた。このママは私を産んだ女性だ。ところが陽子ちゃんは親戚でもなければ私ともママとも血が繋がらないただの他人である。

ママも陽子ちゃんも、私にとっては「母親」だった。父母参観にも、運動会にもお遊戯会にも、二人が来てくれた。父・・・

0

くもり時々雪そして涙

14/12/09 コメント:0件 ポテトチップス

兄さんへ

 突然の手紙を送って申し訳ありません。兄さんが父さんと喧嘩をして家を飛び出したのは、ちょうど20年前の雪がパラパラと舞う寒い夜のことでしたね。10年前に父さんが死んだ時も、こうして手紙を出して知らせましたが、兄さんは葬式にも顔を出さず音沙汰なしでした。
 母さんは兄さんの事をとても心配していました。俺が兄さんの居所を父さんが亡くなる前年に探しだし、母さんに言うと、母さ・・・

3

去り行くサルと捨てられた柿

14/12/08 コメント:3件 霜月秋介

  ふと道を歩いていると、民家の庭の柿の木に、子猿が何匹も登っているのが目についた。実った柿を美味しそうに頬張っていた。

  普段は滅多に観ることがない珍しい光景。私は慌ててポケットからスマートフォンを取りだし、内蔵カメラを起動させた。

  しかしシャッターボタンを押す前に、猿達は私の気配を察知したのか、のしの・・・

2

夕日と月のある風景

14/12/04 コメント:4件 坂井K

 私は夕日と月が好き。特に一緒に出てるとき。

 このマンションに越して来た日は、夕日と月が同時に出てて、とても印象に残ってる。「お姉ちゃん! 夕日と月が一緒に出てる!」右側にいた妹が、目を丸くして指差した。「菜の花や月は東に日は西に、か」「何それ?」「昔、蕪村さん、っていう有名な俳人が作ったんだよ」

「俳人?」「俳句を作る人のこと」「俳句?」「五・七・五で作る詩のこと」・・・

0

追う者

14/12/03 コメント:0件 蚊様

 濃霧だからなのか夜中なのに明るく感じる。
街灯が霧に包まれ幻想的な光が路地を照らす。
少し歩くと目線の高さにも光がこぼれ出す。

歩き慣れたこの路地は霧が出ようが、
そこに何があるのか手に取るように分かる。

「あー、先輩!そこに自販機あるんで、あったかい物でも飲みません?」
俺は目線の高さの光が自販機だと分かっていた。

「この制服で・・・

1

ひかりとうそ

14/12/03 コメント:0件 かめかめ

『わるい! おくれる』

 リヒトから連絡が入ったとき、私はすでに月エレベータの行列のなかにいた。

『またあ? どれくらい?』

『よんじゅうあくせす……くらい?』

『はあ!? えれべーたいっちゃうよ!!』

『ほんとごめん! なんならさきいっといて』

「先行けって!?」

 思わず口に出して叫んでしまって、・・・

1

忘れちまった喜び

14/12/03 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 人付き合いのわるい桃子おばさんでさえ、惑星ユージンにはお友達がいるのだそうだ。
 もちろんトミオにも、カロという名の自分と同い年の友達があちらにいた。ユージンと地球をつなぐ通信によって、毎日のように、両者に共通する言語で楽しいやりとりをしている。
「ぼくさ、きょう、ママに叱られちゃった」
 タブレット画面の中から、カロの物柔らかな表情がこちらをみた。
「なにかいたずらでも・・・

2

アイデンティティーの捜索

14/12/02 コメント:5件 るうね

 朝起きると、僕のアイデンティティーがなくなっていた。
「アインデンティテイー?」
 呼びかけてみるが、何の応答もない。
 昨日までは、たしかに隣にいたはずなのに。
 僕は部屋中を探し回った。
 いない。
 どこにもいない。
 僕は不安で仕方なくなる。
 アイデンティティーの喪失。自分が何者であるかという確信が持てない。
 会社に行く時間になっ・・・

0

憂鬱とヨガマット

14/12/02 コメント:0件 秋愛

憂鬱とヨガマット

 憂鬱だった。そもそも考え過ぎなのはわかっていた。憂鬱な気分になるから考え込むのか、考え込むから憂鬱になるのか。
自分自身でも、正直なところよくわからない。マナ自身、深読みしすぎる性格であることは25年間生きてきて痛いほどわかっていた。
新調したヨガマットの上で低反発でぎこちない柔らかさを踏みしめながら、目を閉じ、直立し深く深呼吸する。ヨガとは瞑想するこ・・・

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どんぐりの一番美味しい食べ方

14/12/01 コメント:2件 みや

夫が持ち帰った大量のどんぐりを妻は一日目、携帯コンロのガスを使いカレーのルーでコトコト煮込んだ。幼い息子は喜び、どんぐりカレーだ!とはしゃいだ。
二日目はミートソースで和えた。麺がないとさみしいね、と息子が呟いた。
三日目はバターで和えた。ビールに合いそうだな、と夫が喜んだ。
四日目は調味料が底を尽き、塩を振りかけた。これが一番シンプルで一番美味しい、と夫は笑った。

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フレアスカートと花の死体

14/12/01 コメント:11件 クナリ

 十月の夜、制服から着替えて外に出た。
 素足にスカートではもう肌寒い。高校に入って最初の冬が、迫っている。

 夜の散歩は、すっかり習慣になっていた。
 先月飛び降り自殺があった歩道橋を上がると、真ん中辺りに花束が置いてある。
 そのすぐ脇で、高校生らしい女子が、今にも落ちそうなくらい乗り出して下を見ていた。
 つい、
「あのう、危ないですよ」
 ・・・

4

美人喪失

14/12/01 コメント:6件 W・アーム・スープレックス

 お客の頭を背後からみたとき、浅川真理は、おやと目をまるめた。
 鏡に映る婦人に、見覚えはない。しかしこの独特にウェーブする髪は、まちがいなく………。
「あのう、失礼ですが、お客さまは―――」
 婦人は顔をあげて、鏡のなかの真理をみかえした。
 髪にかくれていた顔があらわになるのをみて、真理は気まずそうに微笑した。
「すみません。人ちがいでした」
「だれとまちが・・・

1

練り消しとしげじいとぼく

14/12/01 コメント:0件 こぐまじゅんこ

 ぼくは、小林そうた。四年生だ。
 ぼくは、勉強がきらい。授業中も、よく書き間違えては消しゴムで消す。

 ある日、消しカスを手でこねていたら、くるんと丸くまるまった。
 その次の日も、消しカスを昨日の分とくっつけて丸めてみた。昨日よりも、ちょっと大きくなった。
 その次の日も、その次の日も、ぼくは、消しカスをくっつけて丸めていった。
 授業中、先生の話を聞きな・・・

3

しおれうつむいた花が見つめる寂しいパズル

14/12/01 コメント:7件 夏日 純希

 スマホのアプリストアを眺めていると、変なものを見つけた。名前は『花パズル』。申し訳程度に作成されたアイコンから、個人制作のアプリだろうと察しがついた。レビュー評価はまだない。
 こういうのはつまらないことが多い。だが、私は説明文を見て少し心を惹かれた。

 家族が天寿を全うしたのでこのゲームを作りました

 パズルゲームの説明には全く見えない。だが、その淡白な迫力が・・・

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