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第六十九回 時空モノガタリ文学賞【 無題 】

今回のテーマは【無題】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

本コンテストは、コンテストページに掲示されたイラストからインスピレーションを得た作品の投稿していただくスタイルとなります。つまり言葉としてのテーマはございません。

時空モノガタリ賞発表日:2014/12/15

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本コンテストページのイラストは「おき ももい」さんの作品です。

おき ももい プロフィール

1988.4.11生×B型
高知県出身
画家 兼 イラストレーター。
繊細な線と重なり合う色で『生命』を絵画で表現するアーティスト。壁画、似顔絵、ロゴ、フライヤー、Tシャツ、スマホケースなど、様々な絵を手掛けるなどして活動している。
都内を中心にライブペイント活動もしている。
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※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は2〜3作品程度とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2014/10/20〜2014/11/17
投稿数 46 件
賞金 時空モノガタリ賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数
総評

入賞した作品

3

逃避行

14/11/17 コメント:4件 四島トイ

 水田には緑の藻が浮いていた。
 踝が隠れるほどの高さの稲穂は微かな風に吹かれ、土手の陽だまりでは合鴨が丸くなっている。
「のどかだなあ」
「……そうですね」
 軽トラックの荷台に二人並んで座る。先輩は胡坐で。私は体育座りで。快晴の空の向こうには、名前も知らない山々が悠然とそびえていた。先輩は伸びをする。
「恋の逃避行といったら南の島だと思ってたけど。信州もいいもんだ・・・

12

ダンゴ虫学級

14/11/13 コメント:13件 草愛やし美

 僕は懸命に足を動かす、短足でゆっくりとしたものだが足取りは力強い。ここは快適、あいつもあの子も、行ったり来たり。同じ道のようで、みな違う線を描いている。平等を味わうことは心地良いと知った。全て世は事もなく、あるのは、絵の具で塗りたくられた山と海のみ。
 ◇ 
 転校生の平安君は、黒板の前にヌーと立ったまま、下を向いたままだ。初めから苛めの対象だって僕にはピンときた。僕も苛められてきた・・・

4

アヤカシ随想

14/11/10 コメント:5件 黒糖ロール

 ガラパゴス諸島、独自の生態系を持つ島の集合体。一昔前、旧式携帯端末の俗称の由来になった。他国とは異なり、この国では、やたらに多機能な製品が開発され、市場に出回った。そこに、八百万の神々に象徴されるアニミズムの思想を当てはめることは、いささか強引かもしれない。しかし、現在の我々の状況を鑑みると、あながち外れた話ではないように思える。
 万物に神が宿るように、携帯の中に多様な機能が宿ったように・・・

7

水底で、両手いっぱいの野ばら

14/10/26 コメント:12件 クナリ

死体そっくりに育つ野ばらの話を、聞いたことがあるだろうか。
使用人の息子だった僕を、領主の娘のマルエルがこっそり庭園の片隅へ連れて行き、その野ばらを見せてくれた時、僕らは十三歳だった。
マルエルは、知り合いの魔女から教えてもらったのだと言って、壊れた石垣の付け根から伸びる、その野ばらを指差した。
なお、僕はその魔女とやらを見知っていたが、ただの変わり者の老女である。
野ばら・・・

最終選考作品

5

Tapestry -季(とき)にあひたる彩を-

14/11/17 コメント:8件 滝沢朱音

「ああ、美しいね」
北の対一面に広げていた彩とりどりの布を、急にお出ましのこの邸の主は褒めそやした。
「秋を染めるという竜田姫も、かくや見事に仕上げられまい」
「恐れ多うございます」
女神に例えられて私は恐縮する。夫は絞り染めの一枚を手に取った。
「これはどのようにして作ったの?」
「先に糸で模様を縫って絞り、それから染めるのですわ。そうしてほどくとご覧のように・・・

1

光輝

14/11/06 コメント:1件 かめかめ

 一気に、光がはじけた。
 それはもう音ではなくて、光だ。
 その光は俺の網膜を焼き、俺は幻想の世界を見た。世界は青く、ときおり黄色の光を発し、うぞうぞとうごめく原生生物のような半透明の生き物を擁している。その世界は俺の目から耳から入ってきて、俺の体を突き抜け、はるか彼方へ飛び去った。

 ぶるりと頭をふるってステージに目を戻す。そこでは彼が、マイクに噛み付くように歌ってい・・・

3

ぶってよ、先生

14/11/06 コメント:3件 宮里和実

 いつもとは違うシトラスの香りの香水をつけて行った。校則違反だということは百も承知だ。慣れない柑橘系の酸っぱい香りに顔をしかめて、あわててこれではいけないと首を振る。鞄の中から手鏡を引っ張り出して笑顔の練習をする。小首をかしげて、できるだけ困ったように。以前元彼が一番可愛いと言ってくれた笑顔。
 手鏡を閉じると蓋には黄色いうさぎがあたしと同じように小首をかしげて笑っている。確かクリスマス会の・・・

3

ニライカナイのような

14/10/25 コメント:5件 橘瞬華

「ねぇ、私達死ぬのかしら」
「どうやらそうみたいね」
 星の光も薄れ空が白み始める夜明け前の浜辺、寄るでもなく返るでもない穏やかな波打ち際。生温い感覚に脚を、浮遊感に身を任せる少女はぼんやりと空を見上げていた。少女の肩から腰にかけては深い切り傷……一目で致命傷だと分かるような傷跡が、地割れのように広がっていた。傍らに佇むもう一人の少女の身体にも、全く同じ痕跡が残されていた。にも関わらず・・・

1

刻み込まれた悪夢

14/10/20 コメント:2件 W・アーム・スープレックス

 ドナが市内をパトロールしているとき、艇内にナビの声がひひきわたった。
「千手ガニ出現」
 画面上に、千手ガニをあらわすイガイカの輪郭がA地区の東にあらわれたのをみたドナは、すかさずA地区めざしてパトロール艇を飛ばした。
 ほとんど一瞬に移動した艇の前方に、不気味な紫色をした巨大な千手ガニが認められた。
 収縮と拡大を繰り返す千手ガニのその、無数の触手には、からめとられ、身・・・

5

空から降ってきたブツ

14/10/20 コメント:11件 しーぷ

「君、明日から来なくていいから」


 仕事で大きなミスをした。それだけで。それだけでなんて言葉で片付けられないようなミスだってのは自分にだって分かる。
 特に大きな功績をあげたわけじゃない。それでも真面目に、毎日1時間も早く行って職場の掃除をしたりもした。
 言われたことしか出来ないゆとり世代なんて言われてしまえばそのとおりなのだが、言われた仕事は完璧にこなしてきた・・・

投稿済みの記事一覧

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在りし日の風景

14/11/17 コメント:0件 タック

(身近に、私の絵を褒めた人は誰もいなかった)
(両親は私が絵を描くことを嫌い、両親によって選ばれた友人は、私の付属品を称えるばかりの人々だった)
(そのなかで唯一、私の絵に笑顔を向けたのは、クレア・ハレーソン、ただ一人だった)
(私に上下なく接し、澄んだ瞳を向けてくれたのは、クレア・ハレーソン、ただ一人だったのだ)

「ノエル、これはあの山ね。とっても、素敵な絵だと思・・・

3

God “Breath” you.

14/11/17 コメント:8件 suggino

 その国はとても小さかった。五才の子どもの足でちょうど時計一周分の時間もあれば歩いて周れるほどの大きさで、両手両足の指で数えきれるほどの国民が住んでいた。
 国の中心には、国土のおよそ半分を占める湖があった。湖は大変美しく澄んで、まるで鏡のように日光を反射させきらきらと光った。そのほとりには白い石で造られた小ぶりの城が建っていた。城には王様とお妃様とお姫様が、つつましく仲良く幸せに住んでいた・・・

5

Nouveau départ

14/11/17 コメント:8件 光石七

 ようやく仕事が一段落した。久々の三連休。せっかくなので、二泊三日で沖縄にファンダイブに行くことにした。ダイビングもしばらくご無沙汰だった。
 朝イチの飛行機に乗り、さっそく午後からボートダイブ。今回一緒に潜るのは初対面の三人だ。内二人は夫婦で、もう一人は僕と同じく単独で参加した男性。自然とバディが決まった。移動中、いつものように参加者と話しながら気持ちを高めていく……はずなのだが、今日はな・・・

6

緑苔に暗渠のラインが浸食する

14/11/17 コメント:7件 草愛やし美

 数十年前に廃線になったそのトンネルでは、探検と称し年に一度、イベントが催されていた。使われていないトンネル内は暗く、イベント参加者たちに懐中電灯は必須だ。頭に留めたものや手に持つ形など様々な懐中電灯を携え、みな、初めはこわごわトンネルへ入っていくが、大勢の参加者と共に進む六キロほどの距離は、賑やかでそれほど遠くも感じない。楽しいハイキング気分が味わえるイベントとして、家族連れにも人気があった。<・・・

5

カタストロフィ

14/11/17 コメント:10件 泡沫恋歌

「発見したぞ―――!!」

 ここはモロッコ領、サハラの砂漠のど真ん中。
 Dr.ヤマダが率いる大和大学考古学発掘隊は、ついに幻の恐竜、地上で最も早く、強く、水陸両用だといわれるスピノサウルスの化石を発見した。
 今まで完全な形で発掘されたことがなかったが今回の発掘でほぼ全貌が判るのだ。――まさに世紀の大発見である!
 スピノサウルスの体重は20トン、全長は15メート・・・

1

過去は未来の水に流して

14/11/16 コメント:0件 えのまりや

「ここ数日の雨じゃがしばらくやみそうにない、刈入れはしばらく待たねばのぉ」
 童女の託宣に、村の筆頭と各家の代表が頭を下げている。座敷牢の中の童女は正座し、無表情で数回頷いた。
 そこへびしょ濡れの小僧が、大人に引きずられてきた。座敷牢を開き中へと蹴り込まれる。
「今度こそださねえからな」
 悪態をつかれても小僧は平気な顔だ。鼻を強く擦り唇を尖らせた。
「貴様は誰かの・・・

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赤い空

14/11/16 コメント:0件 山中

 ガスに覆われた黄色い雲の下、垂れ流された廃液の上を汗にまみれた労働者達が行き交う。錆びついた排水菅のような匂いが、この街のシンボルだ。その中心部には、医薬品工場がある。
 チヅルおばさんは朝まで戻らない。歓楽街に埋もれたチャイニーズの集まるカジノで、夜通しギャンブルを楽しんでいるからだ。その資金には父さんの遺産が使われている。母さんは幼い頃、歴史博物館のキュレーターと恋に落ち、出ていったき・・・

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タブラ・ラサの道

14/11/16 コメント:0件 雲原 拓

 雪に薄く覆われた道を、しっかりとした毛皮のブーツで踏み込むと「ギュッ」という事がする。この旅の最初の一歩はそうやってはじまった。特徴的な音だから、今でも鮮明に思い出せる。ここの雪はマインツと違う。似た音を出すけれど、違う雪であると思える。でも、ここまで来てしまった事に後悔はないつもりだ。夢を追ってここまできたのだから。
 旅に出ることは怖くなかった。この稼業に入ると決めたときから分かってい・・・

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青い空の中 黄色の僕を信じて 君は雷と共に

14/11/16 コメント:0件 村咲アリミエ

 彼女は不思議な人だった。
 目を合わせて話をしてくれない。こちらを向いてはくれるが、いつもどこか遠くを見ている。代わりに人の心を見ることができる。誰よりも繊細に、人の心を理解しているのだ。
 ある秋の、ある昼休み。僕は「話がある」と彼女に呼び出された。全校生徒四十人弱の小さな中学校では、個人の呼び出しは珍しくない。雑用の手伝いか何かだろうと思って、彼女について行った。
 彼女は・・・

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デマゴギー

14/11/15 コメント:1件 辛楽


「大変だ!屋上でタンクがヤバイことになってるらしい!」


朝、教室に飛び込んでくるなり、大場は緊張した顔にほんの少し汗を浮かべながら叫んだ。


「ヤバイことって?」
「見に行ってみようよ」


始業まで三十分ほど時間のあったその時間帯、電車通学が多くを占める生徒たちはダイヤの都合上すでにほぼ全員登校していて、廊下がガヤガヤし始・・・

2

私らヒロイン『転(ころ)Girl』

14/11/12 コメント:4件 坂井K

 いつからだろう。ちょっとしたことで絶望して、立ち止まってしまう若い男たちが増え出したのは。――ここにも一人、そんな男がいる。彼の名前はヒカルくん(仮名)。歳は16、高校生。好きな女の子に告白して振られたぐらいで絶望し、立ち止まってしまった愚かな男。

 ヒカルは授業が終わると、川沿いの道を一人で歩き、帰途に就く。そして、ときどき立ち止まっては溜め息を吐く。立ち止まっているその間、彼の・・・

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刹那は蒼く散り深く沈む

14/11/11 コメント:13件 草愛やし美

 新月の夜、その船はひっそりと岸を離れた。

 黒い花に埋もれたルーの姿は見た目はとても美しい。首から胸にかけ広がる青い星状湿疹は、身に包んだ白い衣で見えないだけだが……。岸を離れるとすぐに、ルーは胸に組んだ両手をほどきその手で船底をまさぐり合図した。
 黒布を纏ったニオは黒い花影から起き上がると優しくルーを抱き締めた。抱き合った二人は無言。考えに考えて二人で出した答えだから、少・・・

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寄生画 『生命の起源』

14/11/09 コメント:2件 汐月夜空

「Aさん、今日こそお見せくださらない? あなたが持っているというあの絵」
「いやはや、なんのことですかな、E嬢」
 グラスが響く静かな夜。私は以前から何度もアプローチをしてきた資産家のAに迫っていた。信頼を得るために出来ることはなんでもやった。見るからに打ち解けてきたAの態度に今ならばいけると踏んで、私は狙っていた作品の鑑賞を持ちかけたのだった。
「もう、とぼけないで。私、知って・・・

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Fish Story

14/11/10 コメント:3件 シンオカ

 とある海沿いの宿屋にて、不思議な風体の旅人と晩の食事を共にした。
 分厚いマントで全身を覆った男だ。深くフードを被っていて、陰った表情は窺えない。自分もマントにフードの流れ者だから、ひとのことは言えないが。宿の部屋から食堂に行くところで一緒になって、彼が右足を踏み出すたびにかつかつと音がした。不思議に思って見てみると、長いマントから義足が覗いていた。ちらりと見えただけでも分かる、義足という・・・

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烏賊墨

14/11/10 コメント:9件 そらの珊瑚

 瀬戸内海に浮かぶこの小さな島の事を『日本のサンタルチア』と洒落た別名をつけたのは数年前だ。それは観光客を増やそうとする島おこしの一環だった。けれど思うようには浸透せず、ウチみたいな釣り人相手の小さな民宿と漁業と柑橘栽培で成り立っている、さびれていく一方の過疎の島であることには現在も変わりない。
 一人息子の諒一が東京の大学を出て、そのままむこうで就職したのも無理はない。帰ってきたとしても、・・・

3

画家の作品

14/11/10 コメント:4件 とな

「これは、何という絵ですか?」
アトリエの片隅に立てかけた絵を指して、男が尋ねました。
「これですか?名前はありませんよ。」
画家が答えました。
「名前がない?」
「ええ。これはただの落描きですから。」
「でも……こんなに、素晴らしいのに。」
「素晴らしい、ですか?」
画家は不思議そうに首を傾げました。
「はい。大胆な構図、ダイナミックな筆遣い・・・

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行き場のない人生としての無題

14/11/09 コメント:0件 堀田実

 生存とは苦しみであると私が知ったのは胎児から膣の狭いトンネルを通り抜けこの生の世界へ生まれ出たことを思い出したからだった。それは長い長い道のりの夕暮れの薄暗いあぜ道を一人歩くように孤独だった。私はそこに一人しかいなかった。当然だ。胎内には一人しか入れないしそのための出口しかない。
 宇宙から母胎へ落ちて来た時の私は希望に満ちていたように思う。これから生存することが楽しみで仕方なく長い間それ・・・

2

吾輩は小説である

14/11/09 コメント:2件 るうね

 吾輩は小説である。
 題名はまだない。
 吾輩の前で座って、うんうんと唸っている男は、吾輩の作者である。万年筆を握りしめたまま、もう二時間もこうしている。その間、一文字たりとも筆が進んでいない。灰皿に、煙草の吸い殻ばかりが増えていく。
 と、おもむろに万年筆を原稿用紙の上に放り出し、作者はううんと背を伸ばした。
「仕方ない。気分転換でもするとしよう」
 そうつぶやく・・・

6

僕は無題という名前なのです。

14/11/09 コメント:10件 そらの珊瑚

ねえ、明日引っ越すんだろ?

「なんだ、駅鼠か。おまえ、ずいぶん早耳だな」

ふん、見くびってもらっちゃ困るよ。ここは、じいさんの代からおいらたちの縄張りさ。で、どこ行くのさ、無題。

「美術院に引っ越すんだ。そこで絵画修復士って人が、僕をきれいに直してくれるそうだよ。何しろ僕は百歳だからね。絵の具もところどころハゲちゃってるし、だぁ〜れかさんにかじられて、穴・・・

5

偏頭痛の男

14/11/08 コメント:9件 泡沫恋歌

 石田君は今日も機嫌が悪い。
 苦虫を噛み潰したように眉間に縦皺ができている。大声で話し掛けようものなら、険しい顔で睨みつけられる。
 石田君は偏頭痛持ちである。
 一週間の半分は頭痛に悩まされている。時に雨が降りそうな天気では気圧が下がるので、特に酷いという。激痛に嘔吐することもあるらしい。
「もう、俺に効く鎮痛剤はこれしかないんだ」
 薬剤師のいる薬局でしか買えな・・・

6

交差する願いは、二人を川へと駆り立てる

14/11/08 コメント:12件 夏日 純希

 ◇ 悠花の願い

「そこから飛び降りても死ねませんよ」

悠花は欄干の上で見知らぬ男の声を聞いた。そして「邪魔をしないで」と心の中で呟く。死ぬわけがない。だって、得るために飛び降りるのだから。飛び降りて死んだら元も子もないではないか。

悠花は少し振り返り、片目でその男の姿を捉える。年は三十前後だろうか。なかなか整った顔立ちをしている。だが、今は誰だろうと関係・・・

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四つの言葉

14/11/06 コメント:0件 坂井K

 ユキの外見は完璧に人間だった。触った感じもそうだった。ただ、彼女は四つしか言葉を話さない。「はい」「いいえ」「ありがとう」「ごめんなさい」それが、私が彼女に会ってから聞いた言葉の全てだ。――私はフリーのライターで、主にロボットについての記事をwebマガジンに載せて糊口を凌いでいる。

 専門家的観点からではなく、一般市民的観点から、ロボットと人との過去の関係〜現在の状況〜未来の展望ま・・・

1

一人の親父の名も無き愛

14/11/06 コメント:1件 更地

 死んだ親父の部屋を整理していたら、デスクの抽斗から何冊かのノートを見つけた。ノートには表題が書かれておらず、その表紙は皆真っ赤だった。ひと目で血を連想させるような赤色である。しかし暖炉の火の暖かさも連想させる赤である。
 俺は親父が嫌いだった。くだらないことでくだらない説教を垂れるあの口が嫌いだった。人の言うことを何一つ聞いてくれないあの耳が嫌いだった。どうしようもない奴を見るようにしてく・・・

3

四神倶楽部 24時間32分の巻

14/11/05 コメント:7件 鮎風 遊

「明日の1日の長さは24時間32分となります。みな様、時計を合わせてください」
 ニュースキャスターからのこんな案内を聞き、私はTVのスイッチを切りました。
 それにしても毎日1分のペースで、1日の時間が伸びて行く。言い換えれば、その分地球の自転が遅くなっているということ。このペースだと、あと4年弱で地球の回転は止まってしまいます。
 また宇宙へと目を遣ると、惑星は太陽との引力の・・・

1

ギフテッド症候群

14/11/04 コメント:2件 佐藤 陽佑

最近よく同じ夢を見る。
真っ黒な視界が急に光に包まれたかと思うと、超新星爆発のような神聖な輝きに満たされていく。
やがて光は己の中から溢れていることに気付き、それはやがて形容し難い程の神々しさを形作り、何か神秘的なものとして語りかけてくる。
そして、その言葉を聞く時、必ず目が覚める。

「夢じゃなくて?」
私は、そんな文字通りの「夢物語」を恍惚の表情で話す横井に・・・

1

シー・ジュエル

14/11/01 コメント:2件 みや

それを海で最初に見つけた男は、そのあまりの美しさに驚愕した。

大きさは手のひらにぴったり馴染む大きさで、形は少し歪な楕円形。色は乳白色が基調になっているが、光に当てると角度により鮮やかなマリンブルーやエメラルドグリーンの様々な色がキラキラと輝きを放っていた。20年漁師をやっている男でも、今までにこんなに美しい貝を見た事が無かった。

貝、と言ってもそれはアサリや蛤のように・・・

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足長おじさま募集中

14/10/31 コメント:0件 myuzurin


あまりにも、問題が多すぎる。
課題は目白押しだし、私は大学生活2年目にして既にグロッキーであった。
ちなみに、クロッキー帳を脇に挟んでいるのは死語の世界とは無縁である。

楽しくねぇ。
やることね。

「いらっしゃいませ、ご注文は・・・」
「まだいーよ。ぅぜぇな」

そもそも決断力無いのよ、あんた。
クロッキー帳に向かう時間・・・

0

生命の川

14/10/24 コメント:0件 五助

 水の流れの下に大地という名の生命をはらんだ川が流れているかのように、その川は命と共に生まれる。

 アフリカ、サバンナ地帯では、雨季にだけ現れる川がある。
 雨が地面を殴打する。落ちた雨は、地面に吸収されながらも、広がり続け、重力に従い、下へ、高いところから低いところへ流れていく。窪地があればそこに溜まり水たまりを作る。水たまりにとどまりきれない雨が、こぼれ、窪地の外の水と手を・・・

1

senza titolo

14/10/23 コメント:2件 小李ちさと

「なー」
「何だよ」
「コレいくらで売ったらいいと思う?」
「好きな値段で売れよ」
呆れて振り返ったら、浩介は真面目な顔で自分の作品とにらめっこしていた。上品なワインレッドと落ち着いたゴールドの、俺にはよく分からん物をよく分からん感じで組み合わせて出来上がったイヤリング。『大人の女性になり始めた女の子に贈る』をコンセプトにしている浩介のアクセサリーは、質とデザインとその他 ・・・

2

ほうれん草くんのゆめ

14/10/23 コメント:2件 こぐまじゅんこ

 とよばあちゃんは、秋のはじめに、ほうれん草をうえました。
 たっぷりおいしいほうれん草が育つように、毎日毎日、畑に行って、ほうれん草の世話をします。
 ほうれん草は、おばあちゃんの期待にこたえて、すくすく元気に大きくなりました。
 冷たい風が吹くようになった頃、おばあちゃんは、大きく育ったほうれん草を、大事に大事に収穫して、もってかえりました。

 それから、おばあ・・・

1

曲がる世界

14/10/22 コメント:1件 八子 棗

雲竜柳を手向けて、交差点を離れた。彼女が生け花をする際、好んで用いた花材だった。
花は他の人が手向けているだろうと思ったので、買っていかなかった。
彼女は今頃、ここに手向けられた花で美しい世界を描いているのだろうか。


私が彼女に出会ったのは、仕事付き合いのある知人に誘われて訪れた高島屋の花展だった。
無数のアーティスティックな生け花が展示される中で、まだ花・・・

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思い出したくっくっくっ

14/10/22 コメント:0件 笹峰霧子

 もう何十年も経っているのに、ふとあの方のくっくっくっと笑われた顔が浮かんだ。お世話になった先生の、あのときの幸せそうな顔だ。
 先生は私の娘の自立の第一歩を助けて下さった方。今は音信はないけれど感謝している。
 私が娘を連れてK市に赴いたのは今から20年あまり前……。本格的に登校拒否が始まったばかりの中二の娘を連れて、私はフェリーに乗り見知らぬ大都会へ――。先生の経営されるフリースク・・・

1

14/10/21 コメント:0件 くまこ

今日解放される世界


絶えず攻撃が降り積もる世界


さあ、23時31分

誰もいないこの場所から―――







思えばろくなことがなかった


周りの弱さも、それに左右される自分の弱さも


全てを呪って生きていた




0

人間の恨みは蛇となって生き続ける

14/10/21 コメント:0件 ポテトチップス

黒の礼服を来て14年振りにタケシの実家に行った。タケシの母親は泣きながら俺にお辞儀をして、家の中に入るように勧めてくれた。
玄関を上がるとお線香の匂いがし、『ああ、やっぱり本当だったんだ』と俺は思った。
1階の8畳の和室に祭壇と棺が置かれ、その中でタケシは目を瞑って死んでいた。
俺はタケシの死に顔から目をそらした。タケシは顔中に青あざがあり、顔が倍近く膨れ上がっていて、見るに堪え・・・

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マシンガンに口づけを

14/10/21 コメント:0件 三条馨


「君は馬鹿か?」

 彼は言った。言ったというよりも吐き捨てた。不機嫌な時に見せる独特な眉の動き、唇の歪み。整った顔立ちは不思議とそれを不快には見せず、寧ろかえって崇高とさえ思える色香を帯びて魅力的に見せる。呆れ果てたそれを感じさせる軽蔑を孕んだエメラルドの瞳は僕を見下している。しかし何故だろう。これもまた、不思議と嫌な気はしない。
 外を日々駆けずり回るという面倒で汗臭・・・

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汽笛が鳴るまで

14/10/20 コメント:2件 ちほ

 薄汚れた煉瓦造りの小さな駅の隅には、一面ガラス張りの小さな図書館があった。そこにはダルマストーブが設置されてあり、この季節には有り難い。読書家の月帆にとっては、これ以上素晴らしい駅は存在しなかった。
 彼は、ふと銀の懐中時計を懐から取り出し、時間を確かめる。学校からもらった入学祝いの懐中時計だ。
「遅いな」
 彼は親友を待っていた。
 暇つぶしに、本棚に収められた様々な背・・・

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