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Fujikiさん

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悪意が疾走する

17/02/24 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 Fujiki 閲覧数:761

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 クラスメイトの長田の死体は通学路沿いにある土手に転がっていた。喉笛がパックリ裂かれ、夏服の白いシャツが血液で真っ赤に染まっていた。警察は彼を連続通り魔事件の新たな犠牲者と断定した。鋭利な刃物を用いた手口も、夜更けの犯行時刻も一連の事件と一致していた。通りの防犯カメラには自転車に乗って走り去る黒ずくめの男が映っていたらしい。
 全校集会で校長が長田の死を報告し、僕らは一分間の黙祷を捧げた。黙祷なんて六月の慰霊の日くらいしかしたことがない。生徒も教師もみんな一様に神妙な顔で頭を垂れているけれど、心の中まで同じ気持ちかどうかは分からない。長田の葬式にはクラス全員で参列するのだろうか? もし参列するとすれば、僕にとって生まれて初めての葬式になる。身近で知っている人間が死ぬのはこれまでになかったことだ。
 校長の話の後は、予想どおり安全対策の呼びかけがくどくどと続いた。
「暗くなったら極力外に出るなって言うけどさ、オトナが大学受験をなくしてくれれば塾に行く必要も、バイトして学費を貯める必要もなくなるんですけど」などと、檀上に立つ生活指導の教師に向かって反論したいわけではない。学校生活において教師に口答えしても無益だということを僕らは経験から学ぶ。教師たちは昔ながらの校則とか、教育委員会の作成したマニュアルとか、文部科学省の方針とかに従って動いているだけであり、自分たちでルールを作って僕らを管理しているわけではない。余計な厄介事を引き受けずに毎日をやり過ごしたいのはお互いさまだ。長田の事件は学校の誰にとってもただの厄介事の一つに過ぎなかった。
 あるいは長田が死んで内心喜んだ人間もいるかもしれない。彼が不良の新垣とつるんで学校を牛耳っていたことはみんなが知っている。教師のあいだでも周知の事実だろうが、たぶん見て見ぬふりをしていたのだろう。夏休みに、隣のクラスの女子が下着姿で暴行を受ける動画がLINEで回ってきた時も、誰も何も言わなかった。おそらく手を下したのは新垣で、撮影者は長田だ。その女子は長田より成績が優秀だったのに現在も不登校を続けている。僕らは長田の機嫌を損ねたら自分も同じような目に遭うんじゃないかと思っていた。廊下や教室ですれ違う時には目を伏せて静かに道を開けた。何かの理由で絡まれた時には天災が過ぎるのを待つみたいにじっと耐えた。長田の事件現場の前を通っても花束一つ見当たらないのは、みんなが彼を嫌っていたせいだろう。
 新垣が殺されたのは長田が死んで四ヶ月くらい経った冬のことだった。またしても自転車に乗った黒ずくめの男が目撃された。犯人は深夜一人で道を歩いていた新垣に自転車で近づき、手術用のメスのような刃物で頸動脈に的確な一撃を加えて走り去った、というのが警察の見立てだった。自転車の男のその後の足取りは今回もつかめなかった。
 春休みに入り、僕は深夜過ぎまで二つの事件現場の周辺を歩いて回るようになった。両親には南十字星の観測をしていると嘘をついた。本当の目的はもちろん自転車の男を見つけることだ。長田や新垣は殺されて当然のクズだった。二人に対して何もできずに我慢するだけだった僕らに代わり、自転車の男は自らの手で連中を排除したのだ。男のおかげで学校には平和が戻り、僕らは心が軽くなったような気持ちで毎日を過ごせるようになった。僕は男に対して感謝の気持ちを伝えたいわけではない。ただ誰にも実行する勇気のなかった正義をその手で成し遂げた男がどんな顔をしているのか、一目見ておきたかった。見つけられる自信は全然ないが、体が疼き、どこかへ足を向けずにはいられなかった。
 何日か不毛な夜を過ごした後のことだった。川べりの道を歩いていた時、ヒュンヒュンと風を切る音が背後から聞こえてきた。自転車の車輪が回転する音だ。振り返ると、自転車に乗ってこちらにやって来る黒ずくめの男の姿があった。あの男に違いなかった。僕は隠れる間もなくその場に立ち尽くした。男の顔が星明かりに照らし出され、僕は息を呑んだ。
 男の顔面からは眼球が二つともえぐり取られていた。青白い顔には乾いた血が幾筋もの涙の痕のようにこびりついている。眼球が収まるべき場所にぽっかりと開いた二つの眼窩の闇が、僕を丸呑みするかのようにまっすぐこちらに向かってきた。冷たい金属が喉元を滑る瞬間も僕は身動き一つ取れなかった。血しぶきの温もりを肌に感じるや否や、急に全身の力が抜けて僕は路上に倒れた。
 通り魔事件は今後も続くだろう。盲目の悪意は正義も復讐も知らず、ひたすら次の獲物を探して走り続ける。僕は暴力の傍観者として罰を受けたわけですらない。たまたま理性なき刃物の先にあったのが僕の喉だったというだけだ。もはや映像を認識できなくなった僕の目は、道の先に消えていく自転車の後背にいつまでも視線を投げかけていた。


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