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つつい つつさん

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PERFECT WOMAN

17/02/23 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:828

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 一ノ瀬麗(うらら)は、完璧な女性である。であるからして、彼女は誰よりも綺麗で、誰よりも優秀でなければならない。
 今日も彼女は幼稚園のお歌の時間に、Twinkle,Twinkle,Little Starと、ネイティブで美しい歌声を披露し、注目を集めた。友達のみんなは、こぞって「麗ちゃん歌手みたい」、「麗ちゃんすごい上手」、「麗ちゃん、英語も出来るんだ」と、はやしたてた。
 しかし、彼女はハーフでも、クウォーターでもないし、身内に英語を出来る人もいないし、英語を習っているわけでもない。だけど、彼女は自分の立場を理解している。次のお歌の時間が英語の歌だとわかった日から彼女はみんなのお手本となるべくパパに頼んで原曲をユーチューブで何十回、何百回と再生し、必死で英語を覚えた。はたからみれば彼女の立ち振る舞いは常に優美で優雅で才能に満ち溢れ、努力などという言葉とは全く無縁に思えるが、彼女は自分に与えられた立場に必要な努力を一切惜しまないし、それを苦痛などと考えたこともない。そう、彼女は誰もが憧れる存在であるため、いつも誰よりも一歩先に進んでいなければならないのだ。
 そんな彼女を今、悩ませているのが自転車だ。補助輪を付けてならとうに自転車を乗りこなしている彼女だが、ひまわり組の隆史君が、最近補助輪を外して練習しているという噂を耳にしてしまった。女性とはいえ、彼女はこれまでも一輪車に、なわとび、さかあがりと、常に誰よりも先に成功してきたという実績と自負がある。しかし、このままでは幼稚園で誰よりも先に補助輪なしで自転車に乗るという栄光は隆史君に奪われてしまいそうだった。
 夕食も既に食べ終わり、あとはお風呂にでも入って寝る時間であるはずの夜八時、彼女はパパの車で家から少し離れた公園に行った。そこで、自転車の練習をするのだ。
 頭にはヘルメット、両肘、両膝にはプロテクターを付け、準備万端で彼女は自転車に乗る。パパに自転車の後ろを両手で支えてもらい、一、二メートルよろよろと進む。これは、これまでにも何回も練習してきたので、流石に慣れてきた。そこで、彼女は少し進んだところで、パパに両手を離してもらうことにした。
 後ろを支えてもらい、少し進んだところでパパが両手を離すと、それでも彼女は踏ん張りながら二、三メートルは進んだ。しかし、そこでバランスを崩した彼女は大きく横に倒れた。ガシャーンと大きい音がすると、慌ててパパが真っ青な顔をして駆けつけた。
「麗、大丈夫か? ケガしてないか? 病院いこうか?」
 おおげさなパパを片手で制し、彼女は何事もなかったかのように自ら自転車を起こす。そして、新たな覚悟を目に宿し、パパに「もう一回」とつぶやく。
 続けざまに三回倒れたところで流石に彼女の心も折れそうになった。プロテクターのおかげで目立ったケガはないが、肘と膝に痛みがジンジンと走る。目の奥がじんわりして、涙が溢れそうだった。
 一ノ瀬麗の涙は武器である。ひとたび彼女がこの涙を見せれば、パパはすぐさま何でも言うことを聞いてくれる。かわいい洋服でもおもちゃでも、大好きなケーキだって何でも用意してくれる。それに、パパだけじゃない。幼稚園の先生だって、周りにいる大人だって、幼稚園のお友達だって彼女が涙を浮かべれば心配してすぐに駆け寄って来てくれる。そして、怖い犬がいれば、前に出てかばってくれるし、幼稚園のお菓子を落とそうものなら、みんな自分の分を差し出してくれる。彼女の涙はどんな問題も解決してくれる優秀なアイテムであったが、今、それは必要ではなかった。
 彼女は涙をこらえて練習を続けた。泣いていても自転車に乗れるようになるわけではない。うまくいかないからといって泣いて済ますのは彼女の流儀ではなかった。
 やわらかな光が降り注ぐ朝、今日も続々とママやパパに付き添われたお友達が幼稚園に登園していく。みんなが顔を合わせ口々に「おはよう」と朝の挨拶をしている中、一ノ瀬麗が颯爽とひとり自転車に乗り登場した。
「えー、麗ちゃん、自転車乗ってる」
「すごい、麗ちゃん、かっこいい」
 驚いた幼稚園のお友達は、一瞬で彼女を取り囲む。
「先に行っちゃだめでしょ」と、息を切らしながら一ノ瀬麗のママが遅れて自転車でやってきた。
「麗がどうしても自転車で来たいって言うものですから」と、ママが幼稚園の先生に謝る間も彼女はまるで新車の発表会のように優雅に幼稚園のグランドを自転車で周り、みんなに腕前を披露していた。
 一ノ瀬麗は完璧な女性である。彼女は今日もそれを自ら証明し、生きている。そして、それは明日も、あさっても、これから先もずっと彼女が生きる限り、彼女が彼女である限り続くのである。


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このストーリーに関するコメント

17/02/24 まー

末恐ろしい女の子ですね(笑)。(芦田愛菜ちゃんみたいな子だろうか......)
面白い作品をありがとうございました。

17/02/25 つつい つつ

まー様、感想ありがとうございます。
このままどんどん、自分の道を突き進みそうな気がします(笑)
純粋に可愛くて面白い作品を書きたかったので、楽しんでもらって嬉しいです。

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