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泉 鳴巳さん

泉 鳴巳(いずみ なるみ)と申します。 煙と珈琲とすこしふしぎな方のSFが好きです。文章を書くことが好きです。短編が好きです。 まだまだ拙いですが皆様の作品を拝読して勉強させて頂きたいと思います。宜しくお願い申し上げます。 HP:http://izmnrm.wpblog.jp/ Twitter:@Narumiluminous

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将来の夢 不労不仕
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顔喰い(フェイス・イーター)

17/02/23 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:1712

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 雲の多い晩だった。
 草木も息を潜める深夜、郊外のガソリンスタンドでのことだ。併設された二十四時間営業の売店で、店員の若い女が一人、大きな欠伸をした。
 調子の良い店長は「忘れ物を取ってくる」と行ったきり戻ってこない。どうせまた自宅で寝ているのだろう、と半ば諦めている女は、これから朝までどうやって暇を潰すか考えていた。カウンターの隅には飴やガムの包み紙が散乱し、女の口は絶えずもごもごと動いていた。
 その時、店のガラス越しに射した光が、頬杖をついていた女の顔を照らした。続いて低いエンジン音が届く。
 そして間もなく、大型のバンがガソリンスタンドへ入ってきた。こんな時間に来客である。暇を持て余していた女は、これ幸いと視線を向けた。
 降りてきたのは髭の大男だった。セルフサービスでガソリンを入れた男は、売店へ足を向けた。
 女の「っしゃせー」というやる気のない挨拶が聞こえているのかいないのか、男は脇目も振らずに棚を巡っていく。そしてすぐにレジへやってきた。
 男が差し出したのは、煙草とビール、そして梱包用の紐。
 紐? 首を傾げながらも女がバーコードを読み取っていると、頭上から声が響いた。
「なあネエちゃん、顔喰い(フェイス・イーター)≠チて聞いたことあるか?」
 見かけに反して気さくな口調だった。首を振る女に、最近流行ってる噂なんだけどよ、と男は切り出す。
 それは最近このあたりで囁かれているものらしい。噂に留まらず、実際に被害者も出ているという。
「イカれた殺人鬼らしいぜ。なんでも人間の顔を喰うとか」
 哀れな被害者たちは既に両手の指を超え、足の指まで駆り出す数となっていた。見つかった遺体は、まるでハロウィンのかぼちゃみたいに顔がくり抜かれていたという。
 男は「怖えよな」と黄色い歯を見せて笑った。
「だが、そいつを見分ける方法があるらしいんだ」
 女は黙ったまま顎を小さく上げ、先を促す。
「一つ目。そいつは日付が変わってから夜明けまでの間に現れること」
 バーコードを読み終えた女は、商品を紙袋に突っ込んで男に渡す。
「ニつ目は、若い女しか狙わないらしい。ネエちゃんも気をつけなきゃなあ?」
 芝居がかった調子で袋を受け取った男は、懐に手を入れがさごぞやっていた。
「そして三つ目。そいつは作業≠ナイフ一本でやってのけるらしいぜ」
 男が取り出したのは――財布や小銭ではなく――刃渡り十インチはあろうかというサバイバルナイフだった。
「だが今日の俺は寛大だ。大人しく車に乗ってくれりゃ命と……おっとそうだ。顔までは取らねえからよ」
 右手にナイフ、左手に梱包紐を持ち、下卑た笑みを浮かべながらじりじりと近付いてくる男を前に、女の表情は夜のように冷めきっていた。
 太い腕が届く寸前、女は口に入れていたものを男に向かって吐き出した。
 ぽとり、と床に落ちたものを見て、男の表情が凍りついた。
 照明を反射しぬらぬらと光るそれは――人間の鼻だった。
「な、ん」
 言葉が出ない男を前に、女はカウンターの下に手を遣った。
「アタシは別に、おじさんでも構わないけど」
 取り出したのは、ハンティングナイフ。獣皮を切り裂き、骨や関節にも刃毀れしない、狩猟と解体に特化した凶器。
「流石にわざわざ顔をくり抜いたりはしないわよ」
 言葉と同時に、ナイフが男の顎から脳天まで刺し貫いた。
 郊外のガソリンスタンドに野太い絶叫が響き渡り、すぐに静かになった。こんな田舎では誰の耳にも届かなかっただろう。
「やれやれ」
 潮時かな、と女は思った。
 動物に発情期があるように、女の中では人を殺害したい欲求が定期的に湧き上がった。女はどこか一箇所に定住することなく、地方を転々と移り住んだ。そして、欲求が湧き上がる度に人を殺していた。
 しかしまさか顔喰いなんて名が付いているとは。自分も随分有名になったものだ、と女は自嘲する。
 女は動かなくなった大男の耳を器用に切り取り、その口へ放り込んだ。そしてバンの中に大男以外の乗員がいないことを確認すると、女は荷物をまとめ、夜の田舎道へ歩き出した。

 いやに静かな夜だった。女が耳を咀嚼するくちゃくちゃという音だけが響く。
 次はどこの町へ行こうか、人の多い都会の方がかえって長く居られるかも知れない。
 そんなことを考えながら歩いていた女の視界が突如、暗転した。月明かりが雲に遮られたようだ。
 溜息を吐き、目を凝らして歩く女を、黒い影が遮った。
「なん」
 だアンタは、と続けようとした言葉が、女の口に差し込まれた刃で遮られる。
 明かりの無い世界で、白銀の刃だけがぎらぎらと鈍く光っていた。

 雲間から月が覗いた時、もう動くものは何もなかった。
 顔を失くした女が、青白い月を見上げながら静かに横たわっているだけだった。



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このストーリーに関するコメント

17/02/24 あずみの白馬

拝読させていただきました。
日常、でもどこかおかしい風景からの急展開、そしてまさかの二段オチが怖かったです。
本当の都市伝説になりそうな気さえする、良作だと思います。

17/03/29 光石七

拝読しました。
最初は客の男に恐怖を感じていたのが女の恐ろしさに驚き、さらにラストで……。展開が見事で、終始怖かったです。段階ごとに怖さの質が異なるのが、またいいですね。
とても面白かったです!

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