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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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春の訪れ、飛び跳ねるミカン達

17/02/21 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 霜月秋介 閲覧数:714

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 日曜の朝。部屋の窓を覆うカーテンの隙間から、温かい日差しが差し込んでいる。私は伸びをしながらカーテンを開けた。するとまぶしい光が私を照らした。窓の外には、雲ひとつない青空が広がっていた。地面を覆っていた雪はすっかり解け、庭のあちことにはフキノトウが咲いている。春だ。寒い冬が終わり、暖かい春が今年も訪れたのだ。心が躍る。こんな日に、家に引きこもっているのは勿体無い。
「ミカコ!朝食できてるわよ!そろそろ起きなさぁい!」
 部屋の外から母の叫び声が聞こえた。私は返事をして、部屋をでた。

 私は朝食を食べ終えると、台所にあるミカンを数個ナイロン袋に入れて持ち、外に出た。
 車庫から、埃がかぶった自転車を引っ張ってきて、雑巾で綺麗に拭いた。拭き終わると自転車のタイヤに空気を入れ、自転車のかごにミカンを入れた。
 自転車のかごにミカンを入れて走ると、かごの中でミカンが弾んで、甘くなるそうだ。小学校の頃に観ていたテレビ番組で得た知識だ。それを知って以来、毎年雪が解けると、自転車の試運転のついでに自転車のかごにミカンを入れて走るようになった。

 春の暖かな風を体に受ける。心地がいい。春の訪れを喜んでいるかのように、かごの中でミカンたちが飛び跳ねている。私は自転車のベルをリズミカルに鳴らしながらペダルを漕いだ。いつも私は、家から五キロほど離れた公園まで行き、公園のベンチに座って、甘くなったミカンを頬張る。毎年それが楽しみだった。

「あっ!!」

 それは、勾配が急な坂道を下った後の出来事だった。坂道を下った直後、はずみでミカンがかごから飛び出した。それに気をとられ、私は思わずブレーキを強く握った。悲鳴のように鳴り響くブレーキ音。その反動で、その場に激しく、自転車ごと転んでしまった。
 目の前の世界が突然、九十度傾いた。右頬と右腕を地面に強く打った。じわりと激痛が走る。自転車のタイヤは、むなしくカラカラと空回りしていた。かごの中にあったミカンたちは、転んだ拍子にかごから全部飛び出して地面に転がっていた。
 すると、そんな私をあざ笑うかのように、猿が数匹、私のミカン達にのしのしと近寄ってきた。
「やめろ!私のミカン達に触るんじゃない!あっちいけ!しっしっ!」
 私の必死の叫びを無視するかのように、猿達はミカンの皮を剥いて、むしゃむしゃと中の実を頬張った。猿達は嬉しそうに、その場を去っていった。きっと甘くて美味しいミカンだったのだろう。ミカンはひとつ残らず食べられていた。私の目に、熱いものがこみ上げてきた。

 それ以来、私は自転車のかごにミカンを入れて走るのをやめた。そして春の訪れに、心が躍るようなこともなくなった。体に走った激痛と、猿がみかんを頬張るあの憎ったらしい、勝ち誇った顔が、毎年春が訪れるたびに頭をよぎるのだ。ふきのとうが咲いているのを見るたびに、埃がかぶった自転車を雑巾で拭くたびに…。


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