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akotさん

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あの人へ

12/11/10 コンテスト(テーマ):第十八回 時空モノガタリ文学賞【 コーヒー 】 コメント:0件 akot 閲覧数:1362

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 彼はコーヒーがとてもよく似合う人です。朝、わたしは彼がコーヒーを飲む姿をいつも見ています。短く刈り込んだ髪に黒縁のメガネと、少し日に焼けた肌と白いシャツ。薬指には綺麗な指輪も。彼の性格と、その薬指でらんらんと輝いているそれも、彼が私のものにならないということを物語っていました。それでも、私は彼を愛してしまったのです。仕方ありません。
 いつもの時間になると彼は仕事に出かけます。ほら、ネクタイ少し曲がってる、あ、今日は早く帰るの?彼は無言のままネクタイを直し、こちらも見ずに「いってきます」と言います。少し・・・時が経ちすぎたのかな・・・。私は少し冷めた体を休めつつ、ただ彼を待ちます。
 彼がこの街にやってきてもう一ヶ月、最初は街の新鮮さからか、彼はとても楽しそうにしてました。新しく始まった生活、積極的な仕事仲間、自分を認めてくれる上司、そして私。なにもかもうまくいっていたのにどうしてでしょう。一週間も経てば彼の仕事は山積みになり、気付けば家族の写真を眺めるような生活となっていました。
 
 きっと疲れてしまったのでしょう。私は火照った体を彼に預けます。
 でも、それも今日でおしまい。
 
 あの夜のことはいまでも忘れません。彼は携帯を手に笑顔でしゃべっていました。
「ああ、よかったよ。うまくいったんだ・・・うん・・・明日の朝一の便で帰るよ・・・おお!けんたぁ!宿題ちゃんとやってたかぁ!?・・・はいはい、お土産ね。代わりに・・・」
 私に聞こえることなどおかまいなしに、彼は玄関口で談笑してました。私にできることなど、なにがあるのでしょう。幸せが待っている彼を、どうやって引き止めることができたでしょう。きっと私のしたことは、罪なのです。妻子のある彼を、愛してしまったこと自体が。

 彼には見つからないように涙を流し、私は頭を空にして、眠りました。

 翌朝、私の起床と同時に彼も目覚めました。いつものように彼はコーヒーを淹れ、ゆっくりとそれを飲み干します。そして誰ともなく呟いたのです。
「ここでの生活も・・・終わりなんだな・・・」
視線はしっかりと私を見つめています。私の目には見せまいとする涙が溜まってしまいました。彼は笑います。
「去るとなると寂しくなるもんだ」
おもむろに彼はわたしに口付けしました。最後の口付けです。私が呆然となっている間にも彼は身支度を済ませ、出て行こうとしました。
 
 まって・・・!

私の言葉にならない言葉が口をついて出てきてしまいました。こんなこというつもりじゃなかったのに・・・!彼は玄関から私の方を見ました。
「また来るよ」
そういい残して彼は出て行きました。
 
 あれから半年、いろいろな方とも知り合ったけれども未だに彼を忘れられません。未練がましい女なんて嫌ですよね?ごめんなさい。でも今の私は愛してしまうことへの罪も、このまま忘れ去られてしまう恐怖も捨てて、ただ待っていたいと思います。

 私はコーヒーカップ。あの口付けで飲み干された私の心は、今もあなたのなかにありますか?


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