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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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キィコキィコ

17/02/16 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:2件 デヴォン黒桃 閲覧数:996

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 幾つもの個人店が軒を連ねた町の商店街。屋根の隙間からは、お日様が光の筋を差し入れる。それでもヤハリ商店街のアーケードは、昼間でも薄暗い。
 私は、土曜のお昼過ぎに、お母さんに連れられて此処へ買い物に来る。

「あら、桜子ちゃん、コンニチハ。今日もお母さんとお買い物ね」
 同じクラスの千鶴ちゃんのお母さんが、私に微笑みかける。
 千鶴ちゃんは、赤いスカートを揺らし、風が起こりそうな勢いでブンブンと手を振る。
「桜子ちゃん、駄菓子屋さんに行こうよ」
 繋いだお母さんの手を解きながら云う千鶴ちゃん。
「うん、行こう」
 私もシッカリと繋いでいるお母さんの手を解いた。
「お母さん、五十円チョウダイ?」
 お母さんは笑顔で財布を開く。
「あら、ゴメンね。今……小銭は三十円だけね」
 チャラ、と私の手に握らせてくれた。お母さんの手は、今日も柔らかくて温かい。 
「ありがと。じゃあチョット行ってくるね。行こう、千鶴ちゃん」
「行こ、桜子ちゃん」
「ウフフ、何買おうかなぁ」
 千鶴ちゃんは楽しそうにスキップしていく。

 キィコ……キィコ……
 錆びたチェーンが軋む音が聞こえてきた。塗装は剥がれ、錆びて赤茶けた自転車を漕いでいるおじさん。首元の伸び切ったシャツに、ポケットが裏返ったズボンを履いている。
「……お嬢ちゃん達、お買い物かい?」
 プゥン、と鼻を突き刺すような酸っぱい臭いがする。
「う、うん……駄菓子屋さんに……」
 私が答えようとするのを、千鶴ちゃんが口を塞いで止める。
「ダメだよ、このおじさんと話しちゃダメなんだよ? お母さんが云ってたもん」
 ソノ言葉が聞こえているのかいないのか、無表情のおじさんは自転車にまたがった侭コチラをジィっと見ている。
「はやく行こ」
 千鶴ちゃんに手を引かれ、おじさんが遠目になる頃、ヤット鼻を突き刺す酸っぱい臭いが消えていった。 

 カラカラカラ……
 アルミのドアを滑らせると、ソコは夢の国。ラムネにチョコレート。吊り下げられたシール達はドレも可愛くて目移りする。
 棚には、可愛いお花の髪留め。動物のキーホルダー。
「あっ、コレ可愛い。コレお揃いで買おうよ」
 千鶴ちゃんが、動物のキーホルダーを手に取る。
「いいね、可愛い」
「ウフフ、じゃ、犬のやつにしよう。おばちゃん、コレ二つチョウダイ」
 おばちゃんが顔を上げる。
「一個が五十円で、二つで百円だよ」
 ポケットから五十円玉を取り出し渡す千鶴ちゃん。私は……
「あ、三十円しかないや……私やめる」
「え、お揃いにしようよ、二十円あげるからさ」
 千鶴ちゃんは二十円くれるって云うけど……お母さんに怒られちゃうかも……
「ううん、私はコッチのラムネにするよ」
「そっか、じゃまた今度ね……」 
 可愛い犬のキーホルダーを、ポシェットに付けた千鶴ちゃん。

「あ、お母さん」
 駄菓子屋を出ると、お母さんが迎えに来てくれていた。ラムネを幾つかあげようとフタを開けると、ひっくり返して仕舞って半分程こぼしてしまった。
「せっかくお母さんにあげようと思ったのに……」
 残念がる私の頭を優しく撫でてくれた。お母さんの手は、ヤッパリ柔らかくて温かい。
「じゃ、私行くね」
 千鶴ちゃんは犬のキーホルダーを揺らしながら、商店街の奥へ走っていった。

 夜、千鶴ちゃんのお母さんから電話があった。駄菓子屋の前で別れた後、居なくなったらしい。それからスグに、窓の外に赤いランプがチカチカと光った。商店街の入口に、数台のパトカーが停まっている。
「千鶴ちゃん、どこ行ったのかなあ……」

 其れから一週間経っても、千鶴ちゃんは見つからなかった。
 私はまた、土曜のお昼過ぎ、お母さんと商店街へ来ていた。
「お母さん、駄菓子屋さんに行こうよ」
 お母さんは、一人では行かせられないから、買い物が終わったらねと云った。八百屋さんに寄ると、千鶴ちゃんが居なくなったことを話していた。店の奥で話し込むお母さんに、チョット待ってなさい、と云われて八百屋さんの店先で商店街をボゥっと眺めていた。

 キィコ……キィコ……
 錆びたチェーンが軋む音が聞こえてきた。塗装は剥がれ、錆びて赤茶けた自転車を漕いでいるおじさんが、今日も居た。
「……お嬢ちゃん、お買い物かい?」
 千鶴ちゃんから、話しちゃダメだよって云われてたけど……
「今日は……お母さんと一緒にお買い物です……」
「そうかい……お嬢ちゃんは、おじさんと話してくれるから優しいね……」
 今日もおじさんは、鼻を突き刺すような酸っぱい臭いを振り撒き、いつもの首元の伸び切ったシャツに、ポケットが裏返ったズボンを履いていた……

 ただ一つ違ったのは、錆びた自転車のカゴに、千鶴ちゃんのと同じ、犬の可愛いキーホルダーが揺れていた。


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このストーリーに関するコメント

17/02/18 クナリ

なんだかもう、お母さんや千鶴ちゃんも含め、筆で描かれたようなグロめの漫画の絵柄で、光景が脳内再生されました。
おじさんの愛想のよさが、また怖いですね…。

17/02/18 デヴォン黒桃

クナリ様
ありがとう御座います。
いつかこの続編を書いて、千鶴ちゃんの行方を探したいと思っております。
二千字ではそこまで書けませんでした。なので何処かで広げていきたいなと。

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