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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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深夜タクシー

17/02/14 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1036

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遠くからまちわびていた車のライトがちかづいてきた。
真矢は必死に手をふりあげた。こんな深夜、国道とはいえ通りかかるタクシーはめったにない。
車の上に光る社名表示灯から、まちがいなくそれがタクシーだとわかると彼女は、こんどはちぎれんばかりに腕をふりつづけた。
運転手がじぶんを認めたことが、車が急に速度をゆるめたことで理解できた。
案の定、タクシーはこちらにむかってまっしぐらに接近してきた。
真矢は、歩道間際にタクシーが停車するのをまった。自動ドアが開いた時には、思わずその顔から安堵の笑みがもれた。
「すいません、丘の上町までおねがいできますか」
「承知しました。ありがとうございます」
運転手の礼儀正しい口調に、真矢はまたほっと胸をなでおろした。こんな時刻、しかも女ひとり、足元みられて横柄な態度をとられてもおかしくはない状況だった。
彼女が座席に座りこむのを待って、ドアはしまり、車は再びはしりだした。
しばらくのあいだ、車内に沈黙が支配した。こんなときは、最初から世間話でもなんでもいいからぺらぺら喋ってくれる話し好きの運転手のほうがたすかるのだが。以前雑誌かなにかで、いつまでもむっつり黙り込んでいる乗客は何を考えているのかわからないので応対に苦労するという、タクシー運転手の本音を読んだことがある真矢は、こちらから話しかける機会をうかがっていた。
ちらちらとバックミラーをのぞきこむ、運転手の目が映った。なんどか、鏡の中のその目と視線があって、どきまぎする彼女だった。
すると彼が、ふいにこんなことをいいだした。
「すみませんね、なんども後ろを確認したりして」
「あ、いえ。そんなこと………」
真矢にしてみれば、会話の糸口がつかめて、むしろありがたいぐらいだった。
「あの、ご存じでしょうか」
好奇心をあおるような口ぶりに、つい真矢のほうも身をのりだして、
「なんですの」
「最近このあたりで、タクシーの乗客が忽然と消えてなくなるといううわさがあるのを」
「ああ、なんか、どこかできいたことあります。まさかこのタクシーのことじゃないでしょうね」
「幸か不幸か、私のタクシーでは、まだです。タクシー仲間の何人かが、体験しているそうなんですよ」
「忽然って、どういうふうに消えたのですか」
「それまでは運転者とお客のあいだで、気さくに喋っていたらしいのです。ちょうどいまの私とお客さんのようにね。そして目的地に到着して、車を停止させてから運転手が後ろをみたときには、座席にはもう誰もいなかったとか」彼はそして、ことさらこの話に神秘性をもたせるつもりか、「ああ、そうそう、車をとめた歩道の反対側には、お地蔵さんの祠があったそうです」
「へえ………」
「この界隈では、わりと有名な話ですよ」
またバックミラーのなかの目と、視線があった。
「大丈夫ですって。あたしは消えたりなんかしませんから」
「いえね、みんなの話にでてくる女性というのが、あなたにそっくりなんですよ。若くて、お美しい女性で」
ひょっとして彼、都市伝説にかこつけて、口説こうとしているのではという疑念が、ちらと真矢の胸にはしった。しかし笑いながら、
「運転手さん、そんな後ろばっかりみて、運転には気をつけてくださいね」
ミラーの中の目が笑った。
タクシーはそれからも、道路照明灯のオレンジの光に淡くてらしだされた路面を、はしりつづけた。二人の話もとぎれ、真矢は車窓から、たまにすれちがう車をなにげなく見送っていた。そのなかには客をのせていないタクシーもあって、いま彼からきいたばかりの話を、そのタクシーと重ね合わせたりしてみた。
「そこの信号を右に折れて、坂を少しあがったところです」
いわれたとおりタクシーは点滅を繰り返している信号を右折すると、なだらかな坂を、ゆるゆるとあがりはじめた。
「そこでいいです。どうもありがとう。楽しかったですわ。―――あのう、その消えた女性っての、ちゃんと乗車賃は払ったのですか」
「きちんと払ってから、消えるとはおもえませんね」
「じゃ、それ、体のいいただ乗りじゃないのかしら」
「ははは」
二人の笑い声が車内にひびきわたった。
生垣の前に、タクシーはとまった。真矢の席の側の扉が静かに開いて、夜気とともに流れこんできたカイズカイブキの香りが彼女の鼻を刺激した。
「おいくらですか」
バッグから財布をとりだしながら、真矢はたずねた。いつまでたっても、返事がない。真矢は運転席に顔をあげた。そこには誰もいなかった。
「あれ、運転手さん」
おりたのかしらと、車の左右をみまわしたが、それらしき人影もない。
首を傾げながら真矢は車からでた。生垣の下につくられた小さな祠のなかから、くろぐろとした石地蔵がこちらをのぞいていた。





















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このストーリーに関するコメント

17/02/18 クナリ

一瞬で幕がおろされるようなエンディングが何とも言えませんね!
血も絶叫も出ないし、モンスターなども出てこないのに、立派なホラーですね。

17/02/18 W・アーム・スープレックス

同テーマで前回、書いたときはいまひとつ『都市伝説』の意味がわかっていなかったのですが、なんですか、根拠の不明な噂話ということらしく、それで今回はわりとじぶんらしく書くことができました。

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