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ちほさん

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性別 女性
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妹は、口裂け女か???

17/02/13 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:701

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  1979年 春〜初夏〜?
日本全国、何処にでも口裂け女がいた。
赤い服を着て、大きなマスクをつけて「わたし、綺麗?」と聞いてくる。
その時は「わからない」と答えること。
それ以外の答えでは殺されてしまう。
マスクの下には、耳まで裂けた口があるという。

  大学のレポートを書き上げて、僕は東海道新幹線に乗った。東京から名古屋までの約2時間の旅。今朝まで書いていたレポートの内容が、頭の中をぐるぐる回る。テーマは『都市伝説』。いま日本の少年少女たちを騒然とさせている『口裂け女』のことを書いてみたのだが、よくよく考えてみると、なぜ美大にそんな知識が必要なのだかわからない。完全に教授の趣味だと思われる。
 今一つ、妹の桜子のことが気になっていた。5日後に嫁入りする。今回は、結婚式に出席のための帰郷である。彼女とは、6年ぶりの再会。6年前は、まだ彼女はおさげの中学生だった。それが嫁入り。あのお転婆がねぇ、と信じられないような思いである。「あの悪戯な性格で、よくもらってくれる男がいたものだ」と、父は喜んで娘を手放すことにした。もし、ここで手放さなかったら……悪戯心満載で、この先も実家を振り回し続けることだろう。本人は愉快だろうが、周りは疲れるのだ。妹の桜子の結婚は、身内にとって長年の悲願だった。

  実家の桐生家に到着したのは、夜の11時だった。
「キヤさん、サクラが応接間で、ずっと待っているわよ」
 母の言葉に、僕はすぐ2階へ向かうことにした。
 うちの家族は、僕を「キヤさん」と呼ぶ。「貴也」を「キヤ」と呼び始めたのは、桜子だ。ちなみに桜子のことは、みんな愛情をこめて「サクラ」と呼ぶ。

 2階の応接間の窓際に、すらりとした細身の女性がこちらに背を向けて立っていた。窓の向こうに大きな満月が見え、月光の明るさだけで応接間は照らされていた。異様だったのは、その女性が身に着けている振袖。血のように真っ赤なのだ。月光の怪しげな光の中では、たいそう不気味である。彼女は、耳たぶの位置で切りそろえられている黒髪をふわりと揺らして、こちらにくるりと身体を向けた。大きな赤い袖で顔の下半分を隠している。僕は、ゾッとして全身が凍りついた。
「わたし、綺麗?」
 彼女は妖艶な声で、今の僕にとってあまりにも怖いことを聞いてくる。
「わたし……」
「あぁ、綺麗だ」
 しまった! 思わず答えてしまった! 「わからない」と答えなければいけなかったのに! 月光の悪戯だろうか。彼女の目は、硝子玉のように澄んでいる。6年前は、こんな妖艶な姿など想像もできないほど子どもだったのに。正直、あまりに様子が違うので惑わされたが、間違いなく彼女は妹の桜子だ。ゆっくりと焦らすように袖を下ろしていく。もしかして、と思ってしまう。彼女は桜子だが、もしかして……その袖の下は……! 
「おかえりなさい、キヤさん」
 桜子は、僕の焦りなど知らないといった様子で、ゆっくりと顔の下半分を顕わにした。成長した妹の傷一つない美しい顔だった。形の良い小さな唇には、大人らしさを装う真紅の口紅。きつい目つきをして見せているが、その目の奥の光が朗らかな性格を素直に表していた。
「あぁ、うん」
 僕は、呆然としたままで返事をした。彼女は、両手で顔を覆ってくすくすと無邪気に笑い出す。昔のままの彼女である。思わず、大きな溜息をついてしまった。帰郷早々に悪戯か?
「実はね、顔の下半分をこうして隠したお写真を、あちら様にお送りしたのよ」
「お見合い写真?」
「そう。それで、どんな風に感じるものだろうかと、キヤさんの反応で推し量ろうとしたの。ごめんなさい、驚かせて。近頃は、口裂け女という方も日本全国に出没していらっしゃるのに」
「口裂け女のことをレポートで完成させたばかりなので、確かにひどく驚かせられたよ。悪戯好きは直っていないねぇ」
「お見合い写真を見て、彼は何を感じたか、まだ返答をもらっていないの。キヤさんのように『綺麗』と言ってくれれば嬉しいのだけど。……気になるわ」

 それから一週間後、大学に戻った僕に、桜子から手紙が届いた。
/彼は、お写真の『目』を見るだけで様々なわたしを感じ取ったそうです。驚かせるつもりだったわたしの悪戯な心。楽しさと優しさ、そして聡明な美しい魂。目は、心を映す鏡だそうです。見かけだけ美しいと言われるより、はるかに嬉しいです/
 
 『口裂け女』とは、存外微笑ましいエピソードから生まれたものかもしれない。
『都市伝説』は、人の心の奥深いところに巣食っている『希望』や『恐怖』を種として生まれ、人の弱さにつけこむ。時には面白い。が、時には危険である。
  ──僕は、レポートの最後にそう付け加えた。


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