1. トップページ
  2. AHOT

ケイジロウさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

AHOT

17/02/12 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:670

この作品を評価する

 若い男とのすれ違いざま、その華奢な肩が僕にぶつかって来た。僕はふりかえってその男を睨み返した。しかし、もうその男はどこにもいなかった。右から左から後ろから前からひっきりなしに流れ続けるニンゲンにその男はかき消されていた。
 誰か一人くらい知り合いがいてもよさそうだが、次から次へと迫っては離れていくニンゲンの中に僕の知り合いは一人もいなかった。いや、いたとしても、ココでは知り合いではなくなってしまう、そんな魔法のようなものがココにはあるような気がした。
 僕は壁に寄り、身を避難させると腕時計を見た。
 7:48
「京王プラザホテル東京のロビーに八時に来てくれ。絶対に遅れんでくれ」
 あと12分。取引先の重役との待ち合わせの時間まであと12分。
 僕は駅からホテルまでの行き方を記した地図を見た。しかし、ココではなんの役にも立ちそうになかったので、すぐにしまった。
 新宿駅西口から徒歩5分、だとっ!
 西口はどこだっ!
 僕はスタートラインにも立てていないことに強烈な怒りを感じた。なにに対する怒りかわからない。新宿駅を舐めていた僕自身にかもしれない。いや、新宿駅を作った人に対してかもしれない。自分本位に歩くニンゲンたちにかもしれない。
 西口西口西口……
 ココに東西南北という概念が存在するのか。ココにいるニンゲンにその情報は有益なのであろうか。僕にはわからなかった。しかし、西口がたとえ西になくても誰も困らないのは確かな事実のように思えた。
 <西口↗>と書かれた看板を頼りに僕は動いた。動くしかなかった。
 スカイラインのギアを3速に入れアクセルを強く踏み込んだが、次の瞬間、腰の曲がったおばあちゃんを前方に確認し急ブレーキをかけた。そして、エンストした。そんなことを何度も繰り返した。わきの下から汗が垂れてくるのを僕は感じた。
 ココではスカイラインよりスーパーカブなのかもしれない。僕はスカイラインを乗り捨て、スーパーカブにまたがった。スピードはでない。しかし小回りが利くので、安定した走りを見せた。
 その時だ。
 あの巨大で、いかにも不器用で、大ざっぱそうで、傲慢そうなハマーが、猛烈なスピードで僕を追い越していった。
 おじさんだった。わざとらしいメガネをかけていた。背筋のそり具合もわざとらしかった。かかとが地面に着地するときの尖がった革靴の上向き加減もわざとらしい。しかし、そのかかとからつま先への体重移動、そして、つま先から放つベクトルがまっすぐ無駄なく地面に突き刺さり、そして、体がしなやかに進行方向へ移動していた。そこには、その部分に限定して言えば、美しさがあったと言わざるをえない。
 そのハマーは<西口↗>に向かっていた。ハマーが通ったあと、一瞬だが空間ができることに僕は着目した。
 よしっ、これだっ!
 僕はスーパーカブを捨てると、ポルシェに乗り換え、そのハマーの後ろにピッタリとつけた。ギアを5速に入れ、スピードも安定しだした。
 僕は腕時計を見た。
 7:51
 間に合うかもしれない。
 僕はそのハマーおじさんのわざとらしく輝く革靴を見ながら、猛スピードで歩を進め続けた。途中、何人かのニンゲンとぶつかったような気がしたが、まったく気にならなかった。ハマーおじさんは誰ともぶつからない。ニンゲンがハマーおじさんのために道を開けているかのようにも見えた。もしくは、ハマーおじさんには、この複雑で無秩序なニンゲンの流れが正確に見えているのかもしれない。もしくは、このハマーおじさんはAIなのか。目的は?なるほど、急いでいる人のために駅が用意したのだ。このAIハマーおじさんは前方の荒れ狂うニンゲンの流れを的確に把握し、そして、何億通りの選択肢の中から、一番合理的な道を0.1秒以内に計算しているのだ。僕はそんなことを考えながら、快適なドライブを楽しんでいた。
 その時だ。
 AIハマーおじさんが、スマホ歩行している若者の肩にぶつかった。とてもわざとらしかった。そこには憎しみと主義主張が在った。駅が用意したのではなく、警察が用意したのか。
 しかし……、これはテロではないか。暴力を用いた。
 そして、僕はこのテロリストの庇護のもと、快適な暮らしを享受している。
 共謀罪、か?
 AIハマーおじさん調テロリストは、何事もなかったかのように、スピードをまた押し上げた。バンパーが少し傷ついたぐらいかのように。
 AIハマーおじさん調テロリストは改札を出た。僕も続いた。
 改札の上にあるでっかい看板が僕の目に入った。
 <新宿駅東口>
 僕は腕時計を見た。
 7:57
 僕は東から西を見た。
 とんでもない量のニンゲンが流れを止め、僕を通させないように立ちはだかっていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン