1. トップページ
  2. 夢での逢瀬

石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

投稿済みの作品

6

夢での逢瀬

12/11/09 コンテスト(テーマ):第十八回 時空モノガタリ文学賞【 コーヒー 】 コメント:1件 石蕗亮 閲覧数:1740

この作品を評価する

 女は喫茶店のカウンターで独り座っていた。
何度も時計や携帯を確認しては溜息をついていた。
頼んだ珈琲には口もつけず、いつしか冷めてしまっていた。
チリン チリリーン
お店のドアに付いているウィンドベルが鳴る度に振り返るが待人は来なかった。
昨日までは遅刻なんてなかったのに。
そう思いながら、女は不安な顔で何度も携帯の着信を確認していた。
 「よろしければ新しい珈琲を淹れ直しますが。」
マスターが笑顔で話しかけてきた。
「え、あぁ、す、すいません。」
お気を使わずにと、女は丁重に断った。
マスターに声を掛けられ、女はふいに我にかえった。
そういえば、私いつからここに居たっけ?何時間彼を待っているんだろうか?
時間の感覚が曖昧で今日の日付も思い出せずにいた。
「あのぅ、すいません。」
女はおそるおそるマスターに声を掛けた。
「はい、なんでしょう。」
マスターの声は柔らかく、柔和な表情で応えてくれた。
そして、どうぞ、と新しい珈琲を差し出してきた。
「サービスですのでお気兼ねなく。」
笑顔で新しい珈琲を出され、女は申し訳なくなり冷めた珈琲を一気に飲み干した。
「冷めたのは味気ないでしょう。」
マスターは、冷めたのは飲まなくても良かったのにという表情で苦笑いを浮かべ、女に軽く会釈をした。
 あのですね、と女はマスターに話し掛けた。
「私、ここに来てどれくらい経ちましたか分かりますか?」
少し恥ずかしげに問いかけた。
「お客様が当店にお越しになられて今日で50日目です。」
え?という意外な表情で女はマスターを見返した。
「あの、初めて来てからではなくて、今日ここに来てからの時間なんですが・・・。」
「はい、ですから50日目です。時間でいうなら1200時間に間もなく到達いたします。」
マスターは柔和な笑顔のまま答えた。
そこには悪戯や冗談といった雰囲気はなかった。
困惑している表情の女にマスターは続けて話し始めた。
「残念ながらお待ちの方はもう来られませんよ。さぁ、冷めた珈琲では何の味も刺激もなかったでしょう。新しい暖かい珈琲をお飲みください。」
訳が分からないといった顔で女はマスターに強く問いかけた。
「50日ってどういうことですか?彼が来ないってどうして分かるんですか?」
わかりませんか?思い出せませんか?と、マスターは優しく諭すように話し掛けた。
女は思い出せないことに酷く不安を感じ涙を浮かべた。
 ここは貴女の夢の奥です。とマスターは語り始めた。
「貴女は彼氏が事故で亡くなったショックから現実逃避してしまい昏睡状態になっているのです。」
「嘘!?だって昨日までは彼とここで逢っていたじゃない。」
「はい、それは確かに。」
「なんでそんな嘘を言うの!」
「残念ながら嘘ではございません。人間の深層意識とは他人と繋がっていて、そう、大陸が海の底で繋がっているようにね。ですから夢の奥に来ると他人の深層意識と逢うことができるのです。今の貴女のように。」
そう言うとマスターは煙草を銜え、よろしいですか?と女に訊ねた。
女はどうぞ、と答え「なら、どうして彼は来ないの?」と問いただした。
「残念ながら彼は昨日が49日でしたので冥府へ逝かれました。彼の生前現世への干渉は昨日までが限度だったのです。」
「そんな・・・。」
俯き項垂れる女にマスターは話しを続けた。
「現実での貴女の身体も衰弱し限界にきています。その暖かい珈琲を飲めば夢から覚めることができます。どうぞ飲んでください。」
マスターはそう言うと珈琲を促した。
しかし女は項垂れたまま反応しなかった。
やれやれ仕方が無いな、と頭を掻きながら煙草の煙を吐き出すとマスターはまた話し始めた。
「俺は彼に依頼されて貴女を現実に戻しにきた夢師です。」
そう言うと女は顔を上げて、どういうこと?といった表情でマスターを見上げた。
「彼はこのまま貴女が起きない事を心配して、夢を通じて俺に依頼してきたんですよ。」
「そうだったの。でも・・・。」
「彼氏の居ない現実に戻りたくない気持ちも判りますが、それを彼は望んでいない。」
そう言ってマスターは女に彼からの手紙を渡した。
中には女への愛情表現と自分の分まで人生を謳歌して欲しいと書かれていた。
 そうそう、もうひとつ伝言が、とマスターは話した。
「手紙に書き忘れたそうですが、この珈琲彼のお気に入りだったそうです。」
くしゃくしゃの泣き顔で珈琲の銘柄を訊ねる女に、マスターは飲めば判ると一言告げた。
 暖かい珈琲を口に含むとカフェインが味覚を刺激に香ばしいフレーバーが鼻腔を満たした。
次の瞬間、泣きながら女は目を覚ました。
枕元には「夢と深層心理の万屋 夢師」の名刺があり、裏には珈琲の銘柄が記されていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

12/11/17 石蕗亮

夢師第2弾です。
飲む、という夢には愛情問題の渇きがあるという説があります。
飲む物によって吉凶があるそうです。
彼氏の愛情の珈琲で彼女の愛が癒されたことを願います。

ログイン