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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
座右の銘 Do what you enjoy, enjoy what you do.

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さかなや書店

12/11/09 コンテスト(テーマ):【 書店 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:2674

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「いらっしゃ〜ぃ、そこのお兄さん、今日は新鮮だよ! やっと世に出たミステリー、現代夢幻物語というお魚だ! ノルウェイとはちと違う、不思議な味だよ。さあお兄さん、ワンコインで一匹どうだい?」

 たまの休日、高見沢一郎は遅めの昼食を取ろうと、アパートから一駅向こうの商店街に出掛けてきた。そしてこんな威勢のよいかけ声で、店の前に立つオカンから呼び止められた。そのお母さんは前掛けをし、鉢巻きまでしている。まったく奇妙な光景だ。
 高見沢は目を白黒させながら首を傾げる。なぜならそこは魚屋ではなく、アーケード内にある本屋さんだったのだ。
 看板を見ると、ズバリ『さかなや書店』とある。
 平置きにされた様々な文庫本や単行本、店先へとはみ出し、それらはまるで魚屋に陳列された鮮魚と変わりはない。

「うーん、なんだよ、これ」
 高見沢はこう呻きながら、しかし本性は関西系イッチョカミ、興味津々でまずは魚屋、いや本屋のお母さんに尋ねてみる。
「そのノルウェイとはちと違うって……作家は誰なの?」
 これにオカンは人懐っこい、だがかなり油っこい笑みで、高見沢ににじり寄ってくる。
「このイケメン魚を公にしたオヤジのことかい? 鮎風遊ってんだよ。鮎なのになぜか深海に住むナルシストなんだよね」
「ほっほー、そうなの? 初めて聞く名前だね。で、ホントにちと違う味なの?」
 高見沢はまじめに問い返した。
 これに対し、間髪入れずにオカンは「もち極上美味だわよ。あんちゃんのエントロピー高の脳内で、煮ても善し、焼いても善し、それに電車の中でも気兼ねなく味わうこともできるからね、どうだい?」と迫ってくる。高見沢はここまで求められるともう買わざるを得ない。五百円玉をお母さんに手渡した。だが、オカンは止まらない。
「お兄さん、あんたは満身創痍の単身赴任だろ。秋の夜は長くってね、愛人でもいりゃ、他に楽しみ方もあるもんだけど……、寂しそうだから、ちと美味しいオトト見つくろってやろうか?」
 ここまで親身になってくれると、高見沢はもう断れない。「ああ、そうして」と首を縦に振った。

「そうだね、お兄さん、賑やかしに、この煌びやかな熱帯魚たちはどうだい?」
 お母さんは並べてあるグラビアギャル写真集を手に取り、高見沢に見せ付けた。高見沢は目が一瞬くらっと眩んだが、「お母さん、熱帯魚って眺めるだけじゃん。僕ちゃんは……もっと腹の足しになるのが好みなんだけどね」と切り返した。
 するとどうだろうか、オカンは高見沢を真正面に見据えてきた。
「じゃあ、昔食べたお魚で、熟年になって食べ直したら、また違った味がするかもよ。そうそう、ちと骨っぽいけど、芥川で獲れた……蜘蛛の糸……なんかはどうだい?」
 高見沢はこのタイトルで心の奥底にある的を射られた。そして絶句。高校時代へとフラッシュバックし、とにかくこのお薦めに嬉しくなる。
「ピッタシカンカンだよ。俺、そんな魚をもう一回味わい直したいんだよなあ」
 こう呟いた。だが止せばよいのに、さらに調子に乗って物申してしまう。
「お母さん、いいね。だけど俺、欲を言えば、その骨プラス、もうちょっと絶滅危惧種ぽくって、ドキドキハラハラして……、要は洋物の、哀愁もあるオトトがもっといいのだけど」
「お兄さん、また難しいことをおっしゃいまして。絶滅危惧種ぽくって洋物……、古代魚シーラカンスの土佐日記では和物だしね。そうそう、あったよ、お探しの最高の洋物傑作魚が」
「えっ、それって……人魚?」
「バーカ! 人魚は人類だよ」と訳のわからないことを口にして、後は自信たっぷりに、オカンは言い切った。
「マダー・オン・ザ・オリエント・エクスプレス(Murder on the Orient Express)だよ」
 これを耳にした高見沢、鱗から目が、いや目から鱗がポロポロとこぼれ落ちた。
「うーん、なるほど、オリエント急行の殺人か。確かにもう一度読み直したいなあ」と得心し、後の言葉が出てこなかったのだ。

 高見沢は『さかなや書店』のオカンとしばらくこのような会話を繰り返した。その挙げ句、薦められるままに四、五匹の魚、いや四、五冊の書籍を購入してしまった。
 この出費に別段不満はない。むしろ探し求めていた宝物を手に入れたかのような思いがする。

 今、高見沢はそれらを大事そうに小脇に抱え、食堂へとアーケード内をヨロヨロと這うように向かっている。
 そしてその姿は、誰も見たことはないが、まるで『本の虫』に変身したかのようだった。


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このストーリーに関するコメント

12/11/09 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

書店をまったく新しい切り口で料理していますね。
書店と魚屋のコラボはさすがに誰も思い付かないような想像外でした。

ついでに自作のPRとは、鮎風さん、さすがです(笑)

12/11/09 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

へへへ、そうなんですよ。

ちょっと掟破りで、鮎登場ですわ。

12/11/09 草愛やし美

鮎風 遊さん、拝読しました。
うまいですね、出版された本の宣伝。
すごく面白い設定の書店ですね。こんな活きのいい本屋さんがあったら、きっとみんな本を買うでしょうね、まあ、買うというより、買わされてしまうんでしょうけど、でも楽しいなって思いますよ。

12/11/11 鮎風 遊

草藍さん

こんな本屋、そちらの町にありませんか?
その内にできますよ。

買わされまっせ。

12/11/13 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

いつまでもイキが良くて、腐らない、そんな本を書いてみたいものです!
本と読むということは、食べることに似ていますね。
消化されて、いつか自分の血、肉を作るのかな、と思います。

12/11/21 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

そうですね。

活きの良い物語、頑張りましょう。

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