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つつい つつさん

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バトン

17/02/10 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:769

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 雑多なビル街をさっきコインランドリーで洗った洗濯物を入れたコンビニのビニール袋を持ってうろつく。ここは夜はネオンの光で煌々と照らされ艶やかな街だが、昼間は人も少なく、薄汚いだけだ。夕方までは誰も来ない八階建ての汚いビルの屋上に勝手に洗濯物を干す。この前道で拾ってきた革張りのイスに座り缶ビールを飲みながら昼寝をする。死ぬときは洗濯物と一緒に自分の首でも吊ってやろうか、なんてぼんやりと考える。
 半年前に仕事をクビになり、なんとなく東京に流れ着いた俺は特にすることもなく毎日をぶらぶらしている。クビといっても突然のことではなかった。生産拠点を海外に移すため工場が閉鎖されるのは何ヶ月も前から決まっていて、他の奴は前もって次の派遣先を探してもらっていた。ただ、俺はすぐに次を探す気にならなかった。高校を出たあと職を転々として十年、あの工場に勤めてからは無難だった。月に一回はみんな集まって飲みにいっていたし、仕事も順調にこなしていたから正社員じゃなくても不満はなかった。ただ、あっけなく工場がなくなってしまうと、この先どうしていいのかわからなくなった。
 最初、この街に辿り着いた頃はおどおどして通りを歩くたびに客引きに声をかけられ店に連れていかれそうになった。行き交う人々は皆、強烈なクセがあり、みんなまともな人間じゃないような気がした。自分みたいな田舎ものはすぐカモにされて身ぐるみはがされるんじゃないかっていつも警戒していた。でも、半年もここをうろついていると、自分も廃れてしまったのか、客引きにも声をかけられなくなった。おそらく、なんの旨みもない人間として認知され、興味をなくされたのだろう。金を使わないし、稼ごうともしない。ただ街を漂っているゴミにしか思われていないのだろう。
 夜中の一二時を過ぎるまでただ街を彷徨い歩くと、街のはずれにあるネットカフェに戻る。ここは、身分証明書も必要なくて、月ごとの契約もやっている。もう五ヶ月はここに寝泊まりしている。金を払えば文句も言われないが、となりに寝泊まりしていた奴は空腹を紛らわすため、毎日コーンスープをがぶ飲みして追い出された。そりゃシステム上は違反ではないだろうが、どこの世界だってやり過ぎたら叩かれる。きっと、そういうことなんだろう。
 あと半年もこんな生活を続けたら金も底を尽きるだろう。どうしようなんて毎日悩んではみたけれど、本当はわかっていた。働いて金を稼ぐ。こんな俺には最初からそれしか選択肢はなかった。ただ、それだけのことなのに、先延ばしにして答えを出したくなかった。
 今日も朝の一〇時になるとネットカフェを追い出される。ただ、パンさえ買えばコーヒーでもジュースでもドリンクコーナーで選び放題だから、以外と優雅なもんだ。また、夜の一二時まで途方もない時間潰しが始まる。
 今日はさらに街の深層部まで足を進める。昼間の人の少ない時間帯とはいえ、ここは危ない街だ。雰囲気でここは一般人が立ち寄ったりふらりと入っていい場所じゃないってわかる。だけど、半年もぶらついていると、だんだん境目がぼやけてくる。ここに来た頃なら怪しすぎて絶対立ち寄れなかったエリアにも、ずかずかと入っていけるようになった。
 しばらく歩くと、いかにも幽霊ビルといった人が何年も立ち寄っていないような商売気のないビルを見つけた。ひょっとしたらここなら夜になっても人が来ないかもしれない。昼間人が来ないビルは何個か見つけてあるが、流石に夜まで誰も立ち寄らないビルはなかった。そんな場所が見つかればネットカフェのイスじゃなくてベットでも持ち込んで大の字で寝れるかもしれない。そんな期待をしながら、そのビルに足を踏み入れた。
 六階建てのビルの中を一つ一つ見てまわったが、以前使われていた痕跡が全くなく、ただ汚いコンクリートの壁で区切られたスペースがあるだけの、完璧な死んだビルだった。確かにここなら夜になっても誰もいなさそうだけど、あまりにも殺風景過ぎて頭がおかしくなりそうな気がした。それでも、自分でリフォームすればこんなビルでも快適に暮らせるかもしれないなんて考えながら最上階にたどり着くと、そこには先客がいた。先客は天井から吊り下げたロープで首をくくり、垂れ下がっていた。すぐに目線を外したけど、自分と同じようにシャツにジーパン姿の、どこにでもいそうな男だとわかった。関わり合いになりたくなかったから、すぐに立ち去ろうとしたが、先客の足下に落ちていた白いメモ用紙みたいな紙切れが妙に気になった。自分でもなぜそうしたのかわからなかったが、俺はその紙片を拾い上げた。
(生きるためだけに働きたくない)
 俺はその紙片を握りしめたまま、慌ててそのビルを後にした。


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