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騒音

17/02/10 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:0件 麦食くま 閲覧数:707

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「けっ!うるさい連中だ。その上あの野郎、間違いなく俺に殴るかかろうとしやがった」新宿の繁
華街の外れにある小さなバーで一人不機嫌なのは、新吉という30歳半ばの独身男。このバーは新
吉が最近行きつけの店で、ほぼ毎日通っていたが、店の防音設備が不十分のために深夜になると、
毎日のように「騒音がうるさい」と、近隣からの苦情が多かった。バーのマスターも日々苦慮して
いたが、それを気にした新吉がこの日も、「今何時だ!うるさい!!」と苦情が来たすぐ近くの中
華料理店の夫婦ともみ合いになり、警察が出動する事態になってしまったのだった。幸い大事に
至らず、お互いがとりあえず和解することで事は収まったが、収まらないのは新吉の気持ち。「な
んだよ、マスター!あいつら完全にこの店の営業の邪魔してるんだぜ。だから代わりに言ってやっ
たのに、中途半端な和解なんかしやがって、これじゃ俺の気持ちが収まらねえんだよ!!」「新吉さ
ん・・気持ちわかるけど・・・。」バーのマスターは店のにぎやかな雰囲気とは対照的に大人しい
人物。今回も、ずいぶん酔いが回っていた新吉がその勢いで出て行ってしまい、それを必死に抑え
ながら結果的に警察沙汰になった事で正直なところ頭を悩ましていた。「もういいよ!もう一杯飲
ませろ!!」と新吉はウイスキーのロックを注文し、それを一気に飲み干す。「悪いがしばらくこ
ねえからな」と大声で言い残し、お金を置いて新吉は店を出た。

「どいつもこいつもだ。クソッ寒いし、ほんとに最近いいことがない。気分が収まらねえが、今日
はもう寝るぞ!」と大声でわめきながら、新吉が住んでいるバーの近くの古びたアパートに入った
のは午前3時を回っていた。「明日は休みだ。昼まで寝てやる。ん?布団がない。どこに置いたか
?まあ言いや、面倒だ」先ほど飲んだウィスキーの酔いが一気に回ってきたのか。新吉はそのまま
眠りこけてしまった。


「ん?何だうるさいぞ」どのくらいたったのか、新吉の耳元で大きな機械の音が鳴り始める。「誰
だ!今日は休みなんだ。騒音がうるせえんだよ」新吉がわめきながら周りを見渡すが暗闇で、機械
の音だけが聞こえる。「何なんだいったい?これは夢か??」新吉がそう思った瞬間、後頭部に激
しい痛みが襲う「痛い!」その時目が覚めた新吉は瞬時に青ざめた。「あ、そうだった・・・忘れ
ていた」

実はこのアパートは取り壊される予定になっていて、3日前に入居者全員引越しを済ませていた。
新吉も同じように別のマンションに引越しを3日前に済ませていた。しかし、高校を出て十数年同
じアパートに住んでいるための習慣がついていたことに加え、引越しを済ませてから仕事が重なり
、一度も家に戻らなかったこと。そして昨夜の暴飲による泥酔状態で感覚が麻痺してしまい、すで
に立ち入り禁止の看板が立っているのにもかかわらず、そのまま中に入って眠ってしまったのだった。
ちょうど取り壊しの前日にアパートの最終のチェックがすべて終わり、
問題ないということで鍵も開いたままになっていた事も、
災いになってしまった。さらに新吉の部屋は1階の奥にあり、外部からは見えないところにあったのも
不幸な出来事であった。事の重大さに気づいてあわてて動こうとする新吉であるが、すでに下半身
は破壊された木材などの瓦礫の山で埋まっていて動けなくなっている。手で濡れていた顔をなでる
と血だらけになっていた。「た・たすけて・・・」震えるような声を出す新吉の声も工事車両の騒
音の前にかき消され、さらに多くの瓦礫が新吉の顔めがけて落ちてきた。
その瞬間、新吉の記憶が消えてしまった・・・。

お昼ごろには取り壊し工事が終わり、アパートのあった場所には瓦礫の山が残った。週末というこ
とで工事が一旦終了し、週明けに瓦礫を取り除く工事が行われるという。

そして、その月曜日の夕方に取り壊された瓦礫の下に新吉の遺体が
発見されるが、誰も間違えて新吉が入ったと考えず、何者かに
殺害されて、遺体が破棄されたとのニュースが流れる。
ニュースを見た人はただ「新宿の繁華街は怖い」という印象だけが残った。

ちなみに事件の前日、遅くまで新吉がいたバーのマスターは、店の防音工事を行うためしばらく店
を休んでおり、実家のある秋田に戻っていたため、この事実を知る由もなかった。


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