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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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アンドロイドの移動法

17/02/05 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:955

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モリオは空をながめた。彼にため息をつくという機能はなかったが、つけるものならつきたい気持ちだった。
処女惑星に宇宙船が着陸し、建設用ロボットたちによって基地が造られ、その基地にいる人間たちの指示によって、モリオをはじめとする数十台のロボットたちが地上の探索にでかけたのがいまから三時間前のことだった。ほぼ人間とおなじ背丈だが、のっぺりとした顔に、愛嬌も何もない目の穴が二個あいていて、ものを食べるわけでもないので口もなく、あくまで労働用に作られたロボットのモリオだった。
未踏の惑星にはどんな危険がひそんでいるかわからない。そのためモリオの体は強靭だった。たとえティラノザウルス級の怪物に咬みつかれたとしても、咬みあとぐらいはのこっても、活動に支障をきたすようなことはなかっただろう。
彼のみたものきいたものはすべてデータ化されて基地に送信された。そのデータをもとにして、ただちに基地は、コピーによる復元を行った。たとえば彼の視覚がとらえた花や鉱石を、そっくりつくりだすことができたのだ。
その逆も可能で、彼が必要とするもの、たとえば岩を削岩するための機材を、基地からおくられたデータによって、この場につくりだすこともできた。そのため重量的に軽減でき、データの簡素化とともに、よけいなパワーの浪費をおさえることができた。
モリオは人間の何倍もの走行速度で基地から何十キロも隔てた地域まで足をのばしていた。これまで数頭の、大きくはないが奇怪な姿の生き物を発見し、基地では今頃その生き物たちのコピーをまえにして、多大な好奇心をもえあがらせていることだろう。
一度、数十メートルにおよぶ、ねばねばした皮膚をした生物が頭上から落ちてきて、避けるまもなくまきつかれた。あきらかに敵意をもったその生物との格闘は数十分におよび、さいごは全身に高圧電流をながしてようやく追っ払うことができた。おかげで、目にみえてパワーが減少してしまい、予定よりはやめに調査を切りあげることになりそうだった。
そんなとき、パラパラと空からおちてくるものがあった。―――雨。特殊合金でできたモリオの体が、雨ぐらいでどうかなるようなやわな作りでないのはいうまでもなかった。
だが、雨にふれた部分から、かすかに白い煙があがりはじめたのをみた彼は、さすがにぎょっと身をこわばらせた。
直ぐに分析したところ、強烈な酸に似た成分だとわかった。もしこれがふつうの合金かなにかだったら、濡れた瞬間に穴があいて致命的な事態に陥っていたにちがいない。
彼はあわてて全身にシールドをはりめぐらせた。表面から数センチのところで、弾かれた雨が白く飛び跳ねている。
モリオは、雨にぬれた部分がじわじわと腐食しだしたのに気がついた。
彼は基地に連絡をとった。基地周辺にはまだ雨はふっていないのがわかると、ただちに基地全体にシールドをはることを通告した。
「モリオの具合はどうだ」
基地からのといかけに彼はこたえた。
「かなりのダメージを負いました。雨にぬれた箇所が溶け落ち、内部の何か所にも被害がでています」
「稼働は可能か」
「動けることは動けますが、なにせシールドを使ったので、基地まで歩いて帰るだけのパワーが不足しています」
「雨はまだ降っているのか」
「いえ、もうほとんどやんでいます。いまシールドを停止しました」
「他の地域の探索にでたロボットたちもみな、雨にやられたとの報告がはいった」
やられたロボットはいつでもコピーで追加できた。モリオといまやりとりしている基地の人間にしても、いつでもモリオを破棄することができた。だからこそ次の質問は、一種の三下り半ともいえた。
「どうするモリオ、その体で基地にもどれるか」
ただし人間たちは、ロボットの意思を尊重することも忘れなかった。
「だいじょうぶと思います。自転車のデータを送ってもらえますか」
「自転車」
「五世紀以前の人間が、移動手段として使っていた乗り物です」
「それでかえってくるというのか」
「私に残されているパワーで基地にたどりつくには、それ以外にありません」
「わかった」
返事がきたときには、モリオのまえに、コピーによる一台の自転車が出現していた。
それは昔、ママチャリといわれた種類の自転車だった。モリオは、自分のもてるIT機能――それはまた科学の粋を集めた最高知能といえた――のすべてを傾けて、自転車の操縦方法を検索した。
サドルのうえにまたがり、ハンドルを握って、ペダルにかけた足に力をこめた。とたんにモリオはよろよろとふらついたと思うと、横倒しになった自転車から放り出された。
バランスを保ち、推進力によって前進できることがモリオにわかったのは、それから何度も岩に激突し、泥濘にタイヤをとられ、くりかえし転倒を重ねたあとのことだった。


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