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kouさん

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夢をのせて

12/11/08 コンテスト(テーマ):第十七回 時空モノガタリ文学賞【 エレベーター 】 コメント:0件 kou 閲覧数:1661

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 官房長官である牧村は急いでいた。内閣が発足し官房長官に就任したはいいが外食が増え体重は増加の一途を辿る。スーツは一年間で三回新調しその度にお抱えのスタイリストに、「無駄が多い」と一喝されムッとするが事実なので何も言えない。だから牧村は走った。総理がいるイタリアンなレストラン、へ。
 カランと扉の鈴が鳴り牧村は店に入る。洗練された身のこなしの店員に総理がいる個室に案内され中へ入る。既に総理はワインを飲んで頬を紅潮させていた。
「牧村、くん。いきなりどうしたの。連絡、連絡。電話一本秘書なり僕の方に入れないと」総理はアンチョビをフォークで口に運び、にやっとする。その笑顔が見事に女性ウケすることは明白だった。総理こと安西重國は名前とは裏腹には子供っぽいところがあり論理的に捲し立てる普通の政治家とは違い、どこか感性を重視するところがある。総理は一度、牧村にこう言った。「たしかに論理は重要だよ。それより増して重要なのは感性であり想像力。だってさ牧村!想像力一つで千本のロウソクに火が灯る。現状を打破できる。今の政治家は論理を逃げに使うからね。言動はシンプルでいい。複雑な言葉には誰も耳を貸さない」
 そんなことを思い出し、「すみません」と牧村を頭を下げる。「いや、いいよ。一人で食事してたし、さ」重國はけろっと答える。
「で、何?」重國はワイングラスを激しく回し、「宇宙エレベーターの実現可能性が浮上しました」と牧村は声を大にして言う。
「可能性って言葉嫌いなんだよね。ケーブルがないって言ってたじゃん」重國の目の色が変わる。総理の目に。
「カーボンナノチューブというのが発見され軽くて強度があります。理論的には可能です」牧村の言葉に重國は目をつぶる。場の空気が止まる。二、三、五、十分が過ぎたとき、「実現しちゃおう。世界に発言しちゃうわ。日本がこの分野でトップを取れると思う。僕は第六感を信じる」重國は再度牧村にニヤっとする。口元にワインの汁が付着しているのを牧村は凝視した。

『かつてケネディ大統領はいいました。我々は月に行く、と。なので安西重國も言わせてもらいます。人類はエレベーターを使って宇宙を気軽に行き来する』
 と、十年前に当時の総理大臣安西重國が発したのを夢野レイははっきりと覚えている。その発言は好意的なものばかりでなく、「無責任すぎる」とか「日本は口だけだろ」とお決まりの揶揄もあったが、重國は全く意に返さず、『想像力が全てを変える』と一言で周囲の雑音を打ち消し、それが現実のものとなったから、かつての出来事を思い出しレイは苦笑する。
「夢野さん!宇宙衛生と地上の巡視船とケーブルが繋がりました」助手が言う。
「いよいよね」宇宙開発機構最高責任者のレイは高揚する。
「夢野さん」助手がレイを見つめ、「なんで科学者なんかに?」と操作パネルに視線を戻す。
 その助手の言葉にレイは天井を見上げ、「出会い」と言い切った。

 高校一年のレイは小さい頃からエレベーターが好きだった。上昇したときの一瞬だけ感じる浮遊感。上にいく憧れ、下にいく楽しみ。何度でも体感した。ある日、新しいエレベーターを見つけた。それは全面クリスタルで外から中が見えるものだった。キレイ、と思ってレイは走る。ボタンを押す。が、扉は開かない。
「おじょうちゃん。申し訳ない。まだ完成してないんだ」と背後から声がした。そこには男がいた。「おい、シゲ。エレベーター上部のケーブルが切れてる。予備もってこい」
「お仕事の邪魔してごめんなさい」レイは謝る。
「男は女性が近くにいた方がやる気がでる。あいつは息子なんだが、こういう泥臭い仕事嫌いでね。それでも女好きだから。ほら、動きが俊敏になった」たしかにシゲはテキパキと行動していた。そしてこちらに向かってくる。右手にケーブルを持って。
「クソ親父に、クソエレベーターかよ」シゲは言い放つ。
「おい、もう一片言ってみろ。ぼんくら能なし。それにな人間の英知が生み出した紀元前三世紀からあるエレベーターを馬鹿にすんなよ。今は地上だが、いずれは宇宙に行く。それまで技術磨け。このアホ、女好き」
「いい歳こいて夢語るな。エレベーターが宇宙に行くか。ハゲ」
「おいおい息子よ。なら賭けようじゃねえか。俺はエレベーターが宇宙に行くと断言する」
 父子が睨みあっている間にレイは割って入り、「喧嘩するほど仲がいいって言いますから」にやっと笑顔を両者に向けた。

 政界を引退した重國は、テレビで宇宙エレベーターが上昇していくのを眺める。
 そして、「親父。賭けはあんたの勝ちだよ。薄々あんたが正しいって思ってたよ。だから賭けの代償として政治家になったんだけど。信念って大事だよな。少しは、あんたに近づけただろうか」彼は色がなかった空に、光が通されていくのを見届けた。


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