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Yutanunさん

散文を書いたら何となく、すっきりします。基本的に作品は矛盾だらけですが、そういうところが好きです。

性別 男性
将来の夢 メンタルヘルスとコンピュータサイエンスの融合
座右の銘 それを書けるほど、大きな人間ではありません。

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無償の親切

17/02/05 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 Yutanun 閲覧数:845

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僕を構成する心と体の時は、小学生の低学年に遡る。小さな体で、半ズボンに青いセーターを着ていた記憶がある。冬の時で、少し鼻水をたらしていた。僕は薄汚れたスーパーマーケットの前の駐車場に、自転車を停めていた。その日のその時間はほとんど客が居なくて、僕の自転車の周りに、同類はほとんど存在しなかった。

見た目がやや焦げた独特のたれがかけられた唐揚げを買った後、自転車に乗ろうとした。しかし、自転車のチェーンが外れていることに気づき、ペダルに対する僕のキックのエネルギーは、無駄な労力として、空気中に発散した。当時の僕の知能では、この難解なパズルに対処できなかった。チェーンを元の位置に戻そうとすればするほど、古い油から出る薄汚れた黒が僕の両手を侵食していった。家にたどり着くには、長い坂を上らなければならない。だから自転車はそれほど使い物にはならないが、僕の心は散漫な不安に狩られてしまった。

その時、僕よりも10歳ほど年上の青年が、どうしたの、と、話しかけてきた。人見知りの僕は、ほとんど何もできず、チェーンを指し示しながら、口をパクパクさせていた。その青年は僕が置かれている困難な状況に気づいたのか、なんのためらいも無く、片手で古い油まみれのチェーンをつまんだかと思うと、1分も経たずにそのチェーンをあるべき場所に戻した。これで大丈夫、と、青年は僕に微笑んだ。僕は言葉が出なかったが、必死にお辞儀をしようと努めた。一瞬の赤の他人の親切に、心が反応できなかったのだ。気が付くと、青年は後ろを向いて、遠くに去っていった。

思えばこれが、見知らぬ人からいただいた初めての無償の親切であり、僕の記憶に未だに焼きついているということは、当時の幼い僕は、潜在的に、ひしひしと、その純粋な感動を噛み締めていて、それが今になっても、消化しきれないからかもしれない。


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