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千月薫子さん

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プールサイドと傘

17/02/02 コンテスト(テーマ):第99回 【 自由投稿スペー ス】 コメント:1件 千月薫子 閲覧数:581

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この学校のプールは出る
ごくごくありふれた怪談話。ちょうど季節は夏で水泳の授業の真っ最中。どうやら最高気温を更新するようだ。水着は体のラインが出るから恥ずかしい。女子だけの授業で助かった。一人で内心ホッとしている。クロールや平泳ぎ、先生の指示通り皆が25mを泳いでいく。最後に私の番、冷たい水の中に入って先生の合図を待つ。ふと泳ぎ出す直前、例の怪談話が思い浮かんだ。
水面がキラキラと日光にあたって光る。プールサイド、水着のまま、辺りを見回しても誰もいない。先生も友だちも。そんな中、軽い水音が鳴る。ビックリしてそちらへ目を向けると、茶髪で同じ水着姿の女の子が、顔の上半分だけ水から出ている状態でこちらを見ていた。顔に見覚えは無い。ただ名前の書き方が旧式で苗字だけでなく出席番号まで書かれている。彼女は水から顔を出しこう言った。
「あなた何でここにいるの」
「……」
尋ねられたが言葉が出ない。何故、と言われてもこっちが聞きたい。授業は?私は泳いでいたはずなのに。
「あぁ、気づいてないの……」
「え?」
「何でもない、こっちの話、あたし桃子って言うの、あなたは?」
「ゆき、佐藤由紀」
「ゆき、ね。ゆきは好きな人いるの?」
矢継ぎ早に質問攻めだな。言葉に詰まる。
「……」
「やっぱり〜、どんな人?男の子?」
「男の子に決まってるじゃない、カッコよくて物憂げな感じの、人」
「うわぁお、好みが特殊」
「うるさい」
顔が熱い。気温のせいだけでは無さそうだ。手のひらをほっぺに添える。冷たい感触が気持ちよかった。
「告白は?」
「……してない」
「いいのー?もう3年でしょ」
「なんで知ってるの?」
彼女は自分の胸をトントンと叩く。名札か。そういえば学年とクラスも書かれていた。
「だって私なんて視界に入ってないよ」
「当たって砕けろでしょー女子は」
「それ何も女子に限ってないでしょ」
「じゃあ、玉砕覚悟?」
「同じじゃん」
くすっと笑ってしまった。手を口元に当てようとして気づく。左手に傘を持ってる。真っ黒、つや消しでカラスみたいに黒い。プールでは必要ない、カンカン照りで雨など微塵も降っていない。でも無性にさしてみたくなった。傘の留め具に手をかける。
「待って」
ふと桃子に止められた。さっきとは違う真剣な眼差しに私は固まった。さしちゃだめ、そう静止するような目だった。桃子はプールサイドまで泳いで近づいてきた。
「その傘をさすのはもう少し後でもいいと思うよ」
そう言うと彼女は手を差し出してきた。私はその手をとると、すごい力で引っ張られて水の中に落ちた。ゴーグルが無いから目が痛い。目の前にいるはずの彼女はいなかった。周りを見渡しても誰もいない。息が苦しい。私は急いで水面に顔を出した。
「由紀っ!!」
目を開くとそこには先生とクラスメイトの女子の顔。あれ、どうしたの。私は途端に咳き込むと水を吐き出した。何が起きたの。
「大丈夫!?あんた泳いでたと思ったら突然様子がおかしくなって、溺れてたんだよ!!」
溺れた?全くわからない。ゆっくり上体を起こす。そこはプールサイド、私の下にはみんなのタオルが敷かれていた。まだ頭がグラッとする。額に手を当てる。待って頭がついていかない。
「桃子は?」
「桃子?誰それ、そんな名前の子いないでしょ」
そばのプールを見てみる。日光が反射して水面がキラキラと光っているだけ。私は死にかけたのか。じゃああれは死後の世界?桃子は、何だったのだろう?傘は?不気味な体験をした後だったが、不思議と怖い気はしなかった。告白してみようかな。呑気にも私はそう考えたのだった。


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このストーリーに関するコメント

17/02/03 白沢二背

短かったけど面白かったです。

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