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バビロンさん

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迷宮の商店街

17/02/02 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 バビロン 閲覧数:530

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 まさか真昼間でしかも、商店街で出くわすとは想定外だった。
 この場所では人目が多く、力業でどうするわけにはいかない。ひとまず人がいない裏路地にでも逃げなければならない。
 人の合間をすり抜けながら小走りで駆けた。車椅子のヤツは追従速度が遅いために、距離は簡単に開けることができた。というより、追いかけてきてすらいない。
 ヤツの動きを確認しながら、店と店の間の小道を見つけて足をそちらに向けた。が、その子道に入ったところで、目の前に広がったのは人にまみれた幅広な道である。
 理解が追い付かず、頭にクエスチョンマークが沸いた。左にはシルバーアクセの店、右は女性ものの洋服屋、そのさらに前方にファーストフード店。
 「逆だ……」
 そう、進行方向が逆になっているのである。小道に入るまでは、ファーストフード店は後方にあった。シルバーアクセの店も右側にあったはずだ。
 そして何よりも目の前にヤツがいる。ニヤニヤと笑みを浮かべていた。どうやらもうすでにヤツの術中に陥ってしまっていたらしい。
 再びヤツに背を向けて駆け、別の小道に入った。しかし結果は同じで、ヤツが正面にいる。いつの間にか周囲にいたはずの人らは居なくなっていた、どうやら自分だけをこの商店街を主とした迷宮に閉じ込めたようだ。
 なまじ霊感が強いからこういうことになる。そもそも怪しかったのに注意を怠った自分のミスではある。車椅子から男が倒れたのに誰も助けようとしなかったことも、そもそも介助者がいないことも、少し考えたらわかったことだ。あの幽霊野郎が張っていた罠であることなど。
 「俺だけを迷宮に閉じ込めて、それでどうする」
 ヤツは首をくいっと降って奥を見るように促した。気が付けばヤツの後方はまがまがしい闇に覆われている。数歩前に踏み込んで奥を見ると、いくつか影が浮かんでいた。それはまるで糸の切れたマリオネットように両手両足をぶらんと垂らしている。
 すべての目が死んでいるけれど、そのいくつかに見覚えがあった。捜索願が出ている失踪者たちだ。
 ここ数か月の間に、失踪者が激増していた。あまりにも短期間の間だったために拉致、誘拐の事件性も考えられていた。失踪者の共通点や、失踪場所も調査されたが、老若男女問わず、範囲も幅広かったために警察での捜査は難航していた。
 だから自分のバイト先にも依頼が回って、天童から失踪者リストを見せられていたから覚えていた。
 当事者になって失踪の理由がようやく理解できた。失踪者は皆、霊感が強い人間なのだ。
 この車椅子の男はそういう人間を騙しては迷宮に閉じ込めているということだ。捕まった人らも逃げようと試行錯誤したはずだ。しかし目が死んでいるところを見ると、何をしても無駄だったのだろう。
 だからと言って自分までそうなるつもりはない。それに人が見ていないなら力を使うこともやぶさかではない。
 近くに停まっていた自転車に乗り、直線状でヤツとの距離を取った。予想通り、横道に入らずヤツの視界内ならば行動制限はないようだ。
 ヤツを正面に向き直して、目いっぱい自転車を漕いだ。スピードが乗り切ったところで、片ペダル乗りをし、狙いを定めてハンドルを投げ出すように離して飛び降りた。
 ひとりでに進む自転車は、さらに加速して、かまいたちのごとく男を車いすごと真っ二つに両断した。
 「幽霊には幽霊をってね」
 二つに別れた身体は紙吹雪のようにバラバラに砕けて風に乗って天へ飛んで行った。
 一片の欠片も見えなくなったところで、話し声や雑踏が戻ってきた。通路のど真ん中に一人突っ立っている自分を不思議な目で見ながら人々は通り過ぎていく。
 少し向こう側に失踪者らが、倒れている様子も見えた。たくさんの人が急に現れた上に倒れこんでいるので、すぐに人だかりができて、救急車やパトカーを呼ぶ声が聞こえてきた。
 まさかこんな形で失踪事件を解決することになるとは思ってもみなかったし、そういうことならしっかりと仕事として受け持っておくべきだったなと後悔した。
 天童のことだから「僕はまだ君に仕事としてお願いしていないから、ノーカンだよ」などと難癖つけて給料をよこさないに違いない。
 ただ、“幽霊自転車”に関しては一度やってみたかったので、それができたのは良かった。今後“幽霊自転車”使うことがあるとは思えないけれど、物体にエンチャントすることを実践できたのは大きい。
 しかし、やはり絶対にノーギャラだけは困る、と何とか天童を言い負かせてギャラをもらう方法を考えながらショッピングを続けた。


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