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石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

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大字番号札に隠された意味

17/01/31 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 石蕗亮 閲覧数:983

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 「なぁ、そこの窓開けてくれよ。開けてくれたら俺、出ていくからさぁ」
耳元で知らない男が囁いている。
しかも息が耳にかかっているのが判る。
かなり近い。
「なぁ、頼むから窓開けてくれよぉ」
男は何度も耳に息を吹きかけるかのように囁く。
そのうち耳を舐められたり齧られたりしないだろうかと怖い想像をしてしまう。
いや、今のこの状況もかなり怖いものではあるのだが、如何せん金縛りの真最中である。
男の顔を見ることもそこから逃げることはおろか男の要望を叶えることもできやしない。
だから諦めて金縛られたまま仰向けで目を閉じて男の声を聞き流していた。
相手を確認できないうちは実状、ただ男の声が聞こえているだけである。
ここで確認してしまったら相手が実在の人間なのか、それとも実体のない人外なのか判明してしまい、どちらであっても更に怖くなる。
仮に金縛りになっていなかったとしても窓を開ける気にはなれない。
何故ならこの部屋は304号室。
部屋番からも判るように3階にある。
窓を開けてそこから出ていくのが人間でも人外でも見ていて気持ちの良いものではないだろう。
この状態を維持することが精神衛生上一番マシなのだ。
 どれくらいそのままで居ただろうか。
「お前は冷たい奴だな」
捨て台詞を吐いて男の気配が消えると金縛りも解けた。
 実はこんな現象は日常茶飯事なのである。
この物件は昭和初期に建てられたものをリフォームしたもので、ノスタルジックな雰囲気が人気なのだが、この部屋だけが敷礼込々で初月3万、月1万というのだから曰く付きなのは明らかだった。
大家に確認すると「出る」とのこと。
面白半分で貴重な体験ができればと安易に借りたのだが、怪異は毎日起きた。
ある日には片言の外国人幽霊が訪ねてきたこともあった。
 「あのー、ここに来ればマイレージが貯められるって聞いたんですが」
白人外国人男性の幽霊はご丁寧にドアをノックし「夜分失礼します」と挨拶してドアの前に幽かな姿で立っていた。
「ここでそんなサービスはやっていない」と答えると寂しそうに帰っていった。
この外国人幽霊に限らず数日おきに同じことを言う外国人幽霊が他にも訪れた。
どの幽霊にも同様に断りを入れるのだが「ここにマイレージって書いてあるのに」と怪訝な顔をして帰る幽霊もいた。
彼らはいつも部屋番札を見てぼやいていたが、そこには何の変哲もない「304」しか書かれていなかった。
外国人幽霊達は部屋に入ることは無かったが、国産幽霊たちは何故か図々しく部屋に上がり込んでは好き勝手に文句を言ったり、部屋のものを使ったりしていった。
明らかに違う態度に違和感や疑問があった。
 ある夜
息苦しさを伴う金縛りに遭った。
うっすらと瞼が開いた先には青白い顔に窪んで虚のような目をした老人が眉を吊り上げて睨むように自分の腹の上に座っていた。
一目でヤバい存在だと理解る気配を纏っていた。
「どうしたものかの〜。この部屋には自由に来られるが留まることはできぬ。この部屋を手に入れるにはどうすれば良いかの〜」
老人の幽霊は頻りに腹の上でゆさゆさと揺れながら思案していたが「ぬぅ〜」と恨めしそうな声を上げながら部屋から出て行った。
このままでは命の危険かもしれない。
さすがにこのレベルは冗談では済まされない。
そう思い大家に解約を願い出たところ多額の違約金を請求された。
しまった、そういうことか。と気付いた時には遅かった。
これが大家の儲け方だったのだ。
安い家賃で住人を捕まえては契約期間内で解約すると多額の違約金で儲けていたのだ。
しかし命には代えられない。
仕方が無く多少の借金を負ってでも部屋を出ようかと思った矢先。あることを思い出した。
外国人幽霊たちが見つめていた「部屋番札」。
玄関の上に貼り付けられている札を幽霊たちは必ず見上げていた。
そのことに違和感を思い出して部屋から椅子を持ってきて上がりドア上の札を見てみた。
何の変哲も無いように見えたが触ってみると木札に壁材の生地を張り付けたようであった。
徐に札を引っ張るとベリっと生地がめくれ、その下から木札が出てきた。
そこにはリフォーム前のであろう旧部屋番が刻印されていた。

 参霊肆

漢数字の大字で書かれた304であった。
ん?
よく見ると0が零じゃない。霊だ。
あ!と驚くと同時に理解ってしまった。
これは「霊は思うままに参る」という意味だ。
そしてただ読めば「まい、れい、し」
外国人幽霊達はこれを見て勘違いしていたのだろう。
部屋に戻ると発砲スチロールを木札と同じ大きさに加工して部屋番の生地を丁寧に張替えてドアの上に付け直し、木札はゴミに出した。

以降怪異が起きることは無くなった。
大家は出ていかない私を訝気に見ている。
私は気にせずノスタルジーな環境を満喫している。


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