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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
将来の夢 プロ小説家になること!
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坂をのぼれば

17/01/30 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:4件 海見みみみ 閲覧数:1181

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 ユウタくんのお母さんが亡くなったのは、今から一週間前のことでした。乳がんによる長い闘病(とうびょう)生活の末、亡くなったのです。
 お母さんのお葬式(そうしき)では、たくさんの人が泣いていました。お父さんに、弟と妹。あとは親せきの人たち。
 そんな中、ユウタくんだけが一人なみだを流せずにいます。ユウタくんはそんな自分を『冷たい人間だ』と思いました。

 お葬式も終わり、ユウタくんの生活がいつもの日々にもどります。今日からユウタくんは再び小学校で授業を受けることになっていました。
 その日の朝、ユウタくんは一人でベッドから起きました。今までならお母さんが起こしてくれましたが、もう起こしてくれる人はいません。
 お父さんが仕事でいそがしいため、家族の朝ごはんはユウタくんがすべて作りました。トーストとスクランブルエッグにサラダ。今日初めて作ったので味はびみょうでしたが、これからうまくなっていくことでしょう。
 この一週間ずっと泣き続けたおかげか、弟や妹はもうお母さんの死を受け入れたようでした。お父さんもしっかり仕事を再開しましたし、これで我が家はだいじょうぶなはずです。
 しかしユウタくんはかんじんなことに気づいていませんでした。自分がまだお母さんの死を受け入れられていないことを。

 ユウタくんの家は山の中にあり、小学校までの通学は自転車を使います。自転車用ヘルメットをかぶると、ユウタくんはペダルをゆっくりこぎ始めました。
 通学路のとちゅうにはいくつも坂があります。それらをユウタくんは一度止まり自転車をおして進みました。
 そうやって進んでいくと、特に角度のキツイのぼり坂が現れます。『心臓破りの坂』その坂は近所の小学生の間でそう呼ばれていました。この坂を自転車でのぼりきった小学生はいない。そんな話もあります。
 ふだんなら、ただ自転車をおして歩くだけのキツイ坂です。でもこの日、ユウタくんはこの坂を自転車でのぼってみたいと思いました。
 自転車から降りず、十メートル前の道路からユウタくんは一気にペダルをこぎだします。
 最初自転車はスピードに乗っているため楽に進みました。しかし少しずつペダルが重くなってきます。必死にペダルをこぐと、そのうち息があらくなり、心臓が激しく音を立てるようになりました。足の筋肉が悲鳴をあげているのがわかります。やはりこの坂を小学生が自転車でのぼるには無理があったようです。
 こんな坂、無理してのぼる必要ないじゃないか。バカみたいだ。もうあきらめよう。ユウタくんがそう考え、自転車から降りようとした、まさにその時でした。

「ユウタはしんぼう強くてなにごともあきらめない子だから。これからもなにがあっても自分の気持ちをあきらめないでね」

 ユウタくんの頭の中で再生されたのは、お母さんが遺した最期の言葉でした。その言葉を思い出すと、急に胸が熱くなります。
 そうだ、ボクはなにがあってもあきらめないんだ。そうお母さんと約束したから! ――ユウタくんの心が一気に燃え上がります。
 息があらいのがなんだ。こんなのガマンすればいい。心臓の音は気にするな。これはただの雑音だ。足の筋肉が痛い? ……お母さんはもっとつらくて苦しい思いをしたんだ! ユウタくんは必死に自転車をこぎます。
 それでもやっぱり苦しくて、何度も坂をのぼることをあきらめようとしました。しかしその度にお母さんの言葉を思い出し、ユウタくんは自分の心を燃やします。
 何度も自分の心と戦って、ついにユウタくんは頂上にたどり着きました。どうだ、小学生でも自転車でこの坂をのぼりきったぞ。ユウタくんはうれしさのあまり、さけびだしたくなりました。
 頂上から見える景色。ここからなら、ユウタくんの育った美しい町を見わたすことができました。
 ようやくこの坂をのぼりきったんだ。そう思った時、ユウタくんの中でこの町であったお母さんとの思い出がよみがえりました。
 いっしょにレストランに行ったこと。大好きなアニメのオモチャを買ってもらったこと。買い物帰り、二人で手をつないで歩いたこと。
 大切な思い出がよみがえる中、ユウタくんはとつぜん大声をあげて笑い出しました。
「わーはっはっは! あーはっはっは!」
 そう笑い声をあげながら、ユウタくんは泣いていました。今までお葬式でも泣けなかったのに、なみだが自然と次々あふれてきます。
 そうやって泣き笑いを続けるうちに、ユウタくんの心はすぅーっと楽になりました。
――お母さん、ボクなんとかやっていけそうだよ。
 そう心の中でつぶやくと、ユウタくんは再び自転車に乗り、学校へと向かう道を走りだしました。

おわり


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このストーリーに関するコメント

17/02/01 まー

少年が母親の死を受け入れるという複雑であるはずの過程が、短い中でしっくりと綺麗にまとめられていて気持ちよく読めました。
素敵な作品をありがとうございます。

17/02/01 海見みみみ

まーさん

ご覧いただきありがとうございます( ´∀`)
母親の死とそれを受け入れる少年というテーマは、私にとって人生の課題でもあるので、気持ちよく読めたとおっしゃっていただけて光栄です♪
感想誠にありがとうございました!

17/03/14 光石七

拝読しました。
前半はユウタくんが心配でしたが、自転車で坂を上りきることでお母さんの死を受け入れることができてよかったです。
絵本のような語り口で、自然にすっと心に入ってきて沁みてきますね。
素敵なお話をありがとうございます!

17/03/14 海見みみみ

光石七さん
ご覧いただきありがとうございます( ´∀`)
自転車で坂をのぼるとまるで修行をしているかのような気分になります。ユウタくんにとって坂をのぼるのは心の修行だったのでしょう♪
直近の作品はこのような児童文学を意識した語り口の作品が多いので、そちらもご覧いただけたら幸いです(๑>◡<๑)
それでは感想ありがとうございました!

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