1. トップページ
  2. そこに集まりし者が旅立つ時

たっつみー2さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

そこに集まりし者が旅立つ時

17/01/29 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:2件 たっつみー2 閲覧数:747

この作品を評価する

「そのようなものはございません」
病院の受付けで尋ねると、納得の答えが返ってきた。
確かに手にしているチケットにはこの病院名がある。だけど、ここに喫茶店だなんて……。
横にいる夏菜は肩を落としている。
病院にこんな変な名の喫茶店なんて明らかに怪しいのに、彼女はどうしても行くと言いはった。なぜか、あの病院だからこそ行きたいとも。
なんにしても、所詮はどこかの福引で手にした招待券。まあ、お金を取られたわけでもないようだし、高校生がちょっとからかわれたってことだろう。
と突然、夏菜が、あっ、と声を上げ走りだした。慌てて追いかけると、チケットを手に誰かに話しかけている。
ポニーテールに髭面といかにも怪しい男が、にっこり微笑んでいる。
「店はこっちだからついておいで」
そんな怪しげなやつについていくなんてことは――おいっ!
夏菜はなんの躊躇いもなく、男の後を歩きだした。となれば行くしかない。そっと、どういうことかと耳打ちすると、こいつが抽選会をやっていた張本人らしい。それは分かった。だけど、これって……エレベーターからでて、ナースステーションは素通りですか。301、302、ってまさか、病室で喫茶店? 
いや、さすがにそれは。
病院だけに4(死)という数字は嫌うのか、304号室はなく、その後も続く病室を横目に進んで行く。そして、つきあたりで男の足が止まった。
「何も書いてないみたいですけど、この部屋ですか?」
夏菜が男に尋ねた。
おそらく、ここで間違いはないだろう。304というプレートがしっかりとある。
「ええ。どうぞ」
男が引き戸を開け、中へと入っていく。中を覗き見ると、病室には似つかわしくない空間が広がっている。昔ながらの喫茶店といった感じの店が確かにある。
「マジか。けっこういい感じ」
横の夏菜は――あれ? 不思議そうに俺を見ている。そして、会話がすれ違う。
夏菜に言わせると、目の前にあるのはただの空き室らしい。いやいや、お客だってこんなに。
ほら、手前のテーブルにはコーヒーを飲むおじいちゃん。その向かいには4人家族。新聞を読むおじさんに、お姉さんも。ふと、思う。何故、みんなこんなに暗い目をしているのだろう。
「ほら、一番奥には赤いシャツの女の子が」
と突然、夏菜が飛び掛かる勢いで声を飛ばしてきた。「どんなシャツよ」
細かく説明すると、さらに女の子の特徴を問われた。説明しているうちに、夏菜の息遣いが荒くなっていた。そして、俺は気付き始めていた。この光景は俺にしか見えていない。
夏菜が瞳を潤ませながら俺の両腕を掴み、狂ったように叫んだ。「ねえ、どこ? どこにいるの?」
俺はその腕をほどき、両肩をつかんだ。「落ちつけって夏菜。夏菜!」
大声で呼びかけ、胸に抱き寄せると、声は止み、肩だけが揺れている。
ふと、感じるものがあり、視線を向けると、目の前に少女が立っている。彼女が問い掛けてくる。「夏菜? 夏菜がいるの?」
少女には俺しか見えないのだろうか。頷きで答えると、彼女の目がみるみる潤んでいく。
名を問い掛け、返ってきた言葉を口にした。「香菜?」
夏菜が顔を上げ、微かな声が、「おねえちゃん……」
何がなんだか分からない。お互いに見えないし、声も聞こえないのだろうか。とにかく、俺の目に見えている状況をお互いにわかるように話して聞かせた。
夏菜は、少女のほうへと体を向けている。
「あたしね。ずっとずっと謝りたかったの。だって、おねえちゃん。喧嘩した日の朝に交通事故に……。本当はね、朝ごはんのイチゴの大きさなんてどうでもよかったの。ただ、絵画展で賞をとって、みんなに褒められているおねえちゃんが羨ましかったの。悔しかったの。だから、わがままいって泣いて困らせようと……そうしたらおねえちゃん、怒って先に学校に……」
きっと、昔の話をしているのだろう。夏菜は小学生に戻ったように泣きじゃくっている。俺は夏菜の気持ちが伝わるように少女に語っていった。
「ごめんね。もし、いつもみたいに一緒に学校に行っていたら、事故にだって……。ごめんね。ごめんね、おねえちゃん」
俺は夏菜の背中を撫でながら、少女に言葉を伝えた。
少女は首を横に振った。その目には明るい光が宿っている。
夏菜にその姿を伝え、「きっと、夏菜のせいなんかじゃないよってことなんだよ」
ふと、気付く。微笑む少女が薄らぎ、窓のほうへと遠ざかっていくことに。
「いなくなっちゃう。おねえさん、消えちゃうよ」
夏菜が身を乗りだし叫んだ。「おねえちゃん! いやだ、いかないで」
「おねえさん。手を振ってる。なんか安らかな素敵な笑み浮かべてる」
夏菜が唇を噛みしめ、そして、手を上げた。「バイバイ。バイバイ。――」
その声が涙で掠れていく。
俺も泣きながら手を振っていた。幽霊喫茶304というチケットを握りしめながら。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/01/29 あとら

そんな展開になるなんて!
ラスト、とっても驚きました!

17/01/29 たっつみー2

あとらさん。

コメントありがとうございます。
当初、2500字オーバーだたものを、無理矢理削り倒したもので、わかりづらいところが多かったと思います。
しかも、苦肉の策として、1字下げまでなくしてしまったので読みにくくもあったと思います。

驚いていただけて光栄です。

ログイン