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麦食くまさん

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304号室の鍵

17/01/29 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 麦食くま 閲覧数:515

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「今日は大きな町に戻る日か、帰る前に地元の海でも見ていこう」そうつぶやいた光雄は、宿泊し
ていた304号室のホテルを後にした。光雄は一人この異国の地に旅に来ていた。拠点となるその国
の首都のホテルで大きな荷物を預かってもらい、小さなかばんひとつで、5日間地方の町を旅して
いた最終日の朝のことである。
お昼前のバスに乗り込んで首都には夕方戻る予定にしていた。
しばらく地方ののんびりした雰囲気と風を感じながら、思わず我を忘れる気分を満喫したた光雄。
日本への帰国まではまだ数日残っているとはいえ、カオスのように雑然とした
喧騒の首都に戻ることにやや抵抗を感じていた。
とはいえ、残りの予定の変更もままならず、とりあえず最後に見納めとばかりに
この日は早起きして海を見に行くことにしたのだった。
かばんを手にいつでもバスに乗れる状態で外に出たが、「すぐに戻るから」と鍵をフロントに
預けずにズボンのポケットに入れたまま外に出た。
ホテルの前にいた、交渉で料金を決めるバイクタクシーの後ろにまたがって、
10分ほどばかり走ると、海の見える海岸に出ることができた。

「やはりいいなあ」光雄はわざと誰かに聞こえるかのようなやや大きめの声を出す。
目の前の海岸の空は快晴でまだ午前9時前だというのにもう日差しが厳しいような気がする。
そして海の波も大きすぎず、また小さすずない程良い波が、
計算されつくしているかのように定期的に岸に寄せる。
砂浜には、大きなタライのようなものが多く浜に置かれていた。よく見るとオールのような漕ぐ為
の棒がついていて、中をのぞくと網が入っていた。「漁をするための船?」光雄は一瞬驚いたが、
ふと一寸法師を思い出し、思わずそのタライの船に乗ってみる。「ふんふんなるほど」実際にそれ
で海に出る勇気はさすがにない光雄は、砂浜の上でオールを漕ぐそぶりをして一人楽しんでいた。

しばらくしてその事が飽きてしまうと、早起きしたことと気持ちよいとばかりに
そのタライの中で眠る。空の上には鳥が舞っていた。
しばらく眠っていたのか、気がつけば午前10時を過ぎていた。
腕を見ると一気に日焼けしている。
「あ、そろそろ戻らなくては」この町から首都までのバスは1日3本しかない。
バスの運行時間は5時間。用心深い光雄は事前にバスの時刻表をチェックし、メモをしていたので
そのメモを見ると、11時の出発があった。、その後は15時と19時の3本。
日の明るいうちに首都に戻って、荷物を預かってもらっている
ホテルを再度チェックインしたいと考えていた光雄は、タライから慌てて出ると、
道路のほうを目指す。
横を見るとタライとは別の木製のカラフルな漁船が多く並んでいたところに出くわす。
そこにはバイクタクシーの運転手が多く待機していた。
光雄はあわてながら「11時のバスに乗りたいのでそのところまで行ってほしい」と、
片言の英語で話すと、運転手も理解したらしくそのまま乗り込む。20分ほどでバスターミナルに到

着すると、あと5分でバスが出るというので、大急ぎでチケットを買い、
走ってトイレを済ませてバスに飛び乗る光雄
「ふう、間に合った。途中の昼食休憩を挟んで夕方前には首都に戻れるな」

そういいながら、やや強めのエアコンの聞いたバスの中で10分もしないうちに眠る光雄であった。

途中・トイレ休憩を兼ねた昼食をとり、無事に首都のバスターミナルに着いたのは午後4時。
ターミナルから首都らしくメーター付の自動車タクシーに乗り、5日間大きな荷物を預けていた
ホテルに向かう。無事にホテルに到着し、荷物を確認後、そのままホテルのチェックインの
手続きをとる光雄。
部屋番号は304号室だという「304号室・・・前もどこかで同じ番号だった?」
光雄はふと頭に浮かんだ部屋番号を考えていると「お客様パスポートをお願いします」
とのフロントの女性の声。我に返った光雄はズボンポケットに手をやるが、
そのときに背中から腰にかけて生ぬるい汗が流れるのを感じて、ある事実に気づいた。
それは今朝のホテルをチェックアウトせずに移動してしまった事。
パスポートはこの国のルールによりチェックアウトまでホテルで預かられる。
つまりパスポートも忘れたままである。
そして代わりにポケットから手にしたのは、そのホテルの304号室の鍵であった。


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