1. トップページ
  2. 赤子の大脳

緑茶をすする物書きさん

自分が思っていることを文章にできたらなと思います

性別 男性
将来の夢 人の陰口や不満をなるべく言わない普通の人
座右の銘 一つ一つ丁寧に物事に取り組むこと

投稿済みの作品

1

赤子の大脳

17/01/24 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:1件 緑茶をすする物書き 閲覧数:874

この作品を評価する


 冬の寒さで手と足が刀のように凍る日々が続いている季節、私は病室のベットで横になっていた。外を眺めると女子高生が短いスカートで凍えながら下校していたり、小学生達が雪玉を投げつけあったりしていた。病院にいても全く苦痛ではないし不安と興奮が入り混じるような不思議な興奮が私を覆っていた。私のお腹の中には元気な赤ちゃんがいる。ここのところ陣痛の痛みが半端ではなくなってきていて、もうすぐ出産予定日も近いことを考えると、お腹の中にいる赤ちゃんに今すぐ、会いたいと心から思えるようになった。数日後、破水が起こり激烈な痛みに耐えて無事、我が子を産むことができた。出産には夫も立ち会ってくれて心強かった。私達夫婦、そしてこの子の絆は太くきれないものだと思った。

そして、私は産後のストレスからか風邪のような症状が治まらないため数日、入院する事になった。「看護士さん。私、子供に会いたいのだけど、どうしてあわせてくれないの?」そう聞くと看護士は苦笑いをして「少し待っててくださいね。先生を呼んできますね」といい、そそくさと304号室を去っていった。私はどこか嫌な予感がした。

しばらくして先生が来た。「どうも、体調は良くなりましたか?」「ええ、良くなりました。赤ちゃんにあわせてもらえませんか?」医者は唸るように口を開いた。「あなたの赤ちゃんは元気ですが、一つお伝えしなければならないことがあります。大脳がありません。」私は聞いた途端、意味がよくわからなかった。
「大脳がないので今後、意思の疎通や思考はできません。それと原始的な脳幹のみで生命の維持はできてますが、成長するにつれ様々な疾患が生じると思われます。このまま生命の維持を続けるとなると多額のお金がかかります。」 途中で私は気を失った。


「○美 明美、、」かすかに夫の声が聞こえた。

そうか私は悪い夢を見ていたんだ。目を覚ますと夫は目を腫らして泣いていた。どうやら悪夢は本当らしい。事情を2人で一つ一つ確認して、また涙がでてきた。「明美、あの子は俺たちの子供だ。なんとか延命させたいと思ってる。だけど考えられないくらい延命には金がかかる。」私は吐き気を催しながら「大脳がなくたって、話ができなくたって私は一緒にいたい」

しばらくの沈黙の後、夫は「医者から提案されたことがあるから聞いてほしい。あの子は延命させることが出来る。国のお金で、、、。ただ、もし別の子で臓器に欠陥がある子供がいたら、あげなきゃならないんだ」私は度肝を抜かれた。大切な我が子を臓器移植の貯蔵庫として生きたまま保存し、バラバラにされて我が子はなんの幸せも感じることがないまま、他人の子供の幸せを与える。なぜ、こんな人間の感情を逆撫でするようなシステムを考えつくのか。もう死にたくなった。
それでも、断れば我が子延命できず死んでしまう。私達は延命させることを決意した。


そして、今年は3年ぶりに304号室の窓から雪を見ている。私は凍えながら下校する女子高生やはしゃいでいる子供を見ながら目から涙を流していた。



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/01/24 霜月秋旻

緑茶をすする物書きさま、拝読しました。

腹を痛めて生んだ我が子に、そのようなことがあっては両親もたまらなく辛いでしょう。
どうすればいいのか、悩ましい選択ですね。

ログイン