1. トップページ
  2. 雨乞い(裏ジャジャジャジャーン)

若早称平さん

これからも精進していきます。 コメントなどいただければとても励みになります! よろしくお願いします。 Twitter @1682hoheto8D

性別 男性
将来の夢 小説で食べていければそれが最高です。
座右の銘 春風秋雨

投稿済みの作品

0

雨乞い(裏ジャジャジャジャーン)

17/01/24 コンテスト(テーマ):第98回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:591

この作品を評価する

 恋愛に必要な三つのingというものがある。きっと有名な話なので言うまでもないだろうが、タイミング、フィーリング、ハプニングだ。この三つを合わせて人はそれを「運命」と呼ぶのだろう。運命は作れる。彼と出会って付き合いたいと思った頃、何日も考え抜いた結果そう思うようになった。
 久しぶりに仕事用だったスーツに袖を通し、メイクをしているとユリが起きてきた。同棲していた元彼の家を出て行き場のなくなった私に炊事、洗濯、家事全般をやることを条件にしばらく居候させてくれている。
「あれ? どうしたの?」
 土曜日の午前十時、まだ眠そうに目をこすりながらユリが尋ねた。いつもは洗濯を終わらせ、コーヒーでも飲みながらテレビを観ている私が一ヶ月振りに真剣に化粧をしているのだから怪訝に思うのも当然だろう。
「とある村で代々伝わる雨乞いの踊りがあります。年に数回日照りの続く地域なのですが、これを踊ると百パーセント雨が降ります。どうしてでしょう?」
 私は眉を描きながらユリになぞなぞを出した。昔元彼が出してきたものだ。
「なにそれ? わかんない」
 ユリはあくび混じりに少しも考えずさじを投げた。昨日遅くまで飲んで終電で帰ってきた彼女がまだ眠たいのは分かっているがこれでは張り合いがなさすぎる。
「ねえ、ご飯ある?」
 鏡越しにそう言うユリのボサボサ頭が見えてしまい、笑って眉がはみ出した。この二ヶ月で何度も思ったことだが、この子は私が来る前はどうやって生活していて、いなくなったらどうするんだろうか?
「味噌汁と卵焼きあるよ。軽くでいいんでしょ?」
「うん、食べたらまた寝るからぁ」
 立ち上がることもなくパジャマのまま四つん這いでテーブルまでやって来たユリの頭を撫でた。
「かわいいな、君は」
 チークを薄めに塗り終え、味噌汁を温めるために立ち上がった。
「さっきのやつの答えは?」
 気がつくとソファーに寝転んでいたユリが背もたれ越しに私の方を見ていた。
「興味あったの?」
「うん、気になって眠れない」
「よく言うよ」と笑いながらもうちょっと考えてみな、と意地悪を言うとユリは不満そうに口を尖らせてブーブーとブーイングをしてきた。
「分かった、分かった。正解は……雨が降るまで踊ったから」
 あーうん、なるほどね、と本当に理解したのか怪しいユリの前にご飯を持って行くと、もうなぞなぞのことなど忘れたように笑顔で味噌汁をすすりだす。これが天然の可愛い女の子なのだろう。大口を開けて卵焼きを一口で、幸せそうに食べる彼女を見てそう思った。計算の一つもなく美味しそうに食べるだけで作った甲斐があったなと思わせる。ただ笑っているだけで自然と人が寄ってくる。そんな彼女が羨ましかった。
 でもそういう風になれなかった私は私のやり方でせいぜいもがくだけだ。ソファーにおいてあった鞄を手に取る。
「どっか行くの? 仕事?」
 口をモゴモゴさせながらユリが聞いた。私は首を横に振る。そもそも仕事を辞めたことは知っているはずだ。
 「今日ね、雨が降ったの。ユリが二度寝から起きるまでには帰ってくるから」
 窓の外の晴天を不思議そうに見るユリに「いってきます」と告げて私は玄関へと向かった。

 絵に描いたような秋晴れの空の下、私はスーツでコンビニへ行きビールを一本買った。仕事を辞めて一ヶ月半、毎日通ったコンビニだ。ここで毎日彼が通勤するのを見ていた。彼が休みに日は家の前に引っ越しのトラックが止まってないか確かめに行った。そして今日、運び出されて行く見覚えのある荷物を見て私は数年振りに全力で走った。
 思い返せば彼と出会ってから私はいつも彼のために雨乞いの踊りを踊っていた。そうして雨が降る度に運命だとはしゃぐ端から見れば滑稽な自作自演を繰り返していた。本当に運命だったのなんて誕生日が同じなことくらいだったのに。
 ガードレールにもたれてビールを半分程飲んだ。久しぶりに走って疲れた体に染み込んでくる。そういえば、と私は思い出す。二ヶ月前、あの日の夜も私はここでビールを飲んでいたっけ。
 彼のことが好きでずっと見ていたが故に彼の些細な変化から浮気に気付いてしまうとはなんとも皮肉なものだ。もちろんそれが魔が差しただけのあくまで浮気であって、私と別れるつもりがないであろうことは分かっていた。それでも私が彼の元を去ったのは彼を許せなかったわけではなく、今後を見据えてのことだった。私が急にいなくなって彼は自分のしたことを後悔するだろう。私と彼は運命だから、再会して元の鞘に納まった時、彼は今回の後悔を思い出してもう二度と浮気なんてしないはずだ。
 飲み干したビールの缶をコンビニのゴミ箱に捨てて、もう一度店内に入り同じビールを今度は二本買った。
 さて、私は大きく深呼吸をして彼の家へ向かう。二ヶ月振りに彼に会う。嬉しさと、その半分くらいの緊張を噛み締めながらマンション階段を上った。表札にはまだ二人分の名前があり、私はそれを確認して少しほっとした。
 ドアの前でもう一度だけ深呼吸をしてから、私は304号室のチャイムを鳴らした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン