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反町カズキさん

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304号室奇譚

17/01/23 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 反町カズキ 閲覧数:755

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「この町に存在する304号室の中には一つだけ、入ることで未来を変えることのできる部屋がある」
この噂を聞いたのは僕が大学四年の頃だった。折しも就活が全く思うようにいかず、半ば自棄を起こしかけていた僕は、空いた時間を使っては町中に存在する304号室を探し回るようになっていた。
僕をこの無意味で無軌道なドアトゥドアの旅は、決して難航する就活からの現実逃避にのみ由来するものではなく、終わりの見えたモラトリアムに対する僕なりのささやかな抵抗でもあったりもする。
そんなこんなで僕は今日も企業説明会の帰り道にふらりと帰路を外れ、町外れにある公営団地に来ていた。僕の死力を尽くした調査によると、ここがこの町にある最後の304号室だ。
つまり、この部屋が噂の部屋で間違いない。
既に管理人とは連絡をつけて鍵は借り受けてある。
鍵を差し込むと少し引っかかるような感触がした。長いこと油をさしていないのだろう。俄然、僕の期待は高まった。
大きく息を吸い込んで覚悟を決めた僕は、自分の未来を拓くべく、未だ見ぬ可能性の扉を開けた。

✳ ✳ ✳

「で、何か変わったのかい? 」
数分間にわたる僕の「304号室」を巡る冒険活劇 ある程度の誇張は日々の会話に彩りと味わい深さを与えるスパイスであると理解していただきたい を聞いて、そう問いかけてきたのは大学で同じ研究室に所属する田代という男だ。
田代はその神経質そうな顔いっぱいに憎らしい笑みを浮かべている。人見知りが激しい故に友人は少なく女にも縁のない奴だが、話してみるとなかなかに愉快なやつで、僕の大学生活にちょっとした愉悦を提供してくれる貴重な友人だ。
「いンや。全くこれっぽっちも変わらない。相変わらず何処もかしこも僕に御祈りメールを送ってきやがる。ま、所詮は噂に過ぎなかったということさ」
「確かに、大学院に進む気もない君がこの時期に研究室で油を売っている時点で就活の成果かはお察しだね」
先ほどの評価は訂正しよう。コイツはただの不愉快な隣人だ。
 こやつは既に大学院への進学を決め、抽象的で何のためになるのかもわからないような思考実験を繰り返しながら、のんべんだらりと日々を過ごしていた。妬ましいことこの上ない。
「第一ね、仮にその噂話が事実だったとしよう」
「ふむふむ」
「確か、部屋に入った後と入る前で未来が変わるんだったね? 」
「そうだ。だから僕は部屋に入ることで就活が成功する世界線に移動しようと……」
「君は相変わらず阿呆だなぁ」
田代は回転椅子の背が軋みを上げるほどに背を反らしながら言う。そう、ムカつくことに田代のド阿呆はこともあろうか僕に対して阿呆などと言いやがった。
なるたることか。僕の数ヶ月にわたる冒険活劇を「阿呆」で片付けるとは。あまりの衝撃で言葉も出ない。
彼は身体を引き起こして僕の方を見つめると、教師が聞き分けの悪い生徒にするような、いやに落ち着いた声音で話を続けた。
「いいかい? もしも仮に未来が変わったとしよう。だが、『変わらなかった未来』を見ることができない以上、『変わった未来』を認識することはできないだろう? 」
「あ……」
悲しいかな、物分かりの良い素直な僕は彼の言葉足らずな言い方でも話のオチを完全に理解してしまった。
「そう。つまり、君がすでに噂の『304号室』に出入りしていたとしてもそれを確かめる方法はない」
「しまった! 304号室巡りなんかしなければ今頃は就活も成功して人生最後のモラトリアムを全力で楽しんでいたということか! 」
「君のそういう底抜けにポジティブで阿呆ところは嫌いじゃないよ」
田代の脱力した声が夜の研究室に木霊した。


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