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つつい つつさん

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開かれた世界

17/01/22 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:941

時空モノガタリからの選評

隣室から開けられた穴を通して、人間の本質的な存在の脆さのようなものを感じさせられました。着眼点が素晴らしいと思います。ある年齢に差し掛かり、周囲の生活スタイルの変化とともに、友人たちと疎遠になってしまう。このこと自体はどこにでもある話でしょう。けれどそれだけでなく、自分が両親や会社やお金などに依存していることへの眼差しと、それらがいつなくなるかもしれないという恐怖がリアルに描かれていたところに深みがあったと思います。いくら仲間に恵まれた人生であっても、いつ離別や死別するかもしれず、根本的には人間は弱く孤独な存在なのでしょう。また、隣人と主人公が小さな穴を通じて交差することにより、物理的にたくさんの人々が集うにもかかわらず、心は繋がれない都会の孤独が伝わり、個人を超えた広がりのある内容となっていたと思います。

時空モノガタリK

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 土曜日の夕方、誰かがアパートのドアを叩いた。今まで突然部屋を訪ねてきた人なんかいないし、そもそも友達にも会社の同僚にもアパートの場所は教えていない。新聞か宗教の勧誘だろうとしばらく無視していたけど、あまりにしつこく叩き続けるからドアを開けた。
「隣の三〇五号室の柏木です」
 たまにすれ違う三〇代の痩せこけて貧相な男が立っていた。
「あの、壁に穴を開けてしまって」
 そう言って柏木は何回も頭を下げたが、よく聞くとタンスの配置変えなんかをして誤って開けたのではなく、自分で開けたらしい。私は、大家さんに連絡するか、若い、いや、そんなに若くないが女の一人暮らしの部屋の壁に穴を開けるのだからストーカーかなんかで警察に相談するほうがいいのか真剣に悩んではみたが、その間も柏木はずっとよくわからない言い訳をしていた。
「ごめんなさい、閉所恐怖症なんです。気になり始めたらどうにも穴を開けないと気がすまないんです」
 あまりにもペコペコとみすぼらしく謝る柏木を見ていると、どうでもよくなり、つい「まあ、いいですよ」と答えてしまった。柏木は目を潤ませ感謝していたが、いいわけがない。こっちが甘い顔してると、いつのまにか盗聴器やカメラを仕掛けられるってこともありえる。だけど、もはやタイミングを失った私は、そのままにするしかなかった。後で穴を確認すると、確かに寝室のベットの足下あたりに五ミリにも満たない穴が開いていた。私は、足下だし、問題ないかってなんの根拠もなく放っておくことにした。
 
 季節の中で一番秋が好きだった。短大時代の友人と三人で就職してからも毎年秋には旅行に出かけていた。紅葉を楽しんだ後に温泉に浸かり美味しい料理とお酒を楽しむ。数少ない私の楽しみの一つだった。でも、今年は二人とも忙しくて駄目だった。私はひとりはしゃいで「今年はここに行かない?」って、添付資料まで付けてメールしたのに、どうにも都合が合わないみたいだった。確かに二人とも結婚して子供もいる。独身の私とはどうしても生活が違ってしまう。長年続いたことが終わってしまうことは寂しかったが、逆にいままでこんな私につき合ってくれてありがとうと二人には感謝していた。だけど、今日のお昼、ホテルにひとりランチを食べにいくと、共通の知人に出会い、あの二人が二家族合同で旅行に出かけたことを知らされた。
「さおりは、行かなかったんだ」と言われ、おもわず「まあね、家族の邪魔するわけもいかないし」なんて微笑んだけど、前からあの二人には「家族連れで行く時でも私も混ぜてね。一人部屋でも全然構わないから」って口をすっぱくして言っていたのに、裏切られていた。奮発した七千円のランチは全く美味しくなかった。
 アパートに戻るとまた怒りがこみあげてきた。高級なワインと高級なチーズで気分を盛り上げようとしたけど、効果はなかった。部屋の中を見渡しながら、何のためにこんな安アパートに住んでるんだって涙がこぼれた。私は平凡な派遣社員で、一人暮らしするのがやっとだ。だけど、人生は楽しみたいから、住む場所にはお金をかけず、その分、ファッションや食事、旅行にお金をつかっていた。せめて表面だけでも人生を楽しんでいたかった。だけど、そうやって楽しんでいられたのも若いうちだけだった。学生時代の友達も会社の同期だって結婚や退職でどんどん離れていった。気兼ねなく食事に行ける友達なんてもう誰もいない。ひとりで高級なレストランに行っても、一ランク上の旅をしても、みんなでわいわい楽しんだあの日々には到底敵わなかった。
 夜になりベットにに寝転がると、急に寂しくなった。怖くなった。両親が死んだらどうしよう、会社がなくなったらどうしよう、お金がなくなったら誰に頼ればいいのだろう、そんな考えばかりが頭の中を渦巻いた。胸が締め付けられ、頭からふとんを被っているのに寒さで震えた。体の中に穴が開いてるみたいで、そこから冷たい空気がどんどん入り込み、私の心をどんどん凍らしていく気がした。
 心が冷え切っていると、体まで反応するんだなんて感傷に浸ってみたけれど、震えは止まらず耐えきれなくなった。どうやら本当に寒いらしかった。私は冷静になって寒さの原因を探ると、あの壁に開いた穴からひんやりした空気がどんどん入りこんでいるのがわかった。
 その時、ふいに理解した。世界には隣のあの変な男もいて、その横には私がいる。そして、いたるところに人がいて、みんな、泣いたり笑ったり、怒ったりしている。なんだか笑えた。私はひとりなのに、世界は私に関係ない人で溢れている。私はひとりだと思っているのに私に接点のない人はそこら中にいて、そして暮らしている。
 なんだか負けたような気がして、隣にもっと冷たい空気を送る方法はないか考えることにした。


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このストーリーに関するコメント

17/02/21 光石七

拝読しました。
孤独感や不安感に一人苛まれる夜は、誰にでもあるのではないかと思います。
共感を覚えると共に、後半の主人公の気付き・思考のベクトルや場面の切り取り方が新鮮で、興味深かったです。
素敵なお話をありがとうございます。

17/02/23 つつい つつ

光石七 様、感想ありがとうございます。
孤独に対する自分なりの距離感を描きたかったので、楽しんでいただき、すごく嬉しいです。

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