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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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愛、知りそめし〜304号室にて

17/01/22 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:3件 あずみの白馬 閲覧数:990

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「304号室には、人ならぬものがいる……」
 僕が住むアパートには、こんな噂が流れていた。なんでもあの部屋に入った人間は、決まって行方知れずになると言う。僕はなんとなく興味をひかれたが、積極的に調べようとも思わなかった。だから、自分を見つめる瞳に気づくこともなかった。

 ある日、仕事が終わってアパートに帰ると掲示板に一枚の貼り紙があった。
【急募 家の片付けを手伝ってくれる方 日曜日だけでも可 詳しくは304号室まで 黒井理々】
 304号室? 噂の部屋だ。興味を惹かれた僕はその部屋に向かい、呼び鈴を鳴らした。
「はーい」
 ドアを開けると、エプロンをつけた、ぞっとするぐらい綺麗なお姉さんが出て来た。
「あ、ども……、張り紙を見て来ました」
 挨拶をすると、お姉さんは微笑みながら挨拶を返してくれた。
「ありがとうございます。片付けてるんですが、一人じゃきつくて。とりあえず中へどうぞ」
 僕は居間に通されてお話を聞く。
「実は旦那に急に先立たれてしまいまして、遺品の片付けが追いつかないんです。それでお手伝い出来る方を探しておりまして」
 未亡人、とは言え若い。30前だろうか。よく見るとおっぱいも大きい。ついそちらの方に目が行ってしまう。
「お金は気持ち程度しか出せないんですが、その代わり、終わったらマッサージして差し上げます。腕は悪くないですよ」
 こんな綺麗な人と一緒にお片付け、しかもおまけ付きなら悪く無いと思い、首を縦に振った。

 それから、毎週末は304号室で、理々さんと一緒に遺品整理。昭和時代の写真や本などがたくさんあって、意外とキツイ肉体労働。
 旦那さんと理々さんが写っている写真もあった。古い物なのに理々さんの姿が変わらないのは気のせいだろうか……?
 ひと段落すると理々さんが僕の身体をほぐしてくれる。やさしくて、それでいて気持ちいい。まるでプロみたいだ。時々大きい胸がたまに身体に当たるのもたまらない。

 さらに理々さんはご飯も作ってくれた。カルボナーラ、肉じゃがなど、全てがとても美味しく、僕は理々さんのとりこになっていった。

――数週間後

 部屋も片付き、バイトも終わりが近づいて来た。
「来週でキミに来てもらうのは最後になるかな。いままでありがとう」
 理々さんに笑顔で言われて、すごく寂しくなった。彼女が消えて無くなる訳では無いけど、縁遠い存在になってしまうのは嫌だ。僕はドキドキしながら、想いを打ち明けようと思った。
「あの、これからも、この部屋に遊びに来てもいいですか?」
 好きだって言う言葉が出てこなくて、まるで自信の無いセールスマンみたいになってしまった。
「それって、どういう意味?」
 笑みを崩さず、理々さんは尋ねて来た。
「あ、あの……」
 ドキドキして言葉が出ない。
「落ち着いてお話したいな。私の部屋に行きましょ」

 はじめて理々さんの部屋に入った。落ち着きがあってシンプル。テーブルの上の大きな水晶玉が目をひいた。
「単刀直入に聞くわ。私のことをどう思っていて、どうなりたい?」
 ベッドに座った理々さんが僕に聞いて来た。息を吸って吐いて……、
「理々さんが、好きです。とても綺麗だし、やさしいし、これからも一緒に過ごしたい、です」
 ぎこちない告白を聴いた理々さんは、妖艶な笑みを浮かべて言った。
「ありがとう。でもね」
 理々さんの背中から黒い羽根が生え、お尻から黒い尻尾が見えた。
「これでも、好きって言える?」
 正体に驚いた僕はしばし絶句する。悪魔は束縛するでもなく、僕をじっと見ている。
「怖いなら逃げていいのよ」
 行方知れずになるとはこのことか。一瞬逃げようと思ったが、2人で過ごした時間が蘇る。幸せな時間をもっと過ごしたい。もっと言葉を交わしたい。その気持ちが優った。
「それでも好きです!」
 それを聞いた理々さんは、
「うれしい! 私もキミが好き!!」
 満面の笑みを浮かべ、本当に嬉しそうに答えてくれた。思わず照れていると、理々さんが抱きしめてくれた。……

 ……、甘い時間の余韻の中、僕は理々に聞いた。
「魂を抜いたりしないの?」
「それはキミの寿命が来てからよ」
「どうして?」
「亡くなった旦那もね、正体を見ても私を好きだって言ってくれたの、それがすごくうれしくて、一生をともに過ごしたわ。最後に看取って魂を抜いたら、輝きが全然違ったの。これを見て」
 理々が差し出した水晶玉のようなものは、とても美しい青色をしていた。
「愛を育てると、魂ってこんなに綺麗になるんだってわかった。私はもっとたくさんこの輝きが欲しいな」
 愛を集める悪魔に、僕は取引をもちかける。
「じゃあ僕の魂も、輝かせてくれる?」
 理々は微笑みながらうなづいた。僕は甘い生活を、魂と引き換えに手に入れたのだった。


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このストーリーに関するコメント

17/01/22 上辺 練

良い意味で裏切られました。
しかし最終的には理々さん寂しいような気がしますね。

17/01/22 あずみの白馬

>練 さま
コメントありがとうございます。
意外性を感じていただいてうれしいです。

確かに理々さんは、自分は永遠に近い時間を生きるから、必ず夫を見送らないといけない。だからこそ貪欲に求めてしまう……。そう考えると寂しいですね。

17/01/29 奈尚

「愛、知りそめし〜304号室にて」拝読いたしました。

ただの魂でなく、自身への愛に満ちた魂を欲しがる理々さん。
本当に欲しているのは、美しく輝く魂か、自分に注がれる愛情か、それとも自分が愛を与えることができる相手か……。
ただ行為だけを見れば、とっかえひっかえ男を魅了する悪魔ですが、理々さん自身も本当に男性たちを愛するのだとすれば、別れは彼女にとってもつらいはず。
台詞の一つ一つに隠された理々さんの気持ちを想像すると、様々な表情が見えてきて面白かったです。

素敵なお話を、ありがとうございました。

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