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歪鼻さん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 人生常にスタートライン。

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マイホーム

17/01/19 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 歪鼻 閲覧数:539

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「時代も変わったもんだな……。」

304号室。

それがYの購入したマンションの部屋だった。
一昔前なら『4』の付く部屋なんて存在もしなかったのに、昨今の住宅事情で今は十分な市民権を得ている。
それどころか、俺のようなゲン担ぎがいるせいで、格安物件として人気を博しているから始末が悪い。

「俺からすると、お前さんはホント物好きだ。」

沈みかけの西日を背に受けながら、酒の回った俺は思わず悪態をつく。
いくら格安だからといって、俺だったら『4』の付く部屋は買いたくもない。
しかし、Yにとってはマンションと言えど念願のマイホームだ。それをけなされては甚くご立腹のようだ。

「そんな事言ってたら、4階以上の建物は建てられないだろ!?3階の次は5階にすんのかよ?4丁目は地図から消されなきゃいかんのか?」

不要なリスクを背負うのは俺の性には合わないが、確かにYの言うとおりだ。
いつまでもこの話を引きずっていたら、せっかくの再会の盃に水を指してしまう。

「いまどきそんなのは古いぜ。だいたい1階なんて値段が高いから、まだほとんど埋まってないって聞いたぞ。」

「そうだな、悪かった。ただの俺のゲン担ぎに突き合わせてよ。」

俺が素直に謝ると、よっぽど以外だったのか、Yは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
そして、些か温くなったコップのビールを呷ると、手酌をしながら懐かしむように言う。

「お前も大人になったなぁ。」

「……まあな、10年も経ってりゃなぁ。お前さんだって20代で持ち家とは昔の頃からは考えられなかったぜ。」

「よせやい、20代って言ったって、もうアラサーだ。仲間内に落ち着き始めるやつが居てもおかしくないだろ。」

「ちげぇねぇや。」

そう言いながら俺は、後ろを振り返りベランダに目をやった。
落ちたばかりの夕日は地平線を薄っすらとオレンジ色に染め、
郷愁を誘うグラデーションの夜空には、室内にも関わらず宵の闇には一番星が輝いて見えるほど空気は澄んでいた。

上の階に羽休めにでも止まっていたのだろう。
カラスが漆黒の体をひゅっと落下させ、巣へと帰っていったようだ。

「ちょっと外で風にあたっていいか?」

「ああ。」

椅子から立ち上がると、すでに足元がおぼつかなかった。
酒に弱くなったな、と思いながらベランダへと出て少し酔いを覚ます。
ベランダの欄干によりかかりながら俺は、地平線の暖色が寒色へと変わる様を楽しむ。

ふと欄干の下を覗き込むと、1階の住人の庭が目に入った。
どうやら1階の住人はガーデニングが趣味らしい。芝が引かれた庭には、夕闇にも目に映る色とりどりの花々。秋も終わりだというのに、精が出るこった。

上はどうなっているだろう、と少し身を乗り出して上階を見上げる。
目に入るマンションの壁面は、まだまだ上の階があることを示していた。

「上は404号室か……。」

やはり俺は、この部屋はには住みたくないな。
そう思った瞬間、冬の到来を感じさせる冷たい風がびゅうと吹いた。

「……おっと。」

酔いの回った体に折からの強風を受けた俺は欄干を強く握る。

「飲みすぎたか……。」

変な事故を起こしてはYに悪いと思い、俺は部屋へと入った。

「うぅ……寒っ。もうすぐ冬だな……。このマンション、何階建てだ?」

「10階建てさ。この辺では十分高層なマンションさ。」

そう言いながらYは新たな酒の肴を袋から出した。
俺は再び椅子に座るとベランダの下の様子をYに伝えた。

「1階の住人はガーデニングに熱心だね。この寒いのに、見事に花を咲かせてたわ。」

「花?」

「あぁ、赤や白の花が咲き乱れたぞ。」

「俺が見た時は綺麗に手入れされた芝だったけどな……。」

そう言いながらYは燗した徳利を盆へとのせテーブルへ運ぶ。

「ま、みんな入居したてだから買い足したんだろ。」

そりゃそうだ、と思いながら俺は炙られたあたりめを喰む。

「さあ、今日は朝までたっぷり飲もう!」

「あぁ、風に当たりすぎて冷えちまったからな。熱燗は嬉しいねぇ。」

俺は下らないゲン担ぎを忘れるように、酒を飲んだ。

……Yの門出を祝って。

* * *

後日、Yから電話があった。

なんでも、Yが買った304号室より1階の物件が安く売り出されたそうだ。
最初からわかっていたらそっちを買ったのに、と電話口の向こうでYは愚痴を漏らしていた。


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