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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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丸ノ内ネオン

17/01/18 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:4件 デヴォン黒桃 閲覧数:1541

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 ――遺書  最愛の妻、依子へ――
 
 まさかコンナ形で真実を告白することになろうとは……済まない、依子。
 依子が妻として、女として駄目だったと云う訳ではない。むしろよくやってくれたと思う。俺は自分の人生が満たされたことに慣れすぎて、刺激を求めてしまった。
 ソレがコンナ結果になるなんて、申し訳ない。
 

 ――最初の出会いは、東京に出張に行った時のこと。夜の新宿、歓楽街に並んだ綺羅びやかなネオンに照らされて、トモ子は居た。
 当時の俺は、家庭も仕事も順調だった。贅沢なのだろうけれど、何の変化もない毎日に辟易していた部分もある。アイツは……トモ子はソンナ心の隙間に入ってきたんだ。

「お兄さん、ヒトリ?」
「あ、ああ。飲み屋だとかは要らないよ。余り酒は好きじゃあないんだ」
 胡散臭い客引きと思った俺は、素っ気なくした。
「商売女にでも見えるの? 違うわよ、失礼しちゃうわ。うふふ」
 そうやって笑ったトモ子にドキリとした。 
「お酒が駄目ならお食事でもご一緒にどうカシラ? うふふ」
 一人で食う飯は確かに味気ない。さらに東京、新宿という異様な街。知り合いなどもおらん。
「そうだな……食事だけなら」
 そう云った俺は、チラリと湧いた下心を悟られないようにした。
「うふふ、アタシ行きつけのお店があるの」
 何の変哲もない小料理屋だった。カウンターに腰掛けて、通路側の小窓を開けると、サザンカが咲いていた。
「お母さん、適当に見繕って」
 トモ子はカウンターの中の女に云う。
「お母さん? 母親なのかい?」
「違うわよ。年がソノくらいだからってことでお母さんって呼んでるの。女将さんなんてよりいいじゃない、ネ。うふふ」
 愛想の良さそうなそのお母さんの料理は、街の空気に似合わず、ドレも家庭的で美味かった。 
 
 しばらくして店を出る。トモ子はいつの間にか俺の腕に絡みつく。その時チクリと腕に痛みが走る。
「痛っ」
 俺の声に反応しつつも腕は離さないトモ子。
「うふふ。安全ピンが刺さってしまったみたい。ゴメンネ」
 腕をまくると血が滲んでいた。
「まあいいさ、トモ子は怪我はないかい?」
 覗き込んだ俺の顔を見詰め返す。
「優しいのね」
 次の瞬間唇は重なった。当たり前のように近くのホテルへ雪崩れ込む。

 ソレからというもの、東京への出張は増えていった。愛人が出来たという生活の変化は、仕事の出張先も変え、依子への想いも変えていった。
 自宅に帰れば依子に優しい嘘をつく。
 東京へ新幹線で通っては、仕事の合間に丸ノ内線に揺られてトモ子を抱きにネオン街へ。
 ウラとオモテの俺の顔。昼の新宿と夜の新宿の様に二つの顔で二人の間を行き来する。ソレで上手くいくと思った。
 
 数度目の東京、新宿の夜。いつもの小料理屋、小窓からはサザンカが見える。
「ネ、できちゃったみたい」
「え?」
 わかっていたが聞き返すしかできなかった。
「私たちの赤ちゃん、出来ちゃったみたい、ネ、産んでいいよね?」
 俺は首を縦に振ることはなかった。
「うふふ、冗談。堕ろすわよ……ダカラまた会ってくれる?」
 俺は怖くなった。トモ子を抱いて、また子供が出来て……命を消してと繰り返しそうで。
「ダメだ、もう会わない。金は出す。もう新宿にも来ない」
 じっと黙って着いて歩くトモ子。ソっとおれの手を掴んで、腕を絡めた。
「わかった……じゃあ、私が会いに行くね。依子さんの顔も見たいし……」
 俺の心臓はへしゃげた。なぜ依子の名前を? 云ったことはない。寝物語にも話すもんか。
 コイツ、調べたな……調べやがったな。
 そうか、ソシテ俺を脅すんだ。強請るんだ。
 なんと云う悪女。依子にバレてなるものか。 
 そう考えた俺は、いつものホテルへ連れて行き、首を絞めて殺した。悪女は死んでしまえばいい。
 素知らぬ顔で家へ帰り、依子との生活を再開する。
 だいぶ前にトモ子に安全ピンで刺された腕が、治らずに腫れて痛む。殺した俺を責めているかのように。
 アイツは悪女だ、俺の人生に寄生する毒虫だ。そう、小料理屋の窓を開けると見えたサザンカに集るチャドクガの毛虫みたいに……俺を刺す。
 ダカラ毛虫みたいに潰してやった。ソレで平穏な日々が戻ったと思った。
 アイツが消えても、この街のネオンは消えない。
 
 とある日、新宿警察署から電話があった。トモ子のことを聞かれた。ハッキリとは云われなかったが、恐らく俺が殺したのはバレている様子。ヤハリ切り刻んで仕舞えば良かった……モットモット細かく刻んで……排水口に……
 もう逃げられない。
 だから依子、俺は死ぬ。済まない、コンナことに成って。
 全て、あの女のせいだ……あの女のせいだ……



 


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このストーリーに関するコメント

17/01/18 クナリ

夜の街に忍び寄る、妖しい物語ですね……。
悪女のはずのヒロインの存在感が、心弱々しい主人公を死後にも侵食するような凄みがあります。

17/01/20 デヴォン黒桃

クナリ様
朝と夜の二面性、夫と男との二面性を新宿の街に掛けてみました。
なんとか書けた……という感じですが、愛憎が伝わったようで嬉しいです。

17/01/22 あずみの白馬

拝読させていただきました。
依子さんが一番かわいそうな気がしました。トモ子さんに何もかも狂わされた夫を看取らねばならない……。見事なバッドエンドだったと思います。

17/02/06 デヴォン黒桃

あずみの白馬様
感想ありがとうございます。全てはエゴのなせる業でございます

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