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宮下 倖さん

宮下 倖です。 楽しくたくさん書いていきたいです。

性別 女性
将来の夢 誰かの心にひとつでも響く言葉が紡げたら幸せです。
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見る目のない私たちの強かな未来

17/01/14 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:3件 宮下 倖 閲覧数:986

時空モノガタリからの選評

女子の食事会の柔らかで、でもどこか緊張感も漂う空気がとてもよく出ていますね。全体的なまとまりも非常によく、掌編に適した内容でもあったのではないかと感じました。幸せになりたい、幸せだと思いたい。華やかに見える女子たちの内面の葛藤がよく出ていると思います。鋭い観察眼を感じさせる文も印象的です。「相手の欲しい言葉を察してさっと差し出せるということは、欲しくもない言葉も察するのがうまいということ」というところは特に、女性の微妙な心理がよく表されていると思います。こう言う文章によって作品自体の密度もぐっと高まりますね。またこの作品で重要な部分を占める会話も、自然に見えながらもよく計算されたものだと思います。内容的には優しさ≠フテーマを正面から見据えたものですが、テーマに無理やり合わせたという強引な感じは全くなく、読み手を自然にテーマに引き込む力がある内容だと思います。ラストの展開も秀逸でした。皆自分のことは客観視できていないものなのですね。しかし心配してくれる仲間がいるというのは結構幸せなのではないかという気もします。その場にいるかのような空気感とリアリティがあり、最後まで緊張感がある印象的な作品でした。

時空モノガタリK

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 香帆のブレスレットがグラスに触れて澄んだ音をたてた。私と律子の視線が余韻を追って香帆の手首に注がれる。彼女がわざとグラスに当てたであろうことは、「あっ、ごめん」と言いながらまるで悪びれず、むしろ見せびらかすように手首を上げたことで察せられた。
「わあキレイ! 香帆、それ新しいやつ?」
 律子が声のトーンを上げて訊いた。そうやって香帆の欲しい言葉をすぐに放れる律子はすごい。私が喉元でごろごろ転がして結局飲み込むような言葉を笑顔で口にできる。
「そうなの。カレからのプレゼント。もうすっごい優しいんだよね、何でも買ってくれるし」
 香帆の言う「カレ」が私たちの知っている先月までの彼かどうかわからないけれど「へえ〜いいなあ」と頷いておく。このくらいの相槌なら何の感情をのせなくてもできるから楽だ。
 満足気に口角を上げる香帆に、この話も終わりだなと内心ほっとしたのに珍しく律子が続けてきた。
「香帆はいつもプレゼントしてもらって優しい優しいって言うけど、そういうのってホントの優しさかな? 優しさって本来目に見えないものでしょ?」
 噛みつくような言い方じゃないけれど、香帆はカチンときたようだった。
「目に見えないものだってわかってるから、見えるように示してくれるのが優しいんじゃない」
「高価なプレゼントで?」
「そう」
 香帆はおもしろくなさそうに口を尖らせ、ブレスレットを珊瑚色の爪でかりかりと引っ掻いた。 

 カジュアルレストランの隅に陣取り、賑やかな近況報告がようやく落ちついた頃の微妙な空気の中だった。私は白ワインのグラスに軽く口をつけるふりで、そっと視線を逸らした。こういう雰囲気は苦手だ。
「優しさの示し方ってそういうものかなあ」
「じゃあ律子はどう思うわけ?」
 パスタやピザが載るテーブルに身を乗り出した香帆に、律子は大きな瞳をくるりと動かした。
「やっぱり思いやりのある言動だよ。甘えさせてくれたり、好きだよっていっぱい言ってくれたり」
「律子のカレはそういうことしかできないからでしょ? まだ売れない芸人やってんの?」
「今は売れてなくてもいつか成功するもの。お金になんか頼らなくたって優しい気遣いできる人だしね!」
 相手の欲しい言葉を察してさっと差し出せるということは、欲しくない言葉も察するのがうまいということだ。プレゼントをお金に頼った優しさだと言われ、香帆は眦を吊り上げた。
「言葉なんてどうとでも言えるじゃない。どうでもいいと思ってる相手にほど優しくできる人もいるよ。何とも思ってない、興味もないからテキトーに優しくできるんだって」
「ちょっとそれ言いすぎじゃない?」
 高校からのつき合いの私たちの中で、それは口喧嘩の域を出ないものだったけれど、さすがに堪らず私は咳払いした。
「あ……ごめん実江」
 バツが悪そうに小さくなったふたりにふっと笑みがこぼれる。そのぶんだけ心が軽くなり、私は「あのさ」と切り出していた。
「少し前からつき合ってる人がいるんだ。いつも甘えさせてくれて、実江がいちばん好きだって言ってくれて、プレゼントもたくさんくれる……すっごい優しい人」
 唐突に話し始めた私にふたりはぽかんと口を開けてこくこくと頷いた。
 律子が示す優しさ、香帆が譲らない優しさを備えた私の恋人は…………
「その人ね、私の上司で奥さんと子どもがいるんだ。家では優しいパパなんだって」
 彼はとても優しい。仕事で落ち込んだ私を親身に励ましてくれた。優しいから私が誘っても拒まなかった。奥さんか私、どちらかを選ぶことができなくていつも静かに傷ついている誰より優しい人。
 ねえ、こんなに優しい人との恋は正しいでしょう? 
 優しい人を選んだねって祝福してくれるでしょう?

「別れなさい」
 見事な異口同音だった。少し怒ったその表情まで重なる。
「どうして? ふたりが言う“優しい人”だよ?」
「この場合、その人が優しいかどうかは関係ないの。わたしたちは実江の友だちだから、実江が泣くとこは見たくないの。ね、香帆」
「そうだよ。実江が幸せそうなら何も言わないけど……あんた辛そうで、すごく苦しそう」
 そうか、今の私はそんな顔をしてるのか。彼の話を辛そうにしているのか。
 優しいはずのあの人は、私を幸福な表情にはしてくれないのか。
「まあ、ヒモみたいになってるわたしのカレも大概だけど」
「うん、物さえやっときゃ文句ないだろ? みたいなうちの男も大概だけど」
 飲むか、飲もうか、とふたりは白ワインをそれぞれのグラスになみなみと注ぐ。
「見る目のない私たちの強かな未来に」と掲げられたグラスの向こう、泣き笑いになった優しい友人たちがやわらかく滲んで見えた。


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このストーリーに関するコメント

17/01/15 野々小花

宮下 倖さま

拝読いたしました。
本当の優しさとは、優しい人とは。難しいですね。
微妙な空気の女子会(?)の会話と雰囲気がリアルで、展開にハラハラしました。三人の絆が深まったラストに、胸がじんわりとあたたかくなりました。

17/01/29 宮下 倖

【野々小花さま】
優しさの定義って本当に難しいです。そもそも定義できるものなのかというところですよね。
非常に難しく、かつ魅力的なテーマだなあと思いました(作品にまとめるのは大変でしたが)
女友達も、長く一緒にいるほど反目したり共感したり忙しい関係になるのかなあと。でもいちばん底では互いの幸福を願ってる……そんな雰囲気が出せていたら嬉しいです。
読んでいただき、またコメントもくださりありがとうございました。励みになりました!

17/02/05 光石七

拝読しました。
三人の会話がリアリティがありました。
女友達という関係はマウンティングとか微妙な駆け引きとかもあるけれど、やはり友人の幸せを互いに願っていて…… ラストにほろりとさせられました。
素敵なお話をありがとうございます!

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