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泥舟さん

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油断したぁ

12/11/02 コンテスト(テーマ):第十七回 時空モノガタリ文学賞【 エレベーター 】 コメント:0件 泥舟 閲覧数:1547

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取引先のオフィスがある26F建てのオフィスビルのエレベータホールに僕はいた。
僕の近くのエレベータが降りてきて、空になった空間に一番に乗り込んだ。奥の角に陣取り壁に取り付けられた22と書かれたボタンを押した。次々と人が乗り込んでくる。僕を入れて7人だ。最後に乗り込んできた人は、これから僕が向うお客さんだ。正確には、直接の担当者の上司に当たる人だ。エレベータを降りた時に挨拶しよう。
他には、僕とは対角線上の入り口そばの角でサラリーマンの二人組が小声で話している。僕の隣には制服を着たOLの女の子で、買い物でもしてきたと思われる大きく店の名前のロゴが入った紙袋を持っている。
このビルは、地下1Fから5Fまでがショッピングフロアとなっていて、仕事帰りの買い物に非常に便利だ。ショッピングフロアとオフィスフロアとはエレベータ自体が分かれている上、オフィスフロア用でも、16Fまでのエレベータと、16Fまで一気に昇りそこから各階に停まる2種類のエレベータに分かれている。
22Fに用のある僕は当然、後者に乗り込んだ。そこで気付いたのだが、押されたボタンがすべて22F以上で、ラッキーにも直行できそうだ。
エレベーター仲間の紹介の続きだが、僕の斜め前、ちょうどエレベータの真ん中辺りにはいかにも、という感じのキャリアウーマンが立っている。紺色のビジネススーツと有名ブランドの黒いショルダーバッグで、一流企業ののロゴの入った紙袋を持っている。
いきなり明るいメロディが流れる。携帯電話の場違いな着メロだ。サラリーマン二人組とは反対の入り口近くにいる、まさに近所のおじさん風のおじさん。普段着としか思えない格好だ。やけに大きな着メロに慌てている。きっと乗るエレベータを間違えたのだろう。

エレベータは9Fから10F辺りだ。
その時、急に息苦しくなってきた。生温かい重い空気に囲われているような。僕の頭のどこかが警告を発する。ただ、怖いもの見たさで、恐る恐る息を吸い込む。多分臭い匂い。
「おなら」だ。
ここは東京の真新しいオフィスビル。小奇麗な高層ビルと昔ながらの商店街・民家が混在しているが、少なくともこの一画だけは洒落た噴水や四季の花々が植えられた歩道に囲まれて清涼感がある。とても「おなら」なんて言葉が出せる雰囲気ではない。
誰だ?僕はさりげなく、エレベーター内を見回す。幸か不幸か、僕は全員を見渡せる絶好の位置にいる。だが反面、大半が僕に背を、尻を向けているから、おならの被害にあうリスクは最大だ。
誰もが、ポーカーフェイスで上のフロア表示板を見上げている。
いや、そうでもない。隣の女の子、顔をへの字に曲げている。目つきもきつく、にらんでいる表情だ。
僕は推理を働かせた。すかしっ屁か?誰もおならをするまで、すかしっ屁となることが確信できるとは思えない。経験的にすかせそうと思っても、この狭い空間でそんなリスクを犯せるだろうか。きっと、犯人は、万が一音が出たを考えて、何らか隠れ蓑使ったはずだ。

そういえば、サラリーマンの二人連れ、小声で話していたのが、途中、「いや〜、参りましたね」という声だけ、ちょっと大きかったな。まさか、その隙にしたんじゃないだろうか?見ると、先輩と思われる方が厳しい顔で若い方をつついた。若い方は、慌てて小刻みに手を振る。お前、いい加減にしろよ、僕じゃないっスよ、というジェッチャーだ。
そういえば、隣のOLも、なんか紙袋の中を確認するフリをして不自然にバサバサさせていなかったか?あのにらんでいる目つきも、私じゃない、ということをアピールするポーズなのかもしれない。
そして、近所のおじさんだ。携帯電話の着メロにまぎれてしてないだろうな。もし、このおじさんが犯人だったら最悪だ。
取引先の上司とキャリアウーマンはどうだ?後ろ姿を見る限り、なんら変わらない。おそらく、ポーカーフェイスだが、このさりげなさも怪しいといえば怪しい。匂いを感じていないはずはない。
しかし臭い、だんだん匂いに厚みを帯びたようだ。
エレベータは、まだ、15F。目的地までまだ7F分ある。エレベータの進みがいつもより遅い気がする。
その時、16Fでいきなり止まった。最初はついていなかったはずだ。誰かが押したんだろう。
まず、入口を空けるような格好で取引先の上司がエレベータを降りた。そしてサラリーマンの二人組が降りる。16Fのボタンを押したのは多分こいつらだ。それに引き続いて女性陣二人が急いで降りる。隣のOLなんて小走りに近い。それを見て、近所のおやじも慌てて降りる。
僕はというと、タイミングを逸した。
降りた全員が、エレベータを振り返る。そしてエレベータに残った僕を見つめる。
取引先の上司はもう一度入ってくることはなく、扉が閉まる。
「いやっ、ボクじゃない・・・・」僕はつぶやいた。


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