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リアルコバさん

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《ねこ》より

17/01/13 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:1件 リアルコバ 閲覧数:919

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ぼくがこの家に来たとき、あいちゃんは10歳だった。
生まれたてのぼくを友達の家からもらってきたんだって。
ぼくの最初の記憶はおさげ髪のあいちゃんがなでてくれてることなんだ。

ぼくの名前は《ねこ》と云う。
猫なのに名前も《ねこ》だって、おかしいよね。
でもあいちゃんが『ねこって名前の猫はきっといないよ』ってつけたらしい。

ぼくはあいちゃんの勉強部屋が大好きだったんだ。
大きな出窓のにおいてあるぬいぐるみの間がぼくのお気に入り。
外を眺めて昼寝をしたり、たまにぬいぐるみと遊んでおこられたりしてた。

ベッドの下に机がついていてね、勉強中に横の階段でのぼったりおりたり。
『うるさい』ってやっぱりおこられる。でもあいちゃんは寝るとき『おいで』って
リビングに寝床はあるけど、いつもあいちゃんの布団で寝てたんだ。

ぼくは大きくなるとどうしても狩りをしたくなる。本能って云うんだって。
夏はベランダでセミを捕まえては、あいちゃんに自慢に行くんだけど
あいちゃんが喜んでくれたことは一度もないんだ。

だいたいは足で蹴飛ばして外に出すか、ひどい時は踏み潰して捨ててた。
でもたまに『かわいそうでしょセミは命が短いんだから』って
両手で包んで逃がしてあげたりする優しいこともあったな。

あいちゃんがパパやママに怒られると涙をいっぱいにしてね。
ぼくはベットで大粒の涙をいつも舐めていた。がんばれがんばれってね。
こんなふうにしてぼくたちは、一緒におとなになっていったんだ。

あいちゃんが高校生になったころ、ぼくは人間で言うともう40歳。
人間の良いところも悪いところもなんとなくわかるようになったんだけど
あいちゃんはその頃から嘘をつくようになったんだ。

勉強してるって言いながら、いつも携帯電話をいじっていた。
友達の家に泊まってくるって、本当は男の人と会っていたりもした。
機嫌がいいとぼくと遊ぶけど、だんだんそんなことも少なくなったんだ。

受験の時はいつもいらいらしてね、ぼくが部屋にいるとだまって首をつかんで
部屋の外に投げ出されちゃう。ぼくは静かに見てるだけなのに。
パパやママと言い争いをしてると、ぼくはどうしていいかわからなかったよ。

ぼくが思うにあいちゃんは、気まぐれな気分屋さんでおこりんぼう。
ほんとうは素直な女の子なのに、意地っ張りで引くに引けなくなる性格。
だから布団の中で唇を噛んで泣いている、そんな事もぼくは知ってるんだ。

ぼくみたいに本能のまま生きていられたら楽なのにね、あいちゃん。
人間ってめんどくさいよね、あいちゃん。
でもぼくはあいちゃんが大好きさ、ぼくにとってはおかぁさんの匂いだもん。

そんなあいちゃんがこのあいだ結婚したんだ。24歳の冬のことだった。
『ねこ、私お嫁さんに行くからね、パパとママのことよろしくお願いね』
とっても優しくて温かくて綺麗な涙を流しながらぼくにそう言った。

そしてこの冬には子供が生まれるんだって、あいちゃんのお腹に赤ちゃん。
あんなに寂しそうにしてたパパとママは、最近その話ばかりで楽しそうだよ。
ぼくは言いつけ通り、二人のそばのソファーを居場所にしてるんだよ。

でもね、あいちゃん、ごめんね、ぼくはもう人間で云うと80歳のおじいちゃん
もう、ちょっと疲れちゃったよ、最近は日向ぼっこしては寝てばかりさ。
だから、この家を出ていくチャンスを見計らっているんだ。

元気な赤ちゃんを産んでください。僕と同じように可愛がってください。
同じようにしちゃダメか、気分次第なんかじゃダメだからね。
優しいってことは、機嫌のいいこととは違うからね、あいちゃん。

心配しないでください。って言っても無理かな。
でもこれも猫の本能だから、弱った姿を見せたくないから。
そんな性格はきっと、あいちゃんにも似たんだよ。

今日はとても晴れています。青い空に白い飛行機が飛んでいるよ。
もうセミを追い掛け回す狩りの気力はありません。
もう少し遠くまで歩こうと思います。誰も居ないところへ行こうと思います。

大好きな、あいちゃんへ、
《ねこ》より。


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このストーリーに関するコメント

17/01/13 まー

≫優しいってことは、機嫌のいいこととは違うからね

なんて含蓄のあることおっしゃるねこさんでしょう。
素敵な作品をありがとうございました。

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