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とむなおさん

とむなお――です。 ちょっと奇妙な小説を書きます。どうぞ宜しく!

性別 男性
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それは500円玉から始まった

17/01/12 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 とむなお 閲覧数:883

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 少し曇り気味のある日――
 Rビル付近にある飲料水の自販機の前を、何人もの男女が通っていた。
 やがて、バス停からやってきたマサシ(25)は、立ち止まると財布から500円玉を取り出し、コイン投入口に入れようとした。その時、後ろを通ったエリカ(23)の体がマサシの背中に当たり、手から500円玉が落ちた。
「あっ」
「えっ?」
 落ちた500円玉は転がって、自販機の下に入っていった。
「あー、入ったー……。 えーい、もういいや!」
 マサシは、さっさと交差点の方へ向った。
「えー? そんな……」
 エリカは、自販機の下を覗きこんで手をつっこみ、500円玉を取り出すと、
「ほら、取れました。ちょっと待ってくださーい!」
 マサシを追いかけた。しかし彼は、そのまま地下鉄口に入ってしまった。エリカも、その後につづいた。
 そして改札の直前、ようやくエリカは、マサシに追い着くと、
「ちょっと待ってください!」
 なんだ? と立ち止まったマサシに、さっきの500円玉を差し出し、
「はい、これ、あなたの」
「えっ、何が?」チラッと見て「そんなの、もういらないよ」
 マサシはまた歩き出し、そのまま改札を通ってホームに向った。エリカは溜め息をついたが、さらに彼を追った。
 地下鉄のホームに着いたマサシとエリカは、ちょうど入ってきた電車に乗った。平日の午後ということで、車内は混んでなかったが、2人が座ったことで、座席の空きはなくなった。エリカは再度、さっきの500円玉をマサシに差し出すと、
「だめですよ、お金は大切にしないと」
 マサシは、ムッとした表情でエリカを見て、
「その500円は、オレの手から落ちたんだよ。つまり、オレとは無関係になったってことさ。そんな物を受け取ったら、オレは男じゃないんだよ。だから、いらない」
「そうですか……」
 仕方なくエリカは、その500円玉を自分のポケットに仕舞った。
 やがて電車が次の駅に着くと、すっきりした服装の老女が1人、乗ってきた。それを見たエリカは、さっと立ち、
「おばぁさん、ここ空いてますよ」
 思わずマサシも立った。老女は何度も会釈しながらその席に座った。エリカが苦笑しながら、
「あなたは立たなくてもいいのに……」
 マサシも苦笑しながら、
「でも、立っちゃったから……」
 2人は顔を見合せて無言で笑ってしまった。
 電車が、さらに次の駅に近付いた時だった。その老女が苦しみだして、2人の前に倒れたのだ。エリカは思わず、しゃがみ、
「おばぁさん、大丈夫ですか?」 
 マサシも驚いて、しゃがみ、
「おばぁさん大丈夫? オレ、車掌に言ってくるよ!」
 すると老女は、
「ちょっと待って。次の駅で休めば大丈夫よ。心細いから一緒にいてくれます?」
「えー、いいですよ」
 マサシもうなずいた。
 老女は次の駅で降りると、マサシ達が見守る中、ベンチでしばらく休んだ。そして落ち着くと、
「ところで、あなた達、お仕事は?」
 マサシはうつむき気味で、
「実は……探してるとこです……」
 するとエリカも、
「実は……私も……」
「そう……。お2人に話があるの。ちょっと来てくださいな」
 3人は改札を出た。エリカは近くにあった募金箱に、マサシが受け取らなかった500円玉を入れた。
 地上に出ると、そこは閑静な住宅街だった。駅前には普通の食堂や雑貨店などがあった。
 2人が、さらにマリについて行くと、彼女は二番目の交差点をまがった。その道の突き当たりに、こじんまりとした店舗が見える。『準備中』が出ているドアに、白い文字で――
『純喫茶 マリ』
 老女はドアを開けて入ると、近くのテーブルに着いてから、
「さー、どうぞ」
 2人は「失礼します」と向いに座った。
「私ね、井沢マリっていいます。実はここ、私の店なんですよ。あっ、ちょっと待ってね」
 マリは一旦、席を立つとカウンターに入った。
 そして、2人にコーヒーを出してから、
「……だけど、もう年なんで、つらくてね……。そこで、出来れば、あなた達に受け継いでもらえたら、嬉しいんだけど……どうかしら?」
 すると、エリカが目を輝かせて、
「うわー、本当ですか! 私、そういうの夢だったんです。ぜひ、やらせてください!」
 マサシも身を乗り出し、
「オレ……じゃなくて、僕もお願いします! 実は調理師免許を持ってるんで、ぜひやらせてくださいい!」
「良かった! あなた達だったら優しそうで、信用できそうだから……私も嬉しいわ」
「宜しくお願いします!」
マサシとエリカは異口同音で言うと、頭を下げた。
「ところで、あなた達って……どういう関係なの? 友達? それとも恋人?」
「それが……」
「その……」
マサシとエリカは、顔を見合わせて苦笑した。
 


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