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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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花咲き小鳥さえずる谷間

17/01/09 コンテスト(テーマ):第98回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:994

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風を感じた。
その風に乗ってさまざまな小鳥たちのさえずる声が、悟志のいる丘の麓まできこえきた。
なんて、爽やかな光景なんだ。
悟志は感動におもわずつぶやいた。
ここから谷間までつづくなだらかな傾斜地には一面、色とりどりの花が咲き乱れ、その花々の向うには折からの陽射しにきらめく澄んだ流れがながめられた。
「あの花たちの名前、ごぞんじですか」
と隣でいう、秋元沙也加の前髪が、風になぶられてふわりとまいあがった。
「しらないなあ」
「私は全部、いえますのよ」
得意そうにいう彼女の気持を、悟志はくみとってたずねた。
「へえ。じゃ、あれは、あそこに群れてる黄色いの」
「オミナエシ」
「その横にならんでいっぱい咲いてる、赤っぽいのは?」
「ガーベラ」
いわれてみると、馴染みのある花の名前に、彼女が特別花の名前に詳しいというより、俺のほうがしらなさすぎるかなと、悟志は自分の無知を恥じた。
それからも彼は、大地を埋め尽くす花たちに、興味ぶかげな視線を投げかけた。
そこにはその、花々がよりあつまって生まれたかのような、美麗な衣装に身を包んだ女性たちの姿も散見していた。
たちまち悟志の興味は花から、それらの女性たちのうえに移り変った。
女性たちはみな、この谷間に吹く風を意識したかのような、軽やかな衣服を身にまとっていた。しなやかな体のシルエットが、薄い布地をとおしてくっきり浮かびあがるのが、悟志のところからでもはっきりみとめられた。
感嘆のため息をもらす彼をみて、秋元沙也加が声にださずに微笑んだ。
「あなたもいかがですか」
「―――いかがとは?」
「お気に入りの女性といっしょに、花を愛でられては」
「よせよ。そんなことしたら、嫌われる」
「大丈夫ですわ。ほら、あの女性たちの顔には、あなたがいつ自分たちのところにおりてきて、声をかけてくれるのかしらと書いてありますもの」
「まさか」
「女のことを、ご存じないのですね」
「きみのほうこそ、男心というものを、もう少し理解してもらいたいものだ」
「え」
秋元沙也加が彼の顔をうかがった。
「………まあ、そうでしたの」
「わかってくれたかい」
沙也加は恥ずかしそうに、目をふせた。
「でも、あたしは―――」
「いいじゃないか。僕がそれを願ってるんだから」
「そりゃ………」
「いいだろう。いっしょに、花をみて歩こうじゃないか」
彼女はまだ、ためらいの色を浮かべていたが、彼がその気になっているのをみて、これ以上我を張るのもどうかとおもったらしく、その目に魅力的な愛嬌をこめて、
「わかりました。ごいっしょしますわ」
「ありがとう」
悟志は彼女にむかって腕をさしのばした。彼女がその腕に自分の腕をからませるのをまって、彼はゆっくりと歩きだした。
茂みをざわつかせて、鳥たちがおどろいて飛び立っていく。花のなかにできた小道にふみいると、離れていたときにはわからなかった様々な香りが悟志の五感を刺激した。
何羽もの蝶々が二人にまとわりついては離れ、離れてはまたまつわりつく様子が彼の目をたのしませた。
「この花を、手折るのは、やっぱりいけないんだろうね」
「そんなことありませんわ。いくらでも、どうぞ」
「いいのかい」
悟志は身を屈めると、ひときわ明るい朱色の花を一輪、茎の部分から切りとった。
「きみの髪を飾ってあげるよ」
「ありがとう」
彼女は腰をかがめて、頭を彼にさしだした。
「よく似合うよ」
うれしそうに彼女は目を細めた。
「こんにちは。いいお日和ですね」
周囲から女性たちが集まってきて、声をかけてきた。彼が秋元沙也加と腕をくんでいても、彼女たちは臆することなく、親しげな笑顔をふりまいてきた。そして、二人と一緒に歩きだした。
遠くで見たときは、妖精のような雰囲気をただよわせていた彼女たちだったが、まぢかに接すると、胸は膨らみ、腰ははりだして、若いながらもその肉体は女としての魅力を芬々と発散させていた。
本当に彼女たちは、可憐で、美しかった。いまこの谷間に降りそそぐきらびやかな陽射しも、大地をうめつくす草花も、すべてはこの彼女たちの美をひきたてるためにあるかのようだった。
流れの淵にまでおりてくると、澄み切った浅瀬を魚たちが群れを作って泳いでいるのがみえた。
「あ、彼女たちが………」
衣服のまま流れにはいっていくのを、悟志は驚きの目でながめた。もともと薄い衣装が水に濡れてからみつき、肢体が露わに浮かびあがるさまはみていて胸おどる光景だった。
「わたしたちも、水と遊びましょうよ」
秋元沙也加が彼を、流れのふちにひっぱっていく。
「濡れるじゃないか」
流れをまえに、躊躇している悟志をみて、水の中から女たちが軽やかに笑う。
「ようし」
彼も覚悟をきめた。
「さ、いきましょう」
沙也加が率先して、じゃぶじゃぶと飛沫をはねあげながら浅瀬にふみだしていく。悟志も靴のまま、後を追って、冷たい水のなかにはいりこんだ。
二人のけはいに、魚たちがすばやく放射状に離れていく。
衣服の裾をたくしあげた女性たちの、あしにまとわりつく水滴が、陽射しにキラキラ光るのに、悟志はおもわずみとれた。
そのとき、澄み切った流れが消えるとどうじに、水底の砂も石も小魚たちも消え、つぎに悟志の視界から女性たちがひとり、またひとりといなくなった。
「あ、どうして」
すると横から秋元沙也加が、いった。
「最新の3D映像は、いかがでしたか」
「あ、そうか。すっかりわすれていた」
悟志はまだ、足もとに冷たい水がまとわりついているような気がしてならなかった。彼はそして不安げに、横に立つ秋元沙也加をながめた。彼女は声にださずに笑うと、そのままふっと消滅した。
「彼女までもが………」
その声をさいごに、あたりにひろがる花園とともに、悟志の姿もまた消えた。
パッと明かりのついたフロアには、この見本市に最新3Dテレビをみようと集まってきた客たちの姿があるばかりだった。











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