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秋澤さん

初めまして、秋澤です 主に小説家になろうで活動するしがない物書き 短くてテーマ設定のある話を書きたかったので、参入

性別 女性
将来の夢
座右の銘 偽善も善のうち

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物々交換

17/01/07 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 秋澤 閲覧数:547

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誰が言ったか覚えていない。けれどまん丸のオレンジを見ると思い出す言葉がある。
「レモンには火薬が詰まっている。オレンジには優しさが詰まっている。」
どういう意味だったのか、10年以上経った今もその真意を掴めないでいた。レモンに火薬が詰まっている、というのはおそらく梶井基次郎の「檸檬」からの引用だろう。だがしかし、対を成すように上げられたオレンジ。なぜオレンジには優しさが詰まっているのだろうか。

*********

ころり、まん丸のオレンジが私の足にぶつかった。黒いコンクリートの上のオレンジは酷く浮いていた。拾い上げると前方の女性が買い物バッグをひっくり返してしまったらしい。散乱しているのはオレンジだけでなく、じゃがいも、人参、葱などもコンクリートを鮮やかにしていた。

「どうぞ。」
「ああ!ありがとうございます!」

慌てふためきながら礼を言う彼女に手渡し、そのまま通り過ぎようとすると呼び止められる。

「良かったらこれどうぞ!」

辛うじてバッグから落下しなかった暖かい紅茶のペットボトルを渡される。断ろうかとも思ったが、ニコニコとしている彼女を前に断りにくく小さめのペットボトルを受け取った。ジャンパーのポケットに突っ込むとホカホカと暖かい。
しばらく歩いていると自動販売機の前で落胆している男子高校生を見つけた。どうやら暖かい飲み物を買いに来たものの残っているのがブラックコーヒーとお汁粉しかないらしい。オレンジ色のマフラーをしていた。なんとなく縁を感じて声を掛ける。

「あの、良かったらこれ飲みますか?まだ開けてない奴ですけど。」
「え、良いんですか?」

不審者だと思われたらどうしよう、と思いながらも喜んでくれた高校生にほっとする。

「お代は……、」
「ああ、大丈夫ですよ。」
「でも……じゃあ良かったらこれもらってください。」

渡されたのは未開封のチョココルネ。パンをポケットに入れてまた歩く。拾ってあげたオレンジが紅茶に。紅茶がチョココルネに。まるで昔話のわらしべ長者のようだ。この分だとまだまだ何かにパンが化けそうなものだが、家に帰るまであと30分ほど。こんな奇特な事態、そう続くまいと思い家に向かった。
しかしながらわらしべ長者、ここで終わらない。不思議なことにパンは帰り道の間も化け続けた。
拾ったオレンジが紅茶に。紅茶がチョココルネに。チョココルネがカイロに。カイロがタオルに。タオルがマフラーに。

「ありがとう!困ってたの!」
「いえいえ。」
「良かったらこれ、もらってちょうだい。」

自宅まであと三分ほどのところで、マフラーは段ボールいっぱいのミカンに化けた。
手ぶらで散歩に出たはずだったのに、帰りには何故か大量のミカン。現実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。

「ただいま。」
「おかえりなさい。……あら、どこに行ってきたの?」

抱えられた段ボールに不思議そうにする妻に苦笑いした。

「ちょっとわらしべ長者してきたんだ。」
「何言ってるの。……みかん、随分もらってきたのね。」

ジャムでも作ろうかしら、という彼女のあとに続きみかんを台所まで運ぶ。ジャムならきっとこの量のミカンを消費するのも容易いだろう。甘酸っぱさを想像し唾を飲み込む。

「ところでわらしべ長者してきたって言ってたけど、手ぶらで散歩に行ったのに何と交換してきたの?」
「なに、『優しさ』だよ。」

オレンジ色のエプロンを付けた妻は首を傾げた。


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