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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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ボクに足りなかったもの

17/01/07 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:813

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「ゴーダ君、小説のサイトで一位取ったの⁉」
 そんな大声が五年三組の教室にひびきわたりました。
「これもおうえんしてくれる、みんなのおかげだよ」
 ゴーダ君は笑顔でそう答えます。
 クラス中がゴーダ君に注目する中、一人だけノートに向かって真面目な表情で書き物をしている男の子がいました。
「ふん。素人の世界で勝ったって、なんの意味ないのに」
 だれにも聞こえないようにそうつぶやいた男の子、ケントが本気で目指しているもの。それはプロのマンガ家でした。

 放課後。
 ケントが家に帰ると、めずらしくお父さんのすがたがありました。
 ケントのお父さんは編集者で、プロのマンガ家を相手に仕事をしています。
「ケント、今帰りか」
 お父さんがケントに気づき、声をかけてきます。
「父さん、またネーム見てもらってもいい?」
「もちろん」
「それじゃあ早速」
 ケントはランドセルを開き、ネーム(マンガの設計図)が書かれたノートを取り出しました。
「今日こそ父さんをうならせてやる」
「どれ」
 ケントからネームを受け取ると、お父さんは一ページずつじっくり読んでいきます。ケントにとって、一番きんちょうするしゅんかんです。
 時間にして五分ほど。ネームを読み終えるとお父さんははくしゅをしました。
「これはさすがだ。小学生が書いたとは思えない完成度だな」
「本当!」
 うれしさのあまりケントは声をあげました。
「それじゃあ、ボクもプロのマンガ家としてやっていけるかな?」
 こうふん混じりの勢いで、ケントがお父さんにたずねます。ところが、お父さんは首を横にふりました。
「素晴らしい作品ではあると思う。でもあと一歩、足りないものがある」
「……また、それか」
 ケントはくやしそうに下くちびるをかみました。
 ケントのマンガを見て、お父さんは毎回ほめてくれます。しかしプロになれるかと聞くと、その度に足りないものがあると答えるのでした。
「ボクに足りないものってなに?」
「それをさがすのが、お前にとっての試練だよ」
 それだけ言うと、お父さんは仕事部屋に行ってしまいました。

「ボクに足りないものってなんだ?」
 ケントはそう自分に問いかけます。
 ケントの書くマンガは、ドキドキとワクワクがつめこまれた少年マンガです。いかに読者が楽しく読めるか、それを意識してケントはマンガを書いています。
 ありとあらゆるナゾや、読者をおどろかせるてんかい。それらに関してケントの書くマンガは大変すぐれています。エンターテイメントの鏡と言える出来でしょう。
「それなのに、足りないものってなんだ」
 ケントはなやみの迷路に迷いこんでしまいました。

 それから一時間、ケントはずっと考えていましたが、答えは出ませんでした。
 このままだと気がめいってしまいます。ケントは息ぬきにスマホでネットを見始めました。
「そういえば、ゴーダのやつが一位になったって」
 ケントは学校での事を思い出し、試しにゴーダの小説を読んでみることにしました。
 素人が書いた小説、その下手くそ具合を見て、はらいせに笑ってやろうと思ったのです。
「あった、これだな」
 小説サイトを調べてみると、ゴーダの小説らしきものはすぐ見つかりました。
「どれ」
 ゴーダの小説に目を通していきます。
 しょせんは小学生の小説。一位を取ったのも周りのレベルが低かったからだろう。
 そう最初ケントは思っていました。しかし、読み進めるうちに文字を追う目が早くなっていきます。
「なんだこれ」
 ケントは夢中でゴーダの小説を読み進めます。
「なんだこれ!」
 ケントは小説を読み終えると、気づけば泣いていました。
 ゴーダの小説は実に面白いものでした。
 ケントが泣いているのは、くやしいからではありません。ゴーダの小説にひそむ何かに心ゆさぶられたのです。
「なんだこれ、なんだこれ……」
 ケントはしゃくりあげながら、何度もゴーダの小説を読み返します。それだけゴーダの小説には強い引力がありました。
「こんなにやさしいお話は初めてだ。……やさしい?」
 そう口にして、ケントは初めて気づきました。ゴーダの小説はエンターテイメントとしてもすぐれています。しかしそれ以上に、まるでゴーダ本人がとなりで寄りそってくれるような、やさしさがありました。
「そうか。物語に大切なのはエンターテイメントだけじゃない。作者のやさしさが必要だったんだ」
 これこそが自分に足りなかったもの、そうケントは気づかされます。
 ありがとう、ゴーダ。ケントは心の中でお礼を述べました。
「今だったら、ボクにもこんな話が書ける気がする」
 ケントがつくえにすわり、ネームノートに新しい物語を記していきます。

 その表情はとてもやわらかく、やさしいものでした。

おわり


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