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汐月夜空さん

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私の命は――

17/01/05 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:817

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『いい、晶子』
 小学校低学年の放課後、待ち合わせ場所での母の言葉。
『占術師はね、決して嘘をついてはいけないんだ』
 それは、遥か先祖から占術師を継ぐ我が清水家に語り継がれる家訓の一つ。
 幼少の頃から優しい声音で重ねられたそれは、雪のように柔らかく私の身体を満たした。
『かと言って、占術の結果をそのまま伝えれば良いわけじゃない』
『嘘が駄目なら、本当のことを隠せば良いの?』私の問いに、母は柔和な笑みを浮かべて答えた。
『さあ、どうだろうね。大切なのは良くも悪くも優しささ。この先は自分で考えてごらん。清水家の女はそうやって大人になっていくんだよ』と母は言った。その顔がなんだか寂しく見えて、私は胸が苦しくなった。
『これだけは忘れないで、晶子』
 私の身の丈に合わせて屈む母の背で夕日が陰る。その母の口から紡がれた言葉を、私は一生忘れない。
『自分の命よりも大事なものを占術だけで決めては駄目よ』
 ――詰んでしまうからね。
 優しく胸を押され、母が離れていく。けたたましい音が響いた。
 そこにはもう母の姿は無かった。あるのは夕焼けに染まる真っ赤な血と母が愛用していた水晶の欠片。
 そして、網膜に焼き付く、愛しているわ、晶子。の声。
 嫌だ。嘘だ。こんなのありえない。だって、母には未来が予測できたはずなのに。

 ――どうしてっ!!

 
 目が覚める。
 また、あの日の夢を見た。
 優しかった母が居なくなってしまう夢。
 高校生になった今でも、この夢を見た朝は自然と涙がこぼれてしまう。
 パジャマの袖で涙を拭い、時計を見た。一時間目の授業には間に合いそうにない。
 昨日の占術で見た通りだ。
 私はのどかな朝を堪能し、次の授業に出席出来るように通学した。


 占術で見た未来は、変えることが出来る。
 ただし、それには相応のリスクが発生する。
 例えば、今朝の寝坊に関しては回避できても、その先の一時間目の授業で居眠りをしてしまう、といったものだ。
 基本的にはどちらを選択しても、悪いことが起きるときは悪いことが起き、逆もまたしかりとなる。
 ならば母の事故も不可避だったのか、答えはNoだ。
 事故はタイミングだ。自分がその事故の原因でない限り、5W1Hのいずれか一つが変われば、事故が起きたとしても巻き込まれることはない。
 あの場合、時間か場所を回避すれば、母が事故に巻き込まれることは無かっただろう。
 母は優れた占術師だった。当然あの現場で事故が起きることは分かっていたはずだ。
 なのに、なぜ母はあの事故に巻き込まれたのか。
 気づけば私は、そればかりを考えるようになった。


 放課後、私も占術師の端くれとして、クラスメイトを占うようになっていた。
 得意とする占術は母と同じ水晶。よく当たる。血は争えないものだ。
 本日の相手は、将来はサッカー選手になると公言し、将来を誓う彼女も居る人気者の男子だ。
「何を占う?」
「恋愛と仕事、未来について聞きたい」
 真直ぐに私を見つめる彼の瞳に胸が躍る。彼のことは憎からず思っていた。未来を応援してあげたい。
 占術は簡単だ。水晶の中に乱反射する光、その光に同調し、自らを水晶の中に閉じ、中から覗くイメージを持つ。それだけ。
 覗くのは彼の未来。
「……これは」
「何か分かった?」
 思わず言いよどむ。
 酷かった。彼はサッカー選手になれない。そして、彼女とも一緒になれない。そうして、自暴自棄になった彼が転落していく姿が見て取れた。
 せめて、どちらか一つでも叶えば――
「まだ?」
「待って」
 更に念入りに覗く。どうもサッカー選手にはなれそうもない。ならば、彼女の方はどうだろうか。今の彼女が駄目ならば他の彼女は。
 目まぐるしく変わる未来に、一つだけ良い可能性が見えた。
 だが、これは。

『決して嘘をついてはいけないんだ』
『本当のことを隠せば良いの?』

 あの日の言葉が胸を刺す。
 この可能性は嘘ではない。だからと言って、言えるわけがない。
 ――私と付き合えば良い、なんて。
「……何があっても強く生きて。そうすれば」
「夢が叶う?」
 私は頷いた。声には出せなかった。嘘は、吐けなかった。
 喜ぶ彼を尻目に、私の胸は俄かにざわついていた。

 なに、今の? 私が彼の未来に介入した途端にうまくいくなんて。

『自分の命よりも大事なものを占術だけで決めては駄目よ』
 ――詰んでしまうからね。

 母の言葉。
 もし、あの日、母の命よりも大事なものがあり。
 占術で決めようにも既に詰んでいて。
 そこに、母の命が介入することで改善できたとしたら。
 あの日の出来事にすべて説明がついてしまう。

 ようやく気付いた。
 私が今生きていられるのは、母の優しき愛の決断のおかげなのだということに。


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